政府が「子連れ出勤」を後押し…心配点は?

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J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。2月13日(水)のオンエアでは、水曜日のニュース・スーパーバイザーを務める安田菜津紀が登場。賛否の声が上がっている、政府の子連れ出勤後押しについて、保育や子育ての問題に詳しい、ジャーナリストの猪熊弘子さんと考えました。


■子連れ出勤の政策、実現するか?

先月、少子化対策などを担う宮腰光寛内閣府特命担当大臣が、茨城県つくば市の企業で子連れ出勤の様子を視察しました。視察後に宮腰大臣は、「新しい施設を整備する必要がなく、企業の規模にかかわらず取り組むことができ、どんな企業でも取り組めるのではないか」と実感したそうです。さらに、この取り組みをモデルとして全国へ広めていければとも考えており、政府として子連れ出勤を後押しすることを表明しました。

まず、猪熊さんは政府の子連れ出勤後押しについてどのように考えているのでしょうか。

猪熊:地域少子化対策重点推進交付金を使って、政府は子連れ出勤を後押ししようとしています。新しい施設を整備する必要がないので、そういう取り組みをする企業を支援しようとする動きがでているようですが、やや炎上していることもあり、実際にどれだけ現実的にこの政策が実現するかは疑問です。


■子連れ出勤の心配な点

では、政府が後押ししている点にはどういった心配が上げられるのでしょうか。

猪熊:子どもの視点からすると、歩けるようになったらバタバタ動きたいし、発達にとって会社にいることがよいかは疑問です。その点では子どものためにいい保育が受けられる場所のほうがメリットもあると思います。それらを考えると、会社に連れて行くにしてもそこにきちんとした保育所があり、子どもの発達を考える保育が与えられる環境があればいいとは思います。

猪熊さんは、子連れ出勤で4、5歳の子どもが大人と一緒に絵を描いて過ごす光景を見たとき、「これは本当の意味で子どもにとってよいことなのか」と考えると、やはり子ども同士の集団の関わり合いや、子どもの成長をもっと促すような遊びが必要だと考えました。

猪熊:「子どもにとってどうなのか」という視点をいかに政府が持つかがいちばん大切なので、その部分が心配ですね。


■社内の託児スペースより、しっかりした保育施設を作るほうが重要

宮腰大臣は、子連れ出勤により新しい施設を整備する必要がない、と発言しましたが、その点についても疑問が残ります。

猪熊:私は新しい施設を整備する必要があると思います。会社のフロアに子どもがいて安全なのかどうか。たとえば、床にシートを敷くだけの仮の場所で過ごさせていいのか、小さなものを口に入れてしまったり、ケガをさせてしまったりするようなものがないか、テーブルや机にしても子どもの大きさに合ったものがあるのか、など考えると会社に託児スペースを作るよりも、しっかりとした保育施設を作ることの方が重要だと思います。


■現状の保育施設が抱える問題

現状、子どもの受け皿である保育施設の整備自体はどのように進んでいるのでしょうか。

猪熊:日本のどこも「保育士がいない」と言われています。また、新しい保育所を整備したいけど、保育士がいないので進まないという話もあります。そのため、保育士の処遇の改善はもちろん、保育士養成のための学校も必要になるなど、保育の整備を全体でやっていかないといけない状況ですが、なかなかそれが進んでいないため、全ての待機児童がなくなるまでには至っていません。

多くの問題点を指摘した猪熊さんは、「子連れ出勤を後押しする前に、子連れ出勤の定義をもっとしっかり考えるべき」と続けます。

猪熊:政府の子連れ出勤の後押しは、「絶対に赤ちゃんを連れてきてはいけない」という文化が本当にいいのかどうかに一石を投じることになるとは思います。私は、赤ちゃんが授乳をしていておとなしく過ごしている状態であれば、1、2時間くらい働く場所に連れてきてもいいと考えています。海外では実際にそういう場所がたくさんあります。「ここは大人の場所だから、子どもは絶対に連れてきてはいけない」という流れを何とかした方がいいのではないでしょうか。
安田:いざとなった場合は「赤ちゃんをここに連れてきてもいいですよ」という土壌を築いていくことは大事ですよね。一方で、テクノロジーが進む世の中なので、それらを活用して在宅で会議に参加できるような取り組みもできますか?
猪熊:それも必要だと思います。都市部では電車通勤の人も多く、満員電車に赤ちゃんを連れて行くのは恐怖です。それであれば、テクノロジーを使って会議をするなどすれば、親にとっても子どもにとっても負担がなくなります。必ずしも子連れ出勤が必要な人ばかりではないと思うので、そこの整備も必要です。


■子どもの発達に合わせ、ベストな環境を選べる仕組みを

子連れ出勤の後押しは、働き方や環境整備などいろいろな課題と向き合いながら進めていく必要があると分かりました。改めて、これから子連れ出勤後押しをどう進めていくことが望ましいのでしょうか。

猪熊:はっきりと子連れ出勤の定義を決めて、子どもにとっても親にとっても負担がない環境整備が必要です。また、子どもにとって親と過ごすよりも、子ども同士の集団や他の人と過ごす方がいい時期になったら、きちんとした保育施設に預けることも視野に入れてほしい。子どもの発達に合わせ、いちばんベストな環境を選べるような子連れ出勤になればいいと思います。

最後に猪熊さんは「子どもが社会のなかで居心地よくいられて、親も子どもがいてよかったと思えるような子育て支援が男女問わずできてくると、安心して若い人たちが子どもを産めるようになる」と想いを伝えました。

子どもがいる親だけの問題とせず、子どもが社会と共にあるという視点を持ちながら社会全体でこの問題を捉えていく必要があるかもしれません。

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時−21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

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第61回グラミー賞で印象的だったことは? 日本人クリエイターも活躍した授賞式を振り返る

J-WAVEでオンエア中の『〜JK RADIO〜 TOKYO UNITED』(ナビゲーター:ジョン・カビラ)のワンコーナー「ECC FEATURE FOCUS」。2月15日(金)のオンエアでは、アメリカのポピュラー音楽やポップカルチャーに詳しい、慶應義塾大学教授の大和田俊之さんが「第61回グラミー賞授賞式」について解説しました。


■マイノリティへのメッセージが明確

現地時間2019年2月10日にロサンゼルスのステープルズ・センターで開催された「第61回グラミー賞授賞式」。今年の授賞式について、大和田さんは「メッセージがハッキリとした授賞式だった」と振り返ります。

カビラ:“女性賛歌”でしたね。
大和田:そうですね。去年、グラミーの会長ニール・ポートナウが「女性はステップアップすべきだ」と言って、だいぶ批判されました。それに応えるように、ホストにアリシア・キーズ、オープニングにカミラ・カベロ、ヒスパニック、ラティーノ系のアーティストをフィーチャーして、全体としてマイノリティの起用が重要なテーマだったと思います。

オープニングトークのあとには、レディー・ガガ、ジェニファー・ロペス、ジェイダ・ピンケット=スミス、ミシェル・オバマと、4人の女性が登場し、大きな話題となりました。オバマさんの登壇は、現地にいたカビラも知らされていなかったサプライズだったと明かします。

カビラ:構成表を渡されるんですけど「MO」と書いてあって、スタッフで「MO」を検索したりしました。まさか「ミシェル・オバマ」さんとは、一番ビックリでした。
大和田:あれが一番盛り上がってましたよね。拍手が鳴り止まなくて。
カビラ:明らかに、トランプ大統領のベースを構成するみなさんではない人が、会場に多くいたという感じでしたよね。


■ヒスパニック系アーティスト起用の意味

大和田さんは、特にオープニングに注目していたと話します。カミラ・カベロ『Havana』にフィーチャーされているYoung Thug、リッキー・マーティン、J. バルヴィン、さらにキューバ出身トランペッターのアルトゥーロ・サンドヴァルがフィーチャーされました。

大和田:プエルトリコ系で“キング・オブ・ラテン・ポップ”のリッキー・マーティンは、のちにゲイであることをカミングアウトしています。カーディ・Bにフィーチャーされたりして、伸び盛りのコロンビア出身のシンガー、J. バルヴィンなど、ラテン・ポップの新旧スターがオープニングにフィーチャーされていました。カビラさんが「演出がミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』を彷彿とさせる」と言ってましたが、あの話はプエルトリコ系アメリカ人非行グループ「シャーク」とポーランド系アメリカ人非行グループ「ジェッツ」の抗争の話ですから、「シャーク」側からみた『ウエスト・サイド・ストーリー』としてのグラミー賞というメッセージが、明確に出ていたと思います。

前例があまりない、ラテンアーティストの大フィーチャー。ステージ演出で登場した新聞の見出しには「壁ではなく橋を架けろ」と、ヒスパニック系との分断を進めるトランプ政権に対するグラミー側からの力強いメッセージが掲げられました。


■日本人クリエイターの活躍も!

さらに、チャイルディッシュ・ガンビーノ『This Is America』が、「年間最優秀楽曲賞」と「年間最優秀レコード賞」の主要2部門を獲得しました。

大和田:あれは驚きましたが、メッセージ性の強い授賞式の印象からすると、納得の受賞という感じがします。
カビラ:ヒップホップが双方獲るというのは初めてで、うねりを感じますね。
大和田:昨年5月に『This Is America』のミュージックビデオが公開されて騒がれていたので、大学のあらゆる授業でビデオを使って解説しました。背景として黒人コミュニティに対する暴力が描かれていて、前のほうで子どもとチャイルディッシュ・ガンビーノが踊っている2層構造が印象的ですよね。

【動画】チャイルディッシュ・ガンビーノ『This Is America』はコチラ

このミュージックビデオでは、アメリカ在住の日本人映像作家ヒロ・ムライさんが関わっています。ヒロ・ムライさんは、ドナルド・グローヴァー(チャイルディッシュ・ガンビーノは、音楽活動を行うときの名義)が主演を務める話題のドラマ『アトランタ』の監督も務めており、「今後、目が離せないクリエイター」だと、大和田さんは話しました。

今後のアメリカ音楽界の動きについても、「アジア系の台頭に注目」と大和田さん。ラテン系アーティストや女性アーティストにフォーカスした今年のグラミー賞から、アメリカ音楽界における、さらなるマイノリティの台頭が期待できそうです。

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【番組情報】
番組名:『〜JK RADIO〜TOKYO UNITED』
放送日時:毎週金曜 6時−11時30分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/tokyounited/

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