卒業式の季節ですね。今ではスマホで撮影する人が増えましたが、私の頃は、フィルムを入れる機械式のカメラでした。撮ったフィルムは写真屋さんに持って行き、現像してアルバムに貼る。時間が経つと色が褪せてしまうこともありましたが、フィルムで撮った写真には独特の味わいがありました。
さて、3月19日は『カメラ発明記念日』。フランスの画家で、写真家のルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが写真機を発明した日です。今回は、そんな写真機を修理し、甦らせる『写真機修理店』のお話です。
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
西武池袋線『中村橋駅』から歩いて5分ほど。練馬区立美術館の近くに、『リミエ写真機修理店』はあります。洋菓子店のようなおしゃれな店構えで、中に入ると、ショーケースには懐かしいカメラがずらりと並んでいます。
ここは、フィルムカメラ専門の修理店で、修理のほかに、買取・販売、修理教室やレンタルギャラリーとしても利用できるお店です。
店主の東哲哉さん、45歳。物腰が柔らかく、少し関西訛りのイントネーションがあります。両親が大阪の出身で、東さんは滋賀県大津市のニュータウンで育ちました。フィルムカメラとの出会いは、大学1年生のとき。
「ドイツ製のカメラ『レチナ』を手に入れたんです。ボディーに蓋があって、それを開くと中からレンズがせり出してくるクラシックカメラです。このカメラとの出会いが、カメラ修理の道を開いたと言えるかもしれませんね」
大学でフランス文学を学んだ東さんは、フランス映画に魅せられて、映画学校に通い、自主映画のカメラマンとして関わりました。撮影技術会社に就職した後も、自主映画の撮影を手伝っていたそうです。
「自主映画は、デジタルカメラの動画機能で撮影していました。そのカメラにオールドレンズ、つまり昔の一眼レフカメラのレンズを取り付けると、なんとも言えない味わいのある映像が撮れたんです。ところがレンズが古くてカビが生えていることもあって、『どうにかならないかな』と思っていたとき、カメラ修理教室があることを知ったんです」
カメラを修理する仕事があるんだ! と知った東さんは、30歳の頃会社を辞め、その修理教室に、ほぼ毎日朝から晩まで通い、帰宅後もカメラの修理に明け暮れました。そんな1年間を過ごした東さんは、2011年、31歳でオンラインショップを開業します。
しかし当初は、月に2~3台しか依頼がありませんでした。それでも丁寧な修理と誠実な対応を心がけたことがネット上で評判になり、今では2~3ヶ月待ちという状況にまでなりました。
昨年3月14日、オンラインショップから、練馬区に『リミエ写真機修理店』を開いた東さん。ちょうど一周年を迎えました。
「商売としてはオンラインショップの方が効率的なんです。でも実際に壊れたカメラを見ながらお客さんと話をするのが、とても楽しいんです、いろんな思い出を語られる方が多くて、その話を聞くと、何としても直したくなるんですよ。お店を開いて本当によかったと実感した一年でした」
店内では『修理教室』も開いています。
・家で眠っているフィルムカメラを直して使ってみたい。
・修理したフィルムカメラを販売し、在宅副業を始めてみたい。
・フィルムカメラ好きの仲間を見つけたい。
・長く続けられる趣味を持ちたい。
そんな方々が教室に通っているそうです。
ある日、80代の女性から「カメラを譲りたい」と電話がありました。話を伺うと、「女学生時代、修学旅行に行くときに親が買ってくれたカメラでもう壊れていて、使うこともないので……」とのこと。そして後日、送られてきたのは、なんと、二眼レフカメラでした。教室でその話をすると、若い女性の生徒さんがこう言いました。
「私にそのカメラを修理させてください! 私がそのカメラを受け継いで大切に使っていきたいです」
譲ったおばあさんも、その話を聞き「うれしい!」と大変喜ばれたそうです。昔の機械式カメラは、修理やメンテナンス次第で、世代を超えて使い続けることができます。そして、それを受け継ぐ人がいる限り、思い出もまた、生き続けます。
店名の『リミエ』には『光』という意味があります。壊れたカメラに光を灯し、思い出を未来へとつなぐ場所、それが『リミエ写真機修理店』です。
リミエ写真機修理店
東京都練馬区貫井1-35-16
03-6313-4237
実店舗オープン『一周年キャンペーン』開催中。
・『購入割引』カメラ・レンズ全品10%オフ
・『ギャラリー予約割引』レンタルギャラリー利用料30%オフ
※6か月先まで予約できます。
※修理・整備料金は機種によって異なります。ホームページでご確認ください。
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