写真家・石川真生に迫る!映画「オキナワより愛をこめて」
福岡はKBCシネマにて11月22日から1週間限定で上映されるドキュメンタリー映画『オキナワより愛をこめて』。沖縄で70年代から活動する女性写真家・石川真生(いしかわ・まお)さんを取り上げたドキュメンタリー作品なのだが、まるで映画を通して、誇り高くて最高に優しくてカッコ良い石川真生という人と初めて出会えたような感覚になること、そしてその出会いが人生を変えるくらいのものになってしまうことを約束したくなる、本気でおすすめの一本だと、RKBラジオ『田畑竜介GrooooowUp』に出演したクリエイティブプロデューサーの三好剛平さんが語った。
写真家・石川真生と監督について
まずはこの映画でフォーカスされる写真家・石川真生さんをご紹介します。
石川真生さんは1953年沖縄県生まれ。1971年に労働者ストライキに参加したことをきっかけに写真家になることを決意し、1974年には戦後日本を代表する写真家のひとりである東松照明の写真教室で写真を学びます。1975年から沖縄で米兵を撮影するために、彼女はコザ・照屋の黒人兵向けバーで働き始め、そこに集まる黒人兵とバーで働くホステスの女性たちを撮り始めます。
以降、半世紀に渡って沖縄を拠点に制作活動を続け、沖縄に関係するさまざまな人物たちと時間を共にしながら現在まで写真を撮り続けています。国内に限らず海外でも彼女の写真集が発表され高い評価を集めており、2019年には日本写真協会賞作家賞、2024年には土門拳賞、文科大臣賞を受賞されています。
そんな石川さんを追ったこのドキュメンタリー作品の監督を務めたのは砂入博史さん。彼は10代からアメリカに渡りアーティストとしてのキャリアを重ね、日本人でありながらアメリカの名門美術大学でも教鞭を取るなど幅広く活躍されている方です。数年前に石川さんがある大学の講義に登壇された際に、その圧倒的な人柄とエピソードに圧倒され、すぐさま石川さんへ撮影をオファー。即OKを取り付けた彼は、その後実に3年間沖縄に通い続け、石川さんとともにじっくり時間を重ねながらこの映画を完成させていったといいます。
映画『オキナワより愛をこめて』
映画『オキナワより愛をこめて』では、そんな石川さんの半生をインタビューと無数の写真群を通して見つめていくことで、観客が想像していた以上のところまで到達してしまう、ものすごい作品になっていました。
彼女が1970年代にまずカメラを向けたのは沖縄で暮らしている黒人兵たちでした。彼らが出入りする沖縄のバーで働きながら彼らと親交を深めていった石川さんでしたが、徐々に彼らをホステスとして迎える沖縄の女性たちに関心を抱き始めます。黒人兵たちと真剣に恋したり別れたりしながら、喜怒哀楽を正直に表現し、無邪気に逞しく生き抜く彼女たちの姿にすっかり魅了された石川さんは、彼女たちを撮影し始めます。
当時のことを振り返る石川さんの言葉を引用すると
「黒人を愛して何が悪い。黒人バーで働いて何が悪い、自由を謳歌して何が悪い。セックスを楽しんで何が悪い」。狭い沖縄で開き直って生きている街の女たちが私は好きだ。他人の目を一切気にせず生きてきた私だが、街での生活は「自由に、やりたいように、自分を信じて生きていこう」と、私をますます世間の目を気にしない開き直る女にした。
—「赤花 アカバナー 沖縄の女」より
しかし当時の、なんなら現在も、そうした女性たちを見下しては「売春婦」とレッテルを貼り、上から目線で決めつける人々が多く存在します。そうした偏見や差別に対して、石川さんは劇中で決然とこう言い切ります——「この女たちの悪口は誰にも、何にも言わせない」。
もともと砂入監督が石川さんのドキュメンタリーを撮ると決意した大学のシンポジウムでは、アメリカの大学教授が彼女の撮影してきた女性たちの写真を見せながら「これは沖縄の女性たちの闘いを記録した写真である」というようなご紹介をしてから石川さんを呼び込まれたそうですが、石川さんはそのとき、怒りを露わに舞台上へ現れたといいます。
彼女が何に怒っていたかといえば、それはまず、彼女が撮影してきた女性たち一人ひとりの人生を勝手に観念化・抽象化されたことへの怒りであり、また石川さんが撮影してきたものは「闘い」ではなく「愛」なのだ、という2点でした。
彼女はそのようにして当時現地でホステスとして働く女性たちと出会い直すのと並行して、「黒人」そして「米兵」の人々とも出会い直していきます。バーで働き始めた当時は見分けることもできなかった無数の黒人兵たちと、徐々に一人ひとりの人間として付き合いながら、良い時間も悪い時間も重ねていく。そのうちに、彼らが戦場で非道な行為に及ぶことも決して彼ら個人の意思ではなく、軍や国家、組織が命ずるパワーに従うしかなかった結果なのだということを認識していきます。
「黒人バーで働く女性たち」「黒人」「米兵」。人々を抽象的な集団にレッテル付けし、勝手な思い込みや決めつけを投影し、社会の周縁に押しやっていくことは現在においても——もとい、現在において一層行われ続けている卑劣な振る舞いです。
しかし石川さんはカメラを向けるという行為と時間をともに積み重ねることを通じて、その一人ひとりと愚直に出会い直していきます。一人ひとり名前を持ち、優しいところもズルいところも持ち合わせた、この世にたった一人しかいない人間として彼ら彼女らと出会い直す。その一人ひとりと私たちを取り結ぶのは、石川さんが撮影を通して見出してきた「愛」というテーマにやはり帰着していくものだと思います。
僕はいまこんな時代のなかで、この映画を通して石川真生というひとりの人間と出会えて本当に良かったし、もう本当に大好きになってしまいました。どうか皆さんもこの圧倒的な人物と出会ってみてください。その想いを込めて、この紹介を終わりにしたいと思います。
映画『オキナワより愛をこめて』はKBCシネマにて11月22日より公開です。23日と24日には監督の砂入博史さんがご登壇されるゲストトークもあるようなので、ぜひ劇場ホームページをチェックしてみてください。
※放送情報は変更となる場合があります。