音楽プロデューサー・松尾潔が語る、シーンを変えたR&B女性シンガー
TBSラジオで平日15時30分から放送中の「ACTION」。木曜パーソナリティは、羽田圭介さん。
8月27日(木)のゲストは、音楽プロデューサーの松尾潔さん。羽田圭介さんの青春の音楽は松尾さんがプロデュースを担当したCHEMISTRYで、田舎道を自転車で漕ぎながら聴いていたそうです。今日は松尾さんからR&Bの歴史と、シーンを変えたR&B女性シンガーについてお話を伺いました。
羽田:そもそもR&Bとはどんな音楽ですか?
松尾:アフリカ系アメリカ人にとっての歌謡曲と言えるかもしれません。ゴスペル、ジャズ、ブルースなどアフリカ系アメリカ人が生み出した音楽はたくさんあるんですが、その中でも一番大衆的な部分をコンパクトな歌モノの形にまとめたものがR&Bですね。たとえばソウルミュージックという言葉は聞いたことありますよね?リズム&ブルース、ソウルミュージック、ブラックミュージックという言葉が90年代に入った辺りで「R&B」という言葉に統合されていったんです。先ほど「R&Bという言葉の意味を考えたことがなかった」とおっしゃっていましたが、これはアメリカの若いリスナーも同じだと思います。語源は考えていないと思いますよ。90年代の頭にアメリカのビルボードという音楽情報誌が、所謂ブラックミュージックのチャートを「R&Bチャート」と言い切っちゃったんですね。それでリズム&ブルースやソウルミュージック、ブラックミュージックと言っていた音楽が全て「R&B」という言葉にまとまっていったんですね。
羽田:なるほど、言葉によってまとまってしまったんですね。
シーンを変えたR&B女性シンガー①…メアリー・J・ブライジ「Real Love」(1992年)羽田:「R&B」という言葉を聞くと横ノリなイメージがあるんですが、これは縦ノリな感じがしますね。
松尾:これってもともとヒップホップの曲のオケだったんです。それに歌メロを乗せて世に出したものです。それ以前だとR&Bの歌モノとして、こういったアレンジはなかったと思います。ヒップホップってR&Bの子供みたいなものかもしれないけど、子供が使っている新しいガジェットを親世代がイジってみて、その親が草書体で文章を書いたみたいな(笑)そういう折衷が面白いですよね。この曲はやっぱりR&Bの潮目を変えていくんですよね。所謂スムーズでなめらかでうっとりするようなオケじゃなくて、羽田さんのおっしゃった縦の鋭角なビートで、でも歌は伝統的なゴスペルに根ざした歌い方をしているという。この折衷が与えた影響はすごいですよね。極端にいうと、ポップミュージックの作り方が変わったと思います。
羽田:そんなことが92年に起こったんですね…!
松尾:メアリー・J・ブライジによって、女性シンガーと男性ラッパーの組み合わせも普通になってきましたからね。ヒップホップとR&Bの架け橋的存在ですよね。「クイーン・オブ・ヒップホップ・ソウル」と称されて彼女は売り出されて、実際にいろんなヒップホップアーティストとの共演が多いですね。
シーンを変えたR&B女性シンガー②…アリシア・キーズ「If Ain’t Got You」(2004年)幸坂:初めて聴きましたが、懐メロっぽいですね。
羽田:声質は全然違いますが、ナット・キング・コールのような古典っぽさがありますね。
松尾:それはあながち間違いじゃなくて、アリシア・キーズもピアノ弾きの歌うたいなので、それ独特の間口の広さと言いますか、新しい音楽だからといって警戒させない要素はありますね。
羽田:なぜこの曲を選んでいただいたのでしょうか?
松尾:僕はいろんなオーディションやコンテストの審査員をやらせていただくことが多いんです。それで特にこの10年ぐらいは、女性のアマチュアシンガーで「私はR&Bが好きです。それでは聴いてください…」で歌うときに、この曲が一番多いですね。それぐらい、歌自慢やボーカル好きという人たちのハートの真ん中を刺してくる曲なんですね。R&Bってアップテンポのものはビートがどんどん革新されていくんですが、それでも台風の目のように全く動かない点もあって、それはこういった曲のことを言うのかなって思います。新曲を昔からあるように聴かせるというのは数少ない人しかできない芸当だなって思いますね。やっぱりプロデューサーの端くれとして、そういう曲は作りたいなとは思いますね。でも狙おうとするとただの古臭い曲になっちゃうんですよね。
羽田:狙うとそうなるんですね。
松尾:でもちょっと古いものは古く感じちゃうけど、ヴィンテージの価値が出るぐらいまで寝かせると、そこからは絶対錆びつかない魅力になるから、そこの見極めが素晴らしかったのだと思いますね。
引き続き、松尾さんからシーンを変えたR&B女性シンガーについて伺いました。