米下院議長台湾訪問は「習近平3期目続投に難しい課題」ウォッチャーが解説
アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問し、蔡英文総統と会談した。当然、中国は反発しているが「振り上げた拳をどうおろしていいかは中国にとって難しいのでは」と、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB開設委員長は見ている。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説した。
ペロシ下院議長台湾訪問をめぐって注目した点が2つある。
①台湾の人たちが議長を大歓迎。到着した空港や、滞在するホテルの前での人だかり。熱狂している。メディアも、議長の台湾訪問一色。台湾の人たちはそれだけ、「中国の脅威」を強く感じ、アメリカを頼りにしたい思いの表れだ。
②一方、議長が到着するやいなや、即座に中国政府や軍、議会などは抗議声明を出した。さらに中国軍は議長の台湾到着に合わせたように、台湾周辺での軍事演習を開始した。
ただ、この反発も「型通り」に見える。緊張は当面、収まらないが、今後の対応に困っているのは、むしろ中国側、習近平政権の方ではないだろうか。
習近平国家主席がメンツをつぶされたのは確かだ。とりわけメンツにこだわる中国人、その中国人14億人の最高指導者だけに、だ。しかも先月28日に、バイデン大統領と2時間20分も電話協議を行った矢先。「議長の台湾行きをやめさせるべき、とあれだけ、クギを刺していたのに」との思いは強いはずだ。
また、秋の共産党大会が迫る。異例の3期目入りを狙う習近平氏は「外」の世界と摩擦を起こしたくない。また、この8月には共産党の高級幹部や引退した長老たちが避暑地に集まり、人事や政策を話し合う重要会議もある。当然、習近平政権の対米政策も議論に上るだろう。そのために先月28日の米中首脳会談に応じたはずだった。中国にとって、議長の台湾訪問は、あまりにタイミングが悪すぎる。
このように政治的に敏感な時期だけに「振り上げた拳をどうおろしていいか」も難しいだろう。中国軍は今月2日から台湾周辺で合同軍事作戦に入った。また、4日から7日までの4日間、台湾をぐるりと囲むように大小6つの海域・空域で実弾発射を含む、「重要な軍事演習」を行うと発表している。
1996年の台湾海峡危機の際は、米中の間には、経済力・軍事力に大きな差があったが、今は中国が進める高性能兵器の開発も含めて接近している。当面、緊張状態が続くだろう。だが、述べてきたように、この政治的に敏感な時期、習近平政権に「アメリカと事を構える」気持ちはない。
国内向けには、アメリカとの関係でコワモテの姿勢を示しつつ、世論の動きを見ながら、振り上げた拳をゆっくりとおろす。米中双方で意思疎通をはかることも進めていくだろう。それが中国のメンツを保つことにもつながる。私はそんなシナリオだと思う。