出征したまま便りの絶えた夫・岩男を待つ若い妻・小雪。留守宅では理髪店を営む姑との間に、誰にも言えない葛藤があった。そんな中で、たった2週間の結婚生活だったが、冷たい体をあたためてくれた夫のやさしさと、白い歯を見せて笑ったその顔の記憶が小雪の心をささえていた。戦争が終わって3年。今では姑も亡くなり、ひとり家で待つ妻のもとに「岩男が帰ってくる」という知らせが届く。小雪はじっとしていられなかった。しかし、その喜びが、思わぬ悲劇を引き起こす……。
曾野綾子が1968年(昭和43年)に「小説新潮」に発表した作品。『わたしの図書室』で曾野綾子の作品を朗読するのは初めてのこと。
曾野綾子は1931年(昭和6年)東京生まれ。幼稚園から聖心女子学院に通い、17歳で洗礼を受けカソリック教徒になる。その頃、父親がアメリカ軍に接収されていた箱根・富士屋ホテルの支配人をしていたことから、そこでアルバイトをしていたときのエピソードをもとに、大学卒業後に書いた『遠来の客たち』が芥川賞候補になった。作家・三浦朱門との結婚は大学在学中、22歳の時。昭和45年に発表されたエッセー集『誰のために愛するか』は200万部を超えるベストセラーに。小説『神の汚れた手』『天上の青』『虚構の家』、エッセー『老いの才覚』『思い通りにいかないから人生は面白い』『夫の後始末』など、92歳の現在に至るまで幅広いジャンルでの執筆活動を続けている。また、1995年から2005年まで日本船舶振興会の会長を務めた。