リスナーの2024年ベスト映画は「コット、はじまりの夏」

クリエイティブプロデューサー・三好剛平氏 ©RKBラジオ

RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」の大人気コーナー「リスナー名作劇場」。毎月、ひとつのテーマに沿ってリスナーから作品を募集し、クリエイティブプロデューサーの三好剛平さんが選んで語る。今月のテーマは「2024年あなたが見たベスト映画は?」。選ばれたのはどこまでも優しいあの映画だった。

皆さんからのおたより

それではまず皆さんからお寄せいただいたお便りのご紹介を。

 

まずはこのコーナーへ毎回欠かさずメッセージを送ってくださる【ビタミンK】さんは奥山大史監督の『僕のお日さま』。「とにかく、映像が素晴らしい!」というご推薦でした。

 

続いてラジオネーム【kame】さんは「かもめ食堂」など手がけた荻上直子監督、堂本剛さん主演の最新作『まる』を。

 

そしてこちらも常連リスナーさん【やはたの・ともこ】さんは、なんと新旧作品あわせて11作品もご推薦いただきました。なかには今年話題になったドキュメンタリー作品『正義の行方』などからクレヨンしんちゃんや名探偵コナンまで盛りだくさん。「今年も気の向くままに映画を楽しみました」とメッセージも。

 

つづいて筑紫野市の【山内績】さんが選ばれたのは、今年話題を集め、私田畑も24年ナンバーワンに選ばせていただいた『侍タイムスリッパー』。「製作者の志が高い・脚本が面白い・俳優の演技と存在感が迫真・殺陣が見事」と熱量の高いレコメンドをいただきました。これ、三好さんもやっとご覧になったんですって?

 

三好 はい、遅ればせながら今週頭に拝見しまして、そりゃもう皆さんがオススメされるのも納得の痛快娯楽作でした。レコメンドのメッセージをいただいた山内さんからは「もし今日『侍タイムスリッパー』を選ばないなら、普段話半分で聴いている三好のコーナーも今後は話1/3でしか聞きません」と意地悪な迫られ方もしていて、そんな意地悪を言われると紹介すべき作品も紹介したくなくなっちゃう…というのは半分冗談ですが、あの作品は僕がわざわざ紹介しなくとも見れば誰もが楽しめる作品だと思いましたので、選外としました。ちなみに12/23にはユナイテッドシネマキャナルシティ13で主演の沙倉ゆうのさんと安田淳一監督による舞台挨拶つき上映が決まっているようなので、見逃していらっしゃる方はぜひ!

 

ここまでは今年封切りとなった新作を推薦された方たちでしたが、今回はそれに限らず「2024年にあなたが見た映画」ということで旧作をご推薦いただいた方もたくさんいらっしゃいました。

 

【かみんご】さんは『ゴジラ-1.0』。「先日金曜ロードショーで見ました。戦争を知らない世代ですが、主人公たちの苦悩や“生きて抗う”姿に胸を打たれました」とのコメント。

 

【あいだ桃太郎】さんは1981年ドイツの名作『Uボート』。昨年人気漫画『沈黙の艦隊』が大沢たかおさん主演で映画化されたのをきっかけに潜水艦映画としてこの作品もご覧になったとのこと。これも三好さんご覧になった?

 

三好 はい、この作品は当時のアカデミー賞でも6部門ノミネートされるなど名作と名高い作品だったこともありこれを機に拝見しました。完全なる密室空間である潜水艦で敵艦襲撃の恐怖をソナー音で聴かせる緊迫した演出、そしてなんと言っても本作はラスト。戦争というものの無常感に圧倒される素晴らしい映画でした。あいだ桃太郎さんありがとうございました!

 

さらに【玉次郎】さんはこの番組でも紹介したPIXARの『ソウルフル・ワールド』、そして3月に閉館した中洲大洋でご覧になったチャップリンの『街の灯』!中洲大洋の閉館も2024年の福岡映画界のトピックでしたね。

 

三好 はい、僕も中洲大洋で最終日上映で『街の灯』拝見しました。もうオンオン泣いちゃって。あの劇場の最後にこの作品を見られたことは、本当に忘れ難い体験になりました。もしかしたら玉次郎さんも一緒の劇場にいたかもしれませんね!

 

そして【minami】さんは映画『今日、恋をはじめます』、【バーズ】さんは映画『アントキノイノチ』。それぞれ大切な映画になったとコメントもお寄せいただきました。

ということで、今月も本当にたくさんのメッセージどうもありがとうございました!

『コット、はじまりの夏』

僕が選んだのは、古賀市【ひなたぼっこ】さんがご推薦いただいた作品です。この方、初メールということで嬉しい限りなのですが、なんと映画は今年公開新作を225本、さらに複数回鑑賞された作品までカウントしたらなんと2024年だけで241本をご覧になっている強者リスナーさんでした(笑)。

 

メインのご推薦にはあの『キングダム・大将軍の帰還』を挙げて下さっていたのですが、これ僕公開当時見逃して、いままだ配信も開始されておらず見ること叶わずレビューできなかったんです。ですが、それとあわせて「私の今年の上位10傑」として素晴らしいラインナップの10本を挙げてくださっており、今日はそのなかから1本を選出したいと思います。

 

選出したのは2022年アイルランドの映画『コット、はじまりの夏』という映画で、日本では1月から順次ミニシアターで公開された作品でした。まずはあらすじから。

 

舞台は1981年アイルランドの田舎町。主人公となる9歳の少女コットは、大家族のなかで自身の居場所を見つけられずにいました。姉たちの会話にもなじめず、父親は賭け事と酒に溺れ子育てにも無関心。そして母親のお腹にはまもなく生まれる弟がいます。そんななかコットのもとに訪れた夏休み。父親は牧場を営むいとこ夫婦にコットを預けることに。はじめはいとこおじ&おばさんとの慣れない生活に戸惑うコットでしたが、ふたりの愛情をたっぷりと受け、徐々に生きる喜びを実感していく——という物語です。

 

2022年のベルリン国際映画祭で子どもが主役の映画を対象にした国際ジェネレーション部門でグランプリ受賞、そして同年アカデミー賞の国際長編映画賞にもノミネートされた作品で、本作がデビュー作となった主演の少女キャサリン・クリンチはアイルランドのアカデミー賞ともいうべきIFTA賞で史上最年少12歳で主演女優賞も獲得しました。

 

この映画はご紹介したあらすじのとおり非常にシンプルな物語です。それまで孤独でどこにも居場所を見つけられなかった少女が、やさしい親戚夫婦によってはじめてひとりの人間として愛され、尊重されていくことで、少しずつ生きる希望を獲得していくまでを描く。本当に「それだけ」を描いたとっても小さな映画であるとも言えます。

 

映画で描かれる題材自体はそれほど新奇なわけでもないにもかかわらず、これほどまでに素晴らしい作品になったのは、やはりその演出にあります。台詞を最小限にとどめ、少女が出会うひとつひとつの何気ない出来事と、そこからもたらされる変化を、言葉ではなく画面のなかで起きる出来事の連なりで丁寧に見つめていく。こうした眼差しは、監督がもともとドキュメンタリー畑ご出身であることにも関係しているのかもしれません。

 

おじさんやおばさんによる愛が、ときに言葉ではなくその振る舞いによって伝えられるように、この映画もまた、言葉以上の愛ややさしさを、言葉に頼らず、映画の振る舞いによって伝えてきます。映画の原題は「The Quiet Girl」。寡黙だった少女や家族、そして映画の物静かさ=Quietの雄弁をこそ信頼し、その力を届けてくれると同時に、ついにその寡黙な少女が言葉を取り戻すまでを見届ける映画でもありました。見終えた後にはおもわず大切な誰かを抱きしめて、その思いを伝えたくなるほどに特別な一本になりました。

 

2024年は本当に色んな悲しい出来事がありました。そんな今年の最後に、本当にささやかで、だけどどこまでも優しいこのような映画を見ることは、きっと特別な時間になるはずです。僕も今回見られて本当に良かった一本でした。

 

ということで第5回「リスナー名作劇場」はひなたぼっこさんがご推薦いただいた映画『コット、はじまりの夏』を選出させていただきました。

映画「コット、はじまりの夏」公式サイト

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、田中みずき、三好剛平
番組ホームページ
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※放送情報は変更となる場合があります。

みかんに魅せられた大学生、異郷の地で大挑戦「多くの人においしいみかんを食べてほしい!」

暦の上では春になっても、まだまだ「こたつ」が恋しい時期です。こたつに入ると食べたくなるのが、やっぱり「みかん」。

ただ、どんな方がみかんを作っているのか、あまり知らない方も多いと思います。今回は、果物好きが高じてみかん農家になった、北国出身の若い男性のお話です。

赤山大吾さん

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

昔、東京と沼津の間を結ぶ電車を「湘南電車」と呼んでいた時代がありました。車両のオレンジと緑のカラーは「湘南色」、俗にみかん色とも云われてきました。今はだいぶ本数も減りましたが、東京駅のホームに、「沼津」と行先が表示されると、何となく、潮の香りと柑橘系の爽やかな香りが漂ってくるような気分になります。

その静岡県沼津市・西浦地区は、駿河湾の最も奥まった所にあって、海越しの富士山を望むことが出来る、風光明媚なみかんの産地として知られています。看板品種は、寿という字に太郎と書いて、「寿太郎」。この「寿太郎」を、今シーズン初めて作り上げて、出荷した男性がいます。

赤山大吾さんは、2000年生まれの24歳。赤山さんは、北海道・札幌のご出身で、小さい頃から果物が大好きでした。土地柄、みかんはあまり出回らないため、りんごを2個、まるかじりするのが日課。残すのは、わずかに芯の部分だけでした。

赤山さんは新潟の大学に進学しましたが、コロナ禍のために授業はリモートが中心。学ぶ内容も想像していたものと違って、あまり納得がいきませんでした。悶々とした日々を送る中で、赤山さんはたまたま近所のスーパーで「沼津・西浦みかん 寿太郎」と、ラベルが貼られた袋を手に取ります。

『寿太郎? 沼津ってドコ?』

赤山さんは、そう不思議に思いながら、家に帰って、さっそく皮をむいて、みかんの小さな袋を一つ、口のなかに入れると、いままでにない食感に感激しました。

『甘い! でも、甘いだけじゃない、甘みと酸味のバランスが絶妙だ!』

赤山さんは、「寿太郎」を食べて、食べて、食べまくりました。そのおいしさに満たされるうちに、自分でもみかんを作りたい気持ちが芽生えます。

沼津市西浦地区のみかん山(画像提供:JAふじ伊豆)

赤山さんは、居ても立ってもいられずに、寿太郎を出荷している沼津のJAに、直接電話をかけました。

「あの……、みかん作りに興味があるんです。教えてもらうことは出来ますか?」

2022年2月、赤山さんは大学を休学して、沼津にみかん作りの研修にやって来ました。地元の農家の皆さんも、北海道出身の赤山さんの挑戦に驚いたといいます。

その初顔合わせ、農家の皆さんは赤山さんの手を見るなり、思わず目を見張りました。

『おお、彼は本物だ! これだけみかんが好きなら、きっとやってくれる!』

そう、赤山さんの手は、みかんをいっぱい食べた、あの黄色い手になっていたんです。赤山さんは、西浦地区でもとくにおいしいみかんを作ると定評のある、御年80歳の大ベテランの農家の方に付いて、みかん作りを学び始めました。

「いいか、農家というものは、人に言われてじゃなくて、自分から動かないとやれないぞ」

「みかんは手間をかければかけるほど、ちゃんと応えてくれる。手間を惜しむな」

赤山さんは、師匠がかけてくれる言葉を一つ一つ噛みしめながら、その背中を追いかけていきます。厳しい言葉の後には、夕飯のおかずをおすそ分けしてくれたり、地元の皆さんの人柄の温かさも、故郷を離れた赤山さんには大きな励みになりました。

赤山大吾さん

籍を置いていた大学にも退学届を出して、退路を断った赤山さんは、2年間の修業を経て、2024年1月、晴れて独立を果たします。高齢でみかん作りが難しくなった方のみかん山・およそ1.5ヘクタールを借り受けて、自分の力が試される時がやって来ました。

いざ作り始めてみると、農家はみかんを作っていればいいわけではなく、事務手続きや生産計画作り、害虫や猛暑対策、アルバイトの雇用などを、全部1人でこなします。

それでも去年は概ね天候に恵まれ、周りの皆さんのサポートにも支えられながら、およそ1万キロの「寿太郎」が無事に実って、収穫することが出来ました。その出来栄えに、赤山さんも手ごたえは十分! 早速、地元の方に食べてもらうと、「おいしい!」と、味に太鼓判を押してくれました。

自分で収穫したみかんが出荷されていく様子を見て、赤山さんは胸が高鳴りました。

『自分で作ったみかんが誰かの手に渡っていく。ようやく自分で稼ぐことが出来たんだ!』

でも、赤山さんに収穫の喜びに浸っている暇はありません。まだ、みかんの管理に甘い点があったこと。そして、この冬は、越冬しているカメムシが多いため、今年は天敵への抜かりない対策が求められそうなことなど、しっかり気を引き締めています。

「もっとおいしいと言ってもらいたい! 多くの人においしいみかんを食べてほしい!」

その思いを胸に、赤山さんは2年目のみかん山に登ります。

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