“草食男子”生みの親が告白「社会をダメにしたのはあなたたちじゃない」

関西大学特任教授・深澤真紀さん

“草食男子”は若い世代を肯定的に評価した言葉だった―――関西大学特任教授の深澤真紀さんが5月23日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、学生時代から交流があるRKBの神戸金史解説委員のインタビューに答えた。世間では恋愛に対して控えめな男性を指すとされている「草食男子」の生みの親と言われる深澤さんだが、この単語を世に出したことに苦い思いを抱えているという。

「肉食親父」の対義語で肯定的な意味だった「草食男子」

神戸金史・RKB解説委員(以下、神戸):「草食男子」という言葉には、「恋愛に対して何か控えめ」「消極的なマイナスのイメージ」があると思います。命名したのは、テレビでコメンテーターを務める深澤真紀さんです。

 

深澤真紀(関西大学総合情報学部特任教授) 1967年東京生まれ。早稲田大学在学中に、女子学生のためのミニコミ「私たちの就職手帖」副編集長。卒業後、複数の出版社で編集者を務め、2009年に「草食男子」で流行語大賞トップテンを受賞。主な著書に『ダメをみがく』(集英社文庫)、『女オンチ』(祥伝社文庫)など。神戸解説委員の著書『雲仙記者日記 島原前線本部で普賢岳と暮らした1500日』(95年)の編集も担当した。

 

神戸:「草食男子」は、深澤さんが2006年にオンラインマガジンで出した言葉です。大学の同級生である私が、話を聞いてみました。

深澤:神戸さんも私も1967年生まれ、バブル世代の最後の方なわけですよね。バブル世代って、学生時代も働いてからも、「馬鹿」とか「ピーマン」(中身が空っぽ)とかって、団塊世代の人たちから非常に叩かれた若者でした。

深澤:で、「絶対にこういうことはしない!」と、私は強く思っていました。若い女性が働く時、団塊世代の人たちの偏見が非常に厳しくて、「こうはなるまい」「同世代の男性もこうはならないだろう」と思ったら、35歳を過ぎたくらいから男子たちがうれしそうに、「今の若い奴は使えない」とか「女子ばっかり優秀だ」とか。本当にびっくりして、「所詮こうか、男子組は!」「これはいけないな」「何を言ってるんだ」と。「私達の上の世代や、私達と同世代よりも、よっぽど今の若い世代の方が優しいし、優秀だし、まともじゃないの。それこそジェンダー観も含めて」と言ったら、「えー?」という感じだったわけですよ。

深澤:それで、「もてたい」とか「成功したい」みたいな人たちを「肉食親父」、若い時に家族を大事にしたり女性とも友達になれたりフラットな目線がある人たちを「草食男子」と名付けたのが2006年だったんです。

神戸:実は、若い世代をとても肯定的に捉えた言葉だったんです。それが(世間では)全く違う方向に行ってしまっています。2006年に考えた言葉が、流行語のトップテンになったのは2009年。この間にリーマンショックがあって、経済の変動もあった影響があるのかもしれません。

バブル期「女も男並み」 崩壊後は「男も女並み」に

神戸:「草食男子」として定義したのは団塊ジュニア世代です。時代的にどういうことが起きていたのでしょうか。

 

団塊ジュニア世代 第2次ベビーブーム(1971~74年)に生まれた、戦争後のベビーブーム「団塊の世代」の子供たちの世代を指す。大学卒業後は、すでにバブルが弾けていて、就職氷河期に直面した。

深澤:学生の時、先輩に「深澤、男を立てろ」とか「深澤、弁当作れ」とか。「深澤」って言われたから、「神戸」とか呼ぶと、「なんでお前は呼び捨てにすんだ!?」みたいな。そんな女子はあんまりいないわけだから。あなた(神戸)は気にしなかったけど、やっぱ周りの人からは「神戸さんのことを『神戸』って言うのはおかしくない?」って。私は(神戸さんから)「真紀さん」と呼ばれていたから、確かに関係性がおかしかったんだけど(笑) 同世代の人は男性であろうと女性であろうと、中学時代はみんな呼び捨てだったから、「なんで急に『くん』とかって言わなきゃいけないの?」と思っていたけど、先輩たちが「もっとちゃんと男を立てろ」とか、「サラダを取り分けろ」「ビールを注げ」とか、「意味がわからない」と思っていた。ちょうど団塊ジュニアぐらいから、「そういうことを言う人がいることは知っているけど、僕たちは意味がわかりません」と言う人たちが出始めてきたんですよね。

深澤:「オヤジギャル」という言葉がバブル期にあり、「草食男子」以上に叩かれたんです。「オヤジギャル」ってゴルフに行くとか競馬をするとか、今は「女子がそれをして悪いの?」と思うけど、ゴルフ・麻雀・競馬はまさにおじさんたちの楽しみで、「そこに女が来るなんて、なんてこった」と。バブル期に女性が経済力を得たことによって、そういう人たちがワーッと出てきた。ところが、しばらくして経済が悪化してきて、正規雇用から男性が弾かれたり、家族を養うような収入が得られないという時に、「俺たちは男である」みたいな価値観について「本当にそうなのかな?」と思うようになりました。経済がよくなった時に、女性の人生の「パイ」がある程度広がって、男性も「低め安定のパイ」が広がった、というか。

深澤:つまり、バブル期は「女の男並み」ということがある程度喜ばれたわけですけど、就職氷河期では「男の女並み」が許されるようになってきて、こちらの方が意味があったわけですね。「男が女並み」になるということは、上の世代の人たちにとっては、なかなか許容できないものなんだけれども、「男と女が、それぞれの生き方を選んでいい」みたいなことが、ちょうど就職氷河期世代に生まれてきたということですね。

神戸:学生時代からいつも見方が鋭くて、びっくりさせられてきたんです。「女の男並み」「男の女並み」…なるほどな、と思います。

メディアは本気で考えようとしてこなかった

神戸:私は大学1~2年生の間、グループが一緒でほぼ毎日、深澤さんと一緒にいました。キレキレで、言葉がさっと入ってくる。頭のいい人だなと思っていました。テレビにコメンテーターとしてよく出ているのも当然だろうなと思います。2006年に作った「草食男子」という言葉は、若い世代を肯定的に捉えたものでした。「肉食系の親父」タイプと違う世代が生まれてきたことに着目して作られた言葉だったんですが、いつの間にかマイナス要素で語られるようになってしまって、非常に戸惑ったそうです。リーマンショックが2008年にあって、若手の勢いが足りなさすぎるみたいな論調になってきたと思うんですが、メディアがそう取り上げていくたびに「違う、違う」と深澤さんは言っていたんだそうです。

深澤:多分、神戸さんたちも含めて「日本のメディアは劣化した」とか「昔のメディアはよかった」と、この世代は思っている。男性はね。元々日本のメディアはこういう問題について雑にしか考えてこなかったわけです。リベラルな人ほどむしろひどい。「メディアが劣化した」「ジャーナリズムはこんなもんじゃない」と聞くたびに、私は「ちゃんちゃらおかしいわ」と思って。「メディアが劣化した」のでも「社会が劣化した」のでもなくて、元々考えようとしなかった。それは日本の場合、メディアの人とか左派の人とか、リベラルな人すら、こういう問題(ジェンダーや若者)に興味を持ってこなかったわけですよ。そのツケが一気に来て、結局SNSで「人権」って言うだけで笑われるみたいな。大学でも「私は皆さんの人権を守りたい」とか言うと「やばい先生来たよ」って思われる。「あなたたちも、人権が守られなかったら大学なんてありえないよ」って思うけど。

深澤:人権とか少数派の権利みたいなことを言う時に、日本はメディアも政治もそれを本気で守ろうとしていなくて、左派の人たちも自分の興味のある権力との戦い方にみんな夢中になっていて、家庭を無視して権力と戦うみたいな人がほとんどで、「家庭を無視して権力と戦うというのは、どういう意味なんだ?」と私はずっと思っていたけど、今でもそういうことがよしとされるわけですよね。「俺は家に帰ってない」みたいな人がまだまだ威張ったりする社会なので、メディアの劣化ではなくて、メディアが放置してきたものが、こういう「草食男子」みたいな言葉があるとワーって盛り上がったりする。(左派であっても)「入管法は、人権の問題として価値が高い。でもLGBT法はよくわかんない。けど、女のトイレに男が入るんでしょ?」みたいな雑な理解をする人が少なくなかったり、「ジャニーズ? 男同士だし」みたいな。そこを考えようとしてこなかった30年が、日本のメディア、日本の社会なので、そのツケが本当に一気に回ってきたし、きちんと反省している人たちがメディアの中に果たしてどれぐらいいるかと思うと、「ほとんどいないな」というのが私の実感です。この「草食男子」という言葉一つをとってみても、すごくそれを象徴しているなと思っています。

神戸:非常に耳が痛いです。就職して記者になった時、「(深夜)12時前に家に帰らなくていい、いい商売なんだぞ」って言われたことがあります。その先輩は「12時前に仕事が終わったら、時間をつぶして帰る」と。実は私も結婚した時にそれを真似して、12時前に帰らないような生活をずっと続けていました。「人権が大事だ」とか「労働者の人権を守りましょう」とメディアも言いますけど、果たして自分たちのことはどう考えてきたのか、と言われても仕方ないかな、と。そういうことをしてきたから、今SNSなどでワーッと騒がれたりする社会も生まれているし、「ジャニーズ? 男同士だし」みたいな感じでルーズに見逃してきてたことがいっぱいあるんじゃないか、と深澤さんは言っているわけです。メディアで一緒に仕事をしている人たちの大半が男性で、女性が本当に少ない。深澤さんは、男の社会だけで通用している論理で来ていることにずっと違和感を抱いていたんですね。

人権を本気で考えてこなかったツケ

神戸:厳しいなと思う反面、私にとってはずっと「鏡」みたいな立場で、話していると彼女の言葉に僕自身が映るんですよね。考えさせられることが多かった。僕にとってそんな存在だった真紀さんが、自分自身のことも語っていましたので、聴いてみてください。

深澤:私自身が、根っからのリベラルではないんです。非常に保守的で、抑圧的なところがすごく、人を支配したい欲望が子供のころからとても強い人間でした。自分を律するための「孫悟空の輪」みたいなものが、私にとってのリベラル。若者を抑圧したい側の人間なんですね。「放っておいたらお前たちなんか(なにもしないんだから、こちらが命令するしかない)」みたいに思っているからこそ、そこから逃げる方法を教えたい。自分の支配欲みたいなものがわかるから、権力のある中高年の支配欲って、本当にタチが悪い。

深澤:50代以上の人たちが、うれしそうに「このままじゃ日本がダメになる」とか、少子高齢化とか、その国を作ったのは若い世代ではなく、明らかに我々が作ったわけです。「少しは反省しろ」と思うけど、若者を叩いている時だけ、すごく幸せそう。他のアジアの国と、若者と、女性と、性的少数者を叩いていれば、満足。左派の人は「それは右派・保守の人たちだ」と思っているけど、これに関しては左派も右派も変わらない同じタチの悪さがあるからこそ、日本は子供の数も減って、ただひとり経済が悪くて……。それはやっぱり人権を大事にしてこなかった、真面目に人権というものが「人が生きる希望につながっている」と教えてこなかったからで、非常に深刻な問題だと思いますね。

神戸:聴いている方の中には、「そんなにまずいことなのか?」と反発を感じた人もいるかもしれませんが、僕は「今の社会を作ったのは若者ではなくて私達だ」という主張には全面的に賛成で、「若者がダメだから」という意見に与したくはないと思います。

「草食男子」の扱いに見える世相

神戸:社会の行き詰まりについて、若者がどんな風に思っているか。これは本当に深刻なことだろうと思います。

深澤:コロナが明けてから、やっと日本の経済が悪いってことを、みんな認めたじゃないですか。安倍政権のころはアベノミクス、アベノミクスと言って、それで「株がもうかりました」とか、経済を良くしてくれたような印象がすごく流布していたのに、急にここに来て「いや、給料も実は日本だけ30年間上がっていません」とか「円も弱いです」とか「日本は今安い国で、インバウンドで人気です」みたいなことを、やっとメディアが言い出したわけです。私はずっと大学でそれを言っていたんだけど、「なんか本当にそうみたいですね」みたいな。

深澤:学生も、みんな貯金しています。私、大学で教えて10年ぐらい経つんですけど、学生に「なんで貯金するの?」と聞くと、みんな半笑いで「先生、老後のためですよ」と言うんですよ。私、申し訳なくて。私やあなた(神戸さん)が20歳のときに老後のことなんて考えたでしょうか? 年を取ることすら考えてなかったし、日本の社会は右肩上がりでバブル期だったから、給料はずっと上がっていくし、マンション買ったり、車買ったり、軽井沢に別荘ぐらい買えるんじゃないかな、くらいの甘い見込みだったと思うんですよ、80年代ぐらいに学生だった私達は。だけど、それがあっという間に、2000年代に入って、そんなことはもうない。この間も、学生と話していたら「だって先生、私達は年金出ないんですよ」。出ないとは決まってないし、出なくなったら本当に国はまずいけど。

深澤:奨学金の問題もあります。あれは奨学金じゃなくて、学生ローン。だから、「学生ローンって呼べ」とずっと言っているんです。給付型じゃなければ、ローンですよね。40代までずっと返しているわけですよ。それを助ける気持ちが、国にはずっとなかった。「若者がだらしない」とか言って。その象徴が「草食男子」だったわけですけれども。

神戸:真紀さんの話を聞いていて、今の社会が「草食男子」という言葉から見えるな、と思ったんです。変わらなければいけないところが、変わらないまま来ている。若者に対するレッテル張りだったり、人権に対する上っ面な評価や解釈だったり、そういった中で今の若い人たちが非常に困っている時代になっているなら、私達の責任じゃないか。大体、奨学金を利子付で返さなきゃいけないこと自体おかしいですよね。社会に出た時から負債を抱えているわけですよね。

神戸:たまたま、5月21日のNHK『日曜討論』で、大学院生の女性が「今の少子化対策は、全然異次元じゃありませんよ」と政治家に反論していて、それがネットで話題になっていました。「奨学金のことを挙げて、子供を産むなんて考えられない。社会保障はまず、財源をどうするかっていつも聞かれるけれども、防衛費増額で財源は初めに議論されませんでしたよね」と。優先順位が違うんじゃないかと指摘して、かなり話題になっていました。このあたりが若い世代の本音かな、と思いました。

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◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』(2019年)やテレビ『イントレランスの時代』(2020年)を制作した。

田畑竜介 Grooooow Up
放送局:RKBラジオ
放送日時:毎週月曜~木曜 6時30分~9時00分
出演者:田畑竜介、武田伊央、神戸金史、深澤真紀
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※放送情報は変更となる場合があります。

菅井友香、大阪でのファンミーティングを振り返りファンへの感謝を伝える!

サントリー生ビールpresents『菅井友香の#今日も推しとがんばりき』でパーソナリティの菅井友香が大阪で行われた「菅井友香ファンミーティング~Evolution」について振り返りファンへの感謝や、見に来てくれた家族について語った。

「ありがたいと改めて実感した時間でした」-

3月16日に大阪で行われた「菅井友香ファンミーティング~Evolution」について、改めて菅井が振り返った。東京では、1回目でビンゴになってしまうというハプニングもあったが、大阪ではそんなこともなく無事に終わったという。大阪ということもあり、『競馬BEAT』(関西テレビ・西日本ネット)を見てからファンになったという人も来てくれて嬉しかったと語った。

また、イベント終了後の打ち上げの際、スタッフから「菅井さんのファンはあたたかい」と言われたそうで、会場限定の缶バッジが全て完売した際に会場で拍手が沸き起こったり、景品以上にビンゴが出てしまった際にもお互いに譲り合ったりとなんて優しいんだろうと感動したという。

また、菅井の母は東京公演に。父は大阪公演に観覧しに来たそうで、母は菅井に気が付かずに素通りしたり、父は恥ずかしがってお見送りもお渡し会にも参加せずに帰ってしまったと両親からの応援について嬉しそうに語った。

最後に菅井はファンミーティングについて「ミーティングで皆さんにお会いできて、久しぶりの方も初めましての方も、こうして応援していただけてありがたいと改めて実感した時間でした」とファンへの感謝で締めくくった

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