宇多丸『RRR』を語る!
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』月~金曜日の夜18時から放送中!
11月4日(金)放送後記
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のコーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。
宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞して生放送で評論します。
宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、日本では10月21日から劇場公開されているこの作品、『RRR』。
はい、インド国内の歴代興行成績を塗り替え、日本でも熱狂的なファンを生み出した『バーフバリ』二部作の“創造神”、S・S・ラージャマウリ監督最新作。舞台は1920年代、イギリス植民地時代のインド。イギリス軍にさらわれた妹を救うため立ち上がったビームと、ある目的のため同胞を裏切り、イギリス政府の警察となったラーマ。ある出来事をきっかけに出会った二人は、お互い本性を知らぬまま親友となるが、やがて友情か使命か、究極の選択をする時がやってくる。
ビーム役は、ラージャマウリ監督のデビュー作、『STUDENT NO.1』のNTRジュニア。そしてラーマ役は、『マガディーラ 勇者転生』でもラージャマウリ監督とタッグを組んだ、ラーム・チャランさんです。テルグ語圏ではスーパースターの二人。その二大スーパースター揃い踏み興行でもある、という感じですね。ちなみに『RRR』というタイトル、いろんなの意味も込められておりますが、最初はこの主演の二人のその名前、プラス、S・S・ラージャマウリ監督の名前で、一応コード的に呼んでいた名前が、そのままタイトルになった、というようなことみたいですね。
ということで、この『RRR』をもう観たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「多い」。それはそうでしょう! やっぱりね、『バーフバリ』でもあれだけ騒ぎましたしね。映画ファンであれば今、ラージャマウリ作品は観に行く、っていう感じではないでしょうかね。
賛否の比率は、「褒め」が8割以上。主な褒める意見は、「アクションとダンスのつるべ打ち! 世界エンターテイメント映画の最高峰!」「文句なしで今年のベストワン!」「主人公二人の友情シーンもいい。動物たちもいい」などございました。一方、否定的意見は、「女性が添え物のようにしか描かれていない。そこは前作『バーフバリ』より後退している」「暴力(革命)の肯定や今の政治状況とのバランスを考えてしまうとモヤモヤする」というようなことを書いていただいてる方もいました。
「私の生涯ベストワン」
まず代表的なところをご紹介しましょう。「ひとみってぃスカンク」さん。「『RRR』、IMAXレーザー上映などで計3回、鑑賞してきました! 私的に、『RRR』は、『バーフバリ』超えの作品となりました。今年はちょうどインド独立75周年にあたる年であり、本作では実在した活動家らを讃えていますね。この物語が創作ではあっても、あまりに心に沁みて、半分は実話として受け止めました(私は大学でインドについて学んでいました)。コムラム・ビームの歌は、マホトマ・ガンディーの非暴力不服従の精神にも通ずるものでした。
インドには宗教も言語も沢山ありますが、あらゆるインドの民族の一人一人の勇気や行動が、インドを独立に導いたのだと強く感じました。また、本作では、女性が戦闘に直接的に参加するシーンはないのですが、シータもラーマの母親も、そしてイギリス人であるジェニファーも、自分にできる精一杯の戦いをしていて、胸をうたれます。インドの沢山いる神様や動物を敬い、活動家たちを讃えているのも、とても良かったです。
3時間があっという間、気がついたらエンドクレジット。エンディングにはラージャマウリまで! 泣いて、驚いて、ほっとして、ダンスと歌に見惚れていたら、もう映画が終わっている……と、毎回このような感じです。鑑賞後の爽快感、感動、心躍る気持ち、すべての映画の良さを詰め込んだようなこの作品は、私の生涯ベストワンと言えます。これで、アカデミー賞・作品賞を取らなければおかしい、と私は本気で考えています。
最後に。ナートゥダンスのロケ地はウクライナのキーフとのことですね。抑圧されているウクライナの国民のみなさんとインド独立とを重ねて、ウクライナへ想いを馳せてしまいます」というひとみってぃスカンクさんでございます。
一方、ダメだったという方もご紹介しますね。「サディーク」さん。
「嘘だろ…と思うようなアクションの釣瓶打ち、主人公二人の熱い友情に終始興奮しっぱなしだったのですが……」。だから面白いとかね、そういうところに関してはもちろん疑いようはないということで。「鑑賞後は小骨が喉に刺さったような感じがしました。中盤、ビームが逮捕され、鞭打たれるも屈さぬ姿勢を見た民衆が立ち上がったことに、『武器によらぬ革命の可能性』を見出したラーマが、使命を断念する重い決断をしたのに、最後に結局、武器を村に届けることになってしまうのが、その後のインド独立の歴史からしてもモヤモヤとしてしまいました」と。
で、もちろん悪者をやっつけたりする場面はスカッとするエンターテイメントシーンだけども、ということを書いていただいて。「最後の場面でインド独立の闘士?が次々に写されますが、そこにガンディーがいないのも納得できず、現在のモディ政権下のヒンドゥー至上主義のことも考えてしまいました」というようなサディークさんでございました。「『バーフバリ』があくまで神話的な物語だったのに対し、『RRR』が現代と地続きの話であることも鑑賞体験の違いに影響しているのかもしれません」といったところでございます。
ちなみに私も評の中で言いますけども、たとえば「左近幸村」さんがですね、パンフを読むと、エンディングで登場する人たちの政治バランスも含めて、要するに現状の政権とは違う方向性を監督として示しているんだ、っていう(内容をメールに書いていただいていて)。それは僕もね、ちょっとわかっていなくて、パンフを読んで学んだりしたんで。それでようやくわかったっていう。「歴史研究者としては、エンディングの意図が一番興味深かったです」というような左近幸村さんのご意見もありました。
私の評の中でも、私自身も大変不勉強ですので、いろんな識者の方々の文章を読んで勉強した、という件をちょっと多めに語らせていただくことになるかと思います。
単に「面白い」「豪快」なだけではない厚み、深み。いわば「ポエティックな見せ場の構築法」がすごい
ということで『RRR』、私もですね、S・S・ラージャマウリ監督をお迎えする前に一足、お先に二回、そして今回もT・ジョイPRINCE品川、IMAXで見てまいりました。だから計三回、観てまいりました。IMAXバージョンは、全編1.90対1の比率が続く、というやつでございまして。なので、レーザーIMAXじゃないとダメ、という仕様ではないですけど、IMAXで観られるならばIMAXがおすすめかもしれません。特に中盤のある大見せ場……縦にも空間があった方が、あのドガジャーン!なキメ画がより映える、ということがあると思いますんでね。
ということで、この映画時評コーナーでは2018年1月13日に扱いました、S・S・ラージャマウリ監督の前作『バーフバリ』二部作の後編、『王の凱旋』。2017年の作品ですけど。これ、『バーフバリ』二部作は前年の2017年公開ということで、(番組恒例企画の)ランキング的には、以前の『クリード』同様の「チャンピオン」扱い、というね。前年公開作だったということで、そんな扱いにさせていただきましたが。とにかく大熱狂。後にはですね、S・S・ラージャマウリ監督にも生でスタジオにお越しいただいたりして。
まあ当番組を挙げて大熱狂させていただいた歴史的大傑作『バーフバリ』二部作。なにしろまあ、無類の面白さなんだけども。そのド直球の面白さというのはですね、実はとても全編、周到に、丁寧に構築されているからこそのものだよ、観れば観るほど細部にまで行き届いた工夫、仕掛け、配慮に感服させられてしまいますよ、というようなことを、その時評で僕、言いました。これは書き起こしがホームページにアーカイブされてますので、ぜひご参照ください。
で、今回、待望の新作『RRR』も然りでですね。たとえばですね、詳しくは後ほど言いますけど、ド派手でキメキメなアクションシークエンスそれぞれに、実は「火と水」とか、主人公たちが背負った象徴性が、必ずと言っていいほど巧みに織り込まれていて。単に「面白い」「豪快」なだけではない厚み、深みを、シーンごとにもたらしている、ということだと思います。特に今回の『RRR』はそういう、アクションシーンとしての構造と、言ってみれば詩的な象徴性が一体化したような、いわば「ポエティックな見せ場の構築法」というか、そういう独自の語り口がすごいところまできている一作、という言い方ができるかなと思います。
インド映画やインドにまつわる知恵を識者たちに借りてみた
ただ、もちろん僕自身ですね、インド映画や、その基盤にある現実のインドの諸事情、歴史など、不勉強、無教養ゆえ、まだまだまるっきりわかってないところもありまして。なので、その象徴性がちゃんと全部わかりきってないところもある。ということで、今回の時評もですね、例によってと言うべきか、識者の方々のお知恵をやっぱりお借りすることになるわけですね。もちろん当番組、10月18日に「インド映画最前線」でご出演いただいた、バフィー吉川さんもそうですし。
今回の『RRR』に関してはですね、まず、劇場用パンフに掲載されていた、アジア研究者の松岡環さんの記事。これ、さっきの左近幸村さんも「非常に勉強になった」というようなことを書かれていました。この松岡さんの記事、この中に、先ほども触れましたが……先日10月20日にS・S・ラージャマウリ監督、再びラジオに生出演していただいた時にも質問しましたけど、本作のエンドクレジット中、カーテンコール的エンドナンバーの中でですね、歌い込まれて、イラストが出てくる人たち。要するに、インド独立運動に関係がある方々、ということみたいですけど。
それがどういう人たちなのかの詳しい解説が、まず松岡環さんの解説に載っているわけです。これがすごく勉強になりましたし。特にですね、それぞれの人物も、地方が違えばほとんど知られてない……各地方から出ているんですけども、地方が違うと、お互いにそんなに知られてない。もっと言えば、主人公たちのモデルとなった二人も、テルグ語圏以外では知っている人は少なかったと思われる、ということらしいんですね。あるいはですね、現在のモディ政権下では、ヒンドゥー至上主義のシンボルにとられかねない、国旗の中の一色、サフラン色。そのサフラン色の出し方の、慎重な扱い方とか。
一方で、その主人公の一人、ビームは、インド国内の少数派側、被差別側の立場として描かれている、ということなど……S・S・ラージャマウリ監督が本作『RRR』に込めた、要は「分断を乗り越えようよ」という、汎インド的メッセージという部分がやっぱりこのエンドクレジットとかには込められている、というのを、このパンフの松岡環さんの解説で初めて理解したことでもありまして。なのでこれ、まずパンフはマスト・バイ、この記事は必読かと思います。
あとですね、それと並んで、今回の『RRR』に関して、最も私が勉強になった記事というか、解説がありまして。これは『BANGER!!!』というサイトの、安宅直子さんによるラージャマウリ監督のインタビュー、前後編。これがとにかく、めちゃくちゃ突っ込んだ内容で。めちゃくちゃ勉強になりました。これ、最高でしたね! たとえばですね、ちゃんと映画的な質問への回答もしていてですね。前編の中で監督が言ってるのは、アクションシーンの発想の仕方。「最初にあるのはたったひとつのイメージで、そのシーンで最良のカット」「シーン全体の中のただひとつの『ヒロイック・フレーム』を決める」……そして、そこから逆算していろんなことを詰めていくんだ、みたいなことを語っている。
非常に貴重な証言も読める参考文献たち。ただし、圧倒的な面白さについては説明不要
これ、要はこれいわゆる「キメ画」のことだと思うんですよね。キメ画。で、そこから何しろ発想していくんだというのは、ラージャマウリ監督作の「見栄を切る」感覚っていうか……その圧倒的なインパクトと気持ちよさからして、観ている我々としては納得!だと思いますし。これ、日本製アニメのキメ画イズム……あるいは、歌舞伎とか時代劇の「見栄を切る」というカルチャーですね。それに触れている日本人観客と、やっぱりラージャマウリ監督作の相性がいいのも、むべなるかな、という気がするようなお答えでございました。
またですね、同じく安宅直子さんのインタビューの後編ですけども。この間、バフィー吉川さんに教わった通りですね、それぞれの言語、それぞれの地方で異なる文化圏があり、当然のように、それぞれに映画界というのも複数あるインド。『RRR』はテルグ語、いわゆる「トリウッド作品」なんですね。
これ、ちなみにですね、『キネマ旬報』でさえ、『RRR』について、無造作に「ボリウッド」って、ノーチェックで書いてるところがあったりして。これはさすがに映画専門誌としてはちょっとトホホじゃないかな、っていう風に思ったりするんですけど。ともあれ、そうやってある種、映画界自体も分けられてるわけですね。で、こっちの言葉の映画はこっちでは全く観られてないとか、そういう状況をやはり乗り越えていこうというので、S・S・ラージャマウリ監督はいろいろ動いてきた、という話をこの後半では主にしてるんですけども。
これもですね、僕、不勉強で全く知らなかったことで……主人公ビームのモデルとなったコムラム・ビームさんという方。この方は、テランガーナ地方の、テランガーナ人。で、ラーマのモデルとなったアッルーリ・シータラーム・ラージュさんは、アーンドラ人。アーンドラ州、アーンドラ地方の方。で、この二人は歴史上会っていない二人なんだけど、その空白の1922年から1923年、歴史にあまり残ってないこの間にもし会っていたら……というIFストーリー。これは『イングロリアス・バスターズ』に強く影響を受けた、という風にラージャマウリさん、言ってますけど。
それが今回の『RRR』なんだけど、とにかくこの、テランガーナとアーンドラという地方。実は2014年に、テランガーナ地方は、いろいろ歴史的経緯もあって、アーンドラ・プラデーシュ州から分離・独立して。で、テランガーナ人とアーンドラ人、ともにテルグ語を話す人々同士が、反目・敵対するようなムードが強かった時期というのが、一時期はあったということらしいんですね。
っていうことを踏まえれば、この主人公二人の、立場を超えた団結の物語。それぞれの出身地方というのがある、という……これはやはり、さっき言ったようなラージャマウリ監督の、「分断を乗り越えよう」という、汎インド的メッセージというのがやはり込められていることがわかったりして。とにかく、安宅直子さんの『BANGER!!!』のインタビュー、これ、めちゃくちゃ面白かったんで、必読かと思います。
あと、『GQ』の篠儀直子さんのインタビューも、特にあの、音楽監督のM・M・キーラヴァーニさんが編集にも大きく関与している、という話。たとえばですね、最初のタイトルの出し方……「STORY」、「FIRE」、「WATER」と来て、最後に「RRR」!と揃うあのアバンタイトル構成。この案も彼から出たものだ、ということで。非常に貴重な証言だと思います。こちらもぜひお読みいただきたいと思います。
ということでですね、己の無知に謙虚になるあまり、人様の仕事の引用がかなり長めになってしまいましたけども(笑)。まあ、ぶっちゃけラージャマウリ作品ね、その圧倒的な面白さ、という部分に関しては、観ればそれこそ世界中の誰にでもわかる、普遍性に満ちているわけです。なので、説明不要ではある。もう観てもらうのが早い、っていうことがある。
一見エンタメ性をひたすら追求したシーンに見せる場面にも、より深い象徴性が重ね合わされている
たとえばですね、NTRジュニアとラーム・チャラン。このテルグ語圏のスーパースター二人が揃えば、これをやらせないわけにはゆかないだろう、という風に監督もあちこちでおっしゃっております、途中の、ダンスシーンですね。まさしく驚異的な、二人のシンクロ率。部分的に早送り、コマ落とし的な処理も加えつつ……植民地支配、民族差別への抵抗・カウンターという、監督も信奉するブルース・リー的精神を、誰の目にも明らかなエンタメとして昇華してみせて。なおかつ後半、脱獄シークエンスの伏線にも、ここはしっかりなっていて……という感じで。
このようにですね、先ほども言った通り、一見エンターテイメント性をひたすら追求したように見える見せ場。もうこのダンスシーンなんか、楽しいだけのシーンに見える。なんだけど、そこにも必ずと言っていいほど、より大きな背景……たとえばもちろんその、植民地支配とそれへの抵抗という話。人種差別の問題、文化的差別の問題ですね。「西洋文化の方が上だ」っていう考え方へのカウンター、という部分があったりとか、より深い象徴性というのが重ね合わされているからこそ、ラージャマウリ作品はすごい、というね。特にこの『RRR』はそこが進化している、ということだと思います。
たとえば、さっき言ったアバンタイトル、それぞれの紹介パート。まず、ラーム・チャランさん演じるラーマの、「FIRE」パート。先ほど(番組オープニングで)もちょっとお話しましたけど、数千人? 数万人?の群衆 VS 一人。それを、『マトリックス』的な、チート的超能力描写みたいなのはナシで、あくまで物理的な……まあ超人的ガッツとか、超人的意志とか、超人的スタミナとかはあるけど。なんか急にバーン!って人が、何かわかんないんけど吹っ飛んでいくとか、そういうチートはせずに描く。これ、ラージャマウリ監督もインタビューでおっしゃってましたが、一旦は無理かと諦めかけた設定、という。これ、『マガディーラ 勇者転生』という2009年の作品では100対1、というのをやっていたけど、あちらは細長い崖の上だったから、まだできたけれども……という。
それを、ラージャマウリ監督も諦めかけたところを、スタントコーディネーターのキング・ソロモン氏がアイディアを凝らして、実際に説得力あるシークエンスとして構築してみせた。つまり、何万人であろうと、襲いかかってくる周りの人数というのは限られているのだから、それをまず一人一人、崩していく。耳をひねり、指を折り……まとめてやっつける時は、地理的条件を利用し。そしてやはり、「火」を使う、ということですね。
事程左様にですね、他を寄せ付けない、火のごとき鉄の意志、というラーマ(というキャラクターの性質)、これを(観客の意識に)焼きつける。先ほど、金曜パートナーの山本(匠晃)さんも言っていたけど、要するにこのシークエンスは、シークエンスとして面白いだけじゃなくて、なぜここまで彼がするのか?というミステリー、謎掛けになってるんですね。明らかに、イギリス人に忠誠を誓っているツラじゃないわけですよ(笑)。なので……という、ちゃんとストーリー的な振りにもなっている。
続きまして「WATER」パート。NTRジュニアさん演じるビーム。端的に言えば彼は、自然児。大地の子なわけですね。ここは、『アポカリプト』をさらにダイナミックにしたような、トラとの追いかけっこ&なんなら力比べシーン。ここはなにしろ、トラと人間とのタイマン勝負を成り立たせるための仕掛け、セッティングの数々、ここが本当に、アイディアがすごく、いちいちフレッシュで面白い。たとえば網とロープで引っ張り合う、とかいう、そのセッティングのアイディアがとてもフレッシュで、秀逸です。
あと、これはですね、ラージャマウリ監督にもお伝えしましたが、『バーフバリ』の象のくだりを彷彿とさせる。「とはいえ動物たちは敵ではない、むしろ我々の同胞なんだ」というスタンス。言うまでもなくそれは、冒頭で……あのイギリス帝国総督のスコット・バクストンというね、まあ一番の悪役ですよ。彼が、ハンティングをしている。しかも、ちょっと過剰な数の鹿を狩っていて。「そんなに狩る必要があるか?」っていう。それと見事に対照をなすものとなっていて。だから冒頭でもう、思想の違いっていう面でも(作品上に)出ているわけです。
そして、見ているこちらも思わず力が入るこの序盤の見せ場こそがですね、中盤の、先ほども言いました、あっと驚く大仕掛け、あっと驚く殴り込み……イギリス、白人、西洋への、アジアからの、そして大地からの、自然からの逆襲シークエンス。派手なだけじゃなく、メッセージとしても熱い!わけですよ。そういう男が率いてるから(心情的にもより思い入れが増す)、っていうことなんだよ。
「俺はラーマ!」「おいら、ビーム!」 ガキーン!
で、さらにすごいのはここからですね。火のラーマと水のビームが出会う、少年救出シークエンス。だから、今まではまだ振りなんですよ。ラーマは橋の上、ビームは橋の下、川っぺりにいるわけです。そこへ、橋の中を通っているレールの上を、機関車がやってきます。当番組の構成作家、古川耕さんに指摘されて「ああ、なるほど」と思いました。蒸気機関というのは、「水と火で巨大な力を生み出す」装置ですね。そして言うまでもなく、同時にこの蒸気機関というのは、大英帝国のパワーの源……なぜ植民地支配なんかできてるかといえば、産業革命があったからです。なので、そのシンボルでもある。
で、これは前述の篠儀直子さんの監督インタビューによれば、川の上の男の子……要するに、列車の火災・爆発で火の海となった川の上に取り残された男の子は、危機にみまわれている当時のインドのメタファーでもある。さあ、この時点でもう何個、象徴が重ねられているんだ?っていうことなんですけども。で、橋の上と下、運命的にビビビッと目が合ったラーマとビーム。馬とバイク、そしてロープを使って、あっと驚くレスキュー作戦をこれからやるわけですけども。
ここもですね、「母なるインド万歳」と書かれたその独立運動、当時のその旗をですね、まずラーマがバイクでバッと取って。で、ボーンと下に落ちて、まずそれを水面でファーッと濡らして。で、子供と入れ替えざまに、ポーンとビームに投げ渡す。で、旗と一緒にそのビームは、炎の中にバーッて突っ込んでいっちゃう。で、子供を安全なところ、川岸にポーンと投げ落としたラーマは、心配そうに反対側、自分の向こうに行っちゃったビームの、炎の方を見つめていると……炎の中から、濡れた旗にくるまって炎を免れたビームが、バーン!とやってくる! で、二人がガシッと手を組んで、お互いの名を名乗る! 「俺はラーマ!」「おいら、ビーム!」 ガキーン! 『RRR』! 最高!!(笑) つまり、火と水という対照的な二人が手を組んだ時に、インドは救われ、独立は成る!……というメタファーが、アクションの面白さの構造と、完全に一致して提示されている!という。これはすごいシーンだよ。
この後もですね、ラージャマウリ監督曰く、10分に一度、これ級の見せ場が連続するので。はい。まあとにかくアイディアが豊富なんです。全部は触れ切れておりませんが。たとえば、あっと驚く殴り込みシーン、さっき言ったのもそうですし。
たとえばですね、後半のあっと驚く……もうあっと驚いてばっかなんだけど(笑)、あっと驚く脱獄シーン。1975年、インドの国民的ヒット映画『炎』オマージュとも言われてるし、私個人的には、『ミラクルカンフー阿修羅』、そして『エル・トポ』的なものも感じたその脱獄シークエンス、驚きのアクションシーン。これ、ラーム・チャランさん側をワイヤーで吊っている、ということなんだけど。ここも、実は序盤で、二人が超仲良くなってキャッキャキャッキャやってる場面の中に、この脱獄劇の伏線が、ちゃんとあるんです! 皆さん、おわかりだろうか? よくできてるね! 丁寧だねー!
もちろん、さらにクライマックス、『ランボー』『アポカリプト』をさらに100倍派手にしたようなジャングル内返り討ち戦。これも最高でしたね。そしてもちろん、冒頭から繰り返される、もうはらわたが煮えくり返るほど屈辱的な、人種差別的なセリフを、ものの見事に、弾丸とともにてめえにお返しするぜ!っていう痛快無比なラストに至るまで、まあもう最高!ということで。
今、日本の映画館でかかっている映画で間違いなく一番面白い! 『RRR』!
もちろんね、(リスナーメールでも)おっしゃられている方がいる通り、『バーフバリ』よりは、お話上、女性の役割がかなり少なくなっているのは、物足りないところではありますね。ただ今回はね、言っちゃえば一種のブロマンス物、「二人の男」物なので、というところはあるとは思いますが、(批判的な方が)おっしゃっていることもわかります。
とにかく諸々の、なんというか事情みたいなものをさらにわかって見ると、その込められた寓意と、そしてそれがアクションの構造といかに一致してるか、よくわかってですね。やっぱりラージャマウリ監督の作品構築の仕方は独特だし、他には類例がない……ベタなようでいて、他の人とは違うのは、やっぱりそういうところだと思うんですよね。はい。
ということで、『バーフバリ』も素晴らしかったですが、これまた違う進化の方向で『RRR』、すごい作品だな、という風に言わざるを得ないですし。まあとにかく、「面白い」ということに関しては、いちいち言わなくてもいいぐらい、めちゃくちゃ面白いです。3時間超えとか言ってますけど、全部面白いんで、あっという間です。本当にこれは比喩ではなく。ぜひぜひ、劇場の、とにかくでっかいスクリーンで。僕はIMAXを……あの途中の殴り込みね。バーン! ドダーッ、ガーッ! ドガシャーン!って。しばらく数分間、俺、開いた口がふさがらなかったんですよね。「なんだ、これ?」って(笑)。
しかもその場面から始まる戦い、ラーマとビームがついにお互いの正体を知り対峙するところの、ビームの後ろは水でホースがブシャーッ!ってなっていて、こっち(ラーマの背後)は炎で花火がブシューッ!ってなっている。ああいうキメ画であり、象徴性の重ね合わせであり……もう、そういうところも含めて、一個一個ディテールを語っていたらきりがない。ということで、まあまあとにかく、保証します。今、日本の映画館でかかっている映画で、面白いのは間違いなく、一番です! 『RRR』です! 面白い映画が観たければ、ぜひぜひ劇場で、ウォッチしてください!
(ガチャ回しパート中略 ~ 宇多丸が1万円を支払ってガチャを2度回すキャンペーン続行中[※1万円はウクライナ支援に寄付します]。一つ目のガチャは『夜を越える旅』、そして二つ目のガチャは『線は、僕を描く』。よって来週の課題映画は『線は、僕を描く』に決定!)
以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。