太宰治が“太宰治”になる前の作品「断崖の錯覚」を朗読。
ラジオ日本『わたしの図書室』では10月31日(木)と11月7日(木)の2週にわたり、太宰治作「断崖の錯覚」を紹介する。朗読は、自身が太宰ファンでもある声優・羽佐間道夫。
「大作家になるためには、筆の修行よりも、人間としての修行をまずして置かなくてはかなうまい。恋愛はもとより、ひとの細君を盗むことや、一夜で百円もの遊びをすることや……人を殺すことや……」
“大作家”になることを夢見ていた若き日の太宰治がしたためた愛と野望のラブ・サスペンス!
【ストーリーは…】
小説家、それも大作家になる野望を秘めた小心者の男が、海辺の温泉宿で人気作家になりすます。大作家になるためには、酒も遊びも賭け事も、どんな経験でもしておかなければならないと信じている。他人の名を語るぐらいなんだと言うのだ!しかし、誤算だったのは“恋”。自分がしたたかに生きているつもりですっかりいい気になっていた男は、ある日、その町の喫茶店の女給に恋をしてしまう。あの娘の前で、もっといいところを見せたい。そんな気持ちがますます男を、嘘と虚栄の世界に引きずりこんでいく。そして、ある夜……
【太宰の人生と「断崖の錯覚」】
1936年(昭和11年)、27歳の時、最初の小説集「晩年」を発表し、1948年(昭和23年)に玉川上水で情死するまでのわずか12年間で、数多くの作品を生み出した太宰治。“早逝の天才作家”というイメージだが、実は少年のころから作家へのあこがれは強く、青森中学校、弘前高等学校時代から、本名の津島修治をはじめ、辻島衆二、小菅銀吉など、いくつかのペンネームで校友会誌や文芸雑誌に作品を発表しつづけていた。
今回、取り上げる「断崖の錯覚」は、「太宰治」の名で本格的に活動する以前に、「黒木舜平」というペンネームで書いた唯一の作品で、最近になって太宰治の作品と認定された。ところどころ未成熟さもありながら、太宰特有の自虐やおどけの要素が垣間見られて興味深い。太宰治の若き日の隠れた名作である。
【「断崖の錯覚」が意味するもの】
「断崖の錯覚」は、太宰が20歳のときに鎌倉の腰越で起こした、銀座の女給との心中事件を基にしていると言われている。この心中事件では、相手の女給・田部シメ子は死亡。太宰は一命をとりとめたのち、自殺ほう助罪等で取り調べを受けたが起訴猶予となった。この心中事件が1935年に発表された小説「道化の華」のモチーフになっていることはよく知られている。そういう意味でも、この「断崖の錯覚」は初期の名作「道化の華」の習作だったとも考えられる。また、太宰治が無名のころから、いかに“大作家”にあこがれていたかがうかがわれる一編と言えるだろう。
- わたしの図書室
- 放送局:ラジオ日本
- 放送日時:2024年10月31日 木曜日 23時30分~24時00分
- 出演者:羽佐間道夫
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※該当回の聴取期間は終了しました。
