パーティー収入不記載事件のポイント 政治改革が倣うべき「甲州法度」の理念とは

渡辺麻耶が木曜日のDJを担当するFM FUJIの番組『Bumpy』(毎週月曜~木曜、13:00~18:50)内のコーナー「CLOSE UP TODAY」(第2・第4・第5木曜、17:35~)。2月9日のオンエアにフリージャーナリストの松田宗弘さんが出演し、自民党のパーティー収入不記載事件について解説しました。

松田:今日は今、問題になっている、自民党のパーティー収入不記載事件についてです。2月2日付の山梨新報の2面で書いた論評記事について解説します。メディアによって、政治資金規正法違反事件、政治資金パーティー裏金事件など書き方は様々ですが、安倍派現職国会議員の中から逮捕者が出ました。東京地検特捜部は安倍派、二階派、岸田派3派閥の議員、会計責任者を立件し、3派閥の不記載総額は先月の段階で17億円を超えました。

麻耶:不記載というのは、政治資金の収支は法律で報告書に記載しなければならないのに、記載していなかった問題ですよね。改めて基本的なところから伺えますか。

松田:この論説記事を書くのにもいろいろ調べました。今回問題となったのは、政治家個人が開いた政治資金パーティーで集めた政治資金を派閥に納め、ノルマ超過分を政治家個人に後で戻すというキックバック(還流)を、本来、政治家個人は政治資金規正法に基づき、個人の資金管理団体の「政治資金収支報告書」に記載しなければならなかったのに、「不記載」にし表に出さない「裏金」にしていたから、法令違反と問われているということです。

山梨県では、二階派所属の長崎知事が2019年のパーティー券の販売ノルマ超過分の一部として1182万円を、政治資金ではなく「預り金的なもの」として派閥から「現金」で受け取ったとし、事務所金庫に保管して5年間忘れて放置していた、と記者会見で説明し陳謝しました。この説明に納得できない市民グループは先日、「虚偽記載または不記載の重過失が認められる」として、知事らを甲府地検に刑事告発したところです。

麻耶:一連の不記載は、法令に基づき記載していれば問題がなかったということですか。

松田:そうです。では、なぜ、記載しなかったかといえば、不記載というのは、だれからいくらもらって、何に使ったのかを隠すことですから、政治家にとっては課税もされない、都合の良いカネだったと思われます。安倍派では20年以上前から行われ、安倍さんは、銃撃事件の前に「やめるように」と派閥幹部に指示したが、事務総長などが、安倍さんがおられなくなったことをいいことに、止めずに存続させていた、などとされています。

麻耶:政治資金は、このパーティー収入が主な資金源なのですか。

松田:いえ、実は今から30年前、非自民連立政権の細川政権時代に、値上がりが確実な未公開株を政治家などに配ったリクルート事件を受けた政治改革の機運の中で、1994年に政治改革関連法が成立しました。ここでは、「政治にカネがかかる」というので、公費で政治資金を助成する「政党交付金」を創設し、その代わりに個人の政治家や個人の資金管理団体への企業・団体献金が禁止されました。政党交付金は年間315億円の税金が使われ、国民一人当たりの負担額は250円です。これで自民党の政治資金の約7割がカバーされますが、残り3割の3分の1(1割)は、政党や政党支部への企業・団体献金が抜け道となり、加えて、形を変えた企業・団体献金である「政治資金パーティー」も認められてきました。さらに、政党が政治家個人に渡す「政策活動費」という、領収書不要の“別の抜け道”もあります。

麻耶:パーティー収入は企業・団体献金の一形態で、その大本の企業・団体献金も、政治家個人へは禁止されても、政党や政党支部への献金は続いてきたのですね。

松田:はい。だから、今国会の与野党の論戦では、企業・団体献金の全廃が焦点の一つなのです。これが問題なのは、お金を出した企業や団体の利益になるように政治が誘導されかねないからです。ところが一昨日の国会答弁で岸田首相は「献金と政策が直結しているかのような言い方は当たらない」と意に介さず、でした。企業・団体献金の欠陥については、経済団体トップの経団連自身が過去に「企業献金は廃止を含め見直すべき」「企業は金を出せば必ず見返りを期待する」と認めているのだから、首相答弁には説得力がありません。

麻耶:松田さんの記事では、武田信玄の分国法「甲州法度(はっと)」を引き合いに、今回の不記載事件と対比されていて、興味深く読ませていただきましたが、2つの違いを教えて下さい。

松田:甲州法度は、武田信玄が甲斐の国を治める――つまり、領民や家臣を治めるための分国法(法律)で、第55条で法の規制対象に信玄自身を加えているのです。つまり、自分が作った法律で場合によっては自分をも律するもので、研究者の間では「極めて珍しい条文で他の戦国法には類例を見ない」と礼賛されています。

今国会では、自民党が、「政治改革案の中間とりまとめ」を、自らを律する「政治資金規正法」の改正のたたき台としてまとめ国会論戦に臨んでいるので、自らを律する点で甲州法度と重なって見えますよね。だから、記事では、政治改革は、国主、領民という貴賤を問わず自らを律した「甲州法度の理念に倣え」と書きました。

麻耶:松田さんは、「政治とカネ」の問題を今後、どうすべきと思われますか。

松田:お金がないと政治家になれないという政治のあり方自体が間違っているので、だれもが政治家になれる社会にすべきです。でなければ国民のニーズが的確に政治に反映されません。ただ、お金がかかる部分があるのも確かなので、ならば、まず、本当に必要な政治資金の総量を、政治家のお手盛りではなく、学識者や民間も入った「第三者機関」で厳格に精査した上で、全額を政党交付金でまかなうべきではないか。これで初めて利益誘導型政治と決別できます。そのためには、自身をも処罰対象とした「甲州法度」の崇高な理念が必要です。その理念に乗っ取って、抜け道をすべて塞ぎ、政治改革を断行してもらいたいです。

Bumpy
放送局:FM FUJI
放送日時:毎週月曜~木曜 13時00分~18時50分
出演者:鈴木ダイ(月)、上野智子(火)、石井てる美(水)、渡辺麻耶(木)
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福士蒼汰 × 松本まりか 変わることができない人間の業の深さ 『湖の女たち』

ニッポン放送「ひろたみゆ紀のサンデー早起き有楽町」(日曜朝5時~)で、おススメの最新映画をご紹介しているコーナー『サンデー早起キネマ』。5月12日は、衝撃の映画体験が味わえる3本をご紹介しました。

その1本は、福士蒼汰さんと松本まりかさんがダブル主演のヒューマン・ミステリー『湖の女たち』。

『湖の女たち』  (C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

原作は、ベストセラー作家・吉田修一氏の同名の小説。『さよなら渓谷』以来、大森立嗣監督と10年ぶりのタッグが実現しました。

『湖の女たち』  (C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

琵琶湖近くの介護療養施設、もみじ園で100歳の老人が不審な死を遂げました。殺人事件とにらんだ西湖署の若手刑事、濱中圭介とベテランの伊佐美は、容疑者と見なした当直の職員・松本への強引な追及を繰り返します。

その捜査の陰で圭介は妊娠中の妻がいながら、取り調べで出会った介護士、豊田佳代に歪んだ支配欲を抱き、佳代も極限の恐怖のなかで内なる倒錯的な欲望に目覚めていきます。

一方、東京からやってきた週刊誌の記者、池田は、17 年前にこの地域で発生した薬害事件を取材するうちに、もみじ園で死亡した老人が旧満州ハルビンにいたことを突き止めます。時を超えて浮かび上がったその新たな謎は、いかなる真実を導き出すのでしょうか。

そして厳かに静まりかえった湖のほとりで、後戻りできないインモラルな関係に堕ちていく圭介と佳代の行く末は……。

『湖の女たち』  (C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

道徳的な通念を踏み外していく2人のキャラクター、刑事の濱中圭介役は、福士蒼汰さん。介護士の佳代には、松本まりかさん。お2人の新しい一面に本当に驚きました。

福士さんは、「役者人生におけるターニングポイントと呼べる作品になった」、松本さんは「あの強烈な映画体験は、生涯この身体から離れることはない」と話しています。

また、薬害事件のトラウマを引きずる圭介の先輩刑事、伊佐美役には、浅野忠信さん、そして、記者の池田役に福地桃子さん、犯人と目される介護士に財前直見さん、さらには三田佳子さんなど、錚々たるメンバーが湖の女たちを演じます。

『湖の女たち』  (C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

介護施設での不審死事件を発端にした物語は、現在と少し前の過去、さらに戦時中と、思いもよらない歴史の扉を開いていきます。そこには、いつの時代にも繰り返される生産性至上主義の優生思想に基づく非道な犯罪がありました。

脚本も担当した大森監督は、「“人間”と“生産性”という二つの言葉を、どんと並べてみると、グロテスクなイメージが湧き上がってくる。それだけを手がかりにして書いていた」と話しています。“生産性”を追い求める社会の犠牲になってきた人たちがいる……過去も現在も変わらない、変わることができない人間の業の深さをつくづく思い知らされました。

『湖の女たち』  (C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

登場人物の弱さと切なさ、愚かさと愛おしさ、汚れと純真……両方を持っているのが人間ですが、両面があることを忘れてはならないと、美しく静かな湖が語り掛けているようです。

「この世界は美しいのだろうか」……あなたはどう思いますか?

 

『湖の女たち』
5月17日(金)全国公開監督・脚本:大森立嗣
原作:吉田修一『湖の女たち』(新潮文庫刊)
2024/日本/カラー/DCP/5.1ch/シネスコ/141分
配給:東京テアトル、ヨアケ

(C)2024 映画「湖の女たち」製作委員会

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