【ラジオな人】宮城県民の心のオアシス!TBCラジオ(東北放送)編成業務部・小笠原 悠さんが語る、親しみをもたれる番組作り。

宮城県を中心として放送されている TBCラジオ(東北放送)。65年以上の歴史を誇り、地元のリスナーに愛され続けています。幅広い年代に親しまれ、「家族のような」リスナーが多いという、TBCラジオの番組。同局の編成業務部・小笠原 悠(おがさわら はるか) さんに、その関係性作りの秘訣を伺いました。

番組の自社制作率を上げて自局の色を出す

――お若いですよね。ラジオの編成に来てどれぐらいですか?

3年目です。編成が主な仕事になったのは去年の4月からですね。

――編成面から見た TBC ラジオさんの特徴は?

平日は自社番組を朝から夕方までやっているので、自社制作率が50%を超えるところです。なおかつJRN系列もNRN系列(※1)もネットしているので、幅広く楽しめます。いろんな世代の方に楽しんでもらうのを目標にしているのですが、特に若い世代へのPRが課題ですね。その点を踏まえ、月曜日は夜までを自社制作番組にし、TBC色を出しています。

――「色々な世代に」とおっしゃっていましたが、具体的にはどの年代層をイメージしていますか?

昔からのリスナーの方……50~60代の方がずっと聴いてくださっています。皆さんおっしゃるのが、「長くパーソナリティを務めている方の声は、安心する」と。その安心感を大事にしながらも、30~40代の方へ向けてアピールするためにはどうしたらいいか、頭を悩ませています。

例えば『COLORS』(※2)ならば、名久井アナウンサー(※3)が子育て中なので、同じ環境の方々にも共感してもらって、生活の一部になっていきたいです。「ながら聴き」でも聴いてもらって、お子さんに「ラジオ面白いから夏休みに聴いてみたら」とか、「勉強の合間に聴いてみたら」と勧めてもらえるように、親子で楽しんでくれるファンを増やしていきたいですね。

しゃべり手とリスナーが触れ合う機会も多い

――別の媒体で「TBC夏まつり」(※4)の取材をさせてもらったとき、小学生がマイクの前に座って CM(※5)を読む企画をしていて、「これいいな」と思いました。

「子ども録音スタジオ」という、長く続いている企画です。DJ気分を味わいつつ、お名前のあとに「TBCラジオ」と言ってもらいます。その「TBCラジオ」のひと言でも、夏の思い出として残ってほしいですね。録音した直後に「○月×日の何時何分何秒にあなたの声が流れますよ」と伝えるので、それを楽しみに聴いてくれるんです。

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――小学生だと1人で「TBC夏まつり」には来ていないので、ご両親にもアピールできますし(笑)。

ご両親とおじいちゃん、おばあちゃんもいて、それこそ家族みんなで聴いてくれています。もちろん、普段から聴いている番組の後に流れるのが楽しみ、という方もいるでしょうし、ピンポイントでそこだけでもいいので聴いてもらって、「ラジオって面白いな」とか、自分の声が流れる「ワクワク感」を体験してもらいたいという企画です。今年も実施します。

――「同じクラスの○○君の声がラジオで流れるんだって!」という話になれば、読んだ子の家族だけでなく、隣近所で聴いている人もいるんだろうなと想像できますね。

それでいうと、会社見学で来た生徒の皆さんにも『COLORS』に出演してもらっています。ちょっとでもラジオに触れてもらうことを大事にしていますね。それと、冬には「TBCラジオファン感謝祭」も行っています。

――今年は2月にやっていましたよね?

そうです。例年は年末にやっていたのですが、今年は2月の屋外で開催しました。

――寒そうだなと思っていました(笑)。

我々も天候がどうなるかヒヤヒヤしていたのですが、当日は晴れて風もなく安心しました。メインイベントが鍋の振る舞いだったのですが、予想以上に来場して頂いてビックリしたんですよ。「鍋があるから行ってみようか」とか、うちの番組をそんなに知らなくても、来て頂くきっかけになったのかなと、手応えは感じています。そういった面でも、リスナーさんとの触れ合い……距離の近さは大事にしていきたいですね。

機動性とPR力の高いラジオカーをフル活用

――近さという意味では、ラジオカーも大活躍していますよね。

ラジオは、街の方のお話が聴きやすいんです。皆さん「声だけなら」と、気軽に応対してくださいますから。ラジオカーの機動力を活かして、いろんな場所へ行っています。毎日のレギュラー番組での中継は、基本的に突撃なんですよ。アナウンサーが経験を積める場でもありますし、いろんな方とフランクに触れ合っています。そこから TBCラジオを聴いて頂けるかもしれないので、“TBCといえばラジオカー”というぐらい活用していますね。あと、「ラジオカーが今日、走っていたね」というように、何気ない会話の中で、話題に挙がったらいいなぁと。

――「宮城県」とひと言でいっても、広いですよね。よりラジオカーが有効なのでは?

「八木山(※6)のスタジオは若干曇っていますけど、そちらはどうですか?」とスタジオから問いかけて、ラジオカーからは「雨が降っています」という返答があったり。「県内でもこんなに天気が違うんだ」ということも分かるので、「今」を伝えるにはラジオカーが有効だと思っていますね。

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――先ほど、「リスナーさんとの距離が近い」という話がありましたが、TBCラジオファンはどんな方々ですか?

家族みたいな距離の近さですね。若いアナウンサーが初鳴き(※7)したら、「初めてだよね」と反応してくださる方もいますし、ベテランのDJ・パーソナリティには悩みを打ち明けられたり、そんな距離感を持って頂いているのかなと。ある意味で、「リスナー」と「パーソナリティ」という距離感から、ひとつ踏み込んだところにいるのかもしれません。「TBCラジオのあの人だったら話せる」と思って頂けているのではないでしょうか。

――ワイドFMが始まりましたが、番組編成に与えた影響はありますか?

今まさに、ワイドFMをどう強みにしていくか、試行錯誤しているところです。よりクリアな音質なので、AMのしゃべりに特化した部分を大事にしつつも、そこに音楽を加えようとしています。音楽番組も自社制作しているんですけど、さらに良い音で聴いて楽しんでもらえるものは何か、音楽に特化したコーナーを作るのか、他に方法があるのか、日々考えています。課題でもあり、チャレンジでもあるので、音へのこだわりを今後どう組み込んでいくのか、期待してほしい部分でもありますね。

長寿番組にも若いリスナーが参加

――TBCラジオさんは長寿番組も多いですが、リスナーさんの反響は?

親近感が湧く、安心感があるといった声が多いですね。「いったん宮城を離れたけど、戻って来てまた聞いています」とか。「こっちに転勤で来てずっと聴いていて、また別の土地に行くんですけど、今日で聴けなくなるのが寂しいです」というリスナーの方もいるので、生活の中に取り入れて頂いているんだな、日常に番組が寄り添っているんだな、と実感しています。

あと、昔から聴いて頂いているリスナーだけではなく、中学生や小学生からもお便りが来ます。「お父さんが聴いていて」とか、「親子で聴いていて、自分もメールを送ってみようと思った」とか、そういうお子さんが増えてきているようなので、すごく嬉しいですね。しゃべり手も「10代の方ですか。へぇ~」と、親戚の子に話しかけるようにトークをするので、皆さんが近くに感じるのかなと思っています。

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新しい番組ではSNSを使ったやり取りも

――では、新しい番組の『NEW NEWS』(※8)と『スベル兄弟』(※9)はどんな反響でしょうか。

夕方の生ワイド番組(※10)を自社制作することは、TBCラジオにとってチャレンジしたいことであったので、やっと実現できた、という感じですね。いざやってみると、パーソナリティを務めるお笑いコンビの「ニードル」 がずっと宮城で活動を続けているので、知っているリスナーも多いですし、2人の地元の訛りも出るので、「近所のお兄ちゃんたちがしゃべっている」と親近感を持っている方も多いようです。主婦の方が意外に聴いてくださっているんですよ。「かわいいじゃないの」という感じで(笑)。 先日イベントを開催したとき、会場に「番組聴いています」という主婦の方が結構いらしていて。「家事の合間に聴いているよ」と嬉しい声を頂きました。

朝から午前中の番組では、ニュースや情報を扱っていますが、『NEW NEWS』(月曜日~金曜日 16時~17時59分)ではニッチなニュースを選んでいます。もちろんその日の芸能・政治ニュースも扱いますが、クスッと笑ってしまう世界のニュースとか、(ニードルの)2人が気になっているニュースもあるので、他の番組とツッコミポイントが違うところが好評で、最近は中学生も聴いてくださっているようですね。「中学2年生で、初めて投稿します」というお便りがあったり。

――番組 LINE@もありますよね。

そうです。LINEのアンケート機能を使った双方向のやり取りにも、力を入れていきたいと考えています。『NEW NEWS』は「LINE アンケートでニュースを斬る」のが大きな軸としてあって、ニードルの2人の独自視点と、リスナーの意見をあわせて、世の中のありとあらゆることを斬っていこう、という意図です。

――『スベル兄弟』はいかがですか?

LINE LIVEで生配信しているので、スタジオの様子が観られるのが特徴ですね。あとはTwitterを使って「しりとり」をやるなど、リスナーが簡単に参加できるコーナーもあります。LINE LIVEだとコメントやスタンプも送れるので、パーソナリティもリアクションをすぐに返せますから。

パーソナリティが週替わりで、芸人さんとアイドルの組み合わせなので。マンネリ化せず楽しんで頂けると思います。若い子も出演していて、一番下の律月ひかるさんは16 歳(※11) です。初回の出演は、芸人のゴー☆ジャスさんとの組み合わせだったんですけど、ゴー☆ジャスさんが「どう接しようかなぁ……」と探り探りなところは、面白い化学反応でしたね。

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地元に密着した放送が一番の強み

――他に、TBCラジオさんの特徴はありますか?

東日本大震災を「伝え続ける」ことを常に意識しています。『3・11 みやぎホットライン』(毎週月曜日 20時~20時30分)(※12)は、震災から間もなく始まった番組で、「何があっても被災地の今を伝え続ける」という強い意志のもとに立ち上げた番組です。

夕方に生ワイド番組を編成したのも、宮城で自然災害や大きな事件・事故が起きたとき、すぐに伝えられるという意図がありました。リスナーの方にも、何かあったときに「TBCラジオだったら地元の情報を伝えてくれる」と信頼してもらえるように。

東日本大震災の当時、私は学生でした。停電でテレビが見られない中、地元の情報はどこで得られるかと考えたとき、やっぱりTBCラジオだったんです。当時、制作に携わっていたアナウンサーやディレクターに聞くと、「地元の情報を伝えてほしい」というみなさんの要望に応えて、休みなく放送を続けたそうです。「ラジオしか頼れないんです」という声があったので、細かく細かく、同じ情報でも何回も何回も繰り返し伝えて、新しい情報が入ったらそれもすぐに伝えて。

ですから、リスナーとの近さと、県内で何かあったときにすぐ情報を伝える……つまり、「地域に密着している点」は強みだと思っています。

――以前から、「少ない人数でよくそこまでフォローされているな」と感じていました。

よくいわれます(苦笑)。何かあったときは報道と連携して、どこで放送できるか判断します。テレビの生放送がある朝の自社制作番組か、それが終わっていたら、じゃあラジオで放送しようか、といったように。テレビとラジオの連携は、昔から伝統としてありますね。

――お1人の仕事量がたいへん多いと思いますが、お体に気をつけて頑張ってください。

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※1:民放AMラジオのネットワーク。TBSラジオをキー局とした「Japan Radio Network」と、文化放送とニッポン放送をキー局とした「National Radio Network」がある。両方のネットワークに属していることを「クロスネット」という

※2※3:名久井麻利アナウンサーインタビューを参照

※4:毎年 7 月下旬に、東北放送が局を挙げて行う祭り。仙台市役所前にある勾当台公園全域を使い、ラジオの公開生放送、公開収録、テレビの公開収録、関連イベント、ミュージシャンのライブなどが行われる。2018 年は 7 月 21 日・22 日に開催。
「TBC 夏祭り 2018」公式ページ:http://tbcfes.jp/

※5:厳密には「ステーションブレイク」

※6:東北放送本社・スタジオのある場所

※7:初めて声が放送に乗ること

※8:2017 年 10 月に始まった情報バラエティ。月~金曜日の 16:00~17:59 に生放送。真面目なニュースから不思議なニュースまで幅広く伝えている

※9:2017 年 1 月に始まったバラエティ番組。月曜日の 20:30~22:00 に生放送。出演者はゴー☆ジャス、爆笑コメディアンズ、佐藤佳奈、callme(早坂香美、秋元瑠海、富永美杜)、渡邉幸愛(SUPER☆GiRLS)、律月ひかる(いぎなり東北産)

※10:時間帯ごとに複数のスポンサーがついている番組を「ワイド番組」という

※11:2001 年 7 月 31 日生まれ

※12:TBCラジオ東日本大震災報道番組『3・11 みやぎホットライン』。2011年4月スタート。東日本大震災で被災した人、街などを取材し、その様子を伝え続けている

出演者プロフィール

小笠原 悠(おがさわら はるか)

宮城県出身。2012年に東北放送へ入社。テレビの報道部を経て2016年にラジオ局編成業務部へ異動。現在に至る。

■所属放送局:TBC ラジオ(東北放送)
■放送局所在地:宮城県仙台市太白区八木山香澄町 26番1号
http://www.tbc-sendai.co.jp/

インタビュー・カメラマン

豊田拓臣

1979年、埼玉県生まれ。

中学校1年生からラジオを聴き始め、ずっと聴き続けていたら、ラジオ番組の紹介記事やしゃべり手のインタビューをして原稿を書くことが仕事になっていたフリー編集者/ライター。

自称・ラジオ解説者。
著書に『ラジオのすごい人たち~今こそ聴きたい 34 人のパーソナリティ』(2012年、アスペクト)がある。
一般社団法人日本放送作家協会理事
特定非営利活動法人放送批評懇談会正会員

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【ラジオな人】TBC(東北放送)アナウンサー・名久井 麻利さんが語る。出産・育休を経て生まれた「しゃべり手」としての変化。

TBCラジオ(東北放送)で平日の9時~12時に放送されている情報バラエティ『COLORS』。水曜日を担当するのは、東北放送アナウンサーの名久井 麻利(なくい まり)さん。出産・育休から復帰後、初のレギュラー担当となりました。飾らない語り口で人気の女性アナウンサーに、決定当時の心境や、パーソナリティとしての意識の変化を伺ってきました。

最初の2週間は、初心者のようなミスを連発

――産休、育休から戻って来て、「『COLORS』をお願い」と言われたときはどう思いましたか?

『COLORS』って、ベテランのしゃべり手がずーっとやってきていたんですね。ただ、私より先に産休・育休を取った女性アナウンサーがパーソナリティ陣に入っていたので、私なりの『COLORS』もありなのかなと思いました

でも、先輩たちのトークを聴いていると、自分には到底できない、生活に根ざした話のオンパレードで。独身時代は、「結婚したり出産したり、いろんな経験をしないと、メールの1通にコメントもできないぞ、私」とずっと思っていて。だけど、私も子どもを産んだし、母業も妻業もあるし、その中だったらできるのかなぁ……みたいなところからのスタートで すね。

――いざ、メインパーソナリティとなったときはいかがでした?

2016年12月に育児休暇から復帰して、2017年4月からの『COLORS』がラジオ・テレビともに産後初のレギュラーだったんです。しかも生放送なので、まず生放送の感覚を取り戻さなきゃいけなくて。最初はオープニングトークをして、曲紹介、ニューススタジオに振るっていう流れすらもたどたどしかったです(笑)。
毎時、時報に向かって決まった時間に締めなきゃいけないじゃないですか(※)。でも、その「時報に締める」こともトークに夢中になりすぎて抜けていて。
※時報に合わせるため、決まった時間になると強制的にCMが流れる

――勝手にバツッと切れる、みたいな(笑)。

そうなんです。本当に初心者みたいなことをして。最初の2週間ぐらいは、思い出したくもないです(笑)。

リスナーとの信頼関係を築きたい

――出産される前は、ご自身のことをお話しされないイメージがありましたが……。

基本的に局アナなので、「誰が私の話を聴いて面白いんだろう」という思いはずっと根底にあります。ただ、今は自分の話に共感できる人が増えたんじゃないかなぁとも思うので、自分の話をしているかもしれないですね。

――意識して変えたのですか?

うーん、番組で子どもの話をすることに対して、賛否両論あると思うんですよね。私もそこは悩みどころではあるんですけれども、実際に子どもを産んでみて、本当に大変なんですね。「子どもと一緒の幸せエピソード」といった内容だったら批判もあるかもしれないけど、「今日、朝からこんなことがあって」とか、そういう話だったら共感を呼ぶんじゃないかと思いました。
他のママ友ともしゃべるんですけど、例えば子供が犠牲になる事件とか、子どもに手を出してしまう人の気持ちもすごく分かるし……。もちろん、我が子に危害を加えることはないけれど、「あ、こうやってそういう道に進んでいってしまうんだな」って入り口は見えるんですよ。そういうニュースも見ますし、メンタルのバランスを崩す人も大勢いるし。これだけ多くの人が悩んでいるんだから、別に子どもの話はタブーではないんじゃないかなぁって。お母さんたちに「1人じゃないよ」と伝えられるかもと思ったので、意識的に子どもの話はしていて。
ただ、日々の生活の中で番組をやっているんで、8割から9割は子どもの話になってしまって。多すぎかなとは自分でも思うので、そのバランスを若干減らそうかなと。今後はどうなるか分からないですけど、塩梅を見ているところです。

――1年やってみて、意識が変わったということですか?

そうですね。実際、子育て中の方からもメールをもらって、「まさに同じ状況で分かります」って人もいますし、「自分の子育てしていた過去を思い出しました」というお便りも、年輩の方から頂きます。逆に、東日本大震災で子どもを失った方の中には、「子どもの話を聴くのが辛い」と感じる方がいらっしゃるのは頭の中にあります。
だから、「私は子どもの話をするスタンスでいますよ。日々、いろんな苦労をしながらマイクの前にいますよ」と、しっかり1年かけて話してきたんですね。それができた実感もあります。ただ、それで離れちゃった人もいるんじゃないかなとも思うので、その人たちにもう一度、聴いてもらえるようにしたいですね

――どうしても宮城と岩手、福島は、東日本大震災の被害が忘れられず、「子どもの話を聴くのが辛い」という方がいらっしゃいますよね。

それも事実だし、毎日大変で精神的にしんどいっていう人がいるのも本当だから、両方の人にちゃんと認められたら嬉しいですね。日々の信頼関係で「それだけじゃない」って分かっていれば、「子どもの話をされたからラジオを消そう」とはならないのではないかと思っています。「子どもの話を聴くのは辛いけど、このまま名久井ちゃんの番組を聴こうかな」と思ってもらえるだけの信頼を築こうと、心がけています。

日常のままマイクの前に座っている

――ラジオから声の聴こえる機会が多い方が、リスナーとの信頼関係は生まれやすいと思うのですが、今のレギュラーは週に1回の『COLORS』だけですよね。もうちょっとしゃべりたいな、とは思いませんか?

うーん、私の軸の1つは音楽なので、音楽番組はやりたいですが、自分で選曲をするというよりは、インタビュー番組をやりたいなと思っているんですね。アーティストにインタビューするのは、ぜひやりたいですね。

――番組を聴いていて、「お送りした曲は誰々の○○でした。さて……」とトークに行くのではなく、その後のメッセージに繋げられるようにしている、という印象を受けました。

昔、先輩から「その曲をなぜかけたかが分からないとダメだ」と言われたことがあって。自分が選んだ曲だったら「こういう気持ちだからかけた」とか、「この天気だからかけた」と、なるべく分かるようにしているので、もしかしたらそれが自然とトークに繋がっているのかもしれないですね。あえて意識してはいないですけど。

――『COLORS』では、どんな人たちをイメージしてしゃべっていますか?

子育てをしているお母さんや、仕事しながら職場で聴いている方、あとは掃除したり、夕飯の下ごしらえをしている人が聴いてださっていると思います。いろんなシーンが思い浮かびますね。「事務所で聴いています」とか、「今朝もビニールハウスで聴いています」とか、「子どもを送ってひと段落して、お茶を飲んでいます」とお便りをいただくので、それぞれのシーンがあるのかなという気がしますね。

――毎週のことなので難しいとは思いますが、どんなことを伝えたいですか?

前はしなかったんですが、今はネガティブなこともしゃべっています。前に思っていたのは、プライベートで私に何があったとしても、聴いている人には何も関係がない話なので、例えばものすごく辛いことがあったとしても、「番組では出してはいけないんだ」と思っていました。今は「しんどい」とか、「仕事がとても忙しくて疲れているんです」とか、そういうのも話しています。本当にそのまんまマイクの前に来る感じです。

――お忙しい中で、名久井さんにとって『COLORS』はどんな存在ですか?

「しんどい」とか「辛い」とかいえる場所があって良かったという感じですね(笑)。今は子どもが小さいので時短で働いていて、テレビのロケもほとんど行けないし、ラジオカーに乗っているわけでもないので、外に出る機会があんまりなくって。今、生活の中の小ネタは山ほど貯まっていきますけど、外に出ないと来ない情報とか、話せない内容もあるので。
『COLORS』のコーナーを通して知ることができるのは、自分もちょっと救われているというか、バランスが取りやすいかもしれないですね。

東日本大震災は今でも日常の中にある

――東北放送さんの放送エリア(※1)では、東日本大震災の爪痕がまだ色濃く残っていると思うのですが……

宮城では今も震災は特別ではなく、当たり前に日常にあるものなので、当たり前に意識をしているというか。例えば、私が担当する『COLORS』水曜日にはマラソンのコーナー(※2) があるので、津波被害の大きかった(宮城県亘理郡)山元町の大会を取り上げたときは、やっぱり被災地・宮城の中でも「山元の大会だ」って思いを持って紹介しました。熊本の大会を紹介したときは、被害の状況と、「今どうですか?」と尋ねたりしましたね。
以前に(福島県)相馬市の大会も取り上げたのですが、そのときは「震災の話をしますか? しませんか?」と尋ねたら「今回はしないでください」と言われたので、純粋に大会の話と相馬地域の話だけ聴きました。あえて触れないという意識の仕方も、もしかしたらあるのかもしれませんよね。触れる・触れないの判断も含めて、コーナーの中でとか、日々のお便りの中でとか、自然にできればいいのかな、と思っています。

――以前、別の媒体でお話を伺ったときに、「震災直後は気仙沼での経験を伝えることに意味があると思ったけど、今はどうなのか(※3)」とおっしゃっていたのが印象に残っているのですが。

私より大変な経験をしている人がいっぱいいますから、あえてあのときの話をすること はないですね。もちろん、「あの日、気仙沼にいたアナウンサー」であることは一生背負っていくんですけど、それを自分からいいたくないと思っています。「私、経験しました」とアピールするのはすごく嫌だし、そういう気持ちでもないです。しいていえば、私があの日、あの時、あの場所にいたことは、たぶん多くの視聴者がご存じのことだと思うので、話を聞くときに「あの日、気仙沼にいた名久井ちゃんにだったらしゃべってみようかな」という気持ちになるきっかけになるぐらいで十分ですね。あの話を自分からすることはないです、この先も。それを自分のキャラクターには絶対にしたくないので。

子どもが手を離れたら、話すことがあるか心配

――結婚・出産という自分の環境の変化によって、震災時の出来事の捉え方は変わりましたか?

震災が起きたのが7年前で私も若かったので、良くも悪くも根拠のない自信がいろいろあったといいますか……。ときどき思い出すのが、震災から間もない時期だと思うんですけど、閖上さいかい市場(※4)の美容室へ取材に行ったら、「ガレキの中からハサミが1本見つかって、それがきっかけで美容室を再開した」ってお話をしてくれたんですね。私も今になると、「お前にいわれたくないよ」と思うんですけど、「ハサミ1本の存在でここまで立ち上がった人がいます。私もラジオを聴いているあなたも、立ち上がれるのではないか」みたいな、そういう話までしたんです。ただリポートするだけではなくて、自分の見解を加えて。「立ち止まっていないで、きっかけを見つけて次に進もう」みたいなことを私は当時しゃべったんですけど、今思うとよくあんなことを言ったなぁ……と(苦笑)。

――いや、あのときは日本全体がそういう雰囲気でしたよ。

当時の空気が許してくれたならいいんですけど、あのときは私も独身で、仕事が終われば全部自分の時間で、フリーに暮らしていた人間が、何の人生経験もないままでよくあんなことをいったなぁと。だから、私は母親を病気で失っているんですけど、母の死と、自分の結婚、出産、仕事復帰を経て、「偉そうなことをしゃべってゴメンナサイ」みたいな後悔はあります。

――では、今後のことを。どんなしゃべり手になりたいですか?

うーん、そういうことを考えて仕事をしたことがないんですよね(笑)。もちろん今までお話ししたようなことを大事にしていますし、日々と日々の積み重ねで入社12年目になって、ひと回り下の後輩が入ってきたんですけど(笑)。
「こうなりたい」というよりは、今は子どもの話ができるけど、子どもがある程度大きくな って手を離れたら、自分に話すことがあるのかなっていう不安はありますけどね。日常を切り取ってラジオで話しているんですけど、その切り取る部分が残っているのかな……と。「自 分の話をするな」という考えもありますけど、どうしても自分の話も交えるじゃないですか。そうなったときに、「何かあるのかなぁ」と。

――以前から感じていたのですが、名久井さんは自己評価が厳しいですよね。自信がないというのか、我欲がないというのか。

「いや、局アナだし」みたいな。なぜなのかは自分でも分からないですけどね(笑)。

――名久井さんらしい締めになりました(笑)。ありがとうございました。

(※1)宮城県全域、岩手県中南部、秋田県の一部、山形県東部、福島県中東部

(※2)「麻利の走らにゃ、そんそん!」。全国各地で行われているマラソン大会の主催者や責任者に、特色や楽しみどころを聞く

(※3)東日本大震災発災時、名久井アナは「サンドのぼんやり~ぬ TV」のロケ中で気仙沼にいた。そのため、津波に襲われる街の様子を目の当たりにしている。震災発生から数日間、テレビ・ラジオでその様子を伝えていた

(※4)宮城県名取市にある市場。東日本大震災による津波に建物などすべてが飲み込まれたが、2012年2月4日に仮設店舗で再開された。現在は日曜日に朝市が行われている

番組概要

TBC ラジオで平日の午前中に放送されている、情報バラエティ。各曜日ごとにパーソナリティが変わり、五人五色の内容になっている。また、TBCラジオ伝統の番組『希望音楽会』も内包。他曜日の担当は月曜日:大久保悠アナウンサー、火曜日:六華亭遊花さん、木曜日:佐々木真奈美さん、金曜日:藤沢智子アナウンサーです。

■放送局:TBC ラジオ(東北放送)
■番組名『COLORS』
■放送日時:月曜日~金曜日 9時~12時(名久井麻利は水曜日を担当)

出演者プロフィール

名久井 麻利
1983年、岩手県出身。2006年に東北放送へアナウンサーとして入社。高校時代に留学経験があるため英語が得意。2014年に結婚。2015年に出産、2016年12月に産休・育休から復帰した。学生時代からのラジオ好きで、邦楽を中心とした音楽好き。

インタビュー・写真

田 拓臣
1979年、埼玉県生まれ。
中学校1年生からラジオを聴き始め、ずっと聴き続けていたら、ラジオ番組の紹介記事やしゃべり手のインタビューをして原稿を書くことが仕事になっていたフリー編集者/ライター。
自称・ラジオ解説者。
著書に「ラジオのすごい人たち~今こそ聴きたい34人のパーソナリティ」(2012年、アスペクト)がある。
一般社団法人日本放送作家協会理事
特定非営利活動法人放送批評懇談会正会員

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