世界恐慌を増幅させた『スムート=ホーリー関税法』と『トランプ関税』の共通点

4月8日の「おはよう寺ちゃん」(文化放送)では、火曜コメンテーターで上武大学教授の田中秀臣氏と番組パーソナリティーの寺島尚正アナウンサーが、トランプ関税による世界経済への影響について意見を交わした。

近隣窮乏化政策は必ず裏目に出る

トランプ米大統領は4月6日、相互関税の導入によりわざと株価を急落させているのかと記者団に問われ「そうではない。何も下落してほしくないが、時には何かを治すために『薬』を飲まなければならないこともある」と答え、自身の関税政策の正当性を改めて主張した。

急落する株価の許容範囲を問われると「愚かな質問だ」と一蹴。

トランプ大統領が全世界に課した一律10%の相互関税措置、失われた株式の時価総額は2日間で総額970兆円にのぼるという。

(寺島アナ)「世界同時株安となっていることについて、改めて田中さん、これはどうご覧になりますか?」

(田中氏)「今のトランプ政権の関税政策の合理的帰結ですよね。世界経済が縮小していくことは不可避ですから、株っていうのは経済の先行きを見る指標ですから。当然、大きく下落するんじゃないですか? 特にアメリカの平均的な関税率が19世紀の水準に戻る、と言われていますし」

田中氏は今回のトランプ関税と似た事例が過去にあったと指摘。

(田中氏)「これに似た政策が約100年前にあったんですよ。『スムート=ホーリー関税法』といって、アメリカから始まった大恐慌をさらに増幅させた悪名高い法律なんです。“関税を引き上げればアメリカの人は外国製品を買わなくなって、他方で自国製品を買うので、自国の製造業が復活する”と、これを目指した法律です。今の説明でも分かると思いますが、約100年前のスムート=ホーリー関税法と、今のトランプ政権の関税政権の目的は同じですよね?」

(寺島アナ)「悪名高い法律が……」

(田中氏)「これが世界経済の大幅な縮小の引き金になっているんですね。大恐慌が元々ありましたけど、その傷をさらに深くしてしまったんです。結局、世界の人はアメリカの製品を買わなくなっちゃうんですよ。ますます貿易赤字は変わらないわけです。それでさらに関税を引き上げていくので、報復関税合戦になってしまって世界経済はどんどん縮小化して。それと並行して枢軸国と連合国の対立がありましたから戦争に至っていく形ですよね。悪名高い法律です。これは“近隣窮乏化政策”と言われていて、関税政策に関しては経済学者は右も左も総じて批判していて、“近隣窮乏化政策は必ず裏目に出る”と言われています。今回もヨーロッパ側はまだやっていませんが、中国は報復関税をやりましたよね?」

田中氏が関税引き上げについて生成AIで試算すると、アメリカ経済にとってもダメージが出る可能性が見られる。

(田中氏)「今回の関税引き上げがどんな効果があるか、生成AIで試算してみたんですよ。中国に対しては、トランプ政権が70%に引き上げると言っていましたよね? もしそうなるとマイナス3.2%くらいの落ち込みになる、と。中国だけが落ち込むわけじゃなくて、中国はアメリカの製品を輸入していますから、経済が落ち込めばアメリカ製品を買えなくなるわけですよ。それに巻き込まれてアメリカの成長率も最大1%くらい落ち込む、という試算が出ているんです。こういった報復関税合戦で70%に引き上げていない現状でも、かなりのダメージを負うわけです。世界経済にとって大きなダメージがありますから、それを織り込んで株価が大きく下がるのは分かります」

田中氏は『トービンのq理論』を基に現在の世界経済を見る。

(田中氏)「ただ、今はパニック的な要素が前面に出ていましたので、私が重要視しているトービンのq理論では、例えば日経平均に登録している総資産と時価の株価のバランスが1なのですが、かなり株価が下回っているので、売りたたかれているんです。これは上げ戻す余地があって、アメリカの株式市場はトービンのqが今までバブル的に2くらい拡大していたんですが、大幅な調整局面にありますから、ひょっとしたら日本の株式市場よりも大きく調整が続いていく可能性があります。それくらい今回のトランプ関税は世界経済に、特にアメリカ経済への影響が大きいと多くの専門家は見ていて、それは正しいと僕も思っています」

(寺島アナ)「これ深刻ですよね?」

(田中氏)「深刻です! 世界経済、アメリカ経済がそんな状態ですから日本経済は何をやるべきか? “積極財政”と“金利引き上げ路線の放棄”です。金融緩和も含めた金融政策の柔軟な姿勢が求められます。リーマンショックのときも金利上げのスタンスにこだわった結果、金融緩和が遅れて欧米以上に日本経済は失速しました。財政もそうでした。あんなことは二度と繰り返してはいけません。さすがにその教訓が記憶に残っていると思いますので、与野党ともに協力して一致団結して、まあトップがあれなので頼りないんですけど、どうにかしてオール日本で立ち向かってほしいと思います」

〈出典〉
ランプ氏、株価急落「時には『薬』必要」 関税撤回せず | 日本経済新聞

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8年の修業乗り越え日本の伝統文化を守る、ニューヨーク出身の甲冑師

早いもので、もうすぐ端午の節句です。小さな男の子がいれば、五月人形の「兜」を飾っているご家庭もあることでしょう。ただ、本物の兜や鎧を見たことがあるという方は、あまり多くないかもしれません。

今回は、この兜や鎧を作る「甲冑師」の男性の方のお話です。

アンドリュー・ドナルド・マンカベリさんと修繕を手掛けている室町時代の兜

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

埼玉県蕨市、JR京浜東北線・蕨駅西口から伸びる商店街の一角に、「トンカン、トンカン……」と金属の音が鳴り響いています。そこは「三浦按針工房」という工房。ご主人は、甲冑師のアンドリュー・ドナルド・マンカベリさん、50歳です。

アンドリューさんは、アメリカ・ニューヨーク州の出身。大都会のニューヨーク市ではなく、北の農村のほうで育ちました。兜や鎧に興味を持ったのは、小さい頃に観た日本の侍が活躍するドラマがきっかけです。あの三船敏郎さんや島田陽子さんが出演した、1980年の「将軍 SHOGUN」でした。

さらに80年代半ば、アカデミー賞に黒澤明監督の「乱」がノミネートされると、アンドリューさんは近くの図書館へ行き、「七人の侍」を皮切りに、VHSのビデオになった黒澤作品を次から次へと借りて、食い入るように観ていきました。そんなとき、お父様に連れられて行った骨董市で、日本の兜や鎧を実際に目にします。

「どうして日本の鎧はこんなに動くんだ! どうやったら漆だけでこんな光るんだ!」

驚いたアンドリューさんは、日本へ行きたい思いがますます募っていきます。そこで、大学で考古学を学ぶと、日本の自治体が様々な外国人を招いている「JETプログラム」に応募。山梨県丹波山村で採用が決まり、念願の来日が叶いました。

日本にやって来たアンドリューさんは、平日は学校で英語の授業のアシスタントなどを務めながら、週末になると、全国各地の刀剣会や骨董市に顔を出していきました。2000年代に入ると日本の伝統文化の保存に関する文部科学省の研究員として再来日。その研究のなかでアンドリューさんは、ある職人さんと出逢うことになります。

出逢ったのは、甲冑師の重鎮、三浦公法さんでした。甲冑師とは、新しい兜や鎧を作るだけでなく、昔の甲冑の修理や復元する仕事。日本では武士の時代から、長きにわたって受け継がれてきた技です。アンドリューさんは研究のために、毎日のように三浦さんのもとへ通っていました。三浦さんは、アンドリューさんのニックネーム、「アンディ」を呼ぶことができず、しばしば「按針(あんじん)さん、按針さん」と話しかけてきました。

「按針さん、君の甲冑への思いは本物だよ。なあ、甲冑を作ってみないか」

アンドリューさんは驚きましたが、またとない誘いと感じて、弟子入りを決断。そして2008年から、厳しい修業に臨みました。甲冑師の仕事は、鉄や銅の金属加工だけではありません。皮を縫い合わせるために裁縫の技術や、繊細な絹織物にも通じる必要があります。さらに金箔などを施す場合には、金箔職人さんと同じレベルの技量が求められます。その技を、師匠から見よう見まねで憶えていかなくてはなりません。

なかでもアンドリューさんが苦しんだのは、「漆」です。甲冑師の道に入ってからずっと、肌のかぶれに悩まされました。でも、昔見た、あの美しい輝きを生み出す漆だと思い、必死で乗り越えていきます。すると、2年経った頃から、まるで免疫が出来たかのようにかぶれが治まってきました。

そして、弟子入りからおよそ8年を経たある日、師匠から呼び出されると、手渡された紙には、こう書かれていました。

「アンドリュー氏を、甲冑師として認める」

弟子入り以来、一度も褒められたことがなかったアンドリューさんは、師匠自ら筆でしたためた証書を手渡して下さったことに、とてもビックリしました。そして、三浦さんの弟子であるアンディさんの工房ということで、「三浦按針工房」という屋号を名乗ることを認めてくれました。

いま、アンドリューさんのもとでは、フランス・ドイツなど、海外からのお弟子さんが甲冑師としての厳しい修業に取り組んでいます。残念ながら、日本人の若い弟子は、モノになる前に辞めてしまうことも多いそうです。

「日本の伝統文化の保存に近道はありません。ただ、日本の優れた技で作られたものは、海外へ行ってもすぐに日本製と分かります。この宝といってもいい技を、次の世代に繋ぎたいんです」

三浦按針をモチーフとしたドラマをきっかけに、甲冑師「三浦按針」として人生の道を歩むことになったアンドリュー・ドナルド・マンカベリさん。コスパ、タイパでは測れない、「日本の基本」を守るために、今日も技を磨きます。

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