【江戸ことば~その4】「江戸庶民の恋」を表現する艶っぽい言葉たち

RKBラジオ『サンデーウオッチR』で、不定期で紹介している「江戸ことば」は、4回目(2025年2月16日)の放送。RKB毎日放送の神戸金史解説委員長が愛読する『江戸語の辞典』から、江戸ことばの特徴である「色っぽさ」に焦点を当て、江戸の恋の熱い表現を紹介した。

女性からのおおらかなアプローチ

神戸金史解説委員長(以下、神戸):最初の放送(2024年11月17日放送)で、私は「江戸ことばの魅力」を4つ挙げています。

(1)語源がわかる
(2)語感が面白い
(3)江戸の文化が感じられる
(4)色っぽい言葉

下田文代アナウンサー(以下、下田):きょうは、艶っぽいんですか?

神戸:怒らないでください。

下田:不適切だったら、「ブブー!」って言います。

神戸:一つ目。「雨上がりのあひる」。

下田:「雨上がりのあひる」……全然わからないわ。

神戸:「雨が止んだので水際へ歩いて行くアヒル」というイメージ。大きな尻を振って歩く女の形容。「あいつぁ、雨上がりのあひるみてぇだなあ」。

下田:ははは、本当?

神戸:モンローウオークですよ。女性が男性の気を引くために、艶な歩き方を。

下田:しゃなりしゃなりと。

神戸:そうそう。「あいつぁ、雨上がりのあひるが過ぎらぁなあ」みたいな言い方をしてたんでしょうね。

下田:へえ! まわりくどいような気もするけど、やっぱり「描写」ですね。

神戸:確かに「描写」です。色っぽい言葉、いっぱい江戸語にはあるんですよ。「吸い付け煙草」は分かりますか?

下田:タバコ?

神戸:キセルに火をつけますよね。女性が火を吸いつけて、「はい、どうぞ」と渡してくれる。

下田:ふふふ。そんなサービスがあったんだ、江戸にも。

神戸:僕の話は、『江戸語の辞典』(講談社学術文庫、1974年)に出ている言葉です。その文例は「コレ、亭主の前で吸付煙草、ふざけたことをしやぁがるな」。お客さんに向かって吸い付け煙草を、女将さんが。

下田:あらま! 夫の気を引こうとしてなのか。不埒な妻なんでしょうか?

神戸:男尊女卑の社会ではありつつも、恋や性は男女ともに積極的なんです。

下田:おおらかだったのね。

「膳をすえられたら食わねえわけには」

神戸:続いては、「殺し目」。

下田:ころしめ? 「懲らしめ」じゃなくて。

神戸:「目」ですね。

下田:あら、流し目みたいな?

神戸:そうです。異性を悩殺する目つき。文例は「『かんにんしておくれなんし』と例の殺し目しり目でにっこり」。

下田:ふふふ、なるほどね。

神戸:「尻目」というのは、眼球だけ動かして、後ろを見る。

下田:ちょっとしどけない感じが目に浮かびますね。

神戸:酒を2人で酌み交わしながら、「堪忍して」と微笑まれたらどうします?

下田:もう、射抜く感じですね。

神戸:女性から攻めている言葉をいっぱい使って出しています。これは?「膳を据える」。

下田:「灸をすえる」ではなく? 何でしょう…。

神戸:古い言葉で「据え膳食わぬは男の恥」みたいな言い方があるでしょ? 今でも、残ってはいますよね。

下田:もう、あんまり言っちゃダメだけどね。

神戸:元の言葉は「膳を据える」なんです。つまり女性が、男性に膳を据えて、色目を使うこと。文例は「お吉めがおかしな眼付をしたり、何かしてお膳を据ゑるから、箸を取らねえのも変だと」。お膳を出して「どうぞ」としなだれかかるようなのを「膳を据えてきたぞ」「これは我慢できねぇぞ」みたいな感じだったんでしょうね。それが、「据え膳食わぬは男の恥」という言葉で現代にちょっと残っている。元々は、女性からのアプローチだった。

下田:あらー、積極的ですね。

神戸:そういうものだと思います。男女どちらかが一方的に、というのではない。女性が攻めていく言葉、他にもいっぱいあります。

キスマークを江戸で何と呼んだか

神戸:では、「血痣」。血液の「血」に青あざとかの痣。キスマークのことですね。

下田:そういう慣わしは江戸にもあったんですか。

神戸:「おめえ、首筋に血あざが…」

下田:本当? 進んでるわね。

神戸:『江戸語の辞典』を見てびっくりするんですが、そんな女性のことをこんなふうに言いました。「じょな娘」。

下田:ジョナむすめ?

神戸:美しく着飾る、なまめかしく振舞う、しなやかであることを、「じょなめく」と言ったらしいです。美しく着飾った、なまめかしい娘が「じょな娘」。男から女性を見て「この人、色っぽいなあ」という時、「あのじょな娘はどこの誰だい?」みたいな。

下田:今で言う「まぶい」みたいな。あ、今は言わないね、昭和ですね。失礼しました。

神戸:人目を引くような女性のことを「じょな娘」と言ってます。そういうことに熱くなってしまう世代、こんな言い方をしました。「熱盛り」。

下田:ほめきざかり? なんでしょう、もう満ちているって感じ?

神戸:異性に熱しやすい年ごろ。思春期。色気ざかり。

下田:「ほめく」。柔らかくも、血の気を感じる言葉ですね

神戸:「ほめき」、「ときめき」とも似ていますね。心拍数が上がっていくような。いい言葉だなと思いますね。ここまで、コンプライアンス的に大丈夫ですか?

下田:大丈夫です。一番好きなのは「ほめき」ですね。

現代のコンプラでは「アウト」?

神戸:次は多分、ダメだな。「ぽっとり新造」。

下田:ぽっとりしんぞう?

神戸:新造は、新妻みたいな世代の女性。「ごしんぞさん」なんてよく時代劇で出てくる言葉ですね。「ぽっとり新造」は、グラマーな女性。肉体の豊満な娘。

下田:なるほど、現在では「ぽっちゃり」という言葉がありますね。

神戸:そうです! 語源は一緒でしょうね。これ、大丈夫ですか?

下田:ルッキズムにやや近づいてはきましたけど。大丈夫ですよ。「表現」ということで。

神戸:その時代のことなので、今にそのまま通用するわけではない。そういう言葉はいっぱいありまして、これはアウトかな……。「ちょい色」。

下田:「ちょっと色っぽい」という感じではなくって、もっと進んだ言葉なんですね?

神戸:「あいつは俺の色だぜ」なんて昔そんな言い方がありましたが、浮気相手ですよね。

下田:あらまあ。色恋の「色」。ちょっとした仲という意味でしょうね。

神戸:文例は、完全コンプライアンスアウトな江戸時代の発言です。「ちッとやそッとのちょい色ぐれへは当たりめへな訳だはネ」。

下田:個人の責任での「ちょい色」、それはそれでいいと思いますよ。

神戸:それを、こんな風に茶化しています。「浮気の蒲焼」。

下田:ははは! うわきのかばやき?

神戸:江戸語って、シャレが多いんですよ。鰻の蒲焼きをもじって「浮気の蒲焼」。

下田:どういう意味なんですか?

神戸:こんなふうに使われました。「おめえはとんだ浮気だヨ」「浮気の蒲焼お茶づけさらさらとしてえ」。

下田:はああ……浮気したいってことですか。

神戸:サラサラと食ってみたいな、と。ダメですねー。

下田:まあ、でもほら、もう個人の人生の中においては。どう後で懲罰を受けるかは知りませんけれど。

「手活けの桜」が色あせる時

神戸:では、これはどうでしょう? 「手活けの花」。

下田:ていけ……。

神戸:いけ花。自分自身で活けた花のことですね。転じて、おめかけさんのこと。「あいつぁ、俺の手活けの花だぜ」。

下田:まあ……。言う分は勝手です。おいたが後でとんでもないことになるかも。

神戸:ははは。「手活けの花」だったり「ちょい色」だったり、男性側の言葉ですよね。でも、熱(ほめき)盛りの江戸の人たちが、生き生きと感じられる言葉だな、という気がします。

下田:そして、自分を大きく見せるためにそういうことを言ったり、背伸びしたりしているようにも感じます。

神戸:基本的に、口だけの人が多いはず。

下田:ははは! でも、今ちょっと無味無臭になりすぎている感じもあるので、江戸気質の艶っぽさが全てだとちょっと困っちゃいますけど、そういう気質を持つことはいいのかも。

神戸:当時の人たちの感情や気持ちが言葉に残っている気がして、いいなと思います。では、これはいかがでしょう。「桜褪め」。

下田:さくらざめ。桜ってチェリー? 「ざめ」は……さめる?

神戸:そう! 桜の花の色がさめる、浅くなっていく。色が移りやすいこと、恋心が変わりやすいこと。変わってしまったことを「桜褪め」。これは、きれいな言葉では?

下田:きれいで、切ないです。

神戸:「桜褪めしたあいつのこと……」なんて言ったりしたのかな?

下田:ちょっと切ない季節が巡ってくるかもしれませんね。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。学生時代は日本史学を専攻(社会思想史、ファシズム史など)。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。東京社会部での勤務後、RKBに転職。やまゆり園事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー映画『リリアンの揺りかご』(2024年)は各種プラットホームでレンタル視聴可。ドキュメンタリーの最新作『一緒に住んだら、もう家族~「子どもの村」の一軒家~』(2025年、ラジオ)は、ポッドキャストで無料公開中。

サンデーウォッチR
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週日曜 12時30分~15時00分
出演者:下田文代、神戸金史
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※放送情報は変更となる場合があります。

今週の12星座占い「牡羊座(おひつじ座)」全体運・開運アドバイス【2025年3月24日(月)~3月30日(日)今週の運勢】

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今週は、いろいろと考え込んでしまうかも。特に、仕事と趣味など相反することの両立で悩んでしまうかもしれません。どちらも同じくらいの力で取り組めるよう、環境づくりをすると良いでしょう。恋愛は、相手に思いは通じやすいタイミングではありますが、なんとなく1人でいたい気分になりそう。うまく気持ちをコントロールしましょう。

★ワンポイントアドバイス★

微妙だなと感じていたことにピリオドをつけるタイミング。そういう流れが来て心が軽くなるようです。受け入れて次へ進むようにすると◎

■監修者プロフィール:夏目みやび(なつめ・みやび)
東京・池袋占い館セレーネ所属。メッセージ性の高い鑑定はリピーターも多く、心の琴線に触れると話題に。占いや開運で個性が輝けるような占いを発信中。Yahoo!占い「マザー占術」など数多くのコンテンツもリリース。
Webサイト:https://selene-uranai.com/
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