宇多丸『ジョン・ウィック:コンセクエンス』を語る!

TBSラジオ『アフター6ジャンクション2』月~木曜日の夜22時から放送中!

9月29日(金)放送後記

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のコーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞して生放送で評論します。

今週評論した映画は、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023年9月22日公開)です。

宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜、扱うのは日本では9月22日から劇場公開されているこの作品、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』。

キアヌ・リーブスが伝説の殺し屋を演じる、『ジョン・ウィック』シリーズ第4弾。世界中の殺し屋から命を狙われ、逃亡を続けるジョン・ウィックだったが、自由になるべく反撃を開始する。その頃、裏社会を統率する首席連合の命を受け、盲目の暗殺者ケインがジョン・ウィックの行方を追っていた……主演キアヌ・リーブスの他、ドニー・イェン、真田広之、シンガーソングライターのリナ・サワヤマなどなどが出演。監督は、シリーズ全てを手がけているチャド・スタエルスキさんでございます。私による監督インタビューを、火曜日にお送りいたしました。

ということで、この『ジョン・ウィック:コンセクエンス』をもう観たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「多い」。まあ人気シリーズというのもありますし、この番組ではね、監督インタビューも含めて、大いに盛り上げてまいりましたので、そういうのもあるんでしょうか。賛否の比率は、褒める意見が「およそ9割」。

主な褒める意見は、「見たことがないアクションの連続に驚愕。アクション映画の歴史を更新した」「主演のキアヌ・リーブスはもちろん、ドニー・イェンや真田広之、リナ・サワヤマなどもよかった」「効果的な照明の使い方はアート的。暴力に対するメッセージも良かった」などございました。一方、否定的な意見は、「長い。脚本の粗も目立つ」「魅力的なキャラたちを活かしきれていないし、ストーリーも肩透かしだった」などもございました。

「圧倒的なアクションへの敬意と美意識!」(リスナーメール)

ということで代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「ポスタゴン」さんです。「『ジョン・ウィック』シリーズは毎回劇場に見に行っています。しかし、そこまで思い入れもなく“アクションが面白いから見に行くか~”ぐらいのテンションで見に行くシリーズでしたが……」。ああ、そうだったんだね。シリーズのファンってことじゃないんだ。「冒頭の『アラビアのロレンス』への目くばせと、その次の西部劇的な画作りに、度肝を抜かれました。この時点で“アクション映画史を更新する気だ…”と身構えたのも束の間。大阪編では香港映画と日本映画の血を継ぐドニー・イェンと真田広之の対峙を惜しみなく描く歴史的な出来事を、現代アメリカ映画作品がスクリーンに映し出していることに、僕は震えました。アメリカ映画だけでなく、古今東西、あらゆるアクション映画を全て網羅する気だ…と思いきや、ベルリンパートではジョニー・トーと007の美学を融合させて、クライマックスのパリパートでは、チャップリンやバスター・キートンへのリスペクトはもちろん、更にはマイケル・ベイやアクションゲームの視点まで取り入れ、1カットの長回しによる画作りを中心に、アメリカアクション映画を更新してみせました」。

あとはね、監督が「パリなのは『アメリ』が好きだから」って言っていたりとかね(笑)。他にも、オマージュはめちゃくちゃいろいろ入ってたりするんですよね。すごく映画オマージュが込められた作品でもある。「そして最も感動的なのはクライマックス手前の階段シーンです。ここまでで十分と言えるアクションを提示してきて、そのまま最後の対決に突入しても何も問題ないのに、あえて主人公が“階段を一段ずつ上る”というシーンを入れることに、作り手たちの、ただ単に迫力のある映像を作るとかではない“美意識”を感じました。上映時間が180分近くあると知ったときは“作り手たちのエゴを感じる作品かな?“と身構えていましたが、その正体は圧倒的なアクションへの敬意と美意識による時間で、“これ以上に面白いアクション映画は今後、作られないのでは…”と思える作品で“凄いモンがこの世界に生まれてしまったな…”と思いながら劇場を後にしました」。ああ、オマージュで言うと、あの侯爵が最初にウィンストンたちを呼び出すところの照明というか、光の当たり方の感じは、ベルナルド・ベルトルッチ風だ、とかね。ありますよね。

あとね、「レインウォッチャー」さん。これ、ちょっと抜粋していきますけども。レインウォッチャーさんはとにかく「『ジョン・ウィック』シリーズにおいてアクション以上に強調したい《照明》の魅力が振り切れている、クレイジーな最高傑作でした」ということで。あのね、面白いんですよね。要するに今回の悪役にあたるビル・スカルスガルド演じるグラモン侯爵っていうのがいるんだけども、彼はその、明るいイエローというか、暖色みたいなものがイメージカラーになっていて。

それによって……この方はこう書いている。「このイエロー系の色はどの場面においてもところどころに点在し、逃げ場のなさを想起させます。後半の舞台となる夜のパリでは、そびえるエッフェル塔すら燃えるような金ピカに輝き、七転八倒するジョンを監視しているようです」っていう。だから明るいところほど、ちょっとその逃げ場がない感じに見えるという。で、それが最終的にラストシーンで、その色使いみたいなところも回収されていくよ、みたいな分析を、レインウォッチャーさんは見事にされていて。非常に私も「なるほど!」と唸るような。たしかに『ジョン・ウィック』は照明の、「色」の映画なんですよね。

一方ですね、「Mr.ホワイト」さん。「私は、アクション映画好きなので、当然に本シリーズは好きです。3作品とも劇場で2度観ています。本作は、クライマックス級アクション・シークエンスのつるべ撃ちで、観終わった後も直ぐに作品の全体像が掴めない感じでした。まさにメガ盛り絶品フルコースを食べた気分。アクションの凄まじさ目新しさは言わずもがな、スコット・アドキンスやマルコ・サロール……」。敵方のチームの、一番でかい用心棒みたいな人。

「……といったアクションスターも、その強さを実感できる活躍振りで満足しました。しかし、やはり169分は長いです。同じ動作の反復が目立ち、編集の潔(いさぎ)の悪さが目立ちます。全てのアクション・シークエンスの尺は、その半分くらいで丁度良かった(階段は別。あそこは長さに意味がある)」……ねえ(笑)。さすがにこうおっしゃっている。で、いろいろ書いていていただいて。「長いと脚本も粗が目立ちます」と書いていただいて。「私的には『パラベラム』位の尺だったら、年間ベスト10級言っていたでしょう」というようなことおっしゃっています。はい。まあ、ストーリーの粗だの何だのっていうのはね、もちろんね……僕はこれ、つまらないとか退屈っていう人が一定量いても、全然おかしくない作りではあると思っています。はい。

ということで皆さん、メールありがとうございます。私も『ジョン・ウィック:コンセクエンス』、まず監督インタビューの前にも一足先に観させていただいたりとか、あとはバルト9でドルビーシネマ……もう色も音もビッキビキで、最高でしたね! ドルビーシネマね。それで観てきたりとか。計、通しで4回は見てるかな? 最低でも。みたいな感じですね。『ジョン・ウィック チャプター4』です。

ミュージカルとも近い「格闘系アクション」の現状最先端・最高峰!

まずですね、ちょっと本題に入る前に……「アクション映画」と一口に言いますが、大きく言って二つの系統というか、要素があると思っておりまして。

ひとつは、これは僕なりの表現ですが、「追跡・移動を描く、サスペンス系アクション」……要は、「ハラハラドキドキさせる」方向のアクションですね。たとえばその方向としての現状最先端・最高峰に、近年のトム・クルーズ映画、『ミッション:インポッシブル』シリーズなどがあったりすると思います。

一方で、その追跡・移動を描くサスペンス系アクションに対して、「格闘系・マーシャルアーツ系アクション」っていうのがあって。これは香港……まあチャンバラも入れるなら日本も含めたアジアで、主に発達してきた方向性、と言えると思うんですね。

で、もちろん両者はパックリと完全に分離してるわけじゃなくて、前述したサスペンス系の中に格闘が入ってきたりもするんだけど、特に後者、格闘系アクションというのは、やっぱりそっちに特化した作品が多くて。むしろミュージカルに近い……つまり、演者の卓越した、常人離れしたワザ、それ自体を愛でるものになっていく、という。これ、私の過去の映画評の中でもちょいちょい言ってきたことなんですけども。格闘系アクションはミュージカルに近い、という。

で、とにかくその格闘系アクションという方向、ミュージカル的アクション、その現状最先端・最高峰を突っ走っているのが、スタントチーム会社「87Eleven」。中でもその代表作たる『ジョン・ウィック』シリーズ、ということなんですね。

87Elevenを率いる、今回の監督も務めてます、チャド・スタエルスキさん。無論、スタントマン出身なわけです。火曜日に私、2度目のインタビューをいたしました。ぜひですね、1度目の、前回の『パラベラム』のタイミングのインタビュー、2019年10月7日オンエア分と合わせて、ポッドキャスト等で……あとはそのみやーんさんの非公式書き起し(笑)もあったりしますんで。ぜひ、ちょっと参考にしていただきたいんですが。

ちなみにチャド・スタエルスキさん。スタントマンになる前は格闘家でいらっしゃって。そのへんに関してはですね、さすが、『ゴング』のインタビュー記事が非常に詳しいので。こちらもぜひぜひ読んでいただきたいと思います。

すべてが「格闘化」される独自の「ネオンノワール」世界

で、『ジョン・ウィック』シリーズ。特に2017年の『チャプター2』から、今に至るシリーズの特徴が、完全に確立された、という感がありますね。いま振り返ると、一作目はまあまあ普通っぽい映画、っていうね……まあ普通じゃないけど(笑)。たとえば鈴木清順『殺しの烙印』とも通じるような、独自の、いわば「殺し屋中心主義」的な世界観。殺し屋にランキングがあったりするようなね……『殺しの烙印』というのはそうなんですけど、殺し屋中心主義的な世界観であるとか。

その「もうひとつの世界」感というのを強調する、通称「ネオンノワール」というね……ネオンノワールって、ぴったりな言葉ですね。ネオンノワール的な、人工的なルック。たとえば、バキッとした黒……ノワールなんで当然、黒はバキッと立ってるんですが、そこに、シンボリックな青×ピンクとか、今回はさらにいろんな色を使っていて。緑×オレンジとか、ビッキビキの色彩が配される感じ。で、これはその、二作目から組んでいる撮影監督、ダン・ローストセンさんの手腕も大きいんじゃないかと思います。ちなみに2014年の一作目のカメラマン、ジョナサン・セラさんという方は、チャド・スタエルスキの旧コンビ、一作目を一緒に監督した、デヴィッド・リーチさんの方について……『アトミック・ブロンド』、そしてまさしくネオンノワール路線な『ブレット・トレイン』を手掛けている、ということですね。まあとにかくその、人工的でポップなルックというのが、非常に確立されてたりとか……特に「2」からね。

あとは、素手やナイフでの戦いのみならず、ガンアクションやカーアクションまで、全てを言ってみれば「格闘化」……銃とか車まで「格闘」にしちゃうっていうね。そんなことをしてみせたような、「リアル性」と「ファンタジー性」の両面を高めた、新時代的なアクション表現、アクション構築、っていうことですね。

まず「リアル」面の話で言いますと、たとえば銃器に関するリアル面で言うと、「2」から参加しているタラン・バトラーさんという、一流シューターであり、カスタムガン・メーカーの社長であり、シューティング・インストラクターであり……という超有名な、要は銃に関するプロ、というのを呼んできて。詳しくはこれ、『月刊Gun Professionals』2023年10月号の、『ジョン・ウィック』の銃器周り特集が本当に面白いんで、こちらもおすすめなんですけど。とにかくその、タラン・バトラーさんが参加したことによって……そしてそのタラン・バトラーさんのシューティングレンジに、とんでもない量のトレーニングを積みに行っているというキアヌ・リーブス。プライベートでも行きまくってるというキアヌ・リーブスさんによって、最新の銃描写、その説得力、というのがもたらされていたりとか。

当然、格闘シーンというのも、一時期流行ったみたいな、やたらとカットを割ったりとか、カメラを揺らしたりとか、あとは再生速度をチャカチャカッて早回ししたりとか、スローモーションを混ぜたりとかというような、そういう小細工を極力しない、ごまかしのない撮り方、見せ方をしていたりとか。これは「リアル」方向。

一方、同時にファンタジー性という意味ではですね、まずさっき言った、極めて人工的なルックですよね。これはだから、照明とか撮影、美術、衣装に至るまで、徹底された人工的なルック、というのももちろんそうだし。劇中のですね、「防弾技術」っていうのが、回を追うごとに高まっていることによってですね……さっき言った「ガンアクションの格闘化」というものがさらに進行もしているわけですけど。とにかく1発や2発撃たれたぐらいでは死なない(笑)、っていうのがもはや、デフォルトの世界になりつつあると。ここは突っ込みどころ、という風に捉える方もいらっしゃるでしょうが、僕は、「銃撃戦」シーンなるものが陥りがちな単調さ、呆気なさみたいなのを乗り越えるための、ひとつのアイディアだと思っています。

寓話化、アート化してゆく「殺人組手マラソン」

あと、さっき言った殺し屋中心主義的な世界観、そこを支配しているらしい独自ルール。その理不尽さがもう、回を増すごとに増してるんですよね。納得できねえ! みたいな(笑)。これはですね、これは僕の見立てですけど、チャド・スタエルスキさん、インタビューとかを読んだりとか、ご本人にお話を聞いたりとかすればするほど、我々の想像以上に、日本映画をよく観ているし、日本の文化にもすごく通じてるんですね。なので、僕の見立てでは……ジョン・ウィックは一種の「侍」であると。これはインタビューでも、要するにだから彼の持つ特製銃というのは、彼にとっての「刀」なんだって、侍にとっての刀なんだって、インタビューでおっしゃってましたけど。

で、ジョン・ウィックが侍なのだとしたら、この理不尽なルール、掟と義理に縛られてる感じっていうのは、日本の時代劇における、封建主義をトレースしたものじゃないのか?っていう風に、僕は見立てています。要するに、『忠臣蔵』でも何でもいいですけど、非常に理不尽なことを言われますよね? そういうやつじゃないかな、みたいに思います。「切腹しろ」とかね……あるいは、ヤクザ映画で「指詰めろ」とか。(実際『ジョン・ウィック』シリーズ内にも)指詰めシーンがちょいちょい出てきたりとか、っていうことですよね。

とにかく『チャプター2』以降は、世界にいるほとんどの人は、何らかの形でこの殺し屋組織に関わっているんじゃないか?というぐらい(笑)。で、そのみんなが俺を殺そうとしてるんだ!的な、ほとんどパラノイア的な……もしくは「2」評の中でも言いました。これ、2017年8月12日にやりました。書き起こしもあります。「2」の評の中でも言ったように、全ては脳内の妄想のようにすら見えるような、という感じですね。そんな作りになっている。

それを裏付けるかのように、これは一作目からそうなんだけど、毎回入ってくる「クラブ」シーンというのがありまして。目の前で人が殺されてるのに、一般客の反応が、端的に言っていつも、なんかビミョーなんですよね(笑)。要は、「普通の社会」っていうのは劇中ほぼないことになってるぐらい、もうほとんど描かれないわけです。感じられないわけです。普通の社会というものが。

ということで、特に「2」以降は、とにかくジョン・ウィックが、襲いかかってくる様々な刺客を、その都度様々な方法で返り討ちにしていく、というのが延々続く、という……言ってみれば「殺人組手マラソン」状態に、どんどんなっていっている。特に前作『パラベラム』とかは、ほとんど話は進んでません!(笑)みたいな感じになっている。

で、そこをもって「退屈だ」とか「ダメ」とかっていう意見も当然、あってしかるべきだと思いますが。ただ僕は、その異常さ、ヘンさこそが素晴らしい!という風に思っておりまして。要は、悪夢の中を……「うまく前に進めない」もどかしさ込みで、ひたすら進んでいくような。一種の「地獄巡り」物、ということですね。

なので、この異常にアイディア豊富なアクション、暴力描写というのは、通常のジャンル映画のように、爽快感を楽しむものじゃなくて……その、「暴力という業」を巡る寓話、監督がよく引き合いに出す、ギリシャ神話的な因果を描くためのものであって、ということ。同時にそのアクションそのものをアート的に愛でる、まさしく「アートアクション」と呼ぶべき、唯一無二の領域に入ってきている、ということだと思います。そして、唯一無二かつ、常にフレッシュなK.U.F.U.(工夫)と進化を続けている何か、というのは、僕にとっては、無条件で寿ぐべきもの、ということなので。私はもう全面的に支持!という感じでございます。

『アラビアのロレンス』を「編集」込みでオマージュしたOP

さて、今回の『チャプター4(コンセクエンス)』ですけども。ちょっと前置きが長くなりましたけれども、上映時間、2時間49分。その大半がですね、クッタクタになりながら戦い続ける(笑)というところなので、観てる側も間違いなくグッタリする。これですね、『BANGER!!!』でのギンティ小林さんによる監督インタビュー……さすがギンティさん、これはさすがの内容でした。前述したようなギリシャ神話的な構図というのを際立たせるために、観客にはちょっと「長いな」と感じ、キアヌ・リーブスと同じぐらい疲弊してほしかった、って言っているんですね(笑)。ということで、見どころを順に、時間の許す限り話していきたいと思いますが。

まず、火曜日にオンエアーしたインタビュー内でも、僕ね、ちょっと熱っぽく語ってしまいましたが、オープニング。先ほどのメールにもありました、『アラビアのロレンス』オマージュ。もちろんロケ地が実際に、同じヨルダンのアカバでロケしてる、とかいうのもそうなんですが……何しろあの、「編集」ですね。(『アラビアのロレンス』の)デヴィッド・リーン監督は、編集出身なので。あの有名な、マッチの火をフッと吹き消した瞬間に、パッ!と砂漠に移って……という、あのパッと切り替える、映画史上最も有名なジャンプ的編集、みたいなのがあるんですが。もう一個有名なのは、『2001年(宇宙の旅)』でしょうけども。あれをオマージュしている、「編集をオマージュしている」というところもすごいですし。

そして、その地平線の向こう、太陽を背にした、四人の影が寄ってくる。これは、『アラビアのロレンス』で言う、オマー・シャリフが向こうからやってくるところのオマージュでしょうけども。四人の影……これは当然、『チャプター4』でもあり、監督のインタビュー曰く黙示録の四騎士であり、そして日本語で言うところの「死(四)」だ、っていうね、そんな感じですね。こんな感じで……そのオマージュの入れ方が、なんていうか無邪気な感じ、っていうのは、ちょっと『ハイロー(『HIGH & LOW』シリーズ)』っぽくもあるんですね(笑)。

でですね、今回も、大変理不尽なことを強いてくるエラい人、というのが出てくる。侯爵というのが出てくる……こんな組織は絶対に長続きしねえ!というのが私の持論ですけども(笑)。あの、ビル・スカルスガルドさん。『IT/イット』のペニーワイズ役ですね。あの目が、やっぱりすごい特徴的ですよね。で、『ジョン・ウィック』っていうのはちなみに、「スーツ映画」でもあるんですよね。衣装も、すごい凝ってる作品でもあって。今回で言えば、たとえば侯爵のスーツ。なんかキラキラした生地とか、ちょっと模様が縫い込まれていたりとか、シックなんだけど非常に華美なスリーピース……しかもスリーピースのベストもダブル、っていう、ちょっとトゥーマッチな感じの服を着てる、っていうね。このように、衣装が表すキャラクター、というのも見どころのひとつでもあると。

ジョン・ウィックの本質を象徴する「かっこ悪い」ヌンチャク使い

そしてですね、最初のある種本格的な舞台となるのが、大阪……といっても、この『ジョン・ウィック』の劇中で描かれる他の都市同様、現実の日本の大阪とは、まあ違う世界線でございます。これ、「ヘンな日本描写」っていうけど、他のも全部、ニューヨークも何もかもがヘンなんで(笑)。『ジョン・ウィック』はこういうもんだ、っていうことですね。本来ですね、前作のゼロ役に予定されていた、我らが真田広之であるとか、リナ・サワヤマさんであるとか……ちなみに、真田広之さんの役名コウジっていうのは、ファイトコレオグラファーとして参加されている川本耕史さんから取ってますよ、とか。あとそのリナ・サワヤマさんのスタンドダブルとして、『ベイビーわるきゅーれ』の伊澤彩織さんが出てますよ、とか。BGMとしてGAGLEのHUNGERの曲が使われてますよ、とか。やはり我々的にはアガる要素……これ、監督インタビューでも答えていただきました、そんな要素が満載なのですが。

そのインタビューの時もね、言及していましたけれども、たとえば桜の象徴的な見せ方などはですね……まさに「抽象的アクション」ですね。さっき言ったその抽象的アクションというのの先駆として、世界的にも知られる鈴木清順作品。特に海外で有名な『Tokyo Drifter』こと『東京流れ者』ね。ニコラス・ウィンディング・レフィンも非常に影響を受けたと言ってる『東京流れ者』とか、そういうものをもちろん感じずにはいられないし……という感じで、ネオンノワールとしての美しさが、非常に堪能できるくだりなんですけど。

この大阪のくだりですね、いろいろある中で私、ひとつ特筆したいのは、ジョン・ウィック、ついにヌンチャクを持つ!のくだり。ここがこのシリーズらしいところで、先ほど金曜パートナーの山本匠晃さんも言ってた通り、クッタクタで、疲れきっていることが『ジョン・ウィック』のキモなので……ヌンチャク使いが、全然華麗じゃないんですよね(笑)。本当に無骨に、棍棒みたいに振り回して、うんざりしたように何度も何度も叩く、みたいな。これ、褒めているんだけど、あんなかっこ悪いヌンチャク使いって、なかなかしないっていうか。それがジョン・ウィックの必死さというものを際立たせている。この、ある種の無様さ、必死さこそが、ジョン・ウィックというキャラクターの味であり、なんなら本質でもある、ってことですね。

格闘アクション界のフレッド・アステア、ドニー・イェン!

で、それと対照的なのが、この大阪シーンから本格的に暴れ出す、言わずと知れたドニー・イェン演じる、ケインという刺客。まさにこのドニー・イェン……映画的ケレン、ファンタジーと、そのリアルさ、説得力ですね。その(狭間の)、なんていうかキワキワを狙える、もう手練れ中の手練れ。もう、「映画的格闘」のキモを知り尽くした人です。これもインタビューの中でも触れましたけど、あの、手をグルグルグルッて回してダーン!ってやるとか。あんなことをやってコミカルにならないなんていうのは、すごいことなんですよね。だから、キワッキワを攻めてくる。

あと、たとえばチャイムを使った位置確認作戦とかもですね、要はこれ、盲人役、目が見えない人役なんですけど、その目が見えないっていうのと、でも超人的に勘がよくて、もう当てずっぽうでガーン!って撃った方に行ったりとか、見えてないんだけど、見えてる級に勘がいい……でもやっぱり見えてない、みたいなところの線引きとかバランス感が、すごい絶妙で。ひとしきり暴れた後に、「ええと、どっち?」みたいになったりしているところが、すごい絶妙で。

もちろんこのケインさんね、座頭市がベースではありますが、ドニー・イェンなりのアレンジで、より洒脱な人物にアレンジされていったそうで。僕がさっき言った、格闘アクションとミュージカルの相似性、という部分で言うならば、言ってみれば「格闘アクション界におけるフレッド・アステア」の域に、本作のドニー・イェンは本当に到達しつつあると思います。

「どうやって撮ったの?」の連続

事程左様に今回は、そのケインと、シャミア・アンダーソンさん演じるトラッカー(追跡者)、Mr.ノーバディの、前作のハル・ベリーに続いての「犬アクション」なども含めてですね、追跡者側のアクションスタイルっていうのも、並行して混ざってくるので。殺人組手マラソン、バリエーションが非常に豊かになっております。

あと、ベルリンではね、スコット・アドキンスが特殊メイクで、言ってみれば「動ける(バットマンのヴィラン)ペンギン」となり(笑)。ポーカー対決があったりして緩急もついたところで、毎度のクラブシーン……今回は何しろ、「水」ですね。ちょっともう、雨が降っているようにも見える。これ、石井隆ノワール風でもあるなと思って……これ、監督に聞き忘れたところ!「石井隆ノワール、観てますか?」っていうね。

ただ今回、さすがに客の反応のビミョーさ、ヘンさが、ちょっとかなり極に達しつつあるっていうか(笑)。平気なのか怖がっているのか、どっち?みたいな感じがちょっとありますけども。

で、普通の映画なら第三幕となるであろう、つまり普通だったら全体の4分の1ぐらいを使ってやるだろう、パリ・サクレ・クール寺院に向かっていく、映画『ウォリアーズ』オマージュあふれる苦闘、そして決闘、というのが、だいたい全体の3分の1強ぐらいあるんですね(笑)。ちょっと、すごいボリュームがある。しかしですね、たしかにここ、とんでもない見せ場に次ぐ見せ場で。

まずですね、例によってローレンス・フィッシュバーンから授けられる、今回の「聖剣」こと今回のヒーローガン、タラン・バトラーがデザインした「ピットバイパー」カスタムですね。これ、「接近戦になるとこいつは怖いぜ」なんて言ってるようにですね、先端が尖った形状というのが、後半でちゃんと生かされてくる。

そしてそこからの、凱旋門周りのラウンドアバウト……この凱旋門周りのラウンドアバウトを使ったアクションは、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』でもやってたけど、こちらは、なぜかまるっきり止まらない車たちと(笑)格闘ガンアクションの組み合わせ。つまり、リアルとファンタジーの共存っていうのが、非常に複雑に組み合わさったアクション。「どうやって撮ったの?」の連続ですね。あと、ここはやっぱりキアヌ・リーブスの、運転技術ですね。ドアがもう開いた状態で、キキーッ!と正確に止まったりする。

あと、アパートの銃撃戦。ゲームの『THE HONG KONG MASSACRE』にインスパイアされたという、上から俯瞰したショットで続く、長回しワンショット。実在する「ドラゴンブレス」というショットガンの弾を使った、炎の効果。そしてやっぱり、ワンちゃんが絡んでくる、という複雑なフォーメーション……まさに抽象性とタクティカル、そして技術の積み重ねというのが集大成された、このラウンドバウトのシーンと、そのアパートのシーン。

さらに最後に控えしは、やはりその、サクレ・クール寺院前、220段の階段アクション! ここはですね、階段を下から見て右側から、基本カメラが動かないようにして。あえてカメラワークを比較的単調に保つことで、この長い長い空間感というのが、非常に明確に体に刻まれるようになっている、ということだと思います。そういう見せ方に徹している。

そして、間違いなく映画史上最長の、度を越した階段落ち(笑)……からの、さらにとあるきっかけで、再び(戦闘が)加速していくと。ここ、再び加速していった先に、あのマルコ・サロールさん演じる、今回の一番の、実力的ナンバーワン悪役に対する、きっちり「タメ」を作った落とし前のところまで、やっぱりこう、リズムがいいんですね。すごく物量で勝負してる映画に見えるけど、大事なところでは、タメて……決めゼリフでドン!とか、タメて……倒して決めセリフ!とか、リズムがちゃんとしている。

シリーズで最も溜飲が下がる、マカロニウェスタン的勝敗ロジック

からの、サクレ・クール前での、朝日を浴びながらの決闘。言うまでもなくこちらは、音楽といい、そして勝敗のロジックといい、完全にセルジオ・レオーネイズム。マカロニウエスタンイズムですね。特に、最終的な決着のつけ方。やはりこれ、タメ……からの決めゼリフ!がバシッと決まって。シリーズ中、最もしっかり溜飲が下がる決着となってるんじゃないでしょうか。

とりあえずひと区切りがついた本作ですが、Amazon Primeで今やっている前日譚『ザ・コンチネンタル』。非常に見応えがあるシリーズなんで……これ、本当しっかり『ジョン・ウィック』していて。今回の『コンセクエンス』ラストのとあるセリフが、「これ、ひょっとして伏線?」っていう感じもするようなシリーズになっていて。とにかくアクション映画の、つまり映画の歴史を、またひとつ大きく更新したシリーズなのは間違いない。『デッドレコニング PART ONE』とは対照的ながら、やはりアクション映画の今、また別のラインの最高峰、最先端……同じ年に、リアルタイムで目撃するということが大事です。ぜひ皆さん、劇場で……ドルビーシネマがおすすめでございます。ぜひ劇場で、リアルタイムでウォッチしてください!

あの、アパートでの銃撃戦で、Mr.ノーバディが、咄嗟にリュックをこう前にガシャッ!と回して防御する、みたいなあれも、すごく新鮮でしたね。

(次回の課題映画はムービーガチャマシンにて決定。1回目のガチャは『コカイン・ベア』。1万円を自腹で支払って回した2回目のガチャは『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』。よって次回の課題映画は『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』に決定! 支払った1万円はウクライナ難民支援に寄付します)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

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サンタの衣装はなぜ赤色? 靴下にプレゼントを入れるのはなぜ?「クリスマス」にまつわる疑問に迫る

放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。12月3日(日)の放送は、クリスマスカード・切手収集家の木村正裕(きむら・まさひろ)さんをゲストに迎えて、お届けしました。


(左から)小山薫堂、木村正裕さん、宇賀なつみ



◆もうすぐクリスマス…日本と海外では祝い方が全然違う?

小さい頃からクリスマス好きだった木村さんは、6歳頃からクリスマスに関して自ら勉強するように。なぜなら、昭和40年代当時というと「日本でクリスマスをお祝いする文化が家庭のなかに入ってくるタイミングだったんです」と木村さん。

「実家では小さなクリスマスツリーを出してパーティーをやっていて、私が進行表を書いて、自分で司会をやって、それでクリスマスパーティーみたいなものを企画したのが最初の記憶ですね」と振り返ります。

クリスマスカードにはさまざまな絵柄があり、そこにはクリスマスアイテムが描かれているものもあるなか、「日本で作られているクリスマスカードと、ヨーロッパやアメリカで作られているクリスマスカードは根本的に絵柄が違うんですね。私が持っているクリスマスカードで面白いものは豚がたくさん描いてあるもの。クリスマスカードで豚が出てくる頻度って実はすごく多いんですよ」と木村さんからは意外な言葉が。

これに小山が「なぜなんですか?」と興味を示すと、木村さんは「クリスマスのときに豚を食べる習慣がある国が多いんです」と回答。さらに、「もともとは、冬の間に食料が少なくなってきて、秋に豚をハムなどの保存食にして取っておいて、クリスマスの時期に大切な食料をバーンと出してみんなで無礼講で食べる、という背景があります」と説明します。

そうした背景がある国のクリスマスカードには「豚がたくさん出てきたり、かわいい女の子が豚を抱えてにっこり笑っていたりします。“その後、この豚はどうなるんだろう?”って考えてしまうようなものとかもあります(笑)」と木村さん。


木村さん所有のクリスマスカード「贈り物を持つクリスト・キントとブタ」(スウェーデン 1907年使用)



そのほかにも、「馬の足に履かせる馬蹄(ばてい)ですね。幸運の印なので(カードに)描かれていたり、そういったクリスマスのアイテムが描かれることは結構ありますね」とクリスマスカードにまつわる話が次々と飛び出します。

続いては、サンタクロースの話題に。小山が「サンタの衣装が赤いのは、コカ・コーラの広告だったっていうのはよく聞きますけど、あれは本当なんですか?」と質問すると、木村さんは「その要素も多少はあると思いますけれども……」としつつ「俗説ですね」と明言。

というのも、「その前にも赤い衣装のサンタクロースはいたので。そのなかでコカ・コーラが赤い衣装のサンタクロースに目をつけて、大々的に宣伝をしたのだと思います」と見解を示します。

木村さんいわく、赤色だけでなく、他の色を着たサンタも昔にはいたそうで「私が持っているクリスマスカードだと、緑色の格好をしたサンタクロースとか、灰色の膜みたいなものをかぶっているサンタクロースとか、いろいろなサンタクロースがいますね」と話します。

さらに小山が「(サンタが)煙突から入って靴下にプレゼントを入れるというのは、誰が?」と尋ねると、「もともとの物語の1つとしてあるのは、セイント・ニコラスという昔の聖人がいまして、いろいろな奇跡を起こす人と言われているんですけど。貧しい家庭に適齢期の娘さんたちがいて、その人たちの婚姻のためのお金が足りないというので、夜にそこの家を訪ねて、開けっぱなしの窓からポンと金貨を投げたら、吊るしてあった靴下の中に入ったという話が聖書外典という本に残っていまして、そこから話が来ているんですね。そして、北欧のほうでは小さな妖精の伝説もありまして。小さい妖精が煙突から入ってくるというのもサンタクロースのルーツの1つです」と真摯に答える木村さん。

一方、宇賀からは「よくアメリカやヨーロッパのドラマで、クリスマスカードを贈り合うシーンが出てきたりするじゃないですか。向こうのクリスマスカードって、日本でいう年賀状みたいな感じなんですか?」との質問が。

木村さんは「実はクリスマスというのが正式に終わるのは1月6日の公現祭と呼ばれる日なんですね。クリスマス当日から1月6日までがクリスマスの期間なので、年末年始も含まれるんですね。日本の場合はお正月にたくさんお祝いをしますが、どちらかというとヨーロッパのほうはクリスマスのお祝いをしてそれが1月6日まで続く……ということになるので、クリスマスカードで『Merry Christmas & A Happy New Year』と書いてあるものもあります」と話します。

さらには、「日本だとクリスマスが終わるとデパートの方たちが(装飾の撤去を)徹夜でやりますけど(笑)。クリスマスツリーを片付ける日が決まっている国もありますが、だいたいが1月6日くらいに片付ける感じですね」と海外との違いについて言及します。

それを聞き、「だから向こうは年が明けてもクリスマスツリーをしまわないんですね」と納得しきりの宇賀でした。


木村さん所有のクリスマスカード「子供たちにギフトを手渡しするサンタクロース」(英国 1913年使用))



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12月3日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
聴取期限 2023年12月11日(月) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。

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<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY’S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/post/

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