なぜ「8割減」なのか~政府が具体的に説明できない理由

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月24日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。小池都知事が発表した買い物対策等について解説した。

2020年4月22日、発言する安倍総理~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202004/22corona.html)

小池都知事がスーパーの買い物対策を発表

小池知事)都民の皆様方には毎日のお買い物を是非、3日に1回くらいに控えていただきたい、変えていただきたいということであります。

 

東京都の小池百合子知事は23日、新型コロナウイルス感染拡大によるスーパーや商店街の混雑対策を発表。密集、密閉、密接の「3密」の解消に向け、都民に対して「毎日の買い物を3日に1回程度に控えていただきたい」と要請している。

飯田)23日の段階では、イニシャルや頭文字で規制をするというようなことが言われていましたけれども。

宮家)いま、外出して最も緊張するところは、病院とスーパーですよね。都心はガラガラでも、近くのスーパーは混んでいる。確かに、私は3日に1回くらいしかスーパーには行っていません。

【新型コロナ】記者会見に臨む小池百合子都知事=2020年4月17日午後、東京都新宿区 ©産経新聞社

発言が二転三転~危機のときには状況も変わるので二転三転するもの

飯田)これに対して、たくさんメールもいただいています。西東京市の“マサシ”さん、35歳会社員の方。「そもそも『日常の買い物に行っていいですよ』とはっきりおっしゃったのは都知事ではないですか。状況に変化がなく、苛立ちや焦りを感じているとしか思えないです」と。

宮家)こういう危機のときには、状況が二転三転するので、発言も二転三転するものです。べつに弁護するつもりはないけれど、いずれにせよ、みんなフラストレーションが溜まっているから、誰かのせいにしたくなる気持ちはわかります。けれども、ある程度みんなで心を合わせないと、なかなかよい結果は出ませんから。7割ではダメで、8割減らさないといけないのですよね。つまり、スーパーに行くのは10日に2回です。3日に1回だと多いのではないかと、こういう話になってしまいます。

飯田)毎日行っていた人が3日に1回になると、6割くらいの削減にとどまることになりますね。

宮家)だけど、買い物時間を短くするなど、いろいろな方法があると思います。

【新型コロナ 吉祥寺雑感】午前中から混雑する吉祥寺サンロード商店街。マスク姿の人たちが目立った=2020年4月21日午前、東京都武蔵野市 ©産経新聞社

政府は「8割減」についての具体的な説明が必要~説明できない理由

飯田)海外から聴いている方もいらっしゃいます。 “サミージー”さん、47歳の男性の方。「接触8割減政策」について、サンフランシスコからいただきました。「8割減について、さまざまな自治体もいろいろ動いていますけれども、8割減はあくまで手段ですよね。それ自身が目的のように語られていると感じます。政府は8割減ができれば、どれだけ感染速度を抑えられるのか、8割減の状況をどれくらいの期間継続するのか、8割減でも感染速度が抑えられない場合にはどんな対策が考えられているのかなど、具体的な説明がもっと必要なのだと思います」といただきました。

宮家)確かにそうです。本当はもっと説明をしなければいけないのだろうけれど、そこには問題があって、政策決定や意思決定をする人たちの多くは政治家で、選挙で選ばれた人たちなのです。だけど、この人たちには医療の専門知識はない。だから専門家を呼ぶ。専門家を国家公務員にして責任を負わせればいいのですが、そうではなく、結局は有識者会議、専門家会議になる。そこから諮問が戻って来て、それに基づいて決断するという形です。だから、専門家会議の人たちにそのような細かい話をさせるのかと言ったら、それは彼らの責任外の部分にあります。このように日本はアメリカとは明らかに違うやり方をしているのです。それが悪いと言うわけではありませんが、サンフランシスコから見ると、そのように見えるのでしょう。

飯田)アメリカの場合は、CDC(疾病対策予防センター)も基本的には国家に属していて、責任も負っている。

宮家)そうです。そういう意味では、アメリカは一元的だけれど、日本は二元的な部分があります。

飯田)仕組みの違いということになりますね。

宮家)日本の戦後の意思決定の仕方は、アメリカのような形ではやらないということなのでしょう。

飯田)そこはきちんと政治家が責任を負うのだと。

宮家)そうです。

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全国知事会が国道の通行規制を提言~“日本における制度の限界”について考える

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月24日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。全国知事会が政府に提出した、新型コロナウイルス感染拡大防止の提言について解説した。

テレビ会議形式で行われた全国知事会に参加する川勝平太・静岡県知事=2020年4月17日、県庁 ©産経新聞社

大型連休に国道の通行規制を~全国知事会が提言

全国知事会は23日、新型コロナウイルス感染拡大防止の提言をまとめ、政府に提出した。大型連休中に都道府県境を超えた人の移動を最小化するため、国が管理する道路の通行規制や駐車場の利用禁止などの特例措置を講じるよう求めた。

飯田)テレビ会議で国との意見交換会が行われ、飯泉全国知事会長は「国民大移動と言われる大型連休で、人が接触する機会を8割低減するために、国と共に達成して行きたい」と語ったということです。

宮家)まわりくどい言い方ですね。もちろん、知事会がこういう形で提言することが悪いと言っているわけではなく、それは素晴らしいことだと思います。しかし本来であれば、「移動をやめろ」と言っているのだから、要するに「ロックダウンしろ」ということですよね。

飯田)都市を封鎖すると。

集団感染が発生したソウルのオフィスビルで新型コロナウイルスの検査(PCR検査)を行う医療従事者=2020(令和2)年3月10日、韓国・ソウル NNA/共同通信イメージズ ©共同通信社

今回のコロナに対しては、外国のように「補償して主権を制限する」強い政策が必要か

宮家)でも、それはできないわけでしょう。そんな強制ができる国では、命令して私権を制限する、だから補償するというのが普通の流れです。しかし日本では強制ができないから、注意喚起や要請はできるけれど、せいぜい指示しかできない。当然、「私権についての制限はない」という前提になります。そうすると、補償もないというロジックになりますよね。ロジックとしては、役人的には、これは間違っていないのだけれども、そうなると今回のように「強制できないから、国が管理する道路を制限しろ云々…」という話になります。とにかく、もう早く決めましょうよ。危機管理を過去70年間サボって来たと言うつもりはないけれども、これまでは幸いにも奇跡的に上手く行っていたし、民度も高いので、この程度のことで十分対応できていた。でも、その程度で済む相手ならいいのだけれど、今回のコロナは違うかも知れないということを考えると、これで良いのでしょうか。「いまの制度ではこれしかできないのか」ということを私は今回、強く感じました。

飯田)国家権力が私権を制限するということに関して、戦後は一貫して反対をして来た。それは、人権を守るという点ではよかったのかも知れませんが。

24日、外出禁止措置で閑散としたインド首都ニューデリーの観光名所インド門前=2020年3月24日 ©時事通信

必ずしも人権がすべてではない~議会を通して「命令」を出すことの必然性

宮家)戦前のことを考えると、これまで一種のアレルギーがあったのは健全だったのかも知れない。でも、羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹くではないけれど、今我々は膾を吹いているのではないか、という気にならないわけでもない。

飯田)人権を守ることが、人命を守ることとイコールだったのが、いまはイコールではなくなって来た。

宮家)人権を守るというのは、公共の福祉とのバランスにおいてです。公共の福祉が維持されることによって、間接的に人命も守られるわけですから。このバランスは非常に難しいところで、必ずしも人権がすべてということではないのです。それは他の民主主義国家を見ても、欧米を見ても同じです。彼らこそ、まさに命令を出していますよね。法律を議会を通して命令をやっているのだから・・・。危機の真最中にこういうことを言うのはよくないと思うけれども、今後ある程度一段落したら本当に、今回こそ、制度設計について議論してくださいと私は言いたいです。

中国・北京の繁華街・王府井。営業を再開する店が増えて買い物客の姿が徐々に戻ってきている=2020年3月13日 ©産経新聞社

短期的には独裁主義の方がいいのかも知れないが

飯田)コロナウイルスそのものは中国の武漢から始まったもので、第2波、第3波が来るかも知れませんが、中国はある程度押さえ込んでいるようにも見えます。一方で、いま死者が多く出て苦しんでいるのは民主主義国家で、先進国です。そこで、強権主義のほうがいいのではないかという言説までが、世界中で出て来ています。

宮家)中国には彼らなりのやり方があるのかも知れないけれど、必ず副作用があります。1100万の都市を、中途半端だったけれども、ああいう形で封鎖して、一般庶民の私権を制限するわけです。それが本当に、長い目で見てよかったのか。あんな中途半端なやり方では中国には必ず第2波、第3波が来るし、その時はいままでのような形で情報を制限したり、隠蔽しようとすれば、もっと状況が悪くなる可能性が十分にあるわけです。我々の自由で民主的で、情報公開に基づくやり方が間違っていると言うつもりは全くないけれど、中・長期的に間違いが少ないということだけなのであって、短期的には独裁主義の方がいいのかも知れない。だけど、そこだけに目を奪われてはいけないだろうと思います。

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