法隆寺金堂壁画が11月に公開へ。保存と公開、両立の要はクローン?

先日、奈良の世界遺産「法隆寺」の壁画が、およそ30年ぶりに公開されることになったと発表されました。そこできょうは、文化財をどう保存し、継承していくのか、という問題について、7月8日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。

法隆寺の本堂にある「金堂壁画(こんどうへきが)」は、戦後間もなく火事にあい、大半が焼損しました。今回、どのような形で公開されるのか。「金堂壁画・保存活用委員会」の委員長、有賀 祥隆さんのお話。

法隆寺の「金堂壁画」、11月に限定公開へ

「金堂壁画・保存活用委員会」委員長 有賀 祥隆さん
「法隆寺に伝えられている「法隆寺・金堂壁画」が、11月10日〜21日、限定公開される。今回は500人限定で、一口1万円で寄付された方に見ていただく。和24年に火災にあって、昭和27年に収蔵庫を作って収めて、それ依頼、一般公開されていない。飛鳥時代(7〜8世紀の始め)には描かれていると言われており、菩薩が8面に描かれ、12面で構成。焼けたときの柱や梁も、そのまま組み立てられている。是非みていただきたい。」

500人を上限に、1口1万円で、クラウドファンディングを募って、応じてくれた方を招いて公開される意向です。

法隆寺のメインホール、金堂にある「金堂壁画」は、東洋の仏教絵画史上、最高傑作として名高い作品。堂内の、大小12の壁には、釈迦如来や、薬師如来、観音菩薩などが極彩色で描かれていたのですが、火災によってほぼ色が剥がれ落ち、長年、収蔵庫に場所を移して保管されてきました。

それが今回、本物が公開されるということで、「1回10人の入れ替え制、30分交代制」などの条件つきで、人の出入りによる湿度や温度の影響を、なるべく少なくする方向で、調整が進んでいるようです。

本物そっくりの「クローン文化財」

本来「非公開」とするのが、文化財の保存にとって最善ですが、大事にしまい込んだままでは、存在意義が失われてしまいます。

この「保存」と「公開」の両立は、文化財の長年の課題でもありますが、近年、そのどちらも解決する技術が登場しています。その名も、「クローン文化財」。今回の法隆寺の金堂壁画は「本物」の公開ですが、実は去年などは、この「クローン」の展覧会を行っていたということです。法隆寺・金堂壁画のクローンを作成した、東京藝術大学・名誉教授の、宮廻 正明さんのお話。
東京藝術大学・名誉教授 宮廻 正明さん
「金堂壁画は、焼損する前のデータが残されていた。法隆寺の厚意でデータをもらい、薄い紙にプリントアウト。法隆寺の壁の質感を作って、その上にプリントアウトしたものを貼り込んでいき、いま作ってるものができてくる。最終的には、描かれた当時の絵の具を薄くコーティングすると、本物と同じ色の、分析結果を出すことができる。元々我々がやっていたのは模写で、手作業だった。金堂壁画を作るのにも、10年以上の年月を、一流の絵描きを拘束してすごく時間がかかる。ここの部分をデジタルでやれば、時間が短縮でき、正確にできる。全くわかりません。我々が見ても区別はつきません。」

▼東京藝術大学の宮廻正明 名誉教授に聞きました


クローン文化財は、「デジタル」と「手仕事」のいいとこドリの、東京藝術大学が特許を持っている技術。高精細の印刷技術や3Dプリンターなどのデジタルと、画家の伝統的な筆使いを融合することで、限りなく本物に近いコピー、いわゆる「クローン」を生みだします。

法隆寺・金堂壁画の場合は、まず、火事で焼ける前のデータを、特殊な和紙に印刷。その上から、色を塗るなどして質感を再現することで、担当画家の能力のバラツキを限りなく縮めることもできるそうです。

また、壁画以外にも、油絵、日本画、彫刻なども、クローンで作ることができ、宮廻さんたちは、定期的に展覧会を開催しています。7月31日から予定されている、横浜のそごう美術館での「謎解き『ゴッホと文化財』展」では、ゴッホが生涯で7枚描いたとされる内の1枚、戦争で焼失した「幻の『ひまわり』」も復元されるということで、この世に存在しない作品を蘇らせる、クローンを超えた存在=「スーパークローン」も、数多く誕生させてきたそうです。

本物か複製物か、技術の進化で問われる倫理

ただ、この先、完璧にコピーができるようになると、オリジナルそのものの存在が危うくなるのでは、と心配になったので、「クローン文化財」、法的にはどうなのか。最後に、シティライツ法律事務所の弁護士、片山 直さんに聞いてみました。
シティライツ法律事務所・弁護士 片山 直さん
「その人が作ったということが本物という定義なのか、それと全く同じものが存在している場合、それも本物という定義になるかは、受け取る側の感覚や時代背景が関与する部分もあるかもしれないが、少なくとも法的には、最初に作ったものが著作者としての著作物に該当し、それ以降に作られるものは、複製物という風に判断される。ただ、文化を発展させていく上では、元々の物を真似たり、柔軟に取り入れながら発展してきた部分もあるので、正確に再現すること自体が完全に否定されるとまでは思わない。正しく権利者に対して還元されていく状況が整えられることが、重要。」

▼シティライツ法律事務所の弁護士、片山 直さん


戦争や紛争で破壊された「遺跡」の再現に挑戦したり、本来は触れられない作品に手で触れたり、これまでの常識を覆す技術であることは間違いなさそうですが、仮に3Dプリンターのデータが流出してしまったら、簡単に・大量に・誰でも、本物と同じものを作ることが可能になります。

東京藝術大学は、作品やデータを、厳重な管理のもと保管し、流失させない対策をとっているようですが、文化財をどう継承していくのか、考えていく必要がありそうです。

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