尾崎世界観×金原ひとみが対談。「音楽は不要不急」の言葉に傷ついた人に捧ぐ小説を語る

クリープハイプのボーカル、ギターの尾崎世界観と作家の金原ひとみが6月9日(水)、J-WAVEで対談。金原のライブ鑑賞エピソードや、お互いの創作方法の話題で盛り上がった。

金原が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『THE KINGS PLACE』のワンコーナー「KINGS MEETING」。尾崎は同番組の水曜ナビゲーターを担当している。

金原ひとみ「うるさめのライブとかも観に行っている」

金原は大の音楽好きで、足繁くライブに通うほど。特にコロナ禍に入ってからは、「次はいつ観られるかわからない」という気持ちから、気になったライブのチケット抽選に応募しているのだとか。

尾崎:最近もライブには行けてるんですか?
金原:はい。ライブハウスも感染予防対策をしながらってことなので、こちらもあまり気にせずに行って、歓声を出さないとか気をつけつつ、ちゃんと楽しませてもらっています。
尾崎:コロナ禍になる前にライブを観ているときは歓声をあげたりもしてたんですか?
金原:はい(笑)。キャーキャー言うほうです。
尾崎:金原さんはけっこうパンク系のバンドのライブも行かれてましたよね。
金原:そうですね。けっこううるさめのバンドとかも観に行ってますね。

以前、金原は尾崎と深夜に行われたトークイベントを終えたあと、そのまま名古屋のロックフェス「FREEDOM NAGOYA」に参加して、夜通しで音楽を楽しんだという。

尾崎:「FREEDOM NAGOYA」ってけっこう、通なお客さんが行くイベントじゃないですか?
金原:激しめのバンドが多くて。でも、あまりに眠くて最後のほうはグロッキーになっていましたけど(笑)。
尾崎:(笑)。そのときにそういう話を聞いて、けっこうライブに行っているんだなって思いました。
金原:今年の「FREEDOM NAGOYA」も行こうと思っています。
尾崎:ええー! そうか。

尾崎世界観、ライブと小説への取り組み方の違いは?

尾崎は「ライブは創作にどんな影響があるか?」と質問。金原は「全然違う脳を使う」とコメントした。

金原:創作しているときと、音楽に触れているときって、楽しんでいるところも違うし。(音楽は)触れたいとか、この音楽とかMCとかを全て飲み込みたいとかいう気持ちっていうのが(あるので)。本を読んでいるときと音楽を聴いているときっていうのも別だし、(作品を)書いているときと(音楽を)聴いているときも別だし。いつもと違うところを活性化させている感じがしますね。
尾崎:そうか。自分は(音楽を)やっている分、誰かのライブを観て、そういう感覚になれないので悔しいなっていうのが先行してしまって。そこはちょっと損ですね。
金原:でも、やっぱり尾崎さんも(作家として作品を)書いているときとライブをやっているときって全然違いますよね。
尾崎:全然違いますね。

金原は尾崎に「ミュージシャンと作家の使い分け」について迫ると、尾崎は「どうしてるんでしょうね……」と悩みながら、こう回答をした。

尾崎:ライブのときのほうがつらいかもしれないですね。小説はやり直せるし。書いているところはライブで見せてないからごまかせるんですけど。あと、音楽は本業だから絶対にミスをしてはいけないという感覚ですね。
金原:文章のほうでは多少のチャレンジ(とかできるというか)。
尾崎:(文章は)全然ダメでも当たり前だという気持ちでやれるので。
金原:なるほど。それはいいですね。両方で挑戦ができるってところは。
尾崎:だから、ある意味、お客さん感覚で(文章を書いていますね)。
金原:そんな気持ちでいたらダメですよ。芥川賞候補にもなって何を言うんですか(笑)。
尾崎:そっか。もう逃げられないか。
金原:逃げられないですよ(笑)。
尾崎:最初は接客してもらってたのに、気づいたら常連になりすぎてバイトを始めたみたいな感じですね。じゃあ、これらはアルバイトとして頑張っていきます。
金原:提示する側としてね(笑)。

「今こそ書いておきたい」コロナ禍だからこそ生まれた作品

金原は5月に新刊『アンソーシャル ディスタンス』(新潮社)を上梓した。

【『アンソーシャル ディスタンス』の紹介文】
パンデミックに閉塞する世の中で、生への希望だったバンドのライブ中止を知ったとき、二人は心中することを決めた。世界を拒絶した若い男女の旅を描く表題作を初め、臨界状態の魂が高アルコール飲料で暴発する「ストロングゼロ」など、あらゆる場所でいま追い詰められている人々の叫びが響き渡る。いずれも沸点越えの作品集。
新潮社ホームページより)
新潮社のホームページには、尾崎がこの本に寄せた書評も掲載されている。

尾崎:この本には、ライブを楽しみにしていたけどコロナでそのライブが中止になってしまったカップルが出てきますよね。ああいうのを読んでいると、お客さんってこういう感じでいてくれているのかなとも思うし。
金原:そうですね。(この本に登場する)彼らは本当にこんなことになって、すごく行き場のない怒りを抱えてテロでも起こすか、みたいなことをワチャワチャ言い合っている感じなんですけど、私自身もコロナ禍になって次から次へとライブが中止になって、それこそクリープハイプのすごく楽しみにしていた公演が中止になったりして。そうやって中止とか延期の連絡が来るたびに、「そのために頑張って生きてきたのに」っていう気持ちを抱えていたので。
尾崎:それを作品にしたのも早かったですよね。去年コロナ禍に入ってすぐ文芸誌に作品として載っていましたもんね。
金原:はい。緊急事態宣言が出るか出ないかくらいのときに、ちょっとこれは書きとめておきたいというか。やっぱり今じゃないと実感できないもの、感じられないものが込められるんじゃないかと思って。
尾崎:本当に早いですよね。当時も『アンソーシャル ディスタンス』ってタイトルだけで一人勝ちしてましたもんね。思考にキレがあるというか。
金原:あのときは私の中でもすごく大きな出来事だったし、今やりたいこととか好きなものが全て禁止されている状態で。私なんかは仕事もあるし、子どもがいたりとかでいろいろと忙しくしているけれども、それが生活の中心になっているような人とか、まさに「これだけのために生きてきた」みたいな人たちがどういう思いでいるだろうっていうのがすごく気になったし、今こそ書いておきたいっていう気持ちがありました。

新刊は“不幸のおつくり”

尾崎は『アンソーシャル ディスタンス』に収録するそれぞれの作品は破滅型の人が多いと感想を述べると、金原は「もれなく破滅します」と笑う。

尾崎:そこが好きなんですよね。自分はそういう作品の中だとしても、そういう人に自分を託してしまうので。
金原:私もこういう人たちに対してこそ愛情があるし、破滅するからこそ破滅しないでほしいというか。自分の中に危ういものを抱えている人にとって、ちょっと実用書みたいなものになったらいいなっていう気持ちがあるんですよね(笑)。
尾崎:なるほど(笑)。

「やっぱり意思とか気持ち、考えていることって弱くって、身体的な衝動とか欲望とかそういうものにはなかなか勝てない」と金原は話し、「(そういうものに)流され、本当に行き着くところまで行き着いてしまったっていうような人たちを生のまま届けたい」と思いを語る。

尾崎:本当に刺身ですね。おつくりですね、もう。
金原:そう、ダメな人はダメかもしれないです(笑)。
尾崎:“不幸のおつくり”ですよ。読んでいると不幸がまだピクピク動いてますもんね。
金原:あはは(笑)。新鮮な不幸をお届けしています(笑)。
尾崎:でも、バンドを好きで追いかけてくれている人たちは絶対に共感する一冊だなと思いますね。
金原:本当に自分の大切なものとか好きなものを自分とは全く関係ないところで奪われてしまったっていう人たち。そんなの当たり前だろっていう風に世間から抑圧され続けた人たちとか、バカにされたりとかした経験がある人……
尾崎:クリープハイプのリスナーは基本的にバカにされることも多いと思うので。本当に申し訳ないんですけど。
金原:音楽なんて、小説なんて、とか不要不急っていう言葉が出たりして、そういう言葉で傷ついたりショックを受けたりしてきた人たちはすごく多いと思うので、そういう人たちのちょっと息継ぎになるような瞬間を小説で与えたらなという気持ちもあって書いた小説なので、ぜひ読んでいただければと思います。

クリープハイプは7月16日(金)に横浜アリーナで開催する『THE KINGS PLACE』のライブイベントJ-WAVE THE KINGS PLACE LIVE Vol.20に出演する。参加アーティストは、クリープハイプ、04 Limited Sazabys、KEYTALK、XIIX。同番組でナビゲーターを経験したバンドが集結する。チケットの詳細は公式ページまで。

クリープハイプの最新情報は、公式サイトまたは、オフィシャルTwitterから。

新時代音楽王たちの集い『THE KINGS PLACE』の放送は、毎週月曜から木曜の25時から。尾崎世界観の担当は水曜。
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『陰陽師0』 山﨑賢人主演、新たな安倍晴明像を作り上げる!

【八雲ふみね:Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第1174回】

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。

今回は、現在映画館にて公開中の『陰陽師0』と『霧の淵』をご紹介します。

『陰陽師』  (C)2024映画「陰陽師0」製作委員会

映画館で観たい!:『陰陽師0』平安京のヒーロー、令和の世に見参!

平安時代に実在した呪術師、安倍晴明。

雅楽師としても名を馳せた、源博雅。

2人がバディを組み、京の都に蔓延る魑魅魍魎に挑んでいく姿を描いた夢枕獏による小説「陰陽師」シリーズは、これまでにも何度も映画・ドラマ化されてきました。

そんな平安京のヒーローの新たな物語が誕生。『陰陽師0』は、安倍晴明が陰陽師になる前の知られざる学生時代に焦点を当てたオリジナルストーリー。生誕1100年を超えて、今もなお語り継がれる歴史が紐解かれます。

『陰陽師』  (C)2024映画「陰陽師0」製作委員会

『陰陽師0』のあらすじ

時は平安。天皇を中心とした国家形成の中で政治の中心を司るのは、呪いや祟りから都を守る陰陽師だった。彼らは、官職や陰陽師を育成する“陰陽寮”に所属。学生(がくしょう)と呼ばれる見習いたちは、より高い地位を目指し、一人前の陰陽師になるために切磋琢磨していた。

しかし学生の立場でありながら“呪術の天才”と呼ばれていた安倍晴明は、陰陽師にはまるで興味を示さず、授業はサボってばかり。周囲からも距離を置かれる“変わり者”として知られていた。

ある日、貴族の源博雅が安倍晴明の元を訪れる。従姉妹で元伊勢の斎宮である徽子女王の身に起こる怪奇現象を解決してほしいと言うのだ。衝突しながらも、事件の真相を追う晴明と博雅。ある学生が変死したことから、平安京をも揺るがす陰謀に巻き込まれていくが……。

『陰陽師』  (C)2024映画「陰陽師0」製作委員会

『陰陽師0』のみどころ

若き日の安倍晴明を演じたのは、山﨑賢人。常に冷静沈着で、人嫌いな陰陽寮の学生を、強さとしなやかさをもって体現。まったく新しい安倍晴明像を作り上げました。

また安倍晴明の相棒となる源博雅役には、染谷将太。文武に長け、誠実で純粋な“愛されキャラ”。
安倍晴明と源博雅が悪態をつきながら酒を酌み交わす、という原作ファンにはおなじみのシーンも盛り込まれており、2人がどんなバディぶりをみせるかも本作の見どころのひとつです。

共演には徽子女王役の奈緒をはじめ、安藤政信、村上虹郎、板垣李光人、國村隼、北村一輝、小林薫など、若手からベテランまで個性的な俳優が勢揃い。脚本も務めた佐藤嗣麻子監督が思い描いた『陰陽師』の世界観が、色鮮やかに映し出されます。

『陰陽師』  (C)2024映画「陰陽師0」製作委員会

知られざる陰陽寮の内情、源博雅と徽子女王の身分違いの恋。華やかな平安絵巻としても楽しめる本作において特筆したいのが、呪術アクション。

数々の出演作で体を張ったアクションシーンに挑戦してきた山﨑賢人ですが、これまで観客を魅了してきたアクションを“剛”と例えるならば、今作でみせる動きは“雅”といったところでしょうか。“狐の子”と呼ばれる人間離れした安倍晴明の所作を再現するため、フィギュアスケーター羽生結弦氏の演技からインスピレーションを受けて作られたアクションは“舞”を連想させるようで、実に優美。必見です。

史上最強の呪術師・安倍晴明は、いかにして生まれたのか。

この壮大な世界に是非、触れてみて。

『霧の淵』  (C)2023“霧の淵”Nara International Film Festival

コチラも映画館で観たい!:『霧の淵』日本の原風景を丁寧に紡いだ秀作

奈良県南東部に位置する、静かな集落。過疎化が進む村で老舗旅館を営む家族の姿を描いた『霧の淵』。注目の若手クリエイター村瀬大智の長編商業デビュー作となります。

本作の舞台となった奈良県川上村は、500年以上続く「吉野杉」の産地として知られる“日本の原風景”とも呼ぶべき場所。そんな歴史ある村に暮らす人々の日常、山や川。そして、霧。映し出されるすべてが、神々しいまでに美しい。主人公イヒカをはじめとする人々の想いだけでなく、木々の匂いや頬をなでる風までも感じられる珠玉の一作です。

<作品情報>

『陰陽師』  (C)2024映画「陰陽師0」製作委員会

陰陽師0

2023年4月19日(金)から全国ロードショー

出演:山﨑賢人、染谷将太、奈緒、安藤政信、村上虹郎、板垣李光人、國村隼 / 北村一輝、小林薫
原作:夢枕獏「陰陽師」シリーズ(文藝春秋)
脚本・監督:佐藤嗣麻子
音楽:佐藤直紀
主題歌:BUMP OF CHICKEN「邂逅」(TOY’S FACTORY)
呪術監修:加門七海
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)2024映画「陰陽師0」製作委員会

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『霧の淵』  (C)2023“霧の淵”Nara International Film Festival

霧の淵

2024年4月9日(金)からユーロスペースにて先行公開中
4月19日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開

出演:三宅朱莉、三浦誠己、堀田眞三、水川あさみ
監督・脚本:村瀬大智
エグゼクティブ・プロデューサー:河瀬直美
プロデューサー:吉岡フローレス亜衣子
撮影:百々武
録音:森英司
照明:藤江立
美術:塩川節子
助監督:福嶋賢治
制作担当:濱本敏治
衣装:山上順子
ヘアメイク:南辻光宏、中野泰子
編集:唯野浩平
音楽:梅村和文
撮影助手:田安仁
照明助手:楠 哲也、八十川和博
録音助手:増田岳彦
美術助手:岡本まりの
監督助手:石井千秋
制作主任: 藤原達昭
メイキング:川添ビラール
スチル:槌谷綾二
製作:なら国際映画祭
助成:奈良県 川上村 奈良市
配給:ナカチカピクチャーズ

(C)2023“霧の淵”Nara International Film Festival

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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