性犯罪に関する無罪判決を考察 「日常感覚と法律とのズレを問題にしていかないといけない」

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4月30日放送のラジオ関西『時間です!林編集長』では、コメンテーターとして、神戸女学院大学文学部総合文化学科の准教授、景山佳代子さんがスタジオ出演。番組のなかで景山さんは、トピックスとして、性犯罪にかかわる裁判で出された無罪判決の不可思議な部分について取り上げ、「日常感覚と法律とのズレみたいなところを問題にしていかないといけない」と指摘した。ここでは、景山さんが疑問を呈したところを、放送に準じて掲載する。

林アナ それでは、景山さんの今日のトピックスをお願いします。

景山 3月に、性犯罪にかかわる裁判が連続してありましたが、それらのなかで出た無罪判決について、不思議だなと思って取り上げたいなと思います。

そのうちの1つが、19歳の娘さんが中学校2年生のときから実の父親にずっとレイプ(強制性交)されていたという事件で無罪判決が出たこと(※3月26日、名古屋地裁岡崎支部の判決)。また、3月12日に、お酒を飲んで泥酔されていた女性が、抵抗できない状況だったと(裁判で)認められたのですが(性行為を強制した加害者が)無罪になった(※福岡地裁久留米支部の判決)。もう1つ、3月19日には、女性が乱暴されて、暴力によって抵抗できない状況だったと(裁判で)認められたが、こちらも無罪になった(※静岡地裁浜松支部の判決)。なぜ、これらの性犯罪が無罪になっているのか、ちょっとわからなくて、判決理由をいろいろ調べたり、どういう(無罪の)理由なのかなというのを調べてみました。

19歳の娘さんが中学2年生のときから実の父親にずっとレイプされていたにもかかわらず無罪になるというのはどういうことかなと調べると、裁判のなかでは、娘さんが父親から受けた性的な暴行について、「合意もしていなかった」、「嫌がっていた」ことは認められたのですが、「抗拒不能ではなかった」というのです。「抗拒不能」というのは、(準強制性交等罪の)構成要件のなかにあり、要するに自分が相手からの性行為に対して、抵抗できない状態ではなかったと(判断された)いうこと(※刑法では、心神喪失ではなく、身と体的または心理的に抵抗することが著しく困難な状態=小学館『デジタル大辞泉』より)。それ(抗拒不能であったこと)が証明されないと、その犯罪として認められないらしいのです。ただし、父親が中学2年生のときからずっと性行為を強要していたなら、(裁判官が)「抵抗できない状態ではなかった」ということが、それはよくわからないなと。

2つ目の件も、お酒を飲んでいて抵抗できなかったということは(裁判では)認められた。けれども、無罪になっている。なぜかというと、その次の件(※3月19日の静岡地裁浜松支部の無罪判決)とも共通するようなのですが、要するに、被告人、加害者とされた人が「故意ではなかった」と。「(性行為に被害者が)合意していると思っていた」、「自分がレイプしているとは思っていなかった」という理由だ、ということなのです。

これは私も、意味が全然わからなかったので、あおば法律事務所の橋本智子弁護士に、この判決がどういうことなのかを聞いてみました。それによると、性犯罪に関する法律というのは、2017年に110年ぶりに改正されたと。つまり、明治時代からずっと使われていたものが変わったんです。ただ、改正されたのだけど、強姦、今は強制性交等罪となっていますが、それが認められる要件のなかで暴行・脅迫要件というのがあり、それが法曹界の人たちからみれば適切に運用されているということなのですが、被害団体の方とか支援団体の人からすると、暴行・脅迫があったか、なかったかというのは、非常にハードルが高いということが言われています。

例えば今回の19歳の女性に関しても、中学2年生で父親から初めて性関係を強要されたとき、(その前に)殴られたり蹴られたりということが2週間くらい続いていたそうなんです。実際に起訴されたときの事実に関しても、(事件)前日まで暴行を受けていた。けれども「『極度の恐怖心』を抱かせるような強度の暴行であったとは言い難いというのです。このことが、よくわからないんです。

(罪名は)準強制(性交罪)となっているのですが、そちらだと抗拒不能(が必要要件になる)と。そして、自分がそういうことを要求されたとき、断れない状況にあったかどうか(が判断材料になる)。娘さんは、普通に日常生活を送っているなか、親から「学費を払え」、「生活費を払え」と言われて支配状態にあったということはあっても、「逃げられないとか、抵抗できないほどの状態ではなかった」というのです。「記憶もあるから」と。そのため、彼女は抗拒不能状態ではなかったので、父親は無罪になるという、こういう判決が1つ出てきたのです。

こういうことを聞いていても、全然(意味が)わからなくて、まったく理解ができない。橋本弁護士にも、「いや、(この意味が)わからないです」と伝えたら、「わからないということを、今日(の放送で)言って(伝えて)ください」と言われたのです。これだけ説明を受けてもわからないような、私たちの現実での日常感覚と、法律での暴行・脅迫要件や「抗拒不能」のズレみたいなところを、やっぱり、問題にしていかないといけないんじゃないかなと思うのです。

もう1つの事件のほうですが、こちらは抗拒不能、いわゆる抵抗できない状態だったということは認められていたケースですが、それでも無罪になったというのは、加害者、つまり被告人が「合意していると思っていた」ということなのです。

津田アナ そうなってしまうと、いくらでも言いようができますよね……。

景山 そうなんですよ。「故意じゃなかった」と。なので、無罪になる。これも意味がわからなくて……。

たとえば、林さん(林真一郎アナウンサー)が道を歩いていて、「金出せや!」と言われて暴行されて、お金を出したとします。でも、そのときに相手の方が「いや、あれは故意ではなく、林さんが出したいと思ったから、出したんやと思った」と言ったら、(普通は)「おかしい!」って思うじゃないですか。しかし、性犯罪だとそういうふうに(故意ではないから無罪と)なってしまう。

あと、暴力までは振るわなかったとしても、(お酒を飲んで)酔っ払って気持ちよく歩いているときに、そのサラリーマンの方たちが、怖いお兄さんたちに「お金ほしいなぁ、ちょっと出してや!」と言われて、「出しますよ……」となったとき、これは脅迫、恐喝というのが成り立つらしいのです。そして、そのあとに交番に行って「こんなんされました!」と言ったときには、「(お金を出すことに)同意したか」とか「ちゃんと抵抗しましたか?」とかは言われないじゃないですか。だけど、性犯罪に関しては、そこで「なんで抵抗しなかったんですか?」と言われる。そのズレが本当に大きいというか、(説明を)聞いていても本当にわからないことで……。橋本弁護士に言わせると、「性犯罪をどう立件するかという考え方が、110年前の『女性は貞操を守らなければいけない』、『死んでも守らなければならない』と(いう考えがベースとなっている)。そういったところと、財産などはちょっと脅迫したところでも犯罪として成り立つところ、その辺のギャップがすごく大きいことが、1つ、問題です」と。「これを変えていかなければいけない」。

2017年に刑法改正があって、暴行・脅迫要件というのは、入れるか入れないかで、問題になっていたようです。入れなかったらそれはそれで問題なのではないかということで(要件としてそのまま)残ったのですが、それを3年間運用してみて、問題があればもう1回考えてみましょうというのが、2020年とのこと。だから、そういう(疑問に思う)ことをどんどん意見としてあげていくようにということで、たとえば(国連人権NGO)ヒューマンライツ・ナウでは、「性犯罪における刑法改正を求める」という署名活動などをされているようなので、もしよろしければ、ちょっと見ていただきたいです。こういう不思議に思うこと、(私たちの生活)実感とすごくズレていることを、どう理解したらいいのか。法曹界の方たちは、「客観的な事実がないと(判断できない)」ということのようですが……。

林アナ 110年ぶりの刑法改正というのは、何をどう変えたのかと思ってしまいます……。

景山 (法律改正の)1つは、厳罰化というのがあり、今までなら(強姦罪の下限が)3年だったのが、5年になったと。また、男性も被害者として認識されるようになったとか、いろいろ改正はされているのですが、被害にあった方たちからすると(立件するには)非常にハードルが高いまま。なかなかこれは難しいことだなと思うのですが、メディアの方たちがこういうことをニュースとして発信してくださっていること、それで世論としても「おかしい」という声があがることで、また変わっていくものもあるんじゃないかなと思うので。

林アナ 普通に考えておかしいと思うことでも、法律に照らしていくとそうなるというのは、おかしいなと。「なんでそうなるの……」と。

景山 あと、1つは、「裁判官が、どれくらい性犯罪を理解しているかによって、判断が分かれてしまうことがないように、法律をきちんと作り替えなければならないと思います」と、橋本弁護士も仰っています。抗拒不能、抵抗できないというところについて、私とかはやっぱり、実の親からそういうことがあれば、普段、暴力がずっとなくても抵抗できないと思うのですが。そのあたりのズレとかも、どう正していくのか、いろいろ課題が大きいことかなと思います。ただ、これについても、メディアの方が発信してくださり、世論と法曹界の方たちがいろいろ議論したりするのが大事なんじゃないかなと思います。

 

時間です!林編集長
放送局:CRKラジオ関西
放送日時:毎週月曜~木曜 15時00分~17時50分
出演者:林真一郎、津田明日香、池田奈月、コメンテーター
番組ホームページ

※該当回の聴取期間は終了しました。

常連客から22年続くうどん屋店主に! 一から修行した男性の決意

番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

「うどんの本場」と言えば、やはり関西。その関西のうどんを研究して、東京でお店を開き、都内屈指の名店にしたご主人が高齢のためお店をたたむことに……。それを聞いて「自分が継ぎます!」と、ある若い常連客が手を挙げました。きょうは、一から修行を積み、のれん継承を許された男性のグッとストーリーをご紹介します。

うどんの名店「花坊」店内

東京・世田谷区……小田急線沿線の街・経堂。駅を降りて、東京農業大学に向かう農大通り商店街を進み、最初の路地を左に曲がるとすぐ「手作りうどん」の看板が見えます。

この場所に開店して、今年で22年目になるのが関西うどんの名店「花坊(はなぼう)」。先代のご主人で、創業者の正田辰夫さんはかつて関西に住み、比叡山のお寺で修行した異色の経歴の持ち主。関西でうどんの研究を重ね、58歳のとき経堂に店を構えました。

「花坊」という店名は、比叡山の僧侶から授かったものです。澄んだうどんつゆは、上質のかつお節など何種類もの素材を重ね、うまみがたっぷり。さらに店内でご主人自ら打つうどんは、コシがあり、ツルツルとのどごしも最高。うどん好きの間で評判になり、たちまち人気店になりました。

ところがおととし、80歳手前になった正田さんは「毎日うどんを打つのは体力的に限界」と、お店をたたむことを決意。その話を聞いてショックを受けたのが、何度も通っていた常連客の1人、山城裕輔さん・37歳です。

「花坊」2代目店主・山城裕輔さん

「仕事が終わると『花坊』に寄って、天ぷらを肴に日本酒を飲みながら、最後はうどんで〆めるのが至福のひとときだったんです。それがなくなってしまうなんて……」

山城さんは、もともとアパレルの会社に勤めていましたが、「いつかお店をやってみたい」と一念発起。会社を辞めて、和食系の居酒屋で5年、さらに天ぷらの名店で3年働き、修業を積んでいました。その頃、経堂に住み始めた山城さん。たまたま見つけた「花坊」のうどんと美味しい天ぷら、お店の雰囲気も気に入り、足繁く通うようになったのです。

「花坊うどん」と野菜天ぷら

ご主人・正田さんも、山城さんの飲みっぷりの良さと人柄が気に入って、お客さんが引けた後、独立を目指す山城さんの相談に乗ってくれるようになりました。それだけに正田さんが店をたたむと聞かされ、大きなショックを受けた山城さんでしたが、ある日、正田さんから突然こんな提案を受けました。

「山城くん、店をやるんだったらどうだろう……ここで、うどん屋をやってみないか?」

突然の提案に驚いた山城さん。天ぷらと魚料理の経験はあるものの、うどん作りは全くの未経験。「ちょっと考えさせてください」と答えを保留しましたが、数日後……経堂の街を歩いていると、正田さんに偶然バッタリ出くわしました。

「山城くん、あの話、考えてくれたかな? 実はね……『ぜひ店を譲ってほしい』って言って来てる人もいるんだ」

「花坊」の一品料理メニュー

正田さんが、他に譲る話をいったん保留してくれていることを知り、山城さんは決心しました。

「大将、うどん作りを一から僕に教えてください!」
「わかった! ただし、『花坊』の名前を譲るかどうかは君の頑張り次第だからね」

山城さんは言います。「やっぱり『花坊』がなくなるのは、どうしても嫌だったんです。同じように思っているお客さんたちも大勢いるだろうし、だったら自分が継ごう、と」

さっそく正田さんの指導のもと、猛特訓が始まりました。うどんの生地を手でこね、しっかりと足で何度も踏み、長く伸ばして刻みます。

「うどんは生き物。その日の気温や湿度によって打ち方を変えないといけないんです。とくに乾燥が大敵なんですよ」

各地の銘酒も取り揃えています

ダシは何種類もの素材を重ねてとって行きますが、そのレシピは正田さんが編み出した秘伝中の秘伝。間違いなく教えられた通りにやっているはずなのに、味が違うのはなぜだろう? よく観察すると、正田さんが火加減を微妙に調節しているからだと気がつきました。

そんなふうに日々の試行錯誤を重ね、半年ほど経ったある日、正田さんからこんな一言が……「よし、これなら大丈夫だ!」。「のれん継承」を許され、山城さんは去年(2018年)の1月1日から、正式に『花坊』の2代目主人になりました。

山城さんは言います。「厨房に入って来て、『この味じゃないよ!』と指摘してくださる昔からの常連さんもいらっしゃいます。先代から受け継いだ味を守りつつ、ゆくゆくは自分なりの工夫を加えて『花坊』のうどんを進化させて行きたいですね」

「花坊」
東京都世田谷区経堂1-12-14 中谷ビル1F
TEL:03-3706-1278
営業時間:
■昼 11:45〜14:00
■夜 18:00〜21:00
※水曜日は定休日です。

八木亜希子 LOVE&MELODY
FM93AM1242ニッポン放送 土曜 8:00-10:50

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