文在寅大統領が日本へ「対話による解決」を呼びかけた理由

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月16日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。韓国の光復節の記念式典で行われた文在寅大統領の演説について解説した。

日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」の式典で演説する文在寅大統領(韓国・天安)=2019年8月15日 写真提供:時事通信

文在寅大統領が光復節で演説~日本へ対話呼びかける

韓国の文在寅大統領は15日、光復節の記念式典で演説した。文大統領は「いまでも日本が対話と協力の道に出たら、私たちは喜んで手をとる。公正に交易して協力する東アジアをともに作って行く」と述べ、日本との関係悪化を念頭に対話による解決を呼び掛けた。

飯田)いままで言って来た強い言葉と比べると、「あれ?」という感じなのですけれども。

宮家)光復節という大事な日であれば、大統領なのだから格調高いことを言わなくてはいけない、ということでしょう。いままで、時には大統領とは思えない言葉を使っていたではないですか。

飯田)絶対に日本には負けない、みたいなね。

2018年10月30日、ソウルの韓国最高裁で行われた判決後に会見する元徴用工の李春植さん(中央) 写真提供:時事通信

あくまで国内向けの演説

宮家)やり過ぎたという反省がご自身にあるのか、あるいは国のリーダーなのだから、他国の批判だけをしていればいいというものではないということなのか。どちらにしてもある程度、格調を取り戻したような演説をしたのは当然だと思います。ではそこに中身があるのかと言ったら、確かに前よりはよくなったかもしれませんが、だからと言って対日外交についてイニシアチブを取ろうという感じではないです。あくまで「日本が対話と協力の道に出たら」、という言い方ですよね。それは相手の出方次第ということなのでしょう。まだまだ状況が改善の方向に向かうとは思えません。

飯田)メールやツイッターで、この演説についてコメントをいただいているのですが、「こんなに上から目線で、お前たちが協力したいなら受けてやるよ、というのは少し違うのでは」という意見もあります。

宮家)まったく違うと思いますね。ただ韓国の国内だったら、こういう言い方になるのでしょうね。それがいいかどうかは別としてですよ。

飯田)この演説も、基本的には国内向けである。

20日、白頭山の山頂で記念写真に納まる金正恩朝鮮労働党委員長(左から2人目)と南朝鮮(韓国)の文在寅大統領(右から2人目)。両端は李雪主夫人(左)と金正淑夫人=2018年9月20日 写真提供:時事通信

関係改善をするのであれば外交ルートを通じて言えばいい

宮家)そうですよね。本当に日本と関係改善をしたいのだったら、外交ルートで新しいことを言って来ればいいのですよ。我々が気にしているのは、1965年の基本条約に基づいて、請求権の問題をどのように処理するのかを知りたい、ということです。韓国の三権分立は分かりますよ、民主主義ですから。だったら大統領は行政府として何をするのですか、ということです。司法府がああいう判断をしたからと言って、それに従わなくてはならないというわけではないのです。三権分立なのだから、きちんとチェックアンドバランスをしなくてはいけないので、行政府が責任を持ってやるべきことはやれと言っているだけなのです。その片鱗すらないから、それは違うでしょうという話になっている。

飯田)この演説のなかでは、北朝鮮との関係についても触れています。もともと文在寅政権は近しいと言われていましたけれども、2045年までに2つの国を1つに統一するのだという話もあったのです。しかし北朝鮮側は報道官談話として、これ以上韓国当局と話すこともないし、再び対話する考えもないと言っているようです。

宮家)北にそこまで言われてしまっては、ピエロですよね。可哀そうに!

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全国戦没者追悼式~事実上の国家元首が公式に反省を述べる国は他にない

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月16日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。15日に行われた全国戦没者追悼式のニュースについて解説した。

全国戦没者追悼式で黙とうされる天皇、皇后両陛下=2019年8月15日正午、東京都千代田区の日本武道館 写真提供:産経新聞社

全国戦没者追悼式が日本武道館で開催

終戦から74年となった15日、全国戦没者追悼式が東京の日本武道館で行われ、即位後初めての参列となった天皇陛下がお言葉を述べられた。

天皇陛下)本日、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」にあたり、全国戦没者追悼式に臨み、さきの大戦において、かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。終戦以来74年、人々のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、多くの苦難に満ちた国民の歩みを思うとき、誠に感慨深いものがあります。戦後の長きにわたる平和な歳月に思いをいたしつつ、ここに過去を顧み、深い反省の上に立って、再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民とともに、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。

飯田)15日の全国戦没者追悼式での天皇陛下のお言葉を、ノーカットでお聞きいただきました。16日の新聞各紙、朝刊一面はこの陛下のお言葉も含めて、戦没者追悼式のことがトップに来ています。深い反省との表現を、上皇陛下が使ったものを踏襲して、というところを強調している新聞も多いですね。

全国戦没者追悼式でお言葉を述べられる天皇陛下と皇后さま=2019年8月15日、東京都千代田区の日本武道館 写真提供:産経新聞社

74年経ち、反省を繰り返し述べる日本の真摯さ

宮家)今回の陛下のお言葉は即位後初めてということで従来以上に注目されました。私ももう1回読み直してみましたが、日本は何と素晴らしい国ではないかと率直に思いましたね。確かにこのお言葉は、国事行為かどうかは別として、象徴としてのお言葉なのですけれども、いずれにせよ、74年も経っても「深い反省」を事実上の国家元首がこういう形で公式に述べる、そんな国は見たことがないですよ。植民地主義と言うのだったら、ヨーロッパ列強もみんなやっていたわけですよね。でも、ヨーロッパの国々が74年も経って、毎年「深い反省に立って」、などと言うわけがないです。それをずっと言って来た日本という国は、とても真摯な国だと思います。歴史にきちんと向き合っているのです。韓国の人たちもその点はよく理解してほしい、これは陛下の公式の言葉ですからね。もう1度聞き直して、読み直してみてほしい、よく練られた文章です。継続性というものは極めて大事ですから、その意味でもやはり「いいな」、と思った、これが私の正直な気持ちです。

飯田)陛下のお言葉もありましたが、三権の長からの言葉もありました。安倍総理も開式の辞ということで、短いスピーチがあったのですけれども、批判する向きはそこに関して反省などの文言が盛り込まれていなかったではないか、というものもあります。

宮家)先ほど申し上げた通り、これは日本は毎年何らかの形で言ってきているのですよ。しかも普通の国は、例えばヨーロッパなどで、その種のことについて謝罪、反省し続けるという話は聞いたことがない。例えばアルジェリアだって、今もフランスに対して怒っているのですよ。でもフランスは絶対に謝りませんし、イギリスもそんなことはしません。これに対し、日本は公式に1995年の総理談話が出ているのですから、本来はそれ1回でいいのですよ。それを敢えて繰り返すことに日本の真摯さがある、いい意味で生真面目さがあると思います。ですから、私はそのような批判はまったく当たらないと思いますね。

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