村上春樹、小澤征爾の足跡を辿る「僕の知っているその人となりについても、少しばかり語ってみたいと思います」

作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。4月29日(月・祝)15時00分~16時50分は、特別番組「村上RADIO特別編~小澤征爾さんの遺した音楽を追って」をオンエア。
今年2月に逝去した世界的指揮者小澤征爾さんと親交が深かった村上さんが、小澤さんを偲んで、自宅から持参したレコードをかけながら、良き音楽を求め続けた小澤さんの足跡を辿りました。
この記事では、番組冒頭で村上さんが小澤さんへの思いを語ったパート紹介します。



こんにちは、村上春樹です。今日は村上RADIO特別編として、この2月に88歳で亡くなられた指揮者・小澤征爾さんを偲んで、彼の指揮した音楽(レコード)をかけ、僕の知っているその人となりについても、少しばかり語ってみたいと思います。
おかけする音楽はおおむね年代順になっています。デビュー当時の録音から、最晩年のものまで、できるだけ順を追って辿(たど)っていきたいと思います。2時間弱の番組ですので、残念ながら、なかなか1曲全部をおかけすることはできません。でも小澤征爾という希有(けう)な指揮者の音楽的足跡をおおまかにでも辿れるように、うちにある音源から一生懸命セレクトしてみました。

小澤征爾さんは紛(まぎ)れもない天才だと僕は確信しているんだけど、そう言ったら話はそこで終わっちゃうんですよね。「あの人は天才だ」ピリオド、みたいに。じゃあ、彼のどこがどう天才なんだと言われても、僕としてはどこから手をつければいいのか見当もつきません。天才にはよくあることだけど、とてもいろんな多彩な側面をそなえた人でしたから。

でも、僕のあくまで個人的な印象を言わせてもらえれば、征爾さんはまず第一に、基本的にはとても人なつっこい人だったですね。音楽的にはもちろん厳しい側面もあったようだけど、人と人との交わり、人間関係の中から少しでも善きものを取りだしていこう、吸いあげていこうという、ポジティブな姿勢は常に健全に保たれていました。

第二に、びびらない人だったということかな。物怖じしないというか、厚かましいというか、チャンスが与えられれば、決してそれをしくじらない人でした。ものごとの流れを読んで、それに合わせていく対応力の鋭さも並みではなかった。これって、天才にはたぶん必要な資質ですよね。

そして音楽に対してはどこまでも真剣で、誠実な人でした。妥協みたいなものは一切なかった。形からではなく、気持ちから、心から、すっと音楽に入っていける人でした。
征爾さんの音楽を聴いていると、そういう彼の優れた面が生き生きと感じられて、つい嬉しくなってしまいます。

番組では他にも、2人の対話集『小澤征爾さんと、音楽について話をする』の取材のために録音された会話の一部を特別公開する場面もありました。

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4月29日(月・祝)放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 5月7日(火)AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO特別編~小澤征爾さんの遺した音楽を追って
放送日時: 2024年4月29日(月・祝)15:00~16:50
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/
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