今月日本で生涯を閉じたプロ野球初のキューバ出身選手バルボン氏を悼む

飯田和郎・元RKB解説委員長

きょう3月30日にプロ野球が開幕する。いまでこそ、福岡のプロ野球ファンは、ホークスを応援するが、かつてこの地には史上最強の球団・西鉄ライオンズがあった。野球ファンでもある飯田和郎・元RKB解説委員長が、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で西鉄ライオンズの鉄腕・稲尾和久投手から本塁打を放った、ある外国人選手のエピソードを披露した。

先頭打者本塁打がなければ完全試合

1956(昭和31)年から、3年連続で日本一に輝いた西鉄ライオンズのスター軍団の中で、一人挙げるとすれば、「鉄腕・稲尾」こと、稲尾和久さんだろう。その稲尾さんの珍記録にまつわる、ある外国人選手の話をしたい。

珍記録が生まれたのは1957年7月6日、ライオンズの本拠地・平和台球場で行われた、西鉄対阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)の試合だ。この日先発した稲尾さんは入団2年目、20歳になったばかりだった。

1回の表。稲尾さんは阪急の先頭打者の外国人選手にいきなり本塁打を打たれた。が、その後、稲尾さんはただの1人のランナーも許さず、完投した。試合は西鉄が2対1でサヨナラ勝ち。先頭打者本塁打がなければ完全試合だった。

記録男・稲尾さんだが、のちに、「ノーヒット・ノーランだけがなかった。まして本塁打の後がパーフェクトだったから、達成したかった」と悔やんでいた。

来日以来68年間日本に住み続けたキューバ出身選手

その先頭打者本塁打を放ったのは、日本プロ野球で初めてのキューバ出身選手、ロベルト・バルボンさん。今月12日、89歳で死去した。亡くなったのは兵庫県の西宮市。バルボンさんは21歳で来日して以来、68年間日本に住み続けた。

1955(昭和30)年3月19日の毎日新聞に、バルボンさんの来日を伝える記事が載っている。

阪急ブレーブスに入団した黒人選手、ロバート・バルボン内野手は18日午後零時5分、羽田着で来日した。身長1.79メートル、体重71.2キロ。右投げ右打ちの二塁手でカナダの黒人リーグで3割4分の好打を放っていた。

キューバのハバナから3日かけての来日だった。日本での生活は戸惑いの連続。当時、遠征先の宿舎は旅館で、バルボンさんは「畳で寝るのがつらかった」とこぼす。また、食べた経験のない和食は口に合わず、チキンライスばかりを食べていたという。

そうした文化や習慣の違いを乗り越えて野球に打ち込んだ。阪急に入団した1955年にパ・リーグ最多の163安打、49盗塁を記録した。のちに3年連続で盗塁王。11年間の現役生活で、通算成績は1123安打、308盗塁。ベストナイン1回。1353試合の出場記録は、2007年に更新されるまで外国人選手最多だった。

バルボンさんはなぜ、日本に居続けたのか? キューバでは1959年に革命が起こり、1961年に社会主義宣言を発した。キューバとアメリカは国交断絶し、航路がなくなってしまったのだ。「日本では数年、プレーするつもりだった」「キューバ革命なかったら、キューバに戻っていた」。のちに本人はそう語っている。

母国に帰れなくなったバルボンさんは、引退後阪急のコーチを務めたほか、球団通訳としても活躍。試合終了後のお立ち台で外国人選手のインタビューを得意の関西弁に訳したことで人気を集めた。

阪神淡路大震災で現役時代の記念品を失う

1997年、朝日新聞のインタビューで現役時代を振り返り、黄金時代の西鉄ライオンズについてこう語っている。

「そら強かったわ。中西さんの打球の速さ、すごかったわぁ、あんな選手、後にも先にも見たことない。ほかにも、関口、豊田、高倉……大下さんかて、現役のバリバリやで。西鉄になんか勝てるわけないわ」

バルボンさんは、一線を退いたあと、子供たちへの野球指導を続けた。明るい性格で誰からも好かれた。阪神淡路大震災では西宮の自宅が損壊、現役時代の記念のトロフィーも壊れてしまった。

それでも、すぐに野球教室を再開した。上手くない子にもほめる、それが指導法だった。「野球を好きになることが大切。細かい技術はその後や。教えられとるのは、私の方かもしれんけど」

先駆者が残した足跡の大きさ

時代は変わった。国際情勢も、外国人選手の環境も変わった。ホークスのモイネロ、昨年まで在籍したデスパイネ、グラシアル。中日のビシエド、日本ハムのマルティネス…キューバ出身の選手も、数多く来日している。一方で海を渡り、新たな舞台に立つ日本人選手も珍しいことではなくなった。

そうやって野球が進化していく。そこには必ず先駆者がいる。バルボンさんもその一人だ。WBCで世界一を奪還し、ペナントレースが開幕するこのタイミングでバルボンさんの訃報に接し、つくづく先駆者が残した足跡の大きさを感じる。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、田中みずき、飯田和郎
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※放送情報は変更となる場合があります。

いきものがかり・吉岡聖恵の歌声は、潔く、美しい。緑黄色社会の長屋晴子がルーツを語る

緑黄色社会の長屋晴子(Vo, Gt)が、自身の音楽のルーツや、楽曲『うそつき』に込めた想いを明かした。

長屋が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』内のコーナー「RECRUIT OPPORTUNITY FOR MUSIC」。オンエアは5月17日(水)、18日(木)。同コーナーでは、アーティストたちの自身の楽曲に込めた想いと、彼らのアーティスト人生に大きく影響を与えた楽曲との出会いの話を通じて、音楽との「まだ、ここにない、出会い。」をお届けする。

「爽やか」だけじゃない、緑黄色社会の“らしさ”とは

愛知県出身の男女4人組バンド・緑黄色社会。長屋のパワフルで透明感がある歌声と、メンバー全員が作曲に携わることで生まれるバリエーション豊かなポップサウンドで人気を博している。2022年には東京・日本武道館公演を実施し、『NHK紅白歌合戦』にも出演を果たした。

そんな勢いのあるバンド・緑黄色社会が5月17日にアルバム『pink blue』をリリースした。今回はアルバム収録曲『うそつき』で表現した自分たちらしさについて長屋に語ってもらった。

長屋:新曲『うそつき』はテンポでいうと、ミディアムバラードになるのでしょうか。そういう曲調は、緑黄色社会としても久しぶりな気がしています。

人と人って例えば、恋愛だったり、友情だったり、いろんな関わり方があると思うんですけど、心を通い合わせたい瞬間って何度もあると思うんです。でもそれがなかなかうまく噛み合わないようなことって、多くの人が経験してると思うんですけど、そういった中での後悔について、この曲は歌っています。ちゃんと心を通わせたいという気持ちだけでは、どうにもすることができないもどかしさみたいなものですね。

緑黄色社会を、『Mela!』という曲で知ってくださった方がけっこう多いと思うんです。そんな中で「緑黄色社会らしさって何?」と聞かれたときに、『Mela!』のような明るい爽やかさだったり、元気が出るみたいなものをイメージされる方がきっと多いんじゃないかなと思うんですけど。緑黄色社会としてはバンドメンバーが全員曲を作ったり、みんなで一緒に曲を作ったりなど、いろんな制作方法をしているというのもあって、私たちらしさってひとつにまとめられないんです。もちろん『Mela!』のように、誰かの背中を押すようならしさもあるんですけど、いろんならしさがある中でのひとつが、今回の『うそつき』だと思います。

『うそつき』は私が作詞・作曲をしたんですけど、ひとりの心情をより深く語っているような曲です。そういった曲だからこそ、より歌詞が届くようにとか、気持ちが入るようなアレンジを心がけています。また、違う緑黄色社会らしさを、この曲で感じ取ってもらえたらうれしいです。

中でも今回は歌詞がより届くように、メロディの動きが少ないサビというのを意識しました。基本的には2音の中をゆらゆら揺れて漂っているような、振れ幅は少ないんだけど、だからこそ歌詞に耳がいくような、そんな曲になるように心がけました。そういった部分に注目しつつ、聴いてもらえたらうれしいです。

緑黄色社会『うそつき』Official Video / Ryokuoushoku Shakai – Usotsuki

吉岡聖恵の「嘘偽りない歌声」と出会った瞬間

『NHK紅白歌合戦』にも出演し、国民的バンドへの道のりを順調に歩んでいる緑黄色社会。そんなバンドのフロントマン・長屋のルーツとなる1曲は?

長屋:ルーツとなる1曲には、いきものがかりさんの『うるわしきひと』を選びました。ちなみに緑黄色社会はメンバー4人いるんですけど、ルーツがみんなバラバラなんですね。なので、今回はバンドとしてではなく、個人的な話としてルーツを選んでいます。

この曲と出会ったのは、小学5〜6年生だったと思います。もともと歌が好きで、ぼんやりと歌手になりたいという気持ちを抱いていたんですけど、そんな中で、アニメの主題歌を担当していた、いきものがかりさんの存在を知りました。それからいろんな曲を掘っていく中で、この『うるわしきひと』に出会いました。歌とギターだけというシンプルな構成から始まって、そこから真っ直ぐで嘘偽りない、(吉岡)聖恵さんのボーカルがパッと飛び込んできて、その潔さというか、美しさに心を打たれました。

曲調や歌詞ももちろん好きなんですけど、特に聖恵さんの歌が大好きです。体全体で歌っているというか、言葉を前に届けようという気持ちで、音楽をしているのが、特にこの『うるわしきひと』って曲で表れているような気がして。この曲を聴いた瞬間にこういうボーカリストになりたいと思いました。曲というより、たたずまいに魅かれたということですかね。「この人楽しそう、見ていて元気が出るって思ってもらえるようなボーカルになりたい」と考えるようになったきっかけが、このいきものがかりさんの『うるわしきひと』です。

今の緑黄色社会の音楽でもそういう部分が出ていると思います。私の歌を聴いて「パワフルだね」と褒めてくださる方がいるんです。それはすごくうれしいんですけど、そういうルーツがいきものがかりさん……もっと言うと、聖恵さんだなって思います。

幅広い層から愛される国民的音楽グループ・いきものがかり。緑黄色社会の長屋も吉岡のパワフルな存在と歌声に魅了されたひとりのようだ。

いきものがかり 『うるわしきひと』Music Video

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アーティストの話を通じて音楽との「まだ、ここにない、出会い。」をお届けするコーナー「RECRUIT OPPORTUNITY FOR MUSIC」は、J-WAVE『SONAR MUSIC』内で月曜~木曜の22時41分ごろからオンエア。Podcastでも配信しており、過去のオンエアがアーカイブされている。

【緑黄色社会 長屋晴子 出演回のトークを聞く】

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・公式ページ
https://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/opportunity/

(構成=中山洋平)

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