『なごり雪』は、なぜ失恋ソングとして優れているのか? いきものがかり・水野が熱弁

J-WAVEで放送中の番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:藤田琢己)。2月14日(木)のオンエアは、いきものがかりの水野良樹とのコンビでお届けしました。

日替わりナビゲーターがお送りするコーナー「DAILY SESSIONS」。この日は、「失恋ソング」について水野が解説しました。水野の思う失恋ソングの金字塔は、『なごり雪』。その魅力とは。


■物語が「会話」で進行しない

いきものがかりの曲のなかには、『なごり雪』に影響を受けて書いた曲が何曲もあるのだとか。そのひとつが『KIRA KIRA TRAIN』です。

水野:この曲は、ほぼ『なごり雪』のオマージュです。設定は、ほぼ一緒。冬が終わりかける季節で、ホームが舞台になっていて。
藤田:なるほど。
水野:この曲の2番の歌詞を知ってる人はわかると思いますが、この曲は2段構成になっています。1番は男性目線、2番は女性目線です。印象も違っていて、かけあいになっています。かけあいといえば、こちらも失恋ソングの金字塔『木綿のハンカチーフ』。『KIRA KIRA TRAIN』には、いろいろな曲の影響というか、憧れが無邪気に出ているんです。この曲を作ったのは20〜21歳の頃で、フォーマットを真似したり、自分でやってみたいと思って作った曲です。

続いて、「憧れが強すぎて雪を降らせちゃいました」と、紹介したのは『SNOW AGAIN』です。

水野:ポイントは“相手の表情を見ている”というところ。別れ際のカップルって、たぶんなんですけど、おしゃべりではないと思うんです。いろいろなことを語れるような関係だったら別れてないような気がしていて、会話をしてもギクシャクしてしまって、ボソッとつぶやく程度。だから、2人の会話で物語が進行するのは少なくて、どちらかというと黙っていて、お互いの横顔を見て、表情を見て、相手の気持ちを探ってるシーンのほうが多いんじゃないかと。「違う道に進むんだな」と、彼や彼女の表情を見て悟るんです。『SNOW AGAIN』は、その構造の影響を受けています。


■「それだけで名曲になっちゃう」ポイント2つ

『なごり雪』は、シチュエーションも大事なポイントです。駅が出てくること。もうひとつは、季節の変わり目であることです。

水野:これは、2大「それだけで名曲になっちゃう、リーサルウェポン」的ポイントです。季節の変わり目というだけで、物語が進行していく感じがします。区切りというのは、必ずドラマが起こるもので、冬から春に変わるだけで、登場人物が違う段階に進むことが、何も説明しなくても伝えることができます。特に冬から春という季節は、すごく使いやすいというか、一番いい物語ができる変わり目なんです。
藤田:なるほど!
水野:大事なのは、ここで向かっていくのは春だということ。グッとくるにはコントラストが大事で、あたたかな印象、始まりの印象のある春に向かうというのに、登場人物たちは別れを迎えたり、悲しさや切なさを抱えている、このコントラストが心を刺すギャップとなるんです。そして、駅にいるというだけでドラマになります。
藤田:駅のもつ、別れの情緒みたいなのがありますよね。
水野:出会いと別れの場所です。駅のホームは電車に乗る人と、残る人。人生を前に進める人と立ち止まる人と、どちらも表現できます。だからすごくわかりやすい舞台なんです。

水野がこのポイントに影響を受けた曲は、山本彩さんに提供した『春はもうすぐ』。「失恋ソングというよりは旅立ちの歌なんですけど、春と駅がポイントになった曲です」と話しました。


■別れは「ワンシーンの印象」が大きい

失恋より溝の深い別れを描いたのが、『ラストシーン』。生死を感じさせる一曲です。

水野:別れや失恋のシーンって、2時間や3時間にするような映画の物語というよりは、相手のふとした表情とか、喧嘩したときにふと出てきた一言とか、印象的なことって、ワンシーンだけなんじゃないかって思うんです。
藤田:そうですね。
水野:歌もワンシーンなのではないかと思って、あまり長い物語は必要なくて、印象的なワンシーンが、どのくらいコントラストを深く描けるかが大事なのではないでしょうか。

水野は最後に、『なごり雪』に対する熱い思いを語りました。

水野:ふと彼女の横顔を見たときに、自分が知っている彼女ではなくなっていた。今まで、長い時間を共に過ごしてきたはずだけど、彼女とは違う人生を生きているんだと、主人公は悟るわけです。自分とは違う夢を見ている、違う道を進んでいる。しかも、「彼女にとって進むべき道なんだ。彼女の幸せにとって、これが正しい道なんだ」ということを悟っていて、そこに何もすることができない、ぼう然としている自分がいる。さまざまな全ての感情が歌詞の最後の2行の中に詰め込まれていて、聴き手がいくらでも想像を膨らませることができて、いろいろな物語がうまれていきます。

水野は「こういう曲が書けるようになりたいな」と、最後にポツリとつぶやきました。『なごり雪』や、今回紹介した曲を、ぜひ改めて聴いてみてください。

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【番組情報】
番組名:『SONAR MUSIC』
放送日時:月・火・水・木曜 21時―24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/

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「観光客」だけでなく「地域住民」の満足度も目標値に オーバーツーリズム対策と課題

ジャーナリストの佐々木俊尚が10月4日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。オーバーツーリズム対策について解説した。

※画像はイメージです

オーバーツーリズム対策、宮島では訪問税がスタート

世界遺産・厳島神社で知られる宮島(広島県)を訪れる観光客らから、廿日市市が1人100円を徴収する「宮島訪問税」が10月から始まった。観光客が過剰に訪れ、環境や住民生活に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」対策に役立てられる。

新行)「宮島訪問税」は市が制定した条例に基づく地方税で、島に渡るフェリーの乗船料に上乗せされます。市は年間で約3億円の税収を見込んでおり、公衆トイレや旅客ターミナルの維持管理、電柱の地中化などにあてられるそうです。

佐々木)ある程度対策しないと成り立たないぐらい、観光客がたくさん来てしまっている状況ですよね。海外からの観光客は、これまでだと2000万人台ぐらいでしょうか。コロナ禍から復活してきていますが、中国人はまだそれほど来ていないので、中国からの観光客が全面的に回復すると3000万人くらいになるかも知れません。

新行)そうですね。

佐々木)外国からの観光客が世界一多いのはフランスで、ヨーロッパ大陸内だからというのもあるけれど、6000万人~7000万人くらいだと言われています。日本もその数字を狙っていますが、日本人の半数ぐらいの人口が来たらどうなるのか。

特定の観光地に偏りすぎている ~「何を魅力として打ち出すか」を考える

佐々木)ただ、数を見るとすごく偏っています。山だったら富士山しか行かないとか、京都や宮島、東京であれば銀座など、特定の場所に集中してしまう問題がある。まずはこれを分散させることですよね。

新行)分散させる。

佐々木)そのためには「何を魅力として打ち出すか」を、もう少し考えた方がいいのではないでしょうか。

観光名所に行っても人が多すぎて楽しめない

佐々木)昔、キューバのハバナへ旅行に行ったことがあります。ハバナにはヘミングウェイが通っていたバーがあるのです。カウンターで「渋い夕暮れを眺めながらモヒートを飲みたい」と思って行ってみたら、「100人いるか」と思うほど多くの観光客がいました。

新行)そうなのですね。

佐々木)大群衆になっていて、まったく楽しめませんでした。そんなところに行っても観光的な風情がないではないですか。

新行)ゆっくり楽しむという感じではなくなってきますよね。

佐々木)昔は観光地に行き、「観光地の名前が入った土産を買って帰る」というパターンが多かったと思いますが、現在はそういうものを求める人は減っていると思います。

観光客が少ない「自分だけが知っている店」に行きたい

佐々木)私の友人が「Airbnb(エアビーアンドビー)」という民泊の物件を持っているので、外国からの観光客がどんなことを言っているのか聞いたら、「観光客の来ないところを教えてくれ」と言われるそうです。

新行)なるほど。

佐々木)中国や台湾からの観光客も、何度も日本に来ていると、最初は富士山や銀座に行くけれど、「観光客が少ない自分だけが知っている店に行きたい」となってくる。渋谷の代々木上原は、あまり外国人に知られていない街だと思いますが、おしゃれな店が多いですよね。なぜか台湾人の観光客が、あの辺りの飲食店で食べているのです。

新行)そうなのですか?

佐々木)店の人たちにそれとなく「あの人たちは台湾から来ているようだけれど、なぜこんな店を見つけたの?」と聞いたら、「SNSの口コミで見つけた」と言っていたそうです。共有されている「密かな情報」があるらしいので、そういうものをうまく活用することが大事ではないかと思いますね。

「何もないけれど素晴らしい土地」が日本にはたくさんある ~富山県の素晴らしさをイギリスの記者が紹介

佐々木)『クーリエ・ジャポン』という海外メディアを紹介する日本のウェブサイトがあって、そこに英紙『デイリー・テレグラフ』の記事が紹介されていました。デイリー・テレグラフの記者が富山県に行くのですが、「富山はどんなところか?」と日本で周りの人に聞くと、「山があって海がある」しか答えないのです。

新行)そうですか。

佐々木)自分の周りでも、海外から来た観光客で富山に行った人は誰もいない。でも富山に行ってみたら、素晴らしくよかったそうです。北アルプスの雄姿が広がり、目の前には魚の旨い富山湾があって、素晴らしい水田が広がっている。昔からの板塀の日本家屋が並んでいて、「これぞ日本の極地」というような場所であり、「みんなここに行った方がいい」という記事を書いているわけです。

新行)なるほど。

佐々木)金沢や軽井沢は有名だけれど、同じ北陸新幹線でも富山にはあまり行きませんよね。日本人でさえ行く人は少ないのではないかと思います。でも、そういう「何もないけれど素晴らしい土地」が日本にはたくさんあるのです。

「住民なりきり旅行」のようなオーバーツーリズムにならない打ち出し方が必要

佐々木)私は最近、旅行に行くとホテルではなく民泊に泊まるのです。民泊だとキッチンがついているではないですか。料理するのが好きなので、地元の道の駅や農協の直売所、漁協などに行って魚や野菜を買い、地元住民になりきった気持ちで料理して食べるのです。

新行)いいですね。

佐々木)町を手ぶらで歩き、「この町にも長い間住んでいるな」と勝手に思い込むような、ロールプレイング的な「住民なりきり旅行」も楽しいです。そういうものはオーバーツーリズムにならない、別の打ち出し方ではないかと思います。

新行)観光名所だけを打ち出すのではなく。

「地元の人も満足できて観光客も満足できる」というところを最終的な目標地点にする

佐々木)観光が目指すべき目標値において、みんな「観光客の満足度」や「観光客の数」を言うではないですか。それだけではなく、ハワイが実施していますが、「地域住民の満足度」も目標値に入れようと動いています。

新行)住んでいる方々の環境なども考えなければいけないですよね。

佐々木)観光客の人も、地元住民から嫌われたくはないでしょう。でも、もはや京都の人は観光客を嫌っていると思います。バスも乗れないですし。それでは観光の目標値になっていない。「地元の人も満足できて、観光客も満足できる」というところを最終的な目標地点にすることが大事ではないでしょうか。

2024年から日帰り客への入域料を導入するベネチア

新行)読売新聞には、ベネチアの例が大きな記事で出ています。宿泊ベッドが人口を超えたそうです。

佐々木)すごいですね。

新行)ベネチアは来年(2024年)春から試験的に、日帰り客を対象に入域料を導入するそうです。

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