財源どうなる?扶養控除廃止なら「子育て罰」…児童手当の問題点を整理

政府は6月1日の「こども未来戦略会議」で、少子化対策の拡充に向けた「こども未来戦略方針」の素案を示した。児童手当の所得制限を撤廃して、対象を高校生まで広げることなどが柱だが、財源問題は年末に先送りされた。RKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんが、具体的なシミュレーションをしながら児童手当の問題点を指摘した。

「選挙前に負担増の話はするな」解散風で財源問題先送り

予算規模は当面「3兆円台半ば」として、当初見込んだ3兆円からさらに5,000億円ほど積み増したんですが、財源をどう確保するかは、年末の予算編成までに結論を出す、としています。ありていに言うと、「これをします、あれもします」という“いい話”は具体的に並ぶけど、痛みを伴うかもしれない財源の話はぼんやりしたまま。岸田首相は「先送りという言葉は当たらない」と言いますが、これはやはり先送りでしょう。

背景にあるのは、解散風です。早ければ7月、遅くとも秋には衆議院を解散するんじゃないかという観測が強まる中、「選挙前に負担増の話なんかすると票が減る」という与党内の声です。でも、それってごまかし、有権者を馬鹿にした話じゃないですか? 「国民に実質的な追加負担を求めることなく進める」と言うなら、具体的に中身を示すべきですよね。

児童手当をもらっても扶養控除廃止なら「子育て罰」

実は、今回、対策の目玉になっている児童手当をめぐっては、旧民主党政権時代も含めて過去にも「話が違うじゃないか」というごまかしが繰り返されてきた経緯がありますので、まずはここからお話しします。

子ども一人当たり1万円の児童手当は、来年度から対象を高校生まで拡大して、所得制限も外す方針です。3人目の子どもからは3万円になります。

ただ、財務省は対象を高校生まで広げるなら、これまで高校生のいる家庭に認めていた扶養控除を無くすことを求めていて、これについて6月1日の会見では「検討課題」と述べるにとどまりました。もし扶養控除を無くした場合、年収が一定の水準を超えると、月1万円の児童手当をもらっても、かえって手取りは減る家庭が出る――いわゆる「子育て罰」になるからです。

所得制限こそ不平等で時代にも合わない

同じことは過去にもあったので、簡単に児童手当の歴史を振り返ります。日本の子育て支援策は長らく本当に貧弱で、今から半世紀前の1972年に児童手当が導入された当時は、5歳になるまで月額わずか3,000円。それも「3人目の子どもから」というのが、35年も続きました。

それが2005年、女性一人が生涯に産む子供の数=合計特殊出生率が過去最低の1.26を記録してようやく見直され、2007年6月からは、2歳まで月額1万円、3歳から小学6年まで5,000円が支給されるようになりました。ただし、年収が一定額を超えると支給されない「所得制限」付きでした。

「お金持ちまで支給する必要はない」というのは、当時、世論の大勢でもあったんですが、実はこの所得制限自体が不平等なんです。理由は所得の計算方法で、簡単に説明すると、例えば「夫の年収が1,000万円で妻は専業主婦、子ども1人」の家庭は夫の年収が上限を超えるので児童手当はもらえませんが、夫も妻も年収500万円の共働き家庭なら、夫の年収が限度額以内なので満額支給です。世帯年収は一緒なのに、です。これは、そもそもの制度設計が古いためで、共働き世帯が半数を超えた2000年代にはもうそぐわなかったんです。

年少者扶養控除廃止で「逆転現象」起きたまま

それが大きく変わったのは2009年。所得制限なしに中学生まで月額2万6,000円を支給する公約を掲げた旧民主党に政権交代した年です。実際は「財源不足」を理由に、半額の1万3,000円で2010年から支給が始まりました。

ただ、このとき子ども手当の支給と引き換えに、中学生以下の子育て世帯を対象とする「年少者扶養控除」も廃止されました。支給額が公約の半分になったにもかかわらず、です。結果、実はこの時から、年収が一定額を超える家庭では、手当で受け取る額より税負担が増える逆転現象が起きていました。

そして旧民主党政権末期の2012年に、所得制限が復活します。だったら年少者扶養控除も元に戻すのが筋で、実際、年末の総選挙で自民党は控除の復活を掲げて政権を奪還しますが、あれから10年たった今もそのままです。

老親扶養控除との整合性は?

しかも今回、児童手当の対象を高校生まで拡大するにあたって、財政当局が言っているのは「中学生以下の子育て世帯は扶養控除がないのに、高校生のいる家庭だけ扶養控除を残したら不平等になる」という理屈です。

一見なるほどと思うんですが、大きな矛盾があります。例えば「老親扶養控除」です。これは70歳以上で所得の少ない親御さんを扶養している場合に適用される控除ですが、親御さんが公的年金を受けていても年収が基準額に達しなければ控除対象になります。それが、わずか月額1万円の児童手当を支給するから扶養控除は無くすというのは、理屈が合わないですよね。

誤解しないでいただきたいのは、私は決して「老親扶養控除も失くせ」なんてことを言っているのではありません。児童手当に対してだけ、なぜ対応が厳しいのか。所得制限を復活しても年少者扶養控除は10年間も元に戻さなかったのに、所得制限なしに支給対象を広げるとなったら、即刻、高校生のいる家庭まで控除を失くすというのは、筋が通らないと思います。

「手当1万円」でも実質は半分以下に

では、実際に高校生の扶養控除がなくなった場合、家計にはどんな影響が出るのか、です。あくまで概算ですが、例えば夫の年収が400万円、妻が300万円で高校生の子ども1人という共働き家庭では、月額1万円の手当から、扶養控除の廃止で税金が増える分を差し引くと、残りは数千円。

つまり「月1万円支給」と言っても、実質はその半分ほどです。さらに影響が大きい専業主婦家庭で、夫の年収が700万円だと、手当から増税分を差し引くと残りは月1,000円ほど。年収900万円では、手当より増える税金の方が多くて、マイナスになります。これが高所得者への「子育て罰」と言われるゆえんです。

「でも、いっぱい稼いでいるからいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、厚生労働省の「2021年国民生活基礎調査」によると、子育て世帯の平均年収はおよそ700万円です。先ほど言ったように、この年収だと児童手当で1万円給付されても、実質は千円から数千円程度。これで少子化に歯止めがかかるとは、到底思えません。

少子化対策ならば「結婚できない若者」支援を

さらに厳しい現実を言えば、扶養控除の撤廃がほとんど影響しないような収入だと、子どもどころか、それ以前に結婚すら諦める人が少なくありません。これについては、毎日新聞デジタルに示唆に富む記事がありますので、ご紹介します。「少子化対策ならば『子ども支援』より『結婚できない若者』支援」――というタイトルで、家族社会学が専門の、筒井淳也・立命館大学教授が問題提起しています。

「少子化対策ならば『子ども支援』より『結婚できない若者』支援」(毎日新聞)

筒井教授は「少子化のもっとも大きな要因は未婚化・晩婚化だ」として、こう言います。

(若者の)未婚化は、わかりやすく言えば、(生活の安定した)選ばれた人しか結婚できなくなっているということです。結婚できなくて困っている人からおカネを集めて、結婚できている人に渡すようなことをしても、出生率は回復しません。

そのうえで、政治に、こう苦言を呈します。

児童手当の拡充などは、財源問題がクリアできればすぐにできるし、効果があるかないかにかかわらず、政治家にとって実績になります。しかし、雇用の安定のような政策は、総合的、持続的にやって5年後、10年後に成果がでるものです。政治家にとってはアピールしにくいのかもしれませんが、政治家には世論の支持がなくても必要な政策をやる責任があります。

その通りだと思います。

解散する前に与党も野党も財源案を示せ

最後に改めて財源問題です。消費増税は行わない、としていますが、一方で「企業を含め広く負担する『支援金制度』の構築」に言及していて、これは社会保険料の増額=総額およそ1兆円程度と見込まれています。

保険料は所得に応じて計算されますから、もし扶養控除も廃止と重なれば、児童手当より負担のほうが大きくなる世帯はさらに増えます。また会社員の場合、保険料の半額は企業負担なので、「賃上げ気運に水を差す」と経済団体は反対しています。

さらに、「安定的な財源」は5年後の2028年までに確保する、としていて、それまで不足分は「こども特例公債」=つまり借金で賄う方針です。一方で、財政制度等審議会は、少子化対策の財源を「これから生まれる子どもたちの世代に先送りすることは本末転倒だ」と、くぎを刺していて、整合性はとれていません。

耳当たりのいい「歳出削減」にしても、大きいのは社会保障費ですから、医療や介護など暮らしに直結する分野がどう変わるのか、内容次第では将来不安が増して少子化を加速させるおそれすらあります。

もし解散するなら、こうしたことを明確にして信を問うべきで、もちろん野党も現実的な対案を示す必要があります。ということは、解散は、財源が明らかになる年末より後のはずですが…皆さんもぜひ、そこは注視してください。

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