大切な人が「誰もが知るような特別な存在だったら?」Netflixで独占配信される映画『イベリン:彼が生きた証』とは
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RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」で毎週木曜日に出演しているクリエイティブプロデューサーの三好剛平さん。毎回おすすめの映画を紹介してくれるが、そんな三好さんが2024年も終わりに近づくなか、今年配信された映画のなかから皆さんに見逃して欲しくない配信映画を紹介した。それは10月末からNetflixで独占配信されているドキュメンタリー映画『イベリン:彼が生きた証』という作品。その魅力とは?
映画について
まずは映画の概要から。この『イベリン:彼が生きた証』は2024年ノルウェーの映画で、ある難病青年の隠された人生を描いたドキュメンタリー作品です。
2024年のサンダンス国際映画祭で初公開され、ドキュメンタリー監督賞と観客賞を受賞。その後即座にNetflixが独占配信権を獲得し、10/25より配信が開始されています。
ここから映画のあらすじのご紹介に入る前に、今回は、まずお二人そしてリスナーの皆さんに少し想像してみていただきたいと思います。
皆さんにはどなたにも、普段一緒に過ごしている身近なご家族だったり、互いのことをよく知り合っている大切な方がいらっしゃるのではないかと思います。でも、もし身近で大切なその人が、実はあなたのまったく知らない世界で、“誰もが知るような特別な存在”だったとしたら——?という、今日ご紹介する映画はそういうお話から始まります。
さて、それでは映画のあらすじをご紹介します。この映画は、マッツ・スティーンという青年とその家族のもとに実際に起こった、ある出来事を追うドキュメンタリーです。
映画の主人公にあたる青年マッツは、4歳のときに進行性の難病である筋ジストロフィーであることが発覚します。彼が患った「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」とは、遺伝子異常のために身体の筋肉を支えるタンパク質が作られない難病で、加齢とともにみるみる身体の筋肉が衰えていってしまう病気です。出生男児のうち数千人に1人が発症する病気とも言われており、根本的治療法はなく、30代前後で亡くなってしまう方が多いとされる難病です。
マッツ青年も年齢を重ねるうちに、ほどなく電動車椅子での生活となっていきます。マッツが通常の若者が経験するような体験をほとんどさせてあげられないことを不憫に思った彼の両親は、マッツにゲームを与えてみるのですが、やがて彼はそれらに没頭していきます。そのうち、指先しか動かせなくなった彼は毎日12時間以上ゲームにのめり込むほどになりますが、そんなマッツさんも残念ながら25歳でこの世を去ってしまいます。
彼の死後、家族はその短い人生を偲んでは悲しみに暮れていましたが、数日後、彼の死をネット上の人たちにも伝えなくてはと気づき、彼が残していたブログサイトにそのことを伝える投稿をポストします。すると家族のもとに、数えきれないほど無数のメッセージが届き始めます——「マッツとは直接お会いすることはありませんでしたが、とても優しい人でした」「惜しい人を亡くしました」「友の死にお悔やみを」。彼は晩年、自宅から一歩も出ることさえなかったはずなのに、なぜこんなメッセージが大量に?ヒントはそうしたメッセージのなかにありました。「“イベリン”ことマッツへ、どうぞ安らかに」。
実は彼はオンラインRPGゲームである「ワールド・オブ・ウォークラフト」の世界で、「イベリン」という名前のアバターで多くの人と関わり、深く愛されてきた特別な存在だったのでした。ここからこの映画は、ゲーム内で彼が交わした会話やキャラクターの日記、掲示板でのやりとりなど、ゲームのログに残された実に4万2,000ページにも及ぶ膨大なデータや資料から、イベリンことマッツが生前このゲーム上で仲間たちと生きた日々を、彼のキャラクターたちをそのまま使って再現して見せるドキュメンタリーが展開されていきます。家族が初めて知るマッツさんの秘密の人生はどんなものだったのか。死後それらに触れた両親はどう受け止めるのか—?
彼は誰からも愛される人間だった
完治不可能な難病を患ったマッツに対して、両親は生前からずっと申し訳なく感じていました。特に母親は、自身からの遺伝が彼の病気の原因だったのではないかと気に病み続けており、彼のことを回想する際にも「あの子は友情も恋愛も、誰かの人生に影響を与えることも、何も経験することはできなかった」と語っては、涙していました。
しかし実際には、彼はゲーム上でイベリンというキャラクターとして、多くの人の相談に乗り、頼られ、愛される存在でした。彼の死に際してゲーム仲間たちから寄せられた無数のメッセージには、こんなフレーズが数えきれないほどたくさん見つけられます——「イベリンは本当の友達でした、彼は情熱的な人で、女性にもよくモテました」「彼の発言はいつも場を明るくしました」「彼はいつでも話を聞いてくれた」「どんな小さなことも覚えてくれていた」「家族の一員だったように感じます」「彼は気づいていなかったと思う—自分がどれほど周囲に影響を与えたか」。彼の人生は、決して不憫で哀れまれるだけのものではなかった。そこには輝く青年としてのマッツの人生が確かにあったことを、彼の家族そして観客は徐々に知っていくことになります。
ことゲームやオンライン上でのバーチャルなやりとりといったものは いまだに“悪いこと”のように認識されがちではありますが、たとえば何かしらの事情によって引きこもりとならざるを得なかった人々や、障害を抱えて生きる人々、他人と対面でコミュニケーションすることが苦手な人々、さまざまなマイノリティとしてこの世界の生きづらさをサバイブしているような人々など、この世界の多くの人々にとって、ときにバーチャルな世界という選択肢があることが、彼らの厳しい現実を生き抜くための希望にもなり得ること。またそうした人々も決してただ哀れみ・同情されるだけの存在ではない、誰もが特別な人間であり得ることを、今一度気づかせてくれるような映画になっています。見ていると本当に涙が溢れて止まらなくなるほど感動的なドキュメンタリー作品です。
『イベリン:彼が生きた証』はNetflixで配信中です。この年末に、ぜひご覧になると良い一本ですので、ご興味持たれた方はぜひチェックしてみてください、というご紹介でした。
※放送情報は変更となる場合があります。