BTS“活動休止宣言”は「ショービズの永遠の課題」松尾潔が指摘

音楽プロデューサー・松尾潔氏

世界中に衝撃を与えた、BTSの活動休止宣言。「そこには多忙による疲労のほかに、自らの理想と求められる姿との齟齬がある」と、音楽プロデューサー・松尾潔さんは語る。皮肉にも、BTSを世界的グループに押し上げた「Dynamite」あたりから、“ずれ”が大きくなっていったという。松尾さんが出演しているRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で「ショービズの永遠の課題」を考える。

韓国アーティストたちについて回る兵役問題

BTSのリーダーRM(ラップモンスター)。スポークパーソン的な役割の彼が「非常に多忙で、自分を保つのが難しい状態なのでBTSを続けるためにも自分の時間をみんな取り戻したい」、要はグループとしての活動をお休みしたいと宣言しました。これに関して事務所HYBEは、元々みんなソロ活動もやっているので、ソロ活動にちょっと軸足を移すだけで、グループがお休みするわけじゃないって、必死に感じられるぐらい否定しています。事務所の株価は25%暴落したとか。経済が絡んでいるんですね。かつて上場したときは経済ニュースのトップになったし、最近ではホワイトハウスや国連で自分たちの言葉で語る。そんなアジアのアーティストって今までいたっけ?っていうような存在です。

あと、韓国といえば兵役が関わってきますね。これまで例えばオリンピッククラスのメダリストには兵役が免除されるってことがあったんですが、エンターテイナーにもそれを適用した方がいいんじゃないかというような議論が起きています。僕自身、2002年のサッカーワールドカップ日韓大会のときに、日本側のプロデューサーとして関わり、その後東方神起やビッグバンが日本で活動するときにプロデュースしてきましたが、そのときも兵役の問題が、絶えずついて回りました。

長期的なビジョンに立ったところでアーティストのキャリアパスを築くのはやっぱり難しい。10代の終わりから20代にかけてどこかで兵役があるからです。ある一定以上の功績を残すと、ソウル市内で公的な活動をすることで、兵役に代わる貢献をしたと認められるといったやり方はあるそうですが、それでも免除というのはないんですね。でも、BTSが今のレベルの国際的な活躍をあと1年やると「聖域」みたいになるんじゃないかという話もありました。だけど、また流れが変わるかもしれませんね。

期待に応える活躍は人間としての成熟を妨げる?

冒頭のRMの宣言の中で興味深いのは、「皆さんからの期待にお応えするのがプロだとすると、それを全うしてきた。世界トップのアイドルグループとしてこの数年間やってきた。でも、それを続けることは、人間としての成熟を妨げているんじゃないか」ということをはっきり言った点です。

これは、ショービズの永遠の課題なんです。僕が今まで国内外のアーティストに会ってきた経験上言えることですが、自分自身の求めるアーティスト像や芸の道、もっと言うと、1人の人間としての人生の歩み、自分がやりたいことが、人を喜ばせること・ファンの笑顔を見ることと“イコール”であればいいけれど、ほぼ“ニアリーイコール”で、完全に一致する人はいないんです。早い話、だんだんそこに齟齬が生じてきたんでしょうね。

休養を経ることでグループとしての活動を長らえることに?

BTSは元々アンダーグラウンドなヒップホップシーンから出てきた人たちであって、リーダーのRM(ラップモンスター)っていうのも、いかにもヒップホップ的なネーミングですが「今の自分はラップモンスターじゃなくてラップマシーンだ」という発言もしていて。やっぱり相当疲れていたんだろうなと思います。「Dynamite」あたりぐらいから「ちょっと自分たちのやりたいことと違うかな」みたいな感覚が、少しずつ大きくなってきたように見えます。

最近、サザンオールスターズの桑田佳祐さんについて論じた「桑田佳祐論」(スージー鈴木著・新潮新書)が出版されましたが、この本にも桑田さんが青山学院大学の学生時代にワーッと人気者になって、メディアから自分というパーソナリティがどんどん消費され、精神的に滅入ったというような話が綴られています。桑田さんも一旦休養を経て、前より愛される存在になっていきました。だからBTSも「後になってみれば、あのときの宣言がグループとしての活動を長らえることになったよね」ってことになるかもしれませんね。本当に素晴らしいグループなので、長い目で見てみたいなと思いました。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
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※放送情報は変更となる場合があります。

亡き親友との約束胸に「スタジアムを応援フラッグでいっぱいにしたい」

プロ野球をはじめ、先日のメジャーリーグ開幕戦、そしてサッカーのJリーグでもよく目立つのが、巨大なフラッグによる応援です。今回は、このスポーツ応援に欠かせないビッグフラッグを染め上げている男性のお話です。

影山洋さん

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

日本一小さな市・埼玉県蕨市に、一軒の工房があります。有限会社染太郎、スポーツの試合で現れる大きな旗を作る会社です。トップは、影山洋さん、昭和30年生まれの69歳です。

蕨出身の影山さんは、小さい頃は空き地で友達とサッカーボールを蹴ったり、お小遣いがたまると後楽園球場へ行って、王さん・長嶋さんの野球を見て育ちました。そして、百貨店で催事のお知らせをする巨大な垂れ幕を作る会社に勤めます。

仕事に脂がのってきた30代のある日、影山さんは小さい頃のサッカー仲間で、当時の読売クラブに在籍していた奥田卓良選手から、こんな話を聞きました。

「今度、日本でもサッカーのプロリーグが始まるんだ。絶対応援してくれよ!」

「だったら、ヨーロッパみたいに、おっきな応援フラッグを作って、応援するよ!」

影山さんがそう答えて迎えた1993年5月15日のJリーグ開幕の日。国立競技場の熱狂の渦のなかに、奥田さんの姿はありませんでした。奥田さんは不慮の交通事故で、Jリーグを見ることなくこの世を去っていたのです。

『奥田との約束を守るためにも、日本のスタジアムを応援フラッグでいっぱいにしたい!』

そう思った影山さんは、会社勤めを辞め、自ら応援フラッグを作る会社を興します。地元・埼玉の浦和レッズの熱いサポーターたちとつながると、話が盛り上がって、今までにない幅50メートルのビッグフラッグを作るプロジェクトが始まりました。

影山さんが手掛けたビッグフラッグの数々

参考になったのはもちろん、影山さんが長年培ってきたデパートの垂れ幕のノウハウ。パソコンもあまり普及していない時代、設計図を元に1枚1枚刷毛で塗る手作業でした。ただ、ビッグフラッグを作っても、出来栄えを確かめられる広いスペースもなければ、対応してもらえる競技場もありませんでした。

ようやく人前で披露できる環境が整ったのは、2001年のJリーグ・レッズ対マリノス戦。埼玉スタジアム2002のこけら落としの試合でした。影山さんたちがドキドキ見守る中、ピッチに大きく真っ赤なフラッグが広げられると、スタンドからは「オーッ!」と地鳴りのような歓声が沸き上がりました。

翌日から、影山さんの会社の電話は、様々なチームからの問い合わせで鳴りやまなくなりました。

「私たちもレッズみたいな、熱い応援をしたいんです!」

数ある問い合わせの中に、情熱のこもったメッセージを届けてくれた人がいました。それは、プロ野球・千葉ロッテマリーンズの応援団の方々でした。影山さんは、競技の違いを乗り越えて、新しい応援スタイルが広まっていくことに、喜びを感じながら、さらに大きい幅75メートルものビッグフラッグを作り上げました。

このフラッグが、千葉・幕張のスタジアムの応援席に広げられると、今度はプロ野球チームの関係者からの問い合わせが相次ぎました。こうしてサッカーではレッズ、野球はマリーンズから始まったビッグフラッグによる応援は、今や多くのスポーツに広まって、当たり前の存在になりました。

蕨市の盛り上げにも活躍する影山洋さん

そしてこの春、影山さんは、東京ドームで行われたメジャーリーグのカブス対ドジャースの開幕戦でも、大役を任されることになりました。それは、初めての国旗。試合開始前のセレモニーで使われる、幅30メートルの日の丸と星条旗の製作でした。

国のシンボル・国旗に汚れを付けたり、穴を開けたりすることは決して許されません。3月10日に納品した後も、影山さんは毎日毎日東京ドームに通って、抜かりのないように、細心の準備をしました。そして、メジャーリーグ機構の厳しいチェックもクリアして、開幕当日を迎えます。

ベーブ・ルースから大谷翔平まで、日米の野球・90年の歴史の映像が流れて、無事に大きな日の丸と星条旗が現れると、影山さんも胸が熱くなりました。

『あの王さん・長嶋さんが躍動した後楽園球場を継いだ東京ドームで行われる、かつてない野球の試合で、自分の本業で関わることが出来ているんだ!』

そして、このメジャーリーグ開幕戦の興奮も冷めやらぬなか、今度はサッカーの日本代表が、8大会連続のFIFAワールドカップ出場を決めました。実は影山さんには、まだまだ大きな夢があります。

「いつか、サッカー日本代表がワールドカップの決勝戦を迎えた日の朝、富士山の近くで、おっきな富士山をバックにおっきな日の丸を掲げて、選手にエールを送りたいんです!」

亡き親友への思いを胸に生まれた、日本におけるビッグフラッグによるスポーツ応援。その応援文化のパイオニア・影山さんの夢は、きっと叶う日が来ると信じて、さらに大きく膨らみ続けます。

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