山梨県北杜市の景観規制緩和の問題点「ビジョンに反する」

渡辺麻耶が木曜日のDJを担当するFM FUJIの番組『Bumpy』(毎週月曜~木曜、13:00~18:50)。6月12日のオンエアにフリージャーナリストの松田宗弘さんが出演し、山梨県北杜市の景観規制緩和について解説しました。
松田:今日は前月放送に続き、八ヶ岳南麓など北杜市の山岳景観を15年間守ってきた市の「景観規制の緩和」の2回目です。市は市の「まちづくり審議会」の一年半の審議を経て4月21日、「市景観計画」を改訂しました。先月の放送では、審議会委員に前副市長が入っていたり、市民委員が少なく、「規制緩和ありき」で行われたとみられる審議会運営に「重大な問題があった」と指摘しました。今日は、改訂計画の中身について考えます。
麻耶:今日初めて聞かれるリスナーもいると思います。改めて「北杜市景観計画」とは、どのようなものですか。
松田:国の景観法と北杜市の景観条例に基づき、山岳景観や自然環境保全へ向けた景観形成に関する方針を定め、また、地域の住環境や観光資源の価値低下、景観破壊をもたらしかねない「開発」の規制を盛り込み市が2010年に策定したものです。今改訂計画では、産業誘致や雇用創出を目的に、市景観条例が定める「山岳高原景観形成地域」に新設できる建築物の高さを従来の13メートル(三階建て)以下から20メートル(五階建て)以下に緩和しました。
麻耶:規制対象のエリアは北杜市全域ですか。
松田:いえ、「山岳高原景観形成地域」のうち、八ヶ岳南麓の小淵沢町の約半分と、甲斐駒ヶ岳方面の白州町の一部です。改訂計画によれば、景観に及ぼす影響が極めて小さく、かつ、公益性等が大きい場合に、三つの“判断基準”――13メートル以下の高さ制限を守れない合理的な理由がある▽事業規模が100億円以上▽事業者と市の連携協定の締結―を満たせば、市長はその都度、まちづくり審議会から意見を聞いた上で、市長判断で五階建てまで建てられるようになります。建築物とはホテル、工場、病院、老人ホームなど何でも良いのです。
麻耶:なるほど。それにしても、なぜ、景観計画を今、改訂する必要があるのですか。
松田:北杜市の大柴邦彦市長は取材に対し、「北杜市では高齢化が進む一方で、働く場所がなく、人口減少が進んでいる。では、移住・定住者を増やし、持続可能にしていくには何が必要か。これを考えた時、景観計画の改訂の最大の眼目は、産業誘致による経済効果、雇用の場をつくることとなり、これは市の責務。市民、市職員、市長が、持続可能な発展を願う思いはみな同じ」と強調されました。私は「市長判断は主観が入る。仮に現市長が判断を誤らなくても、将来の市長が誤った場合、どうしますか」と重ねて聞くと、「判断基準に照らし、審議会に諮問し意見を伺い手続きするから、だれが市長でも変わらない、と私は信じています」ということでした。ただ、環境保全と開発規制に詳しく、北杜市の事情もよく知っている専門家からは、「景観計画の改訂は問題」と指摘されました。
麻耶:市長の考えとは違うということですね。どのような指摘ですか。
松田:県が三月に策定した「小淵沢エリア振興ビジョン」というのがあって、検討委員会の委員だった防災推進機構理事長で山梨大名誉教授の鈴木猛康さんにお話を伺いました。鈴木教授は「第一回委員会で私が言ったのは、市の20メートル高さ規制の緩和の話」とした上で、「持続可能な発展を考えるとき、高さを20メートルにする開発を前に出すと、持続可能性が担保できなくなる。北杜市が、小淵沢が、他の観光地と同じようになってしまうと何のメリットもない。結局、自然と景観保全が第一で、小淵沢振興ビジョンは、自然と景観をしっかり維持しつつ、どうやって開発するのか、ということなのです。だから開発を第一とする北杜市の景観計画の改訂はこのビジョンに反します。リゾートホテルが永続するならいいが、ブームが終われば撤退する。将来の発展の継続は約束されない」と指摘されました。
麻耶:大変、難しい問題だと感じますね。松田さんはどう思われますか。
松田:取材を通じ思うのは、JR清里駅前の光景です。80年代の清里ブームで、駅前は飲食店や土産物店を訪れる旅行者で賑わいましたが、今は、さびれ、ほぼシャッター街です。ペンションも減り、お店も宿泊施設も持続できなかった。持続可能な産業誘致は、最後は市長判断ですから、このような事態を繰り返さぬよう、大変、高度な見通しと判断が求められます。一方、この現実は人口減少に苦しむ北杜市の今の姿でもあります。市長指摘の「雇用創出」は最重要の政策課題で、“政策ツールの総動員”が今、求められているのも確かです。
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