三菱マテリアルが掲げる積極的なDX戦略「MMDX2.0」 推進基盤となる重要な“3つの要素”とは?

笹川友里がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「DIGITAL VORN Future Pix」(毎週土曜 20:00~20:30)。この番組では、デジタルシーンのフロントランナーをゲストに迎え、私たちを待ち受ける未来の社会について話を伺っていきます。3月8日(土)の放送は、三菱マテリアル株式会社 CIO システム戦略部長の板野則弘(いたの・のりひろ)さんをゲストに迎え、お届けしました。


(左から)板野則弘さん、笹川友里



岡山県倉敷市生まれの板野さん。1989年に三菱化成(現:三菱ケミカル)株式会社。1996年にアメリカ・シリコンバレー駐在を経験し、以降は情報システム部にて日本の化学業界におけるeビジネスの推進を担います。2021年に三菱マテリアル株式会社CIOに就任し、2024年より三菱マテリアルITソリューションズ代表取締役社長を兼任しています。

◆三菱マテリアルの主力事業は?

三菱マテリアルは、非鉄金属などの基礎素材から硬い金属を削る超硬工具の加工ソリューション、半導体関連部品やその材料、資源サイクル・再生可能エネルギーに関する事業などを多角的に展開しており、「原材料を輸入して加工して製品化する部分と、エネルギー問題や資源問題に対するさまざまなサービスと解決ソリューションを提供しています」と板野さん。

主力は銅関連事業で「自動車や家電などの電子機器、各種産業機器の基礎材料、生活基盤に必要な電線など、我々の豊かな生活を支えているのが銅です。その原料調達から精錬、加工、製品化の製造まで一貫して生産・販売しているのが当社の強みです」と紹介します。

そんな三菱マテリアルで推進しているDX戦略が「MMDX」です。「これは“三菱マテリアル・デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション”の略で、“ビジネス”という言葉が入っているのが特徴です。MMDXのテーマとして、まず既存事業そのものを強くするために“今を強くする”。次に、新たなビジネスを創造するために“明日を創る”。そして、一番大事なのが、これらの施策を継続的にやり続けるための仕組みをつくり、人材強化を目指す“人を育てる”。この3つがミッションになります」と説明します。

さらに、2022年10月からは、「ビジネス」「製造」「研究開発」の3つを柱とした形でバージョンアップした「MMDX2.0」をリスタート。このMMDX2.0は既に成果が出ているそうで、その1つの領域がE-Scrap の取引プラットフォーム「MEX」(Mitsubishi Materials E-Scrap EXchange)です。

E-Scrapとは、廃棄されたパソコンやスマホなど電子機器に使われている廃基盤の総称で、そのなかには金・銀・銅・白金・パラジウムなどの有価金属が含まれています。E-Scrapは「都市鉱山」の一部として注目されており、三菱マテリアルではE-Scrapを世界中から回収し、リサイクルしています。この資源循環のプロセスに三菱マテリアルのDXが活躍していると板野さんは言います。

「E-Scrapは(全世界で)年間80万トンぐらい発生しているのですが、三菱マテリアルは、そのうちの約20%にあたる約16万トンの処理能力を有しています。これにはポイントがありまして、E-Scrapは世界中から数百キロ単位のコンテナで運ばれてくるのですが、一度炉に投入してしまうと、どのリサイクラーさんから集荷し、どれだけレアメタルが入っていたのかがわからなくなってしまいます。そこで、処理する前に、どのくらいレアメタルが入っているのかをサンプリング分析し 、E-Scrapを集めてきてくださったリサイクラーさんと合意をとったうえで、処理しています。このプロセスにDXを導入することで、グローバルでの取引を円滑かつ信頼性を確保することができるのです」と解説。

さらに、2030年度末までにはE-Scrapの処理能力を年間約24万トンまで拡大する計画で動いているそうです。

◆DX化に向けての“2つのアプローチ”

続いて笹川が、DX化に向けた課題について尋ねると、板野さんはまず、DX化するにあたり、経営が組織の意思決定をおこなって現場で実行するトップダウンと、逆に現場からのアイデアを吸い上げて経営に反映させるボトムアップの2つのやり方があると言い、「トップダウンの場合のハードルとして、各部署から推薦された人を集めた推進チームを作り、最初のPOC(Proof of Concept)をやるときはいいのですが、最終的には全従業員が、それを自分ごととして捉えなければならない。そこが最初の難しさかなと思います」と言及。

一方、ボトムアップについては、「ある工場にDXをやりたいやる気のある若者が1人いるとします。しかし、周りには一緒にDXに取り組んでくれる人がいない。そのときに若者の熱意を活かすために必要なものが4つあるだろうと。1つは予算を担保し、“失敗してもいい”という心理的安全性を提供すること。2つ目は、やる気のある人は“スキルアップしたい”と思っているので、自己学習できるプログラムを提供する。3つ目が、専門家を連れてきて伴走させる。そして4つ目に、DX推進のためのIT基盤を提供する。これらが揃うと、何がしかの動きが出るのです」と説明します。

一方、この方法ではある問題が起こるとし、「(他の従業員から)『みんな忙しいのに、なんでお前だけ自分の好きなことができるんだ』というような不満が出てくる可能性もあるので、その若者の貢献度を上司からみんなに理解してもらう必要があります。それでも、まだ問題があります。というのも(その若者は)孤立していると思っているので、解決手段として“コミュニティに入る”ということを提案しています。自分の興味や悩みを聞いてくれる場所があると、徐々にそれが動き出せるようになる。これが私の考えるボトムアップです」と熱弁。

そのうえで板野さんは「結論からいうと、トップダウンもボトムアップも両方大事なので、これを組み合わせていくのが一番重要なDXへの道だと思います」と話していました。

次回3月15日(土)の放送は、引き続き板野則弘さんをゲストに迎えてお届けします。板野さんが豊富な海外での経験から得たものとは?

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3月8日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2025年3月16日(日) AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00~20:30
パーソナリティ:笹川友里
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