愚痴、ボヤキだけじゃないラジオ!『問わず語りの神田伯山』の真の魅力は「プロレス語り」
明治末期以来のブームと言われるほど熱い講談界。そのブームの立役者である講談師・六代目神田伯山さんのラジオ冠番組『問わず語りの神田伯山』が人気を集めています。
乃木坂46・齋藤飛鳥さんやスタジオジブリ代表取締役・鈴木敏夫さんら、幅広い世代の有名人も数多く耳にしているこの番組。伯山さんの正直過ぎる「愚痴」や「ボヤキ」が話題になりがちですが、今回はもうひとつの魅力「プロレス語り」にスポットを当てて、番組の魅力を掘り下げていきます。
『問わず語りの神田伯山』とは
講談師・神田伯山さんがパーソナリティを務める番組。旧芸名・松之丞時代の2017年に数回の特番を経て、2018年4月に前身番組『問わず語りの神田松之丞』がスタート。真打昇進と六代目・神田伯山襲名に伴い、2020年2月14日放送分から現在の番組名に変更しました。
伯山さんによる忖度のない「ディスり」、正直な「愚痴」と「ボヤキ」が話題となり、大人気番組となりました。内容は全面、伯山さんのフリートーク。日常でおかしいと思った事や面白いと感じた事、その時の状況や心境を丁寧に描写、吐露していきます。
その毒気を帯びた伯山語りを中和しているのが、笑い屋・シゲフジさんの笑い。時には激しく、時には柔らかく笑いを巧みにコントロールしながら、伯山さんとリスナーを優しく包み込んでいます。
※放送情報は変更となる場合があります。
伯山ラジオ、真の魅力は「プロレス語り」にあり
この番組でまず語られるのが、芸の域まで高められた伯山さんの「愚痴」や「ボヤキ」ですが、もうひとつの魅力が熱い「プロレス語り」。そのプロレスへの愛と豊富な知識が番組の中でだだ洩れることもしばしば。
6月4日(金)の放送で38歳の誕生日を迎えた伯山さんは、"38歳"という年齢について、往年のレスラー・マサ斉藤さんが安田忠夫さんに言った「レスラーってのは38歳から40歳だから」の言葉を引用。さらに安田さんが38歳の時、当時最盛期を迎えていた格闘家のジェロム・レ・バンナに挑んで勝った事をさらりとトーク。また、この日の放送で語られたデザイナー・コシノジュンコさんとの収録も「ジェロム・レ・バンナ戦」に例えるなど、プロレスや格闘技に関するワードが頻繁に飛び出します。
そのプロレスに対する熱い想いが番組から伝わったのか、伯山さんは1月4日(月)に、東京ドームで行われた新日本プロレス主催「WRESTLE KINGDOM 15 in 東京ドーム」(通称:イッテンヨン)で、試合中継の“副音声”を担当しました。自ら願い出て、主音声ではなく副音声を担当したというところに、伯山さんらしさを感じます。
1月1日(月)の放送では、2月からテレ朝チャンネルで『神田伯山の“真”日本プロレス』(毎月第3土曜23時10分〜)のレギュラー放送も決まり、新日本プロレスやドーム大会への意気込みを熱く語ると思いきや、別のレスラーの物語を伯山さんが語り始めました。その模様をダイジェストで振り返ります!
伯山が今一番好きなプロレスラー・葛西純(2021年1月1日放送)
伯山:とにかく僕は今一番好きなプロレスラーは、葛西純かもしれないですねえ。だから、新日本の解説にふさわしくないんだよね、俺がね(笑)。この人が主催してるFREEDOMSの方ですから。1回、名古屋か何かの番組で共演させていただいたんですよ。良いんだよね、葛西さん。一人称が"おれっち"なんだよね。息子さんと娘さんがいて、めちゃくちゃかわいがってんのよ。
デスマッチってさ、皆さん知らない人もいると思うんですけど、イメージでいうと蛍光灯で殴り合う感じ? だからある種、俺とホラン千秋さんの番組と同じだよね。あれも蛍光灯で殴り合ってましたから(笑)。あと、画びょうを大量にまいて、そこを普通に歩いてる感じ? 足の裏に画びょうがめちゃくちゃ突き刺さってる。あとはカミソリ十字架ボードとかですね、サボテンを下に敷きながらそこにパイルドライバーですよね。あとはパイプ椅子を使ったりとか。とにかくそういう風にさ、血がいっぱい出たりするのよ。それでいて葛西さんが面白いなあっていうのは、注射が嫌いっていう(笑)。どういうメンタルなんだっていう。
新日本プロレスではなく、他団体(プロレスリングFREEDOMS)所属のデスマッチファイター・葛西純さんについて語り出した伯山さん。確かにここでストレートに新日本プロレスを語ったら“普通”で意外性が無い。新日本に対しても一言入れつつ、葛西さんの人となり、過酷なデスマッチというジャンルを伯山流に嚙み砕いて分かりやすく、おもしろも入れつつ解説しました。
通常のプロレスと異なる一線を画したファイトスタイルのデスマッチの試合を、目の前に浮かぶように説明する伯山さんの語り口はさすがです。葛西さんの自伝『CRAZY MONKEY(クレイジーモンキー)』(blueprint)の帯コメントを書いたというご縁もありますが、元日に孤高のデスマッチファイターについて語るところは、実にプロレスを広く深く愛する伯山さんらしい。
2009年プロレス大賞ベストバウト・葛西純vs伊東竜二(2021年1月1日放送)
伯山さんの「プロレス語り」はさらに続きます。お子さんが生まれて、一度は危険なデスマッチを離れた葛西さんでしたが、ほぼ同期のデスマッチファイター・伊東竜二さんからの指名を受け、過酷なデスマッチに復帰。指名から6年半後の2009年11月20日、ついに二人が激突。2009年の「東京スポーツプロレス大賞」年間最高試合賞(ベストバウト)にも輝いた過酷な試合を伯山さんが臨場感たっぷりに語りました。
伯山:6年半後、後楽園ホールで会うんだね、二人がね。そこで最高のデスマッチをするわけですよ。もうお客さんが歓喜の渦になってて。今はもう禁止されてますけど、葛西純が後楽園ホールの6mのバルコニーから飛ぶんですよ。それもさ、葛西純は引退を覚悟していた。その時には怪我もあって満身創痍ですよ。奥様も引退するなんて聞いてない。葛西純の心の中だけでも「俺は引退するんだ」と。「この試合で死んでもいい」と思う覚悟。バルコニーの下でもって、机の上に大の字になって寝そべっている伊東竜二に向かって。
だから(技を)受ける方もすごいわけ。バルコニーから飛んだやつは今までいますけど、あんな高さから飛んだやつはいないんですよ。最高のダイブでバーン!って。葛西がわあーって飛んで、伊東竜二が受けて、机もダーンと壊れて倒れる。「死んだんじゃないか?」って、一瞬の静寂……でも、1秒2秒後に葛西が立ち上がるわけ。怪我をそこでしないのもプロだと。エンターテインメントで最後は終わらせるんだって、そのプロ意識の高さ。
もちろん、それまでにいろんなところで練習中とか怪我とかいろいろあるんだけど、試合をやってる最中は一切怪我とかを意識させないみたいな感じで。最後、葛西純がですよ、カミソリボードの上にサボテンを置いて、そこに伊東竜二を頭から突っ込むパイルドライバーという、わけ分からない技ですよ。もうちょっと尋常じゃない。それで終わってくんだけど。
それが最終的には、デスマッチとかはバカにされてたんだけど、栄誉ある年間の東スポ大賞の最高試合にも選ばれるというね。そういうようなドラマがある…っていう話を新日本で解説しようと思うんだけど、新日本のレスラーじゃないんだよね(笑)。
まるで目の前で行われている試合を実況しているかのように“本域”で語るその様子は、まさに講談師・六代目神田伯山。栄光だけではない挫折、葛藤だらけのドラマチックなプロレスラーの人生を語る事は、講談と共通するところがあるかもしれません。
葛西さんを語った回の締めには「表現者として最高。僕はウソ言わないです。これは芸事だと思ってます。命を懸けたエンターテイナーをぜひ見ていただきたい」と敬意を込めてコメントしていました。伯山さんが「愚痴」や「ボヤキ」の合間に時折披露する「プロレス語り」も絶品です!
この記事を書いた人
高田りぶれ(たかだ・りぶれ)
山形県生まれ。ライターなど。放送作家のキャリアを生かし、テレビ・ラジオ番組のおもしろさを伝える解説文を年間150本以上執筆。趣味は観ること(プロレス、サッカー、相撲、ドラマ、お笑い、演劇)、遠征、料理。