ロシアのウクライナ侵攻で“犬猿の仲”中国とインドが「同じ船」

飯田和郎・元RKB解説委員長

ロシアによるウクライナ侵攻は、当事者による停戦交渉などが続くが、依然ロシア軍の撤収の動きは見えてこない。そんな中、今月24日に中国の外務大臣がインドを電撃訪問し翌25日にインドの外務大臣と会談した。ウクライナ紛争の場外戦=周辺国をめぐる動きとその意味について、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説した。

仲が悪い中国とインドは共にロシアとは関係が深い

まず、中国とインドの関係をおさらいしたい。人口の数では世界で第1位、第2位(出典・総務省統計局「世界の統計」2021 中国=14億3300万人、インド=13億6600万人 2019年)。この2つの国は、ヒマラヤ山脈などをはさみ国境を接するが、そのうち約3000キロメートルの国境線が画定していない。近年では、2020年6月に両軍が係争地で衝突し、インド側で20人の死者を出した。中国側も4人が死亡したとされる。武力衝突で死者が出たのは45年ぶりで緊張状態が続いてきた。また、最近のことでは北京冬季オリンピックでインドは開会式直前になって、高官の派遣を取りやめる「外交ボイコット」を行った。理由は、この2年前の武力衝突で負傷した中国軍兵士を、中国が英雄として、聖火ランナーに選んだことだ。

周辺国とのことでいうと、中国はパキスタンと親密な関係を維持している。パキスタンと仲が悪いインドにとっては面白くないだろう。一方で、アメリカのバイデン大統領や、岸田首相は最近「自由で開かれたインド太平洋」という表現をよく使う。それは中国をけん制するもので、日米にとってインドは大切なメンバーだというメッセージを発している。

中国もインドも核保有国であり、両国の関係は世界の安全保障にとっても重要なのだが、端的に言って仲が悪い。しかし、ことロシアに関しては同じ方向を向いている。中印ともにロシアという同じ恋人がいる、という図式だ。

中国とロシアの関係は改めて言うまでもない。一方のインドは、戦車や地対空ミサイルなど、武器調達全体の50%近くがロシア製。これは、敵対するパキスタンや領土問題を有する中国をにらんでのことだ。ロシアにとっても、インドは最大の武器輸出先。また、インドはロシア産原油を安価で購入している義理もある。岸田首相とモディ首相との19日の日印首脳会談の共同声明には「ロシア」の文言が入らなかった。これは武器や原油の購入で、インドはロシアに依存しているから、インドが容認しなかったからだろう。

だから、3月2日の国連総会でウクライナ侵攻に関するロシア非難決議に対して、中印ともに棄権したのだ。同じように、国連総会が24日に採択した「ウクライナの民間人や医療施設への破壊攻撃に関し、ロシアに責任がある」という内容の決議も両国は棄権している。

ウクライナ侵攻をめぐっては中印でロシアを擁護

今月24日にニューデリーを訪れた王毅外相は、副首相レベルの外交担当国務委員という役職を兼ねる「中国外交の顔」だ。中国でも通常、このレベルの要人の外国訪問は事前に公表されるが、今回はなかった。中国とインドの接近を警戒するアメリカなどからの横やりを避けるために伏せたのだろう。

仲の悪い中印が、ロシアへのスタンスに限れば、同じ方向を向いている。ウクライナ侵攻は両国の関係修復の糸口になるだろうか?会談結果を伝える中国共産党機関紙・人民日報の報道を引用したい。

「中国、インドの双方は、重要な国際的問題、および地域的問題に対し、両国が同一の立場、またはよく似た立場を有していることを認識した。また、不安定な世界に対し、よりよい寄与をするため、両国は互いを理解し、支え合う努力がなされるべきである」

さらに、こう報道している。

「中国とインドは、多国間主義の堅持、国連憲章と国際法の遵守、さらに対話を通じて平和的に紛争を解決する必要があると認識した。一方的な制裁が世界経済やサプライチェーンの安定に、与える影響を深く懸念する」

会談ではウクライナ問題も協議した。名指していないが、欧米諸国、とりわけ、アメリカを非難している。「一方的な制裁をするな」というのはロシアへの擁護だ。

欧米諸国と中国の不安を巧みに操るインド

一方でインドは「世界最大の民主主義国家」を自任する。インドも含む民主主義国家、日・米・豪の4か国の戦略対話組織(通称・QUAD)は、インド・太平洋地域の安全保障に関する4カ国協議。中国を念頭に昨年、スタートした。当然、日米欧はインドを自分たちに取り込みたい。しかし、一方のインドからすれば、やはり中国と緊張関係にある日米欧に、自らを高く売るためにも、中国の立場にも理解を示す行動を取るわけだ。インドは同時に、中国の事情もわかっている。つまり「ロシアへの非難が強まる中、インドが日米欧の方に行ってしまうと自分たちは孤立してしまう」という中国の懸念だ。インドは、双方の不安を巧みに操って、中国の王毅外相を受け入れたのではないだろうか。

インドは王毅外相が来る直前、アメリカのヌランド国務次官の訪問を受けている。もちろん、インドも中国も、ウクライナで狼藉を働いたロシアの安定は不可欠だ。プーチン政権の崩壊は望んでいない。だから、ウクライナ問題においては、中印が協調しているのだ。

中国はインドとの関係修復やアフガン問題で攻めに回れるか?

中国に関しては、もう一つ気になる動きがある。3月30・31日の2日間、中国南部の景勝地で、アフガニスタン周辺国外相会議が開かれている。ホスト役は、もちろん中国の王毅外相だ。参加しているのは、パキスタン、イラン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、中国、それにロシア。ウクライナでの戦闘状態が長引くなか、ロシアのラブロフ外相も来る。ロシアを輪に入れる形で、孤立するロシアへ恩を売っているのだ。

会議のテーマは、アフガン問題だが、参加国は「今日のアフガンの混乱の責任は、アメリカにある」との立場を共有する。いわば、アフガン問題と同時に、欧米に対抗する勢力の結束を示す。それを主導するのが中国だ。ちなみに、これらの国々の多くは、先ほど紹介した24日に国連総会で行われたウクライナでの人道状況に関する決議に、「反対」または「棄権」している。中国は、ロシアとの緊密な関係を非難されてきたが、インドとの関係修復やアフガン問題を利用し、劣勢から攻めに移ろうとしている。

バイデン米大統領は今日の世界情勢を踏まえて「『米欧日の民主主義陣営』と『中国、ロシアなど権威主義国家 専制主義国家』の戦い」と繰り返し強調している。安全保障においても、価値観においても、インドを民主主義陣営の一員に引き入れたい。4月にはアメリカとインドの外務・防衛大臣協議(2プラス2)が開かれることになっている。インドは2つの陣営を天秤にかけるように振る舞うだろう。

インドと中国。2つの国の動きは、現在進行形のウクライナ侵攻、近い将来の世界のパワーバランス再構築に向けて目が離せない。

 

 

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田中みずき、飯田和郎
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※放送情報は変更となる場合があります。

皆、頭の中の世界で生きている―養老孟司が語る、自然と隔絶された現代人への危機感

人間が自然と共存するために必要な知恵とは何か? 専門家のトークを通じて考える番組『J-WAVE SPECIAL TSUCHIYA EATHOLOGY』が3月21日にオンエア。小山薫堂と中野美奈子がナビゲートした。

今回は、2021年に世界自然遺産として登録された沖縄県「西表島」にフォーカス。島へ取材に訪れた小山とアコーディオン奏者のcobaが、畏敬をもって自然と触れ合う旅「エシカルツーリズム」を体験する中で、海や草木とともに生きる多様な人々の声を届けた。番組はポッドキャストで配信中だ。



この記事では、自然の中にいる様々な生物が関係し合い、複雑な生態系を形成するという概念「生物多様性」をテーマとした、解剖学者・養老孟司氏へのゲストインタビューを中心に紹介する。

10歳の小学生に「良い人生とは何?」と聞かれ…

累計400万部を超える大ベストセラー『バカの壁』の著者として知られる養老氏は、昆虫愛好家としての顔も持ち、自然への造詣も深い。

小山:養老先生は生物多様性をどのようにお考えになっていますか?

養老:生物多様性は抽象的な言葉というより、感覚的な言葉で、造語のため非常にわかりにくくなっています。自然には植物含め、本当に様々な生き物がいますが、そのことを実感している人と、自然と触れ合わない人では理解の仕方が大分違ってくるはずなんです。つまり、説明できることではないんですよ。

今の人は、言葉さえあればすべてのものが説明可能だと思い込んでいる。先日、10歳の小学生から「良い人生って何ですか?」という質問を受けました。人生始めてもいないのに良いも悪いもあるか!と思ったんですけど、どうしても現代に生きていると、子どもですらそうなってしまう。人生なんて簡単に説明できるものではないのに、一言で言えるものだと勘違いしてしまうんです。生物多様性もその典型で、一言で言えるようなものではありません。

小山:では、ご自身が生物多様性を肌で実感したのはいつでしたか?

養老:子どもの頃からです。今の人に言うと嘘だと思われちゃうんですけど、僕が小学生の頃、生まれ育った鎌倉では牛と馬がたくさんいました。だから、街の中に馬糞も牛糞もいっぱい落ちていて、そこに虫がきたりもして。

小山:そういった虫たちと接している中で「学び」などはあったのでしょうか?

養老:だんだん呆れるようになってきました。

小山:呆れる?

養老:はい。5mmや1cmにも満たない虫がこんなに数多くの種類いるのかと、捕まえているうちにわかってくるんですね。これはもう呆れるしかありません(笑)。

若者に田んぼを指して「将来のお前だ」と説く理由

番組のテーマは、人間と自然の共生。そこで小山は「この質問をしただけで叱られてしまいそうですが…」と前置きしつつ、“知の巨人”に対し率直な質問をぶつけた。

小山:人と自然の共生のためにはどうすれば良いとお考えですか?

養老:食べ物を摂らないと生きていけないことからもわかるように、我々は直接、自然と繋がっています。もっと言えば、皆さんの身体を作っているのは、まさに自然なんです。自然の材料を使っているわけです。自然の材料が形を変えて自分になっているわけで、まずそのことをはっきりと感覚的に意識しなければなりません。僕はよく若い人に田んぼを指して「あれは将来のお前だ」と説教をするんです。

小山:どういうことですか?

養老:田んぼに稲が育てば、いずれは米ができる。その米を食べることで、あなたたちの身体の一部になるわけだから、という意味です。でも、そんな感覚、今の子にはありません。

小山:たしかに。

養老:今言ったみたいに、物質的に考えても、外の世界と自分は完全に地続きなんです。「自然と共生」とわざわざ言うまでもなく、初めから共生している。「自分の身体を作っていったものはいったい何だろう」と考えれば、おのずと植物も動物も、さらには菌類も入っていることがわかるはずです。

小山:まずはそこに気付く、意識するというところから始めるべきということですね。

養老氏が次世代を担う子どもたちに伝えたいメッセージとは?

自然とともに歩む上で、人間が一番大切にしなくてはいけない能力は何なのか。養老氏は「生物多様性への感覚」と説き、論を進める。

養老:外の世界から自分に何かが入ってくることを感受性、感性と言いますが、現代は皆、頭の中の世界で生きてしまっています。一番極端な例を挙げれば、AIで作ったバーチャルの世界の中を生きるということを真面目に考えている人さえいる。その場合、外から入ってくるものがないんです。その世界に入ってくるものといえば、人が作ったものだけですから。ところが、普通に生きていると外から勝手に色々なものが入ってきます。音はするし、匂いはするし、風は吹く。太陽でさえじっとしているわけじゃなく、2~3時間したら違う場所に移ってますよね。そういった外からの刺激を受け取る能力が、現代人には特に不足している気がします。

中野:なるほど。では、次世代を担う子どもたちに向けて、どんなメッセージを伝えていきたいと思いますか?

養老:生活の中で自然と対面・直面する時間をできるだけ取ってください、ということです。日常に自然的な何かと触れ合うことが非常に大事だと思っていて。僕自身は子どもたちの相手をする際、虫取りという名目だけ付けて、一緒に外へ連れてっちゃうんです。外に連れ出せば、子どもたちはみんな適当に遊んでますよ。もともと人はそういう環境で育ったわけなので、ひとりでに五感が育っていくんです。

小山:とにかく経験が大事ということですね。

養老:そうですね。僕の知り合いが夏に30日間キャンプというイベントをやっていて、キャンプをしている場所からトイレがある水場まで100段、山の階段を上らなきゃいけないんですよ。でも、子どもたちはキャンプ場に到着して次の日ぐらいにはすっかり慣れちゃう。そういうふうに、日常の中に必然性が組み込まれていると、自然に親しむも何もなくて、ひとりでに親しんでしまうわけですよ。今は子どもをできるだけ楽に安全に育てる時代。しかし僕は、できるだけ大変で不自由にしてあげたほうが、かえって親切だと思うんです。

さらに、「僕は80歳半ばになっても、子どものときと同じで虫を見ています」と養老氏は続ける。

小山:お話を伺っているうちに、「自然とどのように付き合うか」とかそういうことではなく、自分の好きなものを自然の中に見つけて楽しんでいけばいいぐらいに思えるようになってきました。

養老:その通りだと思います。必ず自然の中に自分の興味を惹かれるものがあるはずですよ。

養老氏との鼎談を終え、小山と中野は振り返る。

小山:養老先生のお話を聞いて、自分も自然の一部で、「楽しい」「面白い」「これは何だろう?」という感覚をもって自然と触れ合うべきと感じました。だから、中野さんはお子さんをナビゲーターとして自然と接するといいかも知れませんね。

中野:学ばなきゃいけないですね。子どもからよく「この草はなんで緑なの?」とか「何でカメムシは臭いんだろう?」とか聞かれるんですよ。そういう質問に対し、面倒くさがらずにちゃんと向き合わなきゃいけないと気付かされました。

小山:そういう疑問って自分ではなかなか出てこないじゃないですか。だけど、お子さんの疑問に「何でだろう?」と一緒に考えて2人で共有したらいいんじゃないですか?「こういうことなんだ!」って。

中野:そうですね。

番組の公式ページでは、沖縄県「西表島」での取材の様子など、多くの写真を掲載している。

(構成:小島浩平)

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