ザ・ドリフターズを国民的スターにした『8時だョ!全員集合』の音楽監督

音楽プロデューサー・松尾潔氏

毎週、子供たちを狂喜乱舞させ、ザ・ドリフターズを国民的スターへと押し上げた、昭和のお化け番組『8時だョ!全員集合』。実はヒット曲の宝庫だ。同番組の音楽監督・たかしまあきひこさんの功績を、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサー・松尾潔さんが紹介した。

たかしまさんが東京藝大を卒業した翌年に始まった『全員集合』

5月24日が誕生日の音楽家に、たかしまあきひこさんという方がいます。ご存知ない方も多いのではないかと思いますが、ザ・ドリフターズを国民的スターに押し上げた、昭和のお化け番組、TBS『8時だョ!全員集合』(1969年~1985年)の音楽監督でした。たかしまさんは1943年生まれ。東京藝大を卒業したのが『全員集合』が始まる1年前の1968年です。

この番組の初代音楽監督は山本直純さん。山本さんも昭和を代表する日本の音楽家で、寅さんの『男はつらいよ』のテーマソングで有名な方です。東京藝大の後輩で、山本さんの門下生だったたかしまさんは、大学を卒業してすぐ、この人気番組に音楽のアシスタントとして入り、途中から正監督の座に就きました。そこからこの番組の音楽の幅がぐっと広がっていきます。

音楽に精通したメンバーと生み出したヒット曲

ザ・ドリフターズはよく知られている通り、元々はジャズバンド。“音楽的センスもある、ジャズマンの遊び心のコント”で、お笑いの世界を席巻していくわけですね。これはドリフだけではなく、その前のクレイジーキャッツも同じです。バンド、しかもかなり本格的なジャズバンド、ジャズメンだった人たちがコントに行く流れは、戦後の日本の芸能界ですごく多かった。ナベプロやホリプロといった大手芸能プロダクションのように、ジャズを1回通った人たちが作った会社もあります。ドリフターズもその伝統の中にあったわけです。

ドリフはジャズのイメージを早めに払拭して、ポップな展開に行った。これが図抜けた一つの理由だと思うんです。そこで大きな働きをしたのが、たかしまあきひこさんなんですね。『全員集合』の人気コーナー「ヒゲダンス」のテーマ曲には、「Do Me」という、元々アメリカのソウルシンガー、テディ・ペンダーグラスが歌っていた原曲があります。この曲を、志村けんさんが気に入って「イントロ部分だけを延々と演奏してほしい」って、たかしまさんにリクエストしたんです。

今ヒップホップのDJが、ある4小節だけを延々と繰り返すようなトラックを作ったりしますけど、そういうのを毎週生演奏でやっていたんです。今の音楽業界にいる人間からすると信じられないような離れ技で、毎週ミラクルを起こしていたような感じです。それに合わせて加藤茶さんと志村けんさんが踊っていました。この「ヒゲのテーマ」はシングルカットされて、オリコンチャート第5位になりました。

もうひとつ、これもマニアックな話になるんですが、ソウルシンガー、ウィルソン・ピケットの「Don’t Knock My Love」という曲のインストゥルメンタルに、いわゆるラップ的なものを乗っけてやったのが「ドリフの早口ことば」です。こちらもオリコンでトップ10に入っています。

クラシックの要素を取り入れた劇伴に長けたたかしま氏

たかしまさんがすごいところは、東京藝大出身の作曲家で、クラシックの楽理にもオーケストレーションにも長けていながら、こういったブラックミュージック的なグルーヴも出せて、映画やドラマの劇伴もできることです。コントのオチに使われていた「盆回り」という曲は、もともとあるコントのために1回だけ使うつもりで作った曲でした。それをいかりや長介さんが「これいいじゃないか、来週も使おう」って言って定番化しました。今でもTBS『オールスター感謝祭』で使われています。

この曲、組曲「地獄のオルフェ」の「天国と地獄」というクラシックの定番曲がうまく落とし込まれています。元ネタがあるものをアウトプットに合わせてモディファイするって、まるでヒップホップのDJみたいな感じなんですよね。部分的にサンプリングして、新しいものを作り上げるという。これを毎週生放送で味わうことができた昭和の子供たちって幸せだったなと、僕もその1人として思います。

「笑いと音楽の融合」のプロトタイプとなったドリフ

たかしまさんは2016年に73歳で亡くなりましたが、ブラックミュージックのグルーヴを一部取り出して、またそこに新たなエッセンスを加えて新たな音楽にするということが一般化した今、改めて彼の曲を聴いてみると「生ヒップホップだったんだな」という、妙な凄みを感じます。

そして、ザ・ドリフターズのメンバーのブラックミュージックに根差した、反射神経の良さというか“音楽のアスリート”だったんだなっていうのもよく分かります。そういう意味では、ドリフがプロトタイプになって、そこにもうちょっとイケメン度を加えてうまくやったのがSMAPということも言えるかもしれませんね。入口がアイドルだったのか、それともミュージシャンだったのかっていう違いで。お笑いと音楽の融合っていう意味では、一緒かもしれません。

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