変わるこいのぼり事情 室内化の時代に残す手描き
5月5日、「こどもの日」。
連休中、お出かけ先でこいのぼりを見た、という方も多いかもしれません。ただ、その一方で、昔のような屋根より高いこいのぼりを、家の庭先で見かけることは、ずいぶん少なくなりました。
鯉のぼりは「部屋で飾る」時代へ
そこで、最近のこいのぼりの売れ方について、老舗人形店「株式会社 久月」の代表取締役社長 横山久俊さんに聞きました。
株式会社 久月 代表取締役社長 横山久俊さん
全体的としては、外飾りと言われてる普通の鯉のぼりより、室内用鯉のぼりの方が売り上げが上がっている状態です。都内で言いますと9割が室内用になってます。「鯉のぼりのタペストリー」とかっていう名前をつけてまして。元々の室内用は、外のものを中に入れただけでしたが、それだとちょっとごっついということも言われましたので、少しかわいらしくっていうところでタペストリー型のものを作ってます。色を少しベージュっぽくしたり、今のインテリアに合うようにというものを作っております。基本的にはマンション住まいの方が増えて、特に高層マンションの方はもう物理的に風が強くて外に出せないっていう方もいますので。そういった住環境の変化によって外飾りが減ってきたなとは思ってます。

壁掛けの布飾りであるタペストリー型の大きさは50センチから70センチほどで、鎧や兜の横に飾る方も多いそう。価格は大体3万円から、高いものだと10数万円だそうで、高級感のあるちりめんや、やわらかいフェルトを使ったものなど、室内に飾りやすい工夫がかなり進んでいます。
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一度は途絶えた「江戸手描き鯉のぼり」とは?
このように室内用が主流となっている中、昔ながらの手仕事で作る鯉のぼり「江戸手描き鯉のぼり」を残そうという動きもあります。この江戸手描き鯉のぼりは、大量生産の波に押され、手間もかかり採算が合わないことから一度途絶えましたが、7年前の2019年に35年ぶりに復活させたのが、秀光人形工房の職人で、「三代目金龍」こと金田鈴美さん。現在30代の女性で、先代の「二代目金龍」は金田さんのお父さんです。まずは、この「江戸手描き鯉のぼり」の特徴と、なぜあえて復活させたのか、その思いを聞きました。
秀光人形工房の職人 「三代目金龍」こと金田鈴美さん
江戸手描き鯉のぼりは、型を一切使わずに柔らかい筆で絵を描くように染めていく。柔らかい筆だから筆跡っていうか筆感が布に反映されて、筆跡・筆圧が割とはっきりくっきりわかるような鯉のぼりなんだと思います。鱗にも顔にもヒレにもたくさんキラキラする金を染めているというのも特徴。私自身が入社したとき、手描き鯉のぼりがほとんどなくて。欲しいと思ったお客様は結構いるけど、レアものになってしまってて。欲しいと思ったものが選べる状態っていうのが理想だなと思ったので、自分の価値観に合うような、自分の願いを託せるような鯉のぼりを私達はお客様に提案できるように、そしたら、多分鯉のぼりの文化もうちょっと次に繋げられるんじゃないかなと思ってやってますね。

こいのぼりの作り方は、大きく分けると、お話にあった手描きと、もう一つ、今出回っているこいのぼりの多くに使われている「型染め」があります。型染めは、型を使って同じ柄を次々と染めていく方法で効率よくたくさん作れるのが特徴。だいたい、1日で200匹くらい作れるそう。一方で、金田さんが復活させた「手描き」はその日の気温や湿度を見ながら、にじまないように染料の状態を細かく調整します。こいのぼりは紫外線や雨、風にもさらされるため、色落ちしにくく、しかもきれいに仕上がる染料づくりが欠かせません。


こいのぼりの中では小さい1.5メートルのものでも完成までに5日ほどかかり、この江戸手描きを本格的に作っている職人さんも、全国で金田さんたちの工房など、ごくわずかだそうです。
手描きならではの魅力
では、手間も時間もかかる手描きには、どんな魅力があるのか。再び、金田さんに聞きました。
秀光人形工房の職人 「三代目金龍」こと金田鈴美さん
うちの場合、型染めはポリエステルとナイロンどちらかで染めてますけど、やっぱりポリとかナイロンの方が元気よく泳ぐんです。やっぱり型染めの方が柄がくっきりしていて、かわいらしくって元気な印象なんですけど、手描き鯉のぼりは綿布なので布がちょっと重いんですよね。ゆっくり泳ぐって感じがするので、そういった優雅さだったりとか。やっぱ筆跡がしっかり残るので生命力があるとか。あとは鱗に、金がたくさん入るんですけど、空を泳ぐ時にキラキラ反射しているように、本当に水の中の鯉のような鱗だなって言ってもらえますね。
私も実際に見せていただきましたが、鱗やヒレの金のきらめきはもちろん、目がキョロっとしていて、どこか愛嬌のある顔つきも印象的。遠くから見ても親しみやすい顔がはっきりわかるのも、江戸手描きの魅力だそう。一つ一つ丁寧に筆で描くため、ベランダ用のセットでも20万以上と値は張りますが、それでも、「手描きが欲しい」という声は今もあるそうです。時代に合わせて形は変わっても、子どもを思うこの文化は残り続けてほしいですね。

(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋)
