戦争に対して、アートは何を示してきたか? 軌跡を辿る「ルートヴィヒ美術館」の展覧会が開催中

第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして冷戦と、激動の時代を送った20世紀・ドイツ。当時の人々は凄惨な状況に対する恐怖や怒りに対してどのように向き合ってきたのか。また当時のアーティストたちは芸術として何を表現し、不安を抱える人々に寄り添ってきたのか。その歩みがうかがえる展覧会「ルートヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡―市民が創った珠玉のコレクション」を、9月26日(月)まで国立新美術館で開催中だ。

ドイツ・ケルンのルートヴィヒ美術館は、20世紀初頭から現代までの美術作品が収蔵される世界有数の美術館。そのコレクションの数々は、市民のコレクターによる寄贈を軸に形成されてきた。本展覧会では、ピカソやウォーホルの絵画をはじめ、彫刻、写真など計152点の作品を、寄贈にかかわった市民コレクターたちに焦点を当てて紐解いていく。

ここではオープニングに先駆けて行われた、内覧会のレポートをお届けする。

入ってまず私たちを出迎えるのは、ルートヴィヒ美術館の設立、そしてコレクションの発展において重要な役割を果たしたコレクターのヨーゼフ・ハウプリヒ、ペーター・ルートヴィヒの大きな肖像画だ。

ケルンで弁護士として活躍したヨーゼフ・ハウプリヒは、第二次世界大戦前の優れたドイツ近代美術作品を収集したコレクター。ハウプリヒはナチ・ドイツ時代に「退廃芸術」としてナチに没収された作品を購入し、第二次世界大戦中にケルンを襲った262回にもおよぶ空爆からも守り抜いた。戦後まもない1946年、そのコレクションをケルン市に寄贈し、戦争で文化施設を多く失くした当時のドイツに大きな希望を与えた。彼が収集した表現主義や新即物主義などのコレクションからは、20世紀初頭の近代社会の不穏な雰囲気、そしてそこに生きる人々の苦悩が感じられる。

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パウラ・モーダーゾーン=ベッカー《目の見えない妹》 1903年頃 油彩/厚紙 32.2 × 33.5 cm  Museum Ludwig, Köln / Cologne, ML 76/2756. (Photo: © Rheinisches Bildarchiv Köln, rba_c001546)

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ヴィルヘルム・レームブルック《振り返る少女のトルソ》 1913/14年 着色された人造石 高さ:95.0 cm Museum Ludwig, Köln / Cologne, ML 76/SK 0061. (Photo: © Rheinisches Bildarchiv Köln, Michael Albers, rba_d031338)

ペーター・ルートヴィヒと妻のイレーネは、ピカソやポップ・アートなどの貴重な作品群を寄贈したコレクターで、館名に名を冠しているようにこの美術館の核となる人物。冷戦期を生きたルートヴィヒ夫妻は、西側と異なる思想を持つ社会主義国の作品も積極的に収集した。本展では20世紀に東欧からロシアにかけて流行した前衛美術運動〈ロシア・アヴァンギャルド〉の作品や冷戦時代の東西ドイツの美術作品などが展示され、美術を通して東西の架け橋を担ったルートヴィヒ夫妻の信念に触れることができる。

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カジミール・マレーヴィチ《スプレムス 38番》 1916年 油彩/カンヴァス 102.5 × 67.0 cm Museum Ludwig, Köln / Cologne, ML 01294. (Photo: © Rheinisches Bildarchiv Köln, rba_d033965_01)

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アレクサンドル・ロトチェンコ《ライカを持つ少女》 1934年(プリント:1934年以降) ゼラチン・シルバー・プリント 40.0 × 29.0 cm Museum Ludwig, Köln / Cologne, Sammlung Fotographie ML/F 1978/1072. (Photo: © Rheinisches Bildarchiv Köln, rba_c009362)

また本展はルートヴィヒ美術館が誇る、世界屈指のピカソの作品群も観ることができる。なかでも、反戦をテーマにした「アーティチョークを持つ女」は、これまでルートヴィヒ美術館がめったに貸し出してこなかった作品だ。奇しくも現在、ロシアによるウクライナ侵攻が続いている。スペイン内戦、第二次世界大戦に対して、大きな不安を感じながらもじっと耐えしのぐしかない複雑な表情が描かれた本作は、現在起こっている悲惨な出来事に対する思いとリンクする。

またアンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインなど、ルートヴィヒ夫妻が収集したヨーロッパ随一のポップ・アートコレクションも多数来日。大量消費を前提とした大衆文化を批評すると同時に美術とは何かを問いかけた作品たちからは、1960年代の社会やその時代を生きた人々の暮らしが垣間見えた。

そのほかにも、グルーバー夫妻の寄贈から発展した豊かな写真コレクションを楽しめるのも本展の醍醐味の一つ。時代を超えて受け継がれてきた、市民のアートに対する強い情熱が満ちあふれた展覧会となっている。

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ヴォルス《タペストリー》 1949年 油彩/カンヴァス 54.0 × 73.0 cm Museum Ludwig, Köln / Cologne, ML 01167. (Photo: © Rheinisches Bildarchiv Köln, Peter Kunz, rba_d032855_01)

プレス内覧会には、ルートヴィヒ美術館のイルマーズ・ズィヴィオー館長、そしてオフィシャルサポーターのトラウデン直美も登場。ズィヴィオー館長は本展をルートヴィヒ美術展の真髄に迫るものだとし、「市民がどうやって美術館を作り上げてきたか、そして今でも市民が美術館の発展にどれほど貢献しているかというメッセージ性にも注目してほしい」と述べた。父がドイツ・ケルン出身という縁を持つトラウデンは、美術館というものに対し「自分の感覚を大切にできる場」と表現し、オフィシャルサポーター就任の喜びを語った。本展では、トラウデンがナレーションを務めた音声ガイドも楽しめる。

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(写真右から)ルートヴィヒ美術館・イルマーズ・ズィヴィオー館長、トラウデン直美、国立新美術館・長屋光枝学芸課長

ルートヴィヒ美術館の歴史や所蔵作品の数々からは、怒涛の20世紀を生きたドイツの人々の芸術に対する大きな愛と尊敬が感じられた。アートの持つ力を信じて、揺れ動く社会と日常を駆け抜けた市民たちの軌跡に、今だからこそぜひ触れてほしい。

(文=J-WAVE NEWS編集部 強瀬 早穂莉)

開催概要

東京会場
会期:2022年6月29日(水)〜2022年9月26日(月)
会場:国立新美術館
住所:東京都港区六本木7丁目22−2
展示室:国立新美術館 企画展示室2E
時間:10:00〜18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜日
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式HP:https://ludwig.exhn.jp
主催:国立新美術館、ルートヴィヒ美術館、日本経済新聞社、TBS、BS-TBS
協賛:損保ジャパン、ダイキン工業、三井不動産
後援:ドイツ連邦共和国大使館、J-WAVE、TBSラジオ

また本展は、京都巡回も決定している。

巡回展 京都会場
会期:2022年10月14日(金)〜2023年1月22日(日)
会場:京都国立近代美術館
住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町
時間:10:00~18:00
※毎週金曜日は20:00まで ※入館は閉館の30分前まで
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開館時間は変更となる場合があります。来場前に最新情報をご確認ください。
休館日:月曜日(ただし、2023年1月9日は開館)および年末・年始、1月10日(予定)
TEL:075-761-4111
主催:京都国立近代美術館、ルートヴィヒ美術館、日本経済新聞社、テレビ大阪、BS-TBS、京都新聞
協賛:岩谷産業、損保ジャパン、ダイキン工業、竹中工務店、三井不動産
後援:ドイツ連邦共和国総領事館
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(監修者:東京・池袋占い館セレーネ所属 小林みなみさん)





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■監修者プロフィール:小林みなみ(こばやし・みなみ)
編集・ライター。出版社、大手占いコンテンツ会社勤務を経て、フリーランスに。会社員時代に占いに初めてふれ、その世界にはまる。現在は、雑誌・Webで占い記事をメインに執筆している。

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