大ヒットアニメーション映画「きみの色」の魅力!
8/30より現在全国シネコンほか各劇場で大ヒット公開中のアニメーション映画『きみの色』。RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」に出演したクリエイティブプロデューサーの三好剛平さんも新作を待望していたという一本。今や世界中に根強いファンを持つアニメーション監督・山田尚子さんによる最新作は、一度見てしまったらもう紹介せずにはいられないくらいのとても大切な一本になったと語った。
監督・山田尚子さんについて
作品の詳しいレビューに入る前に、まずはこの映画の監督を務めた山田尚子さんをご紹介します。山田さんはアニメ演出家・監督。2000年代よりアニメーターとしての活動を開始し、2009年には当時社会現象を巻き起こしたアニメ『けいおん!』の監督に抜擢。その後2011年に『映画けいおん!』で長編初監督を務め、日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞。その後2016年には監督3作目となる『映画 聲の形』を発表し、この年の邦画興収ベスト10に入る大ヒットを記録するだけでなく、その素晴らしい演出と内容で国内にとどまらず全世界で脚光を集めます。続く2018年の映画『リズと青い鳥』では、もはやアニメという分野におさまらない山田監督独自の演出力が存分に結実した大傑作に。2021年にはテレビで『平家物語』のアニメシリーズも監督し、再び大きな話題を呼びました。
監督の映画の特徴として挙げられるのは、とにもかくにも類まれなる演出力。登場人物たちの心の動きを丁寧に・繊細に描きとるだけでなく、会話やその時間に満ちる目に見えない空気や余白みたいなものまでも映画の中に描きこみ、それらを豊かに鳴らすことが出来る、唯一無二の才能だと思います。また、これまでの作品づくりで度々一緒に仕事をされてきた脚本家の吉田玲子さん、そして何より音楽を手がける牛尾憲輔さんらとの最高のコンビネーションが素晴らしく、近作ではいよいよ山田監督以外には絶対つくれないようなオリジナルなタッチを結実させており、新作を発表するたびに誰もが「また特別な一本と出会ってしまった…」となってしまうような、本当に素晴らしい映画作家だと思います。
「きみの色」
さて、ということでここからはそんな監督の最新作であり、はじめてのオリジナル企画の長編作品となった映画『きみの色』について。まずはあらすじから。
全寮制のミッションスクールに通うトツ子は、幼いころから人が「色」として見える不思議な感覚の持ち主。そんなトツ子は、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・きみ、街の片隅にある古書店で出会った音楽好きの少年・ルイの3人でバンドを組むことになる。離島の古い教会を練習場所に、それぞれ悩みを抱える3人は音楽によって心を通わせていき、いつしかさまざまな感情を抱いていく。そして、彼らが初めてライブを披露する学園祭が近づいてくる——。
映画のストーリー自体は、三人の高校生たちの悩み多くもみずみずしい特別な期間を描きとるものでシンプルではありますが、非常に豊かな倍音が響いています。他人を気にしてつい動き過ぎてしまったり、あるいは動けなくなってしまったり。身近な相手だからこそ言えずに抱え込んでしまう秘密や、徐々に近づいてくる別れの予感も丁寧に描きとられていきます。でも、だからと言ってこの映画は登場人物たちと同世代の学生たちだけに向けられたものではない、特別な映画にもなっている。
その最大のポイントは、タイトルにも明らかな「色」というテーマです。本作の冒頭では、わたしたちがどのようにして色を認識しているかの仕組みが簡単に紹介されますが、これがそこからの映画全体を貫き、含みをもって豊かに響かせる素晴らしい詩的な比喩にもなっていますので、これから少しだけ、ちょっと科学の時間みたいになりますが、そこをご紹介したいと思います。
まず、私たちは普段からさまざまな色を認識していますが、それは波長の異なる赤・青・緑という3つの光の波を目の中の網膜が知覚している作用によります。さらにその赤・青・緑は「光の三原色」と呼ばれており、これらが3つ重なったときには真っ白な光があらわれる、というのが基本的な原理です。
このことをもう少し考えてみます。つまり「色」というものはそもそも「光」によって存在するということ。そして同時に、その「光」を感受する人間の視覚——すなわち「私たち」がいないことには、この世界に「色」というもの自体が存在し得ない、と言い換えることも出来るかもしれません。さらにそれらを受け取る視覚は当然一人一人によって感受できる能力やその認識に違いがあるはずですから、私たちがある対象から受け取っている「色」とは、厳密には誰一人として同じものが無い、とも言えそうです。つまり、対象と自分——「あなた」と「わたし」のあいだにはじめて「色」が存在するし、それが「届く」ということ自体がここまで述べたような奇跡のような作用の連続でもあるのだな、というようなイメージが、詩的にみるみる反響していきます。
一方で、山田監督の映画のことを考えてみると、これまで彼女の映画ではほぼどれも「もう届かない、あるいは届けることができないかもしれないものを、それでも精一杯届けると決めた」人々の映画だと言えそうなことや、私たちが対峙する「世界」への信頼——「どんな苦しいことがあったとしても私たちはきっと大丈夫だ」という、もはや祈りにも似た想いが込められたような映画を常につくってきた作家なのだと思います。
そうした一連を踏まえこの『きみの色』を見ているうちに、僕はすっかり圧倒され感動の涙が止まらなくなることがありました。それは、山田監督がこの映画を見ると決めた人、つまりこの映画が何かしら必要だと感じた観客その人へ向けて狙い撃つようにして、ただひたすらまっすぐにあなたに届けとほとんど祈りにも近い想いを放つようにして、映画をつくっていると感じられたことです。詳しくはぜひ映画をご覧になって皆さん自身で感じ取ってもらえたらと思いますが、僕は、映画というものをこんなふうに、作品を見る「たった一人のあなた」に向けて、祈りを届けるような作り方があるのかと心底感動させられてしまいました。本当に素晴らしいと思います。
最後にひとつだけ。実は本作、我らが九州は長崎・五島列島が作品の舞台となっています。もともと主人公たちが通う学校をミッションスクールに設定された理由が、監督が本作に「信じる心」を描きたかったという思いがあったとお話しされており、ロケハンで五島を訪れた監督は、まさしくこの土地に「信じる心」が宿っていると感じられたこと、そしてその美しくも特別な「光」と、そこに生きる人々のおおらかな優しさもあいまってロケーションに選ばれたといいます。正直、こんな素敵な映画がご当地映画になる長崎の方たちが羨ましいくらいですが(笑)、実は劇中ほんの少しだけ福岡のある場所も登場します!ので、この番組をお聞きの方は、ぜひそのあたりもお楽しみください。
映画『きみの色』はユナイテッドシネマ、Tジョイ博多、TOHOシネマズなど各シネコンにて絶賛公開中です。溢れる色彩、目には見えないが確かに存在する場の空気、希望に満ちた感動などをぎゅっとパッケージしたような本作は、映画館で見てこそ最高の体験となるはずです。どんな方にもオススメできる一本ではないかと思います。ぜひご覧ください!
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