訪問介護報酬引き下げ 撤回を求める動きと国・県の対策は
渡辺麻耶が木曜日のDJを担当するFM FUJIの番組『Bumpy』(毎週月曜~木曜、13:00~18:50)。11月14日のオンエアにフリージャーナリストの松田宗弘さんが出演し、訪問介護の介護報酬引き下げについて解説しました。
松田:今日は先月放送した「訪問介護」の2回目です。前回は厚生労働省が今年度から介護報酬全体を1.59%引き上げたが、訪問介護など一部の分野は2%引き下げられ、訪問介護現場が疲弊しているというお話でした。介護は大別すると老人ホームなど「施設系介護」と、家にいて介護サービスを利用する「居宅系」の「訪問介護」「デイサービス」のほか、地域密着型の「グループホーム」があります。厚労省は「訪問介護」は利益率が高いとし――実は大都市圏と地方で利益率に格差があり、地方は利益率が低いのですが――介護報酬を2%引き下げられ、山梨のような地方では、訪問介護の人材確保も厳しい状況、というお話でした。今日は「報酬引き下げ撤回を求める動き」「国や県の対応と今後の課題」をお話しします。
麻耶:前回放送では、介護ヘルパーさんの月給は、ベテランでも大卒初任給並みの22万円台で全産業平均を7万円も下回っているのに、物価高騰下で逆に引き下げられ、本当に驚きでした。今日、初めて聴かれるリスナーもいますので、なぜ、そうなったのかから、改めて伺えますか。
松田:介護サービス事業所の事業収入は「介護報酬」で保険料収入と国や自治体の税金で成り立っています。だから、頑張れば利益が上がる企業経営とは違います。そうした制約の中で訪問介護などに限って引き下げた根拠として、厚生労働省は「全国調査をしたら訪問介護は7.8%と高かったから」としているのですが、県内の介護関係者に取材するとそうでもないのです。「東京などは、利用者宅間の距離が徒歩や車で数分と近く訪問効率が高いが、山梨では訪問介護事業所が少ないエリアだと、車で1時間かかるなんてこともあり、取材した甲府の事業所では1日最大6軒が限界。地方は利益率が低いのに全国平均と同様に見なされ、介護報酬を下げられたのは納得できない」というわけです。
さらに言うと、訪問介護の過酷さを示す客観的な指標があります。介護職の有効求人倍率(求人数が求職者の何倍かという数字)が、介護職全体では3.8倍に対し、訪問介護は15.5倍なのです。いかに訪問介護が敬遠されているかが分かりますよね。
麻耶:なるほど。それで「報酬引き下げ撤回」を求める動きが出ているのですね。
松田:はい。ただ、これは前岸田政権に対するもので、衆院解散総選挙を経て、今週、石破第二次内閣が発足し状況は変わっています。ただ、政権が代わっても国政課題は不変で、少数与党に変わり、野党の意見が通りやすくなり、報酬引き下げ見直しが加速する可能性もあるでしょう。その前提でお話すると、今年8月2日、全国知事会は、来年度予算案への提案・要望で、≪訪問介護等の報酬引き下げの影響を検証し、臨時改定などの措置を求める≫としました。臨時改定とは報酬引き上げの意味です。翌週9日、山梨民主医療機関連合会(医療・介護の業種団体)の全国組織が、岸田前総理、前財務大臣、前厚労大臣に≪訪問介護報酬の引き下げ撤回≫を要望しました。補正と来年度予算編成での実施を求めました。
麻耶:予算にぜひ反映してほしいですよね。一方で県はどのような対応ですか。
松田:言い忘れましたが、厚労省は全国知事会の要望を受けてか、9月から全国3300の訪問介護事業所を対象に、報酬引き下げに伴う経営・休廃止状況などの調査を開始。取材に対し、「報酬見直しは今年度内に出る結果を見て判断する」と答えました。先ほど紹介した有効求人倍率の数字の格差も、「経営リスクになっている」と認めました。一方、県の対応ですが、9月補正予算で、厚労省が今年度の「介護報酬引き下げ」の補填策として打ち出した「職員の処遇改善新加算(2.1%アップ)」の未取得ゼロを目指す支援事業を盛り込みました。申請手続きが煩雑で未取得の事業所が多いことから取得率100%を目指します。
麻耶:訪問介護の厳しさが伝わってきます。松田さんは、今後の改善についてどう思われますか。
松田:介護報酬が不十分な背景には、介護保険の財源(12.3兆円)が硬直化し伸び悩んでいることがあると思います。財源の内訳は、40歳以上からの保険料収入が50%、税金から拠出する国庫負担が24%、都道府県と市町村の負担が計26%です。12兆円を超える財政規模でも足りないほど、高齢化率が高まっています。保険料を上げるか、40歳からという保険料納付の開始年齢を引き下げるか、税収の配分を増やすか――大変難しい判断を迫られていますが、一方で、経営難の介護事業所の全国の倒産件数(今年1~8月)が過去最悪の114件という現実がある以上、財源の議論は避けて通れないと思います。
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