悲しみは、歴史に人の美しさを刻んだ――新刊「水俣病闘争史」を読む

神戸金史・RKB解説委員

水俣病は、世界史に記録されるべき大事件。本当は誰もが知っておくべきことだが、水俣病の歴史はあまりに長く深くて広い。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、コメンテーターのRKB神戸金史解説委員が「最適な一冊」と紹介したのは、今月出版されたばかりの「水俣病闘争史」(河出書房新社、税別2500円)だ。圧倒的な強者のチッソ・国・県は、歴史の審判の前に無残な姿をさらし、戦いに参加した人々の人生がきらめくという。

書評「不謹慎だが、とんでもなくおもしろい」

8月27日の毎日新聞書評欄で作家の池澤夏樹さんが、「不謹慎を承知で言うが、この本はとんでもなくおもしろい」と書いていました。今月、河出書房新社から発売された、作家・米本浩二さんの新刊「水俣病闘争史」のことです。出版を記念して、著者のトークイベントが9月2日(金)午後7時から、JR箱崎駅近くのブックスキューブリック箱崎店で開催されます。

水俣病闘争。「不謹慎を承知で言うと」と池澤さんがおっしゃるように、大変な被害を受けた人たちの物語です。しかし、広くて、深くて、遠くて、うまく理解できない。あまりに大きなテーマです。水俣病を研究した本や資料集などはたくさんあります。しかし、それらは分厚い何冊もの本になっていて、とても持ち運べるようなものではありません。1冊でわかりやすく水俣病のことをまとめられた本はないものか。ということで、米本さんは「自分で書いてしまおう」としたんです。では、何が「おもしろい」のか。池澤さんの書評によると――。

「闘争史、つまり戦いの記録である。一方が強くて悪い奴で、他方はとても弱い。その弱い方が悪逆に耐え、少しずつ支援者を増やし、相手が思ってもいなかった新戦術を次々に案出し、社会を味方につけて、最後には勝利する。(中略)まるで一九六〇年代の東映のヤクザ映画のようだが、ここで助っ人は高倉健一人ではない。何十人も登場するのだ。それ以上に大事なのは弱いはずの側がどんどん強くなること」

水俣病は、チッソ水俣工場の排水に含まれたメチル水銀が魚介類に蓄積して、食べた人が発症していく中毒性の神経疾患です。大変な被害があって、亡くなった方が本当に多い。その悲惨さが大前提。いろいろなことがこの本の中で語られていきます。ドラマは、前段階の大変さをどうやって克服していくか、というのが一つのテーマです。まさか、水俣病をこんなドラマチックに見せてくれるとは思わなかった。とんでもなく面白い、不謹慎だけれども。私も本当にそう思いました。

悲惨の果てに立ち上がる人々の美しさ

作家の米本さんは元々毎日新聞の記者で、かつて私は同僚でした。学芸記者として晩年の石牟礼道子さんを取材して評伝なども書いています。

前半の悲惨さは、本当に腹が立ってきてしまうような内容が書かれています。猫が排液で病気になるかどうかを、チッソの病院で試す。医師は誠実に取り組むんですが、会社はその後病院の検査に協力しないんです。原因は間違いなく排液だとわかってくるからです。

そして、最初は「水俣湾」に排水溝があったんですが、別の排水溝に切り替える。こっちには、水俣湾と比較にならないぐらい広い「不知火海」がある。排水が希釈されるんじゃないかと考えたんだろうと思われますが、被害が格段に広がってしまいました。

大騒ぎになっていく中で、チッソは「見舞金を出します」と言います。ところが「将来、水俣病が排水に起因することが決定した場合においても、新たな補償金の要求は一切行わないものとする」という条項が、見舞金契約にはあったんです。非常に悪らつです。弱い立場の人間はそれを受け入れざるを得ないような状況になっていくんですが、住民が耐え切れずに立ち上がっていくのが、後半の過程になります。

石牟礼道子と渡辺京二の存在

支援者として、作家の石牟礼道子さん、編集者の渡辺京二さんが出てきます。ただ単に市民運動をやっていくだけではなく、ここには歴史的な背景がちゃんとあるんだと、非常に知性の高い2人は考えていきます。

プラスチックの原料を作って戦後の経済発展を支えてきた「チッソ」を、国も県も後押ししているわけです。そこに対して戦うには、正論だけでは無理なんじゃないかと渡辺さんは考えるわけです。

水俣病問題の核心とは何か。金もうけのために人を殺したものは、それ相応のつぐないをせねばならぬ、ただそれだけである。親兄弟を殺され、いたいけなむすこ・むすめを胎児性水俣病という業病につきおとされたものたちは、そのつぐないをカタキであるチッソ資本からうけとらねば、この世は闇である

=1969年4月15日、渡辺京二が書いた手書きのビラより、本文80ページ

普通の市民運動だと、なんとか「せねばならない」とか「断固として!」みたいな言葉が多いんですが、渡辺京二さんは「この世は闇である」と、人の心に届くような、情に訴える言葉を使っていきます。そして、巡礼の白装束を着た人たちが東京から水俣まで遺影を掲げながらカンパのデモ行進をしたり、「一株運動」でチッソの株主になって、株主総会に出席する時も巡礼の姿でご詠歌を唱えたりもする。石牟礼道子さんはこんな文章を書いています。

「みやこには、まことの心があるにちがいない。みやこには、まことの仏がおわすにちがいない。そのように思いさだめて、人倫の道を求め、わが身はまだ成りきれぬ仏の身でございますが、それぞれの背中に、死者の霊を相伴ない、浄衣をまとい、かなわぬ体をひきずって、のぼってまいります。胸には御位牌を抱いて参ります。口には死者たちへの鎮魂のご詠歌を、となえつづけてまいるのでございます」

=1970年11月27日、石牟礼道子が書いたビラより、本文114~115ページ

水俣病の被害自体が世界史に残るような事件だと思いますが、運動そのものも世界史に残るのではないか、とこの本を読んで思いました。ただ単に、こう戦って勝ったではなく、チッソは戦後の日本を支えたもので、私達自身がそこで暮らしてきた豊かな生活を享受するために犠牲になった人々たちの心からの叫び、恨みなどを気持ちとして出していく。彼らの運動は成し遂げていったわけです。こういったことがトータルとして、この本の中からわかってきます。

著者トークショーを9月2日開催

この水俣病闘争史の著者、米本浩二さんが今週末9月2日の金曜日夜7時から、ブックスキューブリック箱崎店でトークショーが行われます。ネットで申し込めます。私も行こうと思っています。これほどわかりやすく、手が届かなかった水俣病の闘争史を手元にくれたということに対し、非常に感謝したいと思います。

 

『水俣病闘争史』刊行記念 米本浩二さんブックトーク

日時:2022年9月2日(金)19時スタート(18時30分開場)

場所:カフェ&ギャラリー・キューブリック(東区箱崎1-5-14)

ブックスキューブリック箱崎店2F、JR箱崎駅西口から徒歩1分

参加費(要予約):2,000円(税込・1ドリンク付)or 4,500円(税込・1ドリンク・書籍付)

※オンライン配信も行ないます。申し込みはこちらから。

「水俣病闘争史」(河出書房新社)

https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309228624/

水俣病を巡る闘争はどのように生まれ、全国的な運動に展開したのか? 渡辺京二や石牟礼道子の知られざるコミットを明らかにしつつ、運動の精神に肉迫する決定版。

「今日ただいまから、私たちは、国家権力に対して、立ちむかうことになったのでございます」――。

最もラディカルで大規模な公害闘争として知られる水俣病闘争は、どのように生まれ、全国的な闘争に展開していったのか? そこには「運動方針の最優先事項は患者の意思である」とし、徹底して裏方に回った渡辺京二と石牟礼道子の存在があった。知られざる彼らのコミットを明らかにしつつ、水俣病闘争が問いかける「精神」を躍動感豊かに描き出す。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、武田伊央、神戸金史
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※放送情報は変更となる場合があります。

いよいよ今夜コスタリカ戦! 了戒美子 現地カタールより直前レポート

 

 ドイツ戦勝利で日本中が盛り上がってきたFIFAワールドカップカタール大会。日本の第2戦コスタリカ戦は日本時間今夜午後7時から。日本が勝って、スペインドイツ戦の結果次第で決勝トーナメント進出が決まります。

 文化放送では大会期間中、現地カタールで取材するドイツ在住のサッカージャーナリスト了戒美子さんが随時レポート。

 今回は日本に敗戦したドイツ、対戦相手のコスタリカ、そして日本の試合前日記者会見の様子です。

 

 

第2戦コスタリカ戦がまもなくです。初戦でスペインに0-7で敗れているコスタリカですが、W杯北中米カリブ予選を4位ではありますがストレートで勝ち抜け3大会連続でW杯に出場する国ですから決して侮って良い相手ではありません。ただ、1次リーグ最終戦にスペイン戦が控えていることを考えるとやはり勝っておきたいことに間違いはありません。

 

ところで、試合前日というのは「前日記者会見」というものが行われます。各国監督と選手1名以上の登壇がFIFA義務付けられており、30分という枠が設けられています。監督と選手は同時に登壇してもよいし、順番に15分ずつなどでも良いことになっています。初戦で日本に負けたドイツはこの前日会見に選手を登壇させず、フリック監督一人のみで会見を行うといういわば奇行にでました。ドイツの練習場は会見場から100キロほど離れており、選手のコンディションを考えてのことだそう。とはいえ、今大会で試合前日会見をここの会見場で行うということはかなり早い段階から決まっており、どこの国もしっかり義務を果たしていることを考えるとドイツの行動は批判されても仕方ありません。FIFAから何らかの、おそらくは金銭的な、制裁が降ることは間違い無いですがドイツの主要スポーツ雑誌であるキッカー誌(名前はキッカーですがサッカー専門誌ではないのです)では「あまりにも無礼だ」と、対外的な影響の面から批判しています。ドイツ人といえば、生真面目で時間やルールにきちんとした人たちという印象がありますが、こんなこともするのだと現地在住の私ですら思いました。それだけスペイン戦に必死なのでしょうけど、ちょっと行きすぎかなと思います。

 

 

当然ではありますが日本も会見を行いました。初戦前日は森保一監督と吉田麻也主将、この日のコスタリカ戦前日会見は監督と遠藤航選手が登壇しました。会見は良い雰囲気で穏やかそのもの、穏やか過ぎてやや眠気を誘われてしまいました(申し訳ございません)。

 

森保監督は会見で「明日のベスト(メンバーで)と考えている。1試合目の疲労も考えて組みたい」と話しました。言葉だけ見ると少しわかりにくいですが、要するにメンバーの入れ替えを行う可能性が高い、という意味です。サッカーでは通常、勝った試合の後は極力メンバーを変更しないものです。森保監督も昨年の東京五輪を見てもわかる通り信頼している選手はほとんど変更しません。ですが今回は、酒井宏樹選手が「現実的には難しい」と話しており、冨安健洋選手も「出るかもしれないし出ないかもしれない」とすっきりしません。すっきりしない場合は「出ない、出られない」と解釈して構わないでしょう。出られるのであれば「頑張りたい」などと話すものです。

この守備の実力者二人が不在と考えて先発を予想すると、GK権田、DF右から山根視来、板倉滉、吉田、長友佑都、中盤に遠藤、守田英正、鎌田大地、前線に右から伊東純也、上田綺世、久保健英となるのではないでしょうか。システムは4-2-3-1か4-3-3、どちらでも対応できるメンバーです。試合中に展開次第で3バックに変える可能性はありますが、立ち上がりは4バックでしょう。最終ラインでは長友を右SBにまわし、左に伊藤洋輝という考え方もあります。ただ伊藤は所属チームでは3バックの左でプレーしておりサイドバックとしては6月にテストもしましたが、少し難しそう。中盤には攻撃的なロングパスを得意とする柴崎岳も可能性がありますが、守田を試しておきたいでしょう。前線は好調!堂安律選手をという考え方もできますが、途中からでもいけるでしょう。また、前線中央にはドイツ戦の前田大然の出来不出来の問題ではなく、プレスをかけるタイプよりはボールを収めるタイプのほうがよさそうです。コスタリカは、スペイン戦では4-4-2で最終ラインと中盤は守備的に引いてきました。ですが時間とともに攻めざるを得なくなるはずですから、タイミングを見逃さず攻撃しなくてはなりません。守備的な相手を苦手とする日本ですが、どうにかこじ開け、逆にカウンターを警戒して勝ち点3を手に入れたいところです。

 

前日記者会見ですが、もちろんコスタリカも行いました。こちらは、ケンケンガクガクと言いますが、記者たちからルイス・フェルナンド・スアレス監督とジョエル・キャンベル選手は袋叩き状態。なぜスペインにあんな負け方をしたのか、次の試合は勝てるのかと。興奮気味のキャンベル選手は「勝てるかどうかは先の話なのでしたくない。ベストを尽くす。日本だってそうだろう」と強い口調で返していました。なかなか激しくて面白い記者会見でした。

 

日本としては、一番良いのはスペイン戦の前に決着をつけることで、その次にドイツがスペインを下したとしても勝ち点6同士で突破争いの第3戦を戦うこと。コスタリカ戦は気の抜けない戦いになりそうです。

 

 

 

Text&Photo

了戒美子 Yoshiko Ryokai

映像制作会社勤務からサッカー取材を開始。五輪は2008年北京五輪、W杯は2010南ア大会から現地で取材。2011年からドイツに拠点を移し、ブンデスリーグ、ヨーロッパで活躍する日本人選手を精力的に取材し、雑誌、新聞、WEB、ラジオなど媒体を問わず活躍中。

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