【スピッツのロビンソン】イントロの長さから見る「90年代とサブスク時代の音楽事情」

毎週、金曜日にお送りする「金曜ボイスログ」(TBSラジオ・金曜朝8時30分~)。

シンガーソングライターの臼井ミトンによる音楽コラム「ミュージックログ」。

10月9日のテーマは…
「ロビンソンのイントロはなぜ凄いのか」


最近、音楽を聞くときって、CDじゃなくてApple Musicとか、Spotifyとか月々いくらいくら払うとどのアーティストのどんな曲でも聴き放題で聞ける、サブスクリプションサービスを利用されている方が多いんじゃないでしょうか。 自分が音楽制作の現場で最近、よく言われることがあって。
「イントロを短くしてください」とか「サビ始まりにしてください」って言われるんです。

あるいは、普通のポップスの曲ってaメロbメロ、サビがあって、ちょっとイントロに戻るみたいな間奏があって、またaメロbメロサビあってその後に大サビ!みたいに行ったりするじゃないですか?その大サビを1番のサビの後に持ってきてほしいとか。


ちょっと無茶なリクエストがあって笑
レコード会社のディレクターの方だったりとか事務所の方とかアーティストが所属してる事務所の方に言われることが結構あるんですよ。

要はサブスクでいろんな曲が並んでいる中で聞かれた時に、なるべく曲の「フック」になる部分であったり「めくるめく展開」みたいなのを早めに持ってきたい。 そうしないと途中で離脱して他の曲に変えられちゃうっていう話らしいんですよ。
本当に?って思って最近のヒット曲を調べてみたんです。

King Gnu の白日は、歌始まりでイントロなし、イントロ0秒で息継ぎのブレスから曲が始まります。

米津玄師さんの Lemon 、アイネクライネ、馬と鹿。これも全部息継ぎ始まりのイントロ0秒。

⻤滅の刃の主題歌の LISA さんの紅蓮華もブレス始まりイントロ0秒。

イントロがないんですよ。今の曲。

さらに、10代の子達にすごく人気のYOASOBIっていうユニット。
ヒットした「群⻘」とか「夜に駆ける」「あの夢をなぞって」、全部0秒息継ぎ始まり。

イントロクイズってあったじゃないですか。昔のバラエティ番組で。イントロ流れて早押し。で誰の曲?みたいな。息継ぎで判断しようがないからもう出来ないですよね、イントロクイズも。

実際、本当にイントロがどんどん短くなってるのかなと思って調べてみたら、今年の夏くらいに Twitter でバズったツイートがありました。

タケイマコトさんという方のツイートなんですけど、それ曰くですね
「インターネット白書読んでくと面白い。サブスクが入り初めて楽曲の前奏(イントロ)が短くなった。1980年代までの前奏の⻑さは平均約20秒。 2019 年に入ると平均なんと5秒!」
だからいかにイントロ0秒の曲が多いかってことですよね


「インターネット白書」毎年出てますけど2020年版をKindle版で買って読んでみたんです。
サブスクの音楽配信サービスだと、最初の5秒、曲が始まって最初の5秒で24%が離脱する。つまり聞いてる人の1/4は5秒で他の曲に移っちゃう。
30秒で35%が離脱。最後まで辿り着く人は50%。
というのデータが出ているんですよね。

こういう情報を数字で実際見ちゃうとサビから始めてくださいってお願いする気持ちももうすごいよくわかる笑

で、しかもこれちょっと裏事情なんですけど、音楽制作やってる側からすると再生されると言っても30〜40秒とか再生されないと楽曲使用料って入ってこないんですよ、作ってる側に。なので、なるべく一番キャッチーなサビを最初に持ってくる頭サビみたいな曲だらけになるって言うのもこのデータ見ちゃうとかなり頷けるなっていう感じなんですよね。
ただ、メディアがそういう風にCDからダウンロードに変わり、ダウンロードからサブスク、ストリーミングっていう風にメディアが変化してゆくタイミングで、イントロがどんどん短くなるというのは実は今に始まった話ではないんですね。
アナログレコードからCDにメディアが変わった時も同じような状況があったんです。
CDが出始めた最初の頃、90年代の初期っていうのはイントロ⻑い曲でまだ結構多くて。
例えばすごく印象的なイントロの曲で小田和正さんの「ラブストーリーは突然に」
エレキのリフから入る曲。
これ、40秒近くイントロがあってかなり⻑いんですね。

レコードとかカセットで、早送りとか頭出しとかができない時代はアルバムの流れに沿って1曲1曲、大切に聞く。
その曲の世界観に入るための導入部、まさにIntroductionをすごく大切にするっていう文化が90年代初期はまだ多分残っていたんでしょう。

90年代の半ばになってくると思うまさにJ-POPバブルと言うか、
ヒット曲は必ず 100 万枚以上売れるみたいな時代が来るわけです。
歌番組も多くて、「HEY!HEY!HEY!」から始まって「うたばん」があって「ミュージックス テーション」あって「カウントダウン TV」「夜もヒッパレ」...
歌番組で他のアーティストと横並びでどんどんどんどん紹介されると曲のフックを早く持ってきたい。となっちゃうんですよね。
あるいはこの時期、大型のCDショップ、タワレコとかHMVといったCDショップでは試聴機がずらっと並んでるわけです。
同じようなジャンルの世界観のアーティストが同じ試聴機に3〜5組くらい入ってザッピングして聞けるわけなんです。
そうなってくると他のアーティストよりもなるべく早く再生ボタンを押した瞬間に耳にフックになるようなものを持ってきたいって言うことがあって、やっぱり90年代のこのJ-POPバブルの時も頭サビっていうのは非常に多くなったんですよ。
先週、鈴木亜美の Be Together かけたじゃないですか?あれも歌始まりだし、篠原涼子さんの「愛しさと切なさと心強さ」とかもサビ始まりだし、あるいは「ウルフルズ」の「バンザイ」、エレファントカシマシの「今宵の月のように」とか。

90年代はただ歌はじまりっていう曲だけじゃなくて、短くても印象的なイントロを持つ曲っていうのもたくさん生まれた時代で。イントロはあるけど短い。そして一発目でグッと惹きつけるような工夫をすごく頑張っていたんだなーっていう苦労の跡みたいな曲が多くて。

僕が、当時一番印象に残ってるのは GLAY の HOWEVER。

ピアノでサビのメロディーを弾くわけなんですよ。サビのメロディーをピアノだったりエレキギター、ストリングスとかでサビのメロディを一旦一通り聞かせてAメロに行くっていうのは非常にイントロの作り方としては常套手段、よくある定型パターンなんです。じゃあ、HOWEVERの何が凄いかって、ピアノがサビのメロディ弾き始めるんだけど途中から TERU さんが歌い始めるんですよ。イントロまだ途中なのにそこで歌い始めるの?みたいな凄い驚きがあったんです。だからこの曲はねイントロ5秒くらいなんだけどすごく印象的なんですよ。
後はね、ゆずの「夏色」とドリカムの「LOVE LOVE LOVE」とか。イントロでグッとくるって曲この当時すごく多かったんですね。

そんなふうにとにかく前のめりになってなるべく早く仕掛けを持っていこう!っていうふうに一生懸命になっていた90年代において、イントロがやけに⻑くてバズっちゃった曲ってのがありました。

僕、リアルタイムで、確か MUSIC STATION だったと思うんですけど、タモリさんに「これ、イントロ⻑くね?」って突っ込まれてて。それめちゃくちゃ話題になった曲なんですよね。イントロって例えばさっき言ったようにサビのメロディーをまるまる聞かせるとかだと決して⻑く感じないわけなんですよ。「ラブストーリーは突然に」もそのパターンなんですけど。今からかけるこの曲のイントロは秒数にすれば34〜35秒くらいなんですけどやけに⻑く感じるのは、何の仕掛けもなく淡々とグルーヴが刻まれていき、コード進行も何かドラマティックな展開があるわけでもなく、誰かがメロディーを弾くってこともない。
「これ今何の時間?」みたいな笑
淡々と16小節が進むんですよ。
8小節終わったら歌い出すでしょってタイミングでも歌い出さないでもうひとまわりいくって言う。
この時代においてこの何の色気も出さないイントロっていうのが非常に話題になって、結果的にこのバンドのキャリアにおける今のところの最大のヒット曲になったという歌。ここで歌い出さないんだ!っていう部分に注目してお聞きください。

スピッツでロビンソン(曲が流れる)

結局何が言いたいかって言うとこの90年のJ-POPバブルの時もそうですけど、「イントロが短ければ売れるのか?」「イントロが⻑いから売れないのか?」って言ったらそんなことはないよって話なんです。

こんなに⻑いイントロでも、35でも、「売れるものは売れる」

今のサブスク時代歌始まりが多いと言いましたけれども、「あいみょん」の「マリーゴールド」とか「オフィシャル髭男 dism」の「Pretender」は30秒くらいのイントロがありますので、そんなに気にする必要ないんじゃないので僕は思っちゃうんですけどね。

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