津波で亡くなった人たちは「最後の30分間」どう行動したのか? 防災をデジタルアーカイブで学ぶ

J-WAVEで放送中の番組『TOPPAN FUTURISM』(ナビゲーター:小川和也・南沢奈央)。3月10日(日)のオンエアでは、東京大学大学院 情報学環 学際情報学府教授、渡邉英徳さんを迎え、「デジタルアーカイブは、防災の未来をどう変える?」をテーマにお届けしました。


■災害や戦争の記録をデジタルアーカイブする理由

デジタルアーカイブとは、いろいろな資料をデジタル化して保存することです。そのなかでも渡邉さんは特に災害や戦争の記録をまとめ、多くの人に伝えることをミッションに、さまざまな取り組みをしています。

その一例として、岩手日報社とのコラボレーションで2016年に発表した震災犠牲者の行動記録マップ「忘れない」を紹介しました。

渡邉:このデジタルアーカイブは、東日本大震災の津波で亡くなった岩手県内の方々が、地震が発生し津波が到達する最後の30分間にどのように行動したかを、岩手日報社の記者が5年をかけて遺族に取材していきました。その結果をアニメーションで表現してスマートフォンやPCで見られるようにしたものになります。

「忘れない」を作った理由を、渡邉さんはこう話します。

渡邉:悲劇を保存しておく意味はもちろん、「次に災害が起きたとき、私たちはどう行動しなければいけないか」という強いメッセージを、亡くなられた方々の貴重な足跡から受け取ることができます。未来への教訓として残したいというミッションを岩手日報社さんから頂いておりました。
小川:東日本大震災から8年が経ちました。この出来事を忘れてはいけないのですが、少しずつ記憶が薄れていくなかで、このデジタルアーカイブによって当時の記憶が鮮明によみがえってきます。
渡邉:毎年「忘れてはいけない」「忘れるべきではない」と言葉で言われてしまうと、人はどんどん慣れていってしまいます。それは戦争の記録なども同じです。しかし、たとえばこのデジタルアーカイブのように視覚的に記憶を表現して、見る人が自分で解釈をして学びを得てもらうようにすることで、より強く防災に対する意識を持ってもらえるのではないかと考えています。


■若者が記憶を育てていくことが重要

渡邉さんは広島の原爆被害についてのデジタルアーカイブ「ヒロシマ・アーカイブ」も制作しています。こちらもPC、スマホで見ることができます。

「ヒロシマ・アーカイブ」は広島の原爆で被害に遭われた人たちが、原爆投下当日の8月6日にどこにいたのかを調べ掲載しています。このデジタルアーカイブの大きな特徴は、集められたデータのうち40件は、広島女学院高校の生徒が被爆者の人たちに直接インタビューしていることです。

渡邉:これは地域における記憶をどう受け継いでいくのかという面において、非常に重要なことです。デジタル化したコンテンツをただインターネットで公開するだけではなく、それを育てていく過程に若者に参画してもらうことが大切です。若者たちが戦争体験者に話を訊くなかで、戦争についての思いを深めたり学んだりできます。その成果が再びデジタルアーカイブに反映されて、アーカイブと地域のコミュニティーが両輪になり、お互いに育てあっていくことが起きるわけです。

デジタルアーカイブを利活用しながら同時に育てていく取り組みを、渡邉さんは「記憶のコミュニティー」と呼んでいます。

渡邉:多くの年代の人たちが参加するコミュニティーを東日本大震災の被災地で育てていけないかと考えています。それが、私が考えている防災に向けたデジタルアーカイブの未来形になります。


■災害は地続きに存在している…その認識が大切

未来の防災のカギは「自分と地続きのものだと考えること」だと渡邉さん。1960年に東北沿岸を襲ったチリ地震の津波の様子を写した白黒写真を、AI(人工知能)を使ってカラー写真化したものも、そのための試みのひとつです。

渡邉:半世紀以上前に起こったチリ地震ですが、この被害をリアルタイムで知っている人もいるはずです。でも津波の災害と言われると、私たちが真っ先に思い出すのは東日本大震災です。また、その何年か前には阪神淡路大震災があったけど、震災という言葉から連想されるのは東日本大震災になっている人がかなり多いと思います。災害の記憶は新しい災害が起きるたびに上書きをされてしまうため、過去の災害で得られた教訓が生かされない。そのためにも、過去に起こった災害が自分たちと離れたものではなく、同じ地面の上、同じ時空間の中で地続きに存在しているものだという認識を多くの人が持てると、より備えになるのではないかと思います。デジタルアーカイブや白黒の記憶をカラーにする取り組みは、自分とは関係ないと思っていた災害や戦争を地続きに感じてもらうための工夫です。

渡邉さんが手掛けた、震災犠牲者の行動記録マップ「忘れない」や「ヒロシマ・アーカイブ」をぜひご覧いただき、災害の記憶を“地続き”のものとして、改めて考えてみてください。

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【番組情報】
番組名:『TOPPAN FUTURISM』
放送日時:毎週日曜 21時−21時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/futurism/

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