4Kリマスター版で再上映!相米慎二監督の魅力とは?

現在KBCシネマで上映中の『お引越し』そして『夏の庭 The Friends』という2つの日本映画。これらはいずれも2001年に53歳の若さで亡くなった相米慎二監督が90年代に手掛けた傑作映画で、今回待望されていた4Kリマスター版での再上映となった。RKBラジオ「田畑竜介GrooooowUp」に出演したクリエイティブプロデューサーの三好剛平さんがその魅力を語った。
相米慎二監督について
まずは本日ご紹介する相米慎二監督について。相米慎二監督は1948年生まれ、80年代から2001年まで活躍した映画監督です。彼の代表作としては、ある世代の方たちにはまず、薬師丸ひろ子さんが後世まで語り継がれることになった伝説のフレーズ「カ・イ・カ・ン」を披露した1981年の大ヒット映画『セーラー服と機関銃』を思い浮かべる方も多いと思います。あまりにそのインパクトが大きいばかりに、相米監督を商業主義のアイドル映画監督と誤解されている方もいるかもしれませんが、実際はまったくそうではありません。
翌82年から長谷川和彦や黒沢清ら当時の若手監督9名が集まって結成した映画企画・制作会社「ディレクターズ・カンパニー」を設立し、きわめて作家性の強い独自の映画作品を発表していきます。
監督の作品の特徴として挙げられるものは数多くありますが、たとえば出方・裏方問わず若手の隠されていた才能をフックアップしていく手腕。1983年の『ションベン・ライダー』ではあの永瀬正敏さんや河合美智子さん、93年の『お引越し』では田畑智子さんなど、数多くの俳優さんが相米映画によって業界デビューを果たしただけでなく、監督との仕事を通じてそれまでとは全く異なる魅力を披露した俳優さんも数多くいらっしゃいます。
ほかにも、躍動する人物や劇中の世界をダイナミックにとらえきる長回し撮影や、もとある脚本や作品で取り扱う題材について、「どうやったらこんな撮り方を思いつくんだ」と想像を超えてくる大胆さと斬新さで切り取り・成立させて見せる圧倒的な演出力とそれを実現する胆力など、挙げ始めたらキリがないほど。
そんなこともあって、没後20年以上が経過した今、現代の日本映画界を支える数多の映画人たちから熱烈に支持を集める相米監督。今回の上映に際しても無数の推薦コメントが寄せられています。たとえば是枝裕和監督からは、「(相米監督と)同世代のエドワード・ヤン、侯孝賢、北野武に比肩する映画作家として今まさに再発見されるべきだ」と寄せていたり、あるいは濱口竜介監督は「現代の日本映画の作り手が、相米慎二のことをまったく考えずにいることは不可能だ。相米の存在はそれほど大きく、その驚きを体感するのに映画館以上に相応しい場所はない」といったコメントも。じっさい、相米監督をめぐるある対談では、今でも日本のどこかの撮影現場では、かならず俳優やスタッフたちから相米監督の話題があがり続けているほど、なのだそうです。
『お引越し』『夏の庭The friends』について
さて、そんな相米監督の評価は国内にとどまらず、近年では海外での評価もいよいよ高まっています。今日ご紹介する1993年の『お引越し』そして1994年の『夏の庭The friends』は彼のキャリアのなかでも80年代から重ねてきた映画キャリアを次なるステージへ引き上げた重要な2作にあたりますが、この2本は実はここ数年、日本に先駆けて海外で再評価を高めていました。
『お引越し』は93年の公開当時の時点にもすでにカンヌ国際映画祭のある視点部門に出品されており、同年キネマ旬報ベストテン第2位も獲得していましたが、今回の4Kリマスター版については2023年ヴェネチア国際映画祭で最優秀復元映画賞を受賞した後、フランスで劇場公開されると当初11館の上映からなんと評価と口コミで注目を集め、なんと最終的には130館以上での拡大公開へ広がり、フランスを代表する新聞、ル・モンド紙の一面で取り上げられるなど快挙を達成しています。
また『夏の庭The friends』のほうも、公開当時から同じくキネマ旬報ベストテンに選出されておりましたが、今回の4Kリマスター版では、2024年の香港国際映画祭で大規模な相米慎二監督特集のなかで初お披露目され、絶賛の声を集めました。その他、北米やイタリアなど世界各国で評判を集めたこの2作の4Kリマスター版が、いよいよ日本に凱旋公開として、昨年末より全国各地で上映を開始。福岡ではKBCシネマで先週末から上映がスタートしています。
ここから、簡単に2作のあらすじもご紹介しておきます。まずは『お引越し』。主人公は、本作でデビューを果たした田畑智子さん演じるレンコちゃんという京都に住む小学生の女の子。ある日彼女の両親が別居することになり、はじめは家が2つ出来たと喜んだりしていましたが、徐々に自身を取り巻く変化の大きさに気付かされていき…、というお話。
もう一つの『夏の庭The Friends』は、小学六年生の男の子3人トリオが主人公です。彼らはふと「死」というものに興味を抱き、近所のボロ家で暮らす、もうじき亡くなりそうな老人を観察することを始めます。やがて老人と交流を深めていくひと夏を通じて、生命の終わりを迎えて亡くなってしまうものと、失われないものとにそれぞれ触れていく、というようなお話です。
どちらももちろんまっすぐなヒューマンドラマの良作として楽しむこともできますが、このコーナーを楽しんでくださっている映画ファンの皆さんには、ぜひ先ほど紹介したように、この題材を相米監督がどのように演出し、忘れ難い映画にしているかを目撃してもらえたらと思います。『夏の庭』における瑞々しい夏の手触り、直接的ではないかたちで痛烈に戦争の記憶を召喚するその手つき。あるいは『お引越し』における両親の別居という一つの出来事が、ひとりの少女の内面世界でどれほどの経験を引き起こし、その事実と対峙させていくのか。同じ題材を与えられたとしても、このように映画として成立させることが出来るのは間違いなく相米監督をおいて他にないと確信させる、傑出した作品になっていると思います。
『お引越し』『夏の庭The friends』4Kリマスター版は、KBCシネマにて絶賛上映中、そして佐賀県シアター・シエマでは2/28より上映予定です。相米監督の傑作2本を4Kで、劇場で見られるまたとないこの機会を、どうぞお見逃しなく。
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