目の不自由な人を支える「歩行訓練士」の不足が、各地で問題になっています。歩行訓練士は、目が見えない、見えにくい人に、目の不自由な方が使っている白い杖、「白杖」の使い方や、安全に歩くための方法などを教える専門職です。ところが、全国には歩行訓練士がほとんどいない地域もあり、地域によっては訓練を受けるまでに長く待たなければならないケースもあります。
では、福祉施設や医療機関などで、実際に歩行訓練を担っている人はどのくらいいるのか。歩行訓練士の養成も行う、日本ライトハウス養成部 堀内 恭子さんに聞きました。
日本ライトハウス養成部 堀内 恭子さん
歩行訓練だけをやってる者って、とっても少ないんです。今年度の6月ぐらいまでの調査では、実働は198人。そのうち「歩行訓練だけやってるよ」っていう人は、今年度の調査では6人です。他の訓練もやってるよとか、図書館だったら本の貸し出しとか、相談業務、盲導犬の施設だったら盲導犬の訓練とかってなってくると、なかなか訓練に割ける時間的な余裕だとか、訪問になってくると移動時間っていうことも考慮してっていうことになりますのでね。少ない人数で、多岐にわたる業務を回しているっていうところも関係してるかなっていうところですかね。
専任の歩行訓練士が少ない背景には、歩行訓練士を「この施設に何人置く」という国の配置基準がないこともあります。さらに、歩行訓練だけでは事業として成り立ちにくく、ほかの仕事と兼ねている人が多いそうです。そのため、訓練士が退職しても後任を雇わず、その事業所の歩行訓練自体がなくなったケースもあります。実際、堀内さんによると、歩行訓練士がゼロの県が4県、1人しかいない県が12県あるそう。 こうした人手不足の影響は、訓練の受け方によっても違います。福祉サービスとして施設に通ったり、入所して受ける訓練のほか、自治体が委託し、訓練士が自宅近くなどに出向く訪問訓練もあります。長い待ち時間が出やすいのは、主にこの自治体委託の訓練です。自治体によって予算や受けられる回数にも差があります。
では、実際の歩行訓練では、どんなことを教えるのか。日本ライトハウスの施設で通っている方の歩行訓練を担当する、視覚障害リハビリテーションセンターの橋本 武彦さんに聞きました。
視覚障害リハビリテーションセンター 橋本 武彦さん
白杖は、前方であったり左右の確認をして、障害物であったり、自分の身を守るっていう、バンパー的な機能が一つありますが、その他にも、アンテナ機能という、触ってでこぼこしてるなとか。例えばコンビニがあったら「マット」敷いてますよね。「音聞こえるな」とか、「マット触った、あ、ここコンビニ」みたいに、キャッチする、情報収集するっていう機能もありますし。交差点ってわからずに入っちゃうことが一番危ないですよね、まずは交差点って理解ができるかどうかっていう。車の音が近づいてきたなとか、臭いとかですね。そういういろんなヒントを使って交差点に近づいてきて、そっから触って曲がるところを見つけるっちゅう感じですかね。訓練の内容は、その人の見え方や生活によって変わります。橋本さんの場合は、施設の周辺だけでなく、通所している方の自宅近くまで出向いて、最寄り駅までの道や電車の乗り降りを練習します。そして訓練の仕上げでは、後ろから見守り、本当に危険な時以外は声をかけず、一人で歩けるか確認するそうです。
では、訓練を受けると生活はどこまで変わるのか。およそ10年前から視力が落ち、1年ほどで両目とも見えなくなった中島 千恵さんは、当時、お母さんが一緒でなければ外出できませんでした。実は、眼科のある病棟で10年間看護師をしていた中島さん自身も、歩行訓練士の存在を知らなかったそうです。その後、施設でリハビリを受ける中で歩行訓練を始めました。訓練を受けて、外出はどう変わったのか聞きました。
中島 千恵さん
自分1人で歩けるようになると、社会と繋がりが増えていったような感じはすごくあって。自分で歩けないときは母に頼って外出一緒にしてるような感じだったので、母にも窮屈な思いさせてたんですけど。今は私も自由に歩けるようになったので、母にとっても母の時間っていうのが今は大切になってると思います。働いてた病院が復職を待ってくれているんです。そこの通勤経路の練習は結構頻回にしてくれて、それが自分1人で行けるようになったのは嬉しかったです。昔通ってた、20分ぐらいかけて歩かないといけない経路も、自分1人でその道を通って病院まで行けたっていうのは一番嬉しかったですね。歩行訓練受けてよかったって思ってます。
ただ、中島さんも、今でも慣れていない場所へ行く時には「迷わず行けるかな」と不安になったり、大きな横断歩道では緊張したりするそうです。 そんな時、周りの人にできることもあります。中島さんによると、横断歩道で「今は赤ですよ」「青になりましたよ」と声をかけてもらうだけでも、かなり安心するそうです。一方、歩行訓練を受けたいと思っても、相談先や利用方法は地域によって違います。まず、お住まいの自治体の障害福祉の窓口などに相談してください。
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』より抜粋)