スポーツの秋!熱くなったスポーツ映画に選ばれたのは…「ロンゲスト・ヤード」
RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」月一恒例企画の「リスナー名作劇場」の第3回目。クリエイティブプロデューサーの三好剛平さんがリスナーさんから募った作品の中から一つ選んで語っていただく。今月のテーマは「あなたが熱くなった・興奮したスポーツ映画は?」選ばれたのは1974年のアメフト・コメディ映画「ロンゲスト・ヤード」だった。
リスナーさんおすすめのスポーツ映画
まずはリスナーの皆さんからのおすすめスポーツ映画からご紹介していきます。
【やはたの・ともこ】さんと【平田さん】のお二人から『少林サッカー』(01/香港)。選手生命を絶たれた元サッカー選手が、少林寺拳法の達人とその兄弟弟子たちとサッカーチームを結成し、自分を落し入れた元チームメイトへのリベンジを果たす物語。「映像が面白い」「亡きブルース・リーへのオマージュが最高」とのことでした。
【平田さん】はそれ以外にも「感動したスポーツ映画、多すぎます!」ということで、シルベスター・スタローン主演、第二次大戦下のドイツ軍と捕虜のあいだで行われたサッカー試合を描いた『勝利への脱出』(81)や、テイタム・オニールが可愛い『がんばれ!ベアーズ』(78)、そしてつい最近も復活上映されていた『THE FIRST SLAM DUNK』(22)も「どハマりしました」とお寄せいただきました。
【あきらぴょん】さんは『ロッキー2』(79)、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)、『メジャーリーグ』(89)の3本をご推薦。 【マライヤさん】は高校アメフトの群像ドラマ『プライド 栄光への絆』(04)。「中学生の時に雨で体育の授業が中止となり、先生がこの映画を見せてくれました。体育はすごく苦手で、体育なんて無くなってしまえばいいのにと思っていましたが、この映画を見てスポーツのすばらしさを知ることができました」という素敵なエピソードも!
さらに邦画のおすすめスポーツ映画もたくさんお寄せいただきました。
【ビタミンk】さんは、「映像が美しい!研ぎ澄まされている!」ということで、岸井ゆきのさんが耳の聞こえないボクサーの実話をもとに描いた『ケイコ 目を澄ませて』(22)。そして大人気漫画を当時の新感覚映像で映画化した卓球映画『ピンポン』(02)は「こんな作り方があるんだと目からウロコものだった」とのコメントも。
【走るのは遅い】さんは箱根駅伝に挑む大学生たちを描いた三浦しをんさん原作の『風が強く吹いている』(09)。「小説も読んで感動。走るのが苦手で遅い僕にとっては、輝かしい主人公たちです」とのこと。
【げんかいまつごろう】さんは『おっぱいバレー』(09)。「地元の北九州市が撮影場所になったので、現在失くなった風景や、70年代サウンドの挿入歌も良かったです」とコメントいただきました。
【にゃんにゃこ】さんと【na_kanana(な・かなな)】さんは『百円の恋』(14)。「安藤サクラさんの演技に惹きつけられる!本気で戦っている姿が忘れられません」とのコメントも。三好も今回拝見しましたが、ラストのファイトシーンには大いに泣かされました。そして【nekochamicarp(ネコチャミカープ)】さんからは2023年の侍ジャパンの名試合に密着したドキュメンタリー『憧れを超えた侍たち』(23)も。
皆さん、今回もメールたくさんありがとうございました!
「ロンゲスト・ヤード」
さてそんななか三好が今回選ばせてもらったのはラジオネーム【平田さん】のご推薦作品の中から選ばせていただきました、1974年のアメフト・コメディ映画『ロンゲスト・ヤード』です。まずはあらすじから。
かつてアメフトの花形選手だった主人公ポールは、車を盗んだ罪で刑務所に送られます。その刑務所では、フットボールに入れ込むヘイズン所長が、看守たちで結成したアメフト・チームの育成にやっきになっていました。ヘイズン所長は元アメフト選手であるポールに看守チームのコーチ役を命じるが、囚人に指導されることを嫌がる看守たちが反発。ならばと所長は次の案として、看守チームの練習台とさせるべく、ポールに囚人たちを寄せ集めたチームを結成させ、その育成を命じます。囚人たちも、普段から痛めつけられている看守たちにやりかえす絶好の機会だと徐々に練習も白熱。そうしていよいよ看守チームと囚人チームの練習試合の日がやってきて——。
主演はバート・レイノルズ、監督は、本作と同じく寄せ集めの荒くれ者どもが決死のミッションを決行する戦争映画の大傑作『特攻大作戦』(67)などを手掛けた名匠ロバート・アルドリッチです。当時「スポーツ映画はヒットしない」とされたハリウッドで、その年の興収ランキング第9位という異例の大ヒットになったといわれている人気作品です。
僕がこの映画を今回の1本に選んだのには2つの理由があります。
ひとつはこの映画のなかには「私たちはなぜスポーツ映画を見るのか」という問いに対する一つの答えがあることです。
今回まとめて数本のスポーツ映画を見る中でも、私たちはどうしてこんなにスポーツ映画に惹かれるのだろう?と考えました。それは決して「スポーツそれ自体の熱狂」だけではありません。それなら実際のスポーツを見れば良いわけで、僕らが映画のなかのスポーツを見ているのには、やはり「人間のドラマ」なのだと思います。ときには劇中競技の勝ち・負けすら度外視してでも、その勝負、その一瞬に賭けた人間たちのドラマをこそ映画の中に見ているのだと思います。
この映画では、暇を持て余した権力者としての所長や、不条理なルール変更を次々と課して、囚人たちを人間扱いもしない腐った看守たちが登場します。彼らに日々消耗させられた囚人たちが奴らと対峙するとき、その賭け金となるものは何か?それは、彼ら一人一人の人間としての誇りであり、尊厳です。スポーツ映画は、いつでも登場人物たちの誇りと尊厳をかけた戦いを見せてくれる。だからこそ私たちは彼らの奮闘を応援し、熱い想いをともにしながら、ときに競技の勝ち/負け以上の——真の意味での「勝利」の瞬間を待望するのだと思います。この映画でも、負け犬とされた囚人たちが、いかに権力に抗い抜き「勝利」をおさめるのか。その瞬間をぜひ見届けてもらえたらと思います。
そして本作を選んだもうひとつの理由は、まさしくこの映画が「いま」私たちが見るべき映画であったことです。それはここまで紹介したような「権力」の狡猾さに対して、私たちはまだ戦うことができる、と信じさせてくれる物語にあります。いま、私たちの現実社会においても、さまざまな場面で「権力」が不当に行使・強行され、不条理な決定をただ飲み込むしかない私たちがいます。そんななかでなお、私たちは腐った権力に対抗できる、自分たちの選択が、決意が、奮闘が、誰もが諦めていた理想の風景を実現する原動力になる、ということを信じさせてくれるのがこの映画でもあるのだと思うのです。
世界のあちこちで不当な権力が戦争を引き起こし、また選挙も直前に迫った「いま」だからこそ、私たちは『ロンゲスト・ヤード』を見ましょう。ある社会の中で、何も変えることができない”負け犬“と目された人間たちが、権力に溺れた・腐った人間どもに反撃の一手を喰らわす——その場面をこそこの映画のなかに見出そうではありませんか。
そんな思いも込めて、今月のリスナー名作劇場では1974年のアメフト映画『ロンゲスト・ヤード』をご紹介させていただきました。
※放送情報は変更となる場合があります。