外国人旅行者が増えるなか 「日本の美しさをどう守るか」が今後の課題

ジャーナリストの佐々木俊尚が3月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。訪日外国人旅行者が増えるなかで、今後の課題について解説した。

中国の旧正月「春節」を迎え、観光客らでにぎわう横浜中華街。伝統の獅子舞いが各店舗の商売繁盛などを祈って行われた=2024年2月10日午後、横浜市中区(岩崎叶汰撮影) ©産経新聞社

2月の訪日外国人旅行者278万人、2月としては過去最多

日本政府観光局によると、2月の訪日外国人旅行者数は278万人余りとなり、2月としては過去最多となった。旧正月の春節でアジアからの訪日客が増加し、韓国や台湾、アメリカも引き続き堅調で全体を牽引した。

飯田)コロナ禍を経て、単月として最も多くなっている。

観光客が増える一方、温泉施設でルールを守らない外国人観光客も

佐々木)コロナ以前、「日本も観光立国を目指す」という方針で年間6000万人の観光客を目標としていましたが、人数が増えると軋轢も高まる心配があります。先日、北陸に住んでいる知り合いと話したら、最近は日帰りの温浴施設に来る外国人がとても多いそうです。それだけならいいのですが、泳いだりして「ルールを守らない人も多い」と嘆いていました。

飯田)大きな浴槽だと、プールのように見えてしまうかも知れませんね。

佐々木)他にも、かけ湯をしないで入ったり。地方の温浴施設では、英語で「お風呂の入り方」の説明書きがある施設が多いのですが、いちいち読まないですよね。今後、そういうことは増えてくると思います。京都などでもオーバーツーリズムが問題になっているので、各地に外国人が来るのはいいことですが、軋轢をどうかわすのか。この先の大きな課題になると思います。

日本の街の美しさを保っているのは独特な「日本人の秩序」

佐々木)しばらく前にX(旧ツイッター)で話題になった議論があります。日本は無宗教だとみんな思っているではないですか。しかし、日本人にとっての宗教はキリスト教や仏教などのわかりやすい宗教ではなく、「日常生活のこだわりが宗教なのではないか」という議論です。例えば、電車のホームで並ぶなど、日常生活にはさまざまな秩序があります。

飯田)列のラインに沿って並ぶという。

佐々木)公衆トイレも綺麗に使うし、お風呂では、かけ湯をしてしずしずと入るとか。そういうさまざまな秩序が日常生活にたくさんあり、秩序を守ること自体が「我々にとって最も大事なものではないか」と思います。

飯田)子どものころから「他人に迷惑をかけないように」と言われますよね。

佐々木)秩序ばかり言い過ぎて息苦しくなることもありますが、それが日本の街の美しさを保っているのは間違いない。

「日本の街の美しさ」と多くの外国人とのバランスをどうするか

佐々木)歴史的にも幕末から明治にかけて、欧米人がたくさん日本にやって来ました。歴史学者の渡辺京二さんが当時の文献をまとめていますが、多くの外国人が日本に来て「何て綺麗なんだ!」と驚いたそうです。町にゴミ1つ落ちていない。例えば、欧米から来たある植物学者が雑草研究のため、田んぼのあぜ道の雑草を採取しようとしたら、あぜ道に雑草が1本もない。すべて抜かれており、見事なぐらい清潔で美しい町だったそうです。

飯田)そうなのですよね。

佐々木)19世紀当時は、世界中どこでもだいたい汚かったわけで、「日本の美しさは群を抜いていた」という話もあります。そういうDNAが我々の民族にはあるのです。これはこれで、世界に対する日本の1つの売りではありますが、それが逆に我々にとって息苦しくもあり、個人的には「ちょっと面倒だな」と思わなくもない。しかし、一方で外国人がたくさん入ってくると、その売りが崩れてしまう。「そのバランスを今後どうするのか」は重要な問題だと思います。

ゴミ箱がないのに道にゴミが落ちていない

飯田)富士山なども、入山規制しないと人が増えてしまうし、ゴミも大変なことになる。

佐々木)日本はゴミ箱が少ないですよね。

飯田)地下鉄サリン事件以降、駅からゴミ箱がどんどん撤去された。

佐々木)東京メトロも少し前までゴミ箱があったのに、突然なくなりました。

飯田)この時期、花粉症でティッシュを多く使うのですが、ゴミ箱がありません。

佐々木)でも、ゴミ箱がないのに道にゴミが落ちていないのは、外国人から見ると驚天動地だと思います。それらも今後、外国人が増えてきたらどうするのか。「ゴミは家に持ち帰りましょう」と言うのか……。以前、サウジアラビアのテレビ局が「ゴミが落ちていない」という内容で日本を取材したのが話題になっていました。

外国人観光客が増えるなかで「美しい日本」をどう守るかは今後の重要な課題

佐々木)公園でベンチに座り、お菓子を食べているカップルを後ろから隠し撮りして、「いまポテトチップスが地面に落ちましたが、拾っています!」と実況するのですよ。それがニュースになっている。

飯田)そういう感覚は他の国にはないのかも知れませんね。

佐々木)日本人の生活文化の高さは、外国人にとって驚きらしいのですが、外国人観光客が増えるなか、美しい日本をどう守り見せていくかは観光庁などが取り組まなければいけない問題だと思います。

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日銀「マイナス金利政策解除決定」もすぐに「インフレ」が進むことはない 専門家が言及

エコノミストの崔真淑氏が3月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日銀によるマイナス金利政策の解除について語った。

※画像はイメージです

日銀の金融政策変更を市場が織り込み、「恐れることはない」と買い戻されただけのこと

日銀は3月19日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除を決定した。短期金利はマイナス0.1%から0~0.1%程度に引き上げる。日銀による利上げは2007年以来17年ぶり。

飯田)日銀が政策決定会合を行うなか、18日の日経平均は1000円を超えました。崔さんはよく株式市場を「経済の鏡」とおっしゃっていますが、ここ数日の上げ方について、どうお考えでしょうか?

崔)まず、きょう(19日)日本銀行がマイナス金利政策を解除するかも知れないという報道を受け、お金のコスト、つまり「金利が上がるかも知れない」と予想された。株式市場に入るお金が減る可能性があるので、先週から急激に株価が下がっていたのです。

飯田)各社の報道を受けて。

崔)株式市場のなかでは少し不思議な現象がありまして、「材料出尽くし」という言葉があります。悪材料であっても「実現がほぼ見えてしまったら、それほど恐れることはない」という形で買われることがあるのです。先週末から今週にかけ、「やはり日銀はマイナス金利政策を解除するに違いない」という強いメッセージの報道が増え、「間違いない」と予想して買い戻された。それが日経平均の上昇に影響したのだと思います。景気に対して強い自信があるというより、「日銀は金融政策を変更するだろう」と市場が織り込み、「恐れずに買い戻してもいいのではないか」と考えただけかなと思います。

飯田)ここまで下がったら、「ちょっと安くなったしいいか」というような感じでしょうか。

崔)そうです。

大手企業は春闘「満額回答」でも、中小や地方企業の賃上げは進んでいない

飯田)春闘では「賃上げ5%以上」など景気のいい話が出ていますが、どう分析されますか?

崔)春闘は、基本給を底上げするというベースアップを求めた労働組合と、大企業側の折衝なのですが、今回は33年ぶりの高水準となる結果でした。ただ、あくまでも大企業を中心とした回答であり、地方企業や地方の労働組合の動向などを見ると、昨年(2023年)同様に賃上げがそこまで進んでいないという報道も増えています。確かにいい結果でしたが、中小企業と地方に関してはどうなのかなと、私はまだ懐疑的に見ています。

すぐにインフレが進むことは考えにくい

外交評論家・宮家邦彦)金利がずっとゼロ以下で、日銀は国債を買い、株を買い、どこか潜在的な「過剰流動性」が今の市場にはあるのかなと思います。要するに流動性があまり高くないから良かったけれど、これでゼロ金利を止め、生産性が上がると、どこかでインフレになる恐れはないのでしょうか? 既に賃金も上がりそうな状況ですが、どうご覧になっていますか?

崔)いま、なぜマイナス金利、ゼロ金利を解除しなくてはいけないかと言うと、ご指摘の通り、インフレの懸念があるかも知れないからです。物価高だけでなく賃上げも進むなかで、「物価上昇率が2%に留まらないのではないか」という懸念もありますが、現状、その懸念を考えるにはまだ早いタイミングだと思っています。理由としては、大企業が強い部分が現実としてあり、社会保険料の値上げなどもある。給料が増えたとしても、国民の実際の手取りは大きく増えるわけでもないし、一方で社会保険料のコストと企業経営に関連する論文を見ると、企業経営の生産性や設備投資を圧迫するという研究もあります。現状の日本だと、いますぐインフレが進むという可能性は、まだ考えにくいと思います。

マネーサプライの回収は「いますぐ」でなくてもいい

宮家)私もそれはそうだと思っているのですが、最終的に日銀は異常な量のマネーサプライを、どこかで回収する必要があるのではないでしょうか?

崔)それはあると思います。例えば、国債を買い取っているという話もそうですし、私自身も株式、ETF(上場投資信託)を日本銀行が購入した影響について研究していますが、市場に対しての間接的な影響はやはりあると思います。回収する日はいつか来ると思いますし、副作用についても検証しています。ただ、国債を買い取ることについての副作用はまだ明言できませんが、株式、ETFだけを考えると、企業ガバナンスへの影響があるなど、さまざまなことが言われています。私の検証ですと、「むしろプラスの影響の方が強いのではないか」という研究結果も出てきているため、「いますぐ」ではなくてもいいのかも知れません。

増税や社会保険料の引き上げはもう少し待つべき

飯田)タイミング論のような部分で、もう少し温めたあとでも十分なのでしょうか?

崔)もう少し温めてもいいと思いますし、既に与党議員からは出ていますが、同時進行で税金や社会保険料をどうするのかという話も出てきます。やはり、景気の重石になるような国民負担の話も同時に出てくると思うのです。そこでの折衝やタイミングも合わせなくてはならず、「いますぐでなくてもいいのではないか。やっと回復し始めたのだから、もう少し待って欲しい」と思います。アベノミクスのとき、「消費増税がもう少しあとだったら」という思いが私にはあり、いまの状況はそれに近いのではないかと思います。

高齢化が重石になり、小売業、サービス業が弱い

飯田)賃上げの波が中小企業にまで及ぶのかどうか。公正取引委員会は「下請け企業と適切な価格交渉をせよ」と示しています。その辺りは政府もわかっているのでしょうか?

崔)それはあると思います。大企業が受託企業に対し、受注金額を公正に引き上げるべきだとして介入する動きはありますし、下請け企業に対して「一緒に原価生産の努力をしようではないか」と前向きに取り組んでいる企業もあります。ただ、日本経済は製造業だけで回っているわけではありません。むしろ非製造業や小売業、サービス業が弱いのです。高齢化が重石になり、値上げどころではない。「値上げしたら需要が減ってしまう」という状態が目立っています。

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