待望の劇場公開!台湾映画「『カップルズ』4Kレストア版」の魅力!

明日4/18(金)より福岡・kino cinema 天神にて公開となる台湾映画「『カップルズ』4Kレストア版」。RKBラジオ『田畑竜介GrooooowUp』のコメンテーター・クリエイティブプロデューサーの三好剛平さんが2年前に紹介したが、2007年に亡くなったエドワード・ヤンという台湾の名監督による1996年の作品だ。日本でも長らく配信もされず中古DVDの価格も高止まりして鑑賞機会が限られていた本作が、当時のフィルムを修復(レストア)した最新バージョンで待望の劇場再公開となる見逃せない機会ということで、その魅力を語った。
台湾映画とエドワード・ヤンについて
まずは前回も触れましたが、本編の紹介に入る前に改めて台湾映画界とエドワード・ヤン監督について少しだけおさらいをしたいと思います。
はじめに台湾映画の国家機関「TFAI(Taiwan Film & Audiovisual Institute/ 国家電影及視聴覚中心、国家映画及び視聴文化センター)」について。TFAIは1978年の設立以来、台湾の映画フィルムの保存、修復、研究、出版にはじまり、2010年代からは映画教育、海外マーケティングや販売などの活動も追加、現在100名超もの職員がパワフルに活動する、台湾きっての映画の国家機関です。
そのTFAIでは現在、歴史的に重要な台湾映画作品を一本ずつ系統立ててデジタル修復し、国内外の映画祭や映画興行にかけていく活動が始まっています。この活動を通じて、世界における台湾映画の再評価、そして台湾のコンテンツビジネスやソフトパワーの活性化に成果を挙げ始めています。前回番組でご紹介した『エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版』はまさしくそのTFAIの活動から日本での劇場再公開にまで至った一本でしたが、今回ご紹介する『カップルズ』はそれに続く作品となります。
続いて、そのように台湾映画の国家機関も世界に向けてお墨付きを与えるエドワード・ヤンとはどういう監督だったのかについても、少しだけ。エドワード・ヤンは1980年代から映画活動を開始し、特に1980年代から90年代にかけて台湾の若手映画監督を中心に展開された「台湾ニューシネマ」を代表する映画監督として知られています。「台湾ニューシネマ」とは、従来の商業ベースでの映画作りとは一線を画して、台湾固有の文化や風景、社会をより深く掘り下げることで新たな視点とオリジナルな映画表現を生み出したムーヴメントで、エドワード・ヤンや侯孝賢(ホウ・シャオシェン)などその後世界の映画界に多大なる影響を与える作家たちが牽引した、きわめて重要な文化運動でもありました。
エドワード・ヤン監督は、残念ながら2007年59歳で癌の合併症で亡くなるまで長編映画はわずか7本のみしか残さなかった寡作の映画作家でしたが、『恐怖分子』『牯嶺街少年殺人事件』『ヤンヤン夏の思い出』など、どの作品も各国映画祭や映画メディアはもちろん、現在も世界中の映画人たちに多大なる影響を与え続ける大傑作群として、今も評価を揺るがせにしないものとなっています。
『カップルズ』について
ということで今日ご紹介するのは彼の長編フィルモグラフィとしては6作目にあたる1996年の映画『カップルズ』の4Kレストア版ということで、まずはそのあらすじからご紹介します。
急激な経済成長を遂げ、多国籍の人々が集まりしのぎを削り合う街となった90年代半ばの台北。映画は、街の富豪であるひとりの男が多額の負債を抱えて行方をくらましていること、そして地元のヤクザたちが彼の多額の借金返済を求めるべくその家族を探しているという場面から始まります。
そんな本作の主人公は4人組の17歳の不良グループ。彼らは街中のアパートを“アジト”として集い、大人も女も金も自由に操ることができると信じて日々悪事を重ねています。そのリーダー格の少年は、冒頭で行方不明を告げられた富豪の男の息子でした。そんな彼らのもとに、フランスからやってきた一人の少女が現れ、さらには地元のヤクザがグループのなかの別の少年を富豪の息子と取り違えたことから徐々にコトは発展し——、というお話。
今回、僕はこの作品をかれこれ20年以上前に見て以来久しぶりに再見したのですが、正直こんなにとんでもない作品だったのか、ということに終始圧倒されっぱなしでした。いくつもあるその理由のうち今日は二つに絞りますが、まず一つ目は「世界のありようを2時間に圧縮してしまう脅威の構成と監督術」です。
本作は映画の骨格としては実は本作がコメディの構造をベースとしているにもかかわらず、映画全体を貫く台湾社会への冷徹な視線と、ひとびとの人間性を失わせる都市経済の発展への怒りや諦念にも近い批評性が、その笑いをどこまでも乾いた、ひきつったものに仕立ててしまう。喜劇と悲劇がギリギリまで隣り合わせついに同居してしまった結果、映画のなかでドタバタ右往左往している人物たちを見守ることは、もはやまるで神の視点から「哀れな生きものたち」として俯瞰し、ただ見届けていくしかないようなものへと変容させます。僕はエドワードヤン映画を見るたびに「わたしたちの社会の全容あるいは世界そのものが圧縮された数時間」を見届けてしまったような感覚を覚えますが、この映画も見事にそう評するほかないものだったと断言できます。
そして二つ目は、本作が驚くほどに2025年を生きる「いま」の映画でもあった、という点です。映画自体は先ほどの紹介でも触れた通り90年代半ばの台北を舞台にしているにもかかわらず、経済発展が目的化され、そのシステムのなかで人間性を失い欲望の自動装置と化していくことを免れられない街とそこに生きる人々。そしてその街のなかで漂う「自分たちが本当に求めているものが分からなくなった」人々が織りなす乾いた欲望の顛末、その悲劇性と喜劇性。このような有様を見ていると、悲しくなるほどに「これは2025年日本そして現代世界を生きる私たちの姿だ」となるほかなく、彼らがやがて雪崩れ込んでいく顛末、その先の絶望と希望にいっそう胸を打たれるような鑑賞体験となりました。毎回エドワード・ヤンの作品を見るたびに言ってしまいますが、今回もやっぱり「どうやったらこんな映画が作れるんだ…」と驚嘆するしかない、異常な強度の作品として結実しています。圧倒的です。
ということで、エドワード・ヤンの映画が劇場でかかる以上は、全人類劇場へ足を運ぶことはもはや世界の理です。
映画「『カップルズ』4Kレストア版」は明日4/18金より福岡はkino cinema 天神にて公開となります。「ぜひ鑑賞を」どころではなく本当に「必見」ですよ。くれぐれもお見逃しなく。
映画「『カップルズ』4Kレストア版」 kino cinema天神ページ
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