宇多丸、『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』を語る!【映画評書き起こし】

ライムスター宇多丸がお送りする、カルチャーキュレーション番組、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」。月~金曜18時より3時間の生放送。


『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。
今週評論した映画は『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』(2020年11月13日公開)です。

宇多丸:
さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今週扱うのは、 11月13日に公開されたこの作品、『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』。

(曲が流れる)

『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』などのスタジオライカが手がけたストップモーションアニメーション。ヴィクトリア朝時代のロンドン。未確認生物発見に執念を燃やす探検家ライオネル卿のもとに、伝説の存在ビッグフットの居場所が書いてある手紙が届く。人類と類人猿とを繋ぐ『ミッシング・リンク』であるビッグフットを見つけるべく、ライオネル卿は冒険の旅に出る……声の出演はヒュー・ジャックマンをはじめ、『ハングオーバー!』のザック・ガリフィアナキスやゾーイ・サルダナ、エマ・トンプソンらという豪華キャストが集結です。

監督は、『パラノーマン ブライス・ホローの謎』を手掛けたクリス・バトラー。第77回ゴールデングローブ賞で最優秀長編アニメーション映画賞を受賞しました。これはストップモーションアニメーションとしては史上初、ということで、快挙となっております。

ということで、この『ミッシング・リンク』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、なんか後半ググッと増えてきて、「普通」というところまで行ったみたいです。公開館数とか規模を考えれば、なかなかの健闘と言えるんじゃないでしょうか。

賛否の比率は、全面的な褒めが半分。残り半分は「よいけど全面的には褒められない」という意見。ああ、そうですか。割れちゃったんだ。褒める意見の主な内容は、「パペットアニメーションがすごい。愛らしさはもちろん、今回はアクションもスリリング」「世界中を旅する冒険活劇として楽しい」「古い価値観にとらわれていた主人公が自分の居場所と相棒を見つけるストーリーに感動」などがございました。

一方、否定的な意見としては、「ストーリーが薄くていまいち。散漫な印象を受けた」「主人公が最後まで好きになれなかった」などがございました。

■「『眼福』とはこの映画のための言葉と言っても過言ではありません」byリスナー
ということで、代表的なところをご紹介いたしましょう。ラジオネーム「ありばる」さん。「見る幸せを心から感じた作品です。『眼福』とはこの映画のための言葉と言っても過言ではありません。自分が10代の頃に出会っていたら、人生変わってたレベルの映像体験でした。水のきらめき、洋服や革手袋の質感……」。手袋もたまんねえなあ!

「……皮手袋の質感、装飾の豪華さと旅する先々の風景の美しさと雄大さ。中でも一番驚いたのは、ミスター・リンク(ビッグフット)の瞳の表情の豊かなこと」。そうだよね。瞳の中もだよね。顔の動きだけじゃない。「……瞳の表情の豊かなこと。オスカー主演賞レベルです。(主人公の)ライオネル卿が勝手に名付けたミスター・リンクという名前に意味を感じます。このビッグフットは大昔の人類進化の証拠ではなく、これからの世界の考え方の進化を体現した存在。今と未来を繋ぐ存在でした」ということで。ちょっとこれ、間に書いていただいてることは、私的に考えると伏せたいあたりなので、ここは伏せさせていただきます。

「……自分の利益しか考えない以前のライオネル卿や、変化を全く受け入れない(ヴィランの)ダンスビー卿が生きた化石、という皮肉。周囲に理解者がいないライオネル卿と、ずっと孤独で寂しかったミスター・リンクが友情で繋がる(リンクする)物語。改めて『ミッシング・リンク』とはさまざまな思いや意味が込められた深く素晴らしいタイトルだと感心しました」という。未来に繋がる(リンクする)という意味でのミッシング・リンク、さらには人と人との間の孤独をつなぐリンクなんだという、そういう意味が込められていて見事なタイトルだ、というご意見でございました。

一方、ちょっとよくなかったという方もご紹介しまししょう。「Suggy-MO'(スギーモー)」さん。この方も「ストップモーションアニメーションとして非常に質が高い、もう奇跡のような出来だ」とまで言いつつ……たぶんそこを否定する方は1人もいないと思うんですが。「私はストーリーがちょっと弱いと感じてしまいました。アクションは素晴らしいんです。ですが、ストーリーを動かすポイントがほぼセリフによるものだったように私は感じました。特に残念だったのがクライマックスで、本作は主人公ライオネル卿の精神的成長をストーリーの核としているはずなのに、成長するきっかけが『昔の恋人に説教をされたから』にしか私は見えませんでした。何かしらの行動で示してほしかった」ということで。これはたしかに一理あるご意見ではあるなと。

ただ、この場面の演出に関しては、ちょっと僕、この作品が贔屓すぎて……贔屓目かもしれないけど、この場面の演出に関しては、それだけでもないんです、というのは、後ほどちょっとひとつ、言いたい。あと「最後の最後、倒すべき相手をライオネル卿が倒したというより、相手が○○したように見せてしまったのももったいないのでは……と思いました」という。これもね、すいません! 僕はこの作品、贔屓なんで(笑)。ちょっと私なりのフォローみたいなのはありますけどね。

「そもそも主人公は人格に問題がある人物として描かれているわけですから、もっと通過儀礼として深いどん底に落ちる必要があったかと思います」という。すいません! 僕、もうこの作品を贔屓しちゃってるんで(笑)、これに関してもちょっと僕なりのフォローが……まあ、好きになっちゃった作品ってそういうもんでしょう? でもまあなかなか、よくなかったというか、ピンと来なかったっていう方の意見も、たしかに一理あるなという風には思いました。

■本当は「今回もスタジオライカ、超最高!」で済ませたい
ということで、皆さんメールありがとうございます。私も『ミッシング・リンク』、今回バルト9で2回、見てまいりました。スタジオライカ最新作。「今回もスタジオライカ、超最高! 以上!」ってことでいいと思うんですけどね。はい。まあとにかく、今まで発表してきたいろんな作品……いずれ劣らぬストップモーション・アニメーションの革新的傑作を次々と送り出してきた、もはや完全に信頼のブランド、スタジオライカ。

だからもう、スタジオライカが新作をやるとなれば、当然行く! ぐらいだと思ってください。皆さん、本当に。これはある種、もうピクサー以上にというか……っていうのはね、一作を作るのがめちゃくちゃ大変なスタジオなんで、(新作が)なかなか来ないんですよ。前作からもう、公開年で言うと3年空いたのかな、2016年から2019年だから、3年空いて。日本だと、4年空いたわけですからね。

で、さっきもちょっと言っちゃいましたけども、そもそもストップモーション・アニメ。改めて言うと、基本、1秒……当時のフィルム、昔のフィルムで言う1秒間に24コマ。まあ今でもね、デジタル的にも、24コマという扱い。人形……パペットなんて言いますけども、人形などを少しずつ動かして、それで1コマずつ撮影していくという。いわゆるコマ撮りで動いてるように見せる、という、非常に原初的というか、特殊技術、映像技術ですけども。

ストップモーション・アニメって、もうそれだけで半ば自動的にわくわくしてしまう、というのはこれ、私だけなんでしょうか? そんなことはないですよね。というのは、やっぱりですね、おそらく……これもさっき、ちょっとね、番組オープニングで言っちゃいましたけど。

『TENET テネット』の逆回しとかともちょっと通じるあたりで、コマ撮りっていうのは、映像という方法でしか表現し得ない……つまり映像の中にしか生じない時空間、という、最も根源的な驚き、わくわくというのを呼びさますからではないかな、という風に私は思っています。

■アメリカでは歴史的大コケ……いやさ、採算度外視の奇跡的一作
で、ですね。とにかくそのスタジオライカ。私は以前、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』という作品を2017年12月2日に評してまして。こちら、書き起こしがありますので、そちらも参照していただきたいのですが。まあストップモーションアニメーション、パペットアニメーションという、言ってみれば最も古い部類に属するような映像技法を、最先端の技術を駆使することで……たとえば、発達した3Dプリンターによって、ものすごい数の顔の表情を作り出し。あと、先ほども(メールに)あったように、瞳の表情までも作り出し。微細な、繊細な感情表現を可能にしたりとか。もちろんCGIなども、必要な部分にはしっかり使うことで、ストップモーション・アニメの表現領域を、大幅に進歩・拡大してみせ続けている。

それで当然のごとく、高い評価を受けているという、そういう会社なわけですね。スタジオライカ。なので、初めて見た方は、「これ、本当にストップモーションアニメなの?」っていう感じがするぐらいだと思うんですけど。で、そのライカがですね、先ほど言いました2016年の『 KUBO/クボ』以来……これも大傑作でしたね。名作でした。1億ドルとも言われる過去最大級の制作費と、当然さらに気が遠くなるような労力を投入して完成させた、今回の『ミッシング・リンク』。

しかも監督・脚本は、あの『パラノーマン』……これまた大傑作、大名作『パラノーマン』の、クリス・バトラーですから、悪かろうはずがない。そして実際、本当に最高!としか言いようがない作品なんですけど。ただですね、言ってしまうと、先ほども言いましたが本国アメリカでは、2019年4月に劇場公開されたんですが、歴史的大コケになってしまった。つまりその、コロナとか関係なく、です。純コケです。コロナとか関係ない純コケで、大コケしてしまって……という。100億円からの赤字を、配給のユナイテッド・アーティスツに与えてしまったという。

まあ、たしかに、ライカ史上初めて子供が主人公じゃなくて、おじさんと……しかもとっつきづらそうな、はっきりと性格の悪いおじさんと(笑)、よくわかんないモンスターがメインな感じ、ってことでね。まあ、少なくとも拡大公開されるファミリームービーとしては、キャッチーじゃなかった、ということなんでしょうけどね。ちょっと攻めすぎた、ってことかもしれませんけど。

ただ、ゴールデングローブ賞ね、先ほども言った通り、初のストップモーションアニメとしてアニメ映画賞を取ったぐらい、評価は最高レベル。実際、中身も最高!ということで。まあ無責任な言い方をすれば、採算度外視の奇跡的一作というか、もう2度とこの感じは作れない、というようなことかもしれない。ただ今後、ライカが新作をね、それも自由に作れなくなったとするならば、ちょっとこれは心配だな、って感じがしますけども。

■『シャーロック・ホームズ』+『インディ・ジョーンズ』+『失はれた地平線』
ということで、ともあれこの『ミッシング・リンク』。さっきも言ったようにですね、主人公のその、とっつきづらそうな性格の悪いおじさん、ライオネル・フロスト卿。サー・ライオネル・フロスト。これはですね、ヴィクトリア朝期の英国紳士。声を演じるのはヒュー・ジャックマン。劇中、ニューヨークで、自由の女神ができかけている、みたいな画が一瞬映るので、具体的にはたぶんこれ、舞台は1886年ですね。要は明らかに、『シャーロック・ホームズ』ですよね。

『シャーロック・ホームズ』的な、知的だけどエキセントリックなヒーローキャラクター、という。それでなおかつ彼が、これも脚本・監督のクリス・バトラーさんがあちこちで明言してる通り、モロにまあ『インディ・ジョーンズ』ですよね。『インディ・ジョーンズ』的な、要は「エキゾチックなお宝探しアドベンチャー」に身を投じていくという。まあ彼の場合は、未確認生物(UMA)を探していく、という。で、謎解きアイテムを入手するために、かつての恋人のもとを訪れ、最初は邪険に扱われ……みたいな、すごくこれも『レイダース』っぽい話の流れだったりしますよね。

加えてですね、雪に覆われた、険しい山々の奥深くに隠された、理想郷シャングリラを目指す、という……で、そのシャングリラを、その英国人主人公と、デコボコチームが目指す、というのはですね、これはもちろん『インディ・ジョーンズ』の元ネタのひとつでもあろう、1937年のフランク・キャプラ『失はれた地平線』。これ、8月2日に評しました『海辺の映画館』でも言及されていた作品ですけど、『失はれた地平線』のオマージュ的な部分も、たしかにあるかと思います。

ということで、『シャーロック・ホームズ』+『インディ・ジョーンズ』+(『インディ・ジョーンズ』の元ネタのひとつの)『失はれた地平線』的なアドベンチャー物で。これまで、基本的にそのダークなムードが強かったライカ作品とは、ちょっと違って。とにかく明るい、楽しい。ギャグも満載、笑える。それでもって、手に汗握るド派手なアクションももちろん盛りだくさん、という。要は、実はすごくエンターテインメント性が高い一作なんですね。ライカの中でもね。という感じだと思います。

■ビッグフットのミスター・リンクはオバQやプーさんに通じる“無意識ドジかわいい”
で、まずその「楽しい」という部分に関してはですね、先ほども述べました、『ハングオーバー!』でおなじみのザック・ガリフィアナキスが声を演じる、いわゆるビッグフット。要は人類とは別に生き残っていた猿人みたいな。当初のそのライオネルの名付けでは、「ミスター・リンク」という……ちなみに、後につく「ある名前」があるんですが、これは劇中で、非常に感動的かつユーモア要素もあるという、非常に重要なポイントなので、これは伏せておきます。後ほどある名前がつくんですけど、とりあえずここではミスター・リンクと呼びます。

このミスター・リンクがですね、純粋で、健気で、いいやつで……要は、最っ高にチャーミングで、かわいい~!っていうね。もうね、これですよ。個人的にはもう、こういうオバQタイプのキャラに弱いのよ。プーさんとか、こういう“無意識ドジかわいい”感じ。でもね、ミスター・リンクはそれに加えて、めちゃめちゃ気遣いもするんですよ。健気!っていうね。とにかく彼が、全編にわたって笑わせ、和ませ、微笑ませてくれる。その魅力とというのが、本作の非常に明るく楽しい爽やかな味わい、大きな肝となっているのは、間違いないと思います。

だから、僕はもうとにかくこのミスター・リンクに魅了されちゃって。もう大好き!ってなっちゃったわけですけどね。たとえばね、その造型も、全身の毛の表現、毛そのまんまを表現する……毛っぽく表現するんじゃなくて、これは『KUBO/クボ』に出てきた、シャーリーズ・セロンが声を当てていたあのサルのように、ちょっと硬さを感じさせる束の集合。で、しかもそれらが、微妙にそよいだりする、という。その束の集合として毛が描かれていて。それがまた、何というか質感として、最高にかわいい!っていう。フィギュアが出れば絶対に買う!っていう感じで。

で、この質感という意味では、たとえば主人公のそのライオネルが着こなす、スーツ。ブルーとイエローっていうか、生成りかな? ブルーと生成りのハウンドチェックの生地が、すごい印象的なスーツを着てるんですけど、この質感! 洋服とかの質感。あと、革の手袋とかの質感。それ自体がすごく、「目に楽しい」感じね。こういうですね、要は質感、触感を含めた、物質としての存在感。あとは、ミニチュアならではのかわいさ、みたいなところが、コマ撮りによって……要は本当は動かないものなんだけど、コマ撮りによって、まさに命を帯びる。で、そこに生じる楽しさ、わくわく。まさにストップモーション・アニメの大きな魅力であって。

特に今回の『ミッシング・リンク』は、そこがより分かりやすく再提示されてるように感じました。要するに、ここのところのライカ作品、ちょっと「CGと見まごうばかり」みたいなのがすごく前面に出ていたんだけど、今回はちょっと、「ストップモーションアニメっぽい」ところを強調している感じもした。なので、その点では、ウェス・アンダーソンの一連のストップモーションアニメの方向性とも、ちょっと重なる部分、今回は多いように感じました。はっきり「おしゃれでかわいい!」っていうね。「ウェス・アンダーソン、おしゃれでかわいい!」みたいな感じで、今回はおしゃれでかわいいんで(笑)。

あと、さらに言えば今回、その物質としてのたしかな存在感、というストップモーションアニメの強みを生かしてる点として、これはパンフレットに掲載されている辻真先さんのレビュー文でも指摘されていたところなんですけど、要はですね、重さ・重量感がしっかりある世界。実際にその人形として、質量がある世界なわけですよね。重さとか質感がある世界だからこそ、より迫力と切実さが増すアクションシーン設計というのが、要所で非常に巧みになされている、というのが本作の特徴で。

たとえばもちろん、クライマックスですね。近年のね、要するに「落ちる・落ちない」恐怖、落下恐怖アクションの中で、個人的には最も手に汗を握った。それでいてあの、「おじさん同士の意地をかけたビンタ合戦」とか(笑)、本当にアニメならではのデフォルメされたギャグなんかもきっちりと挟んでいる、という。要するに、非常に「落ちる・落ちない」アクションは、定番的ですよね。こうやってワーッて吊られているところに、悪役が足をかけようとして……みたいな。そんな風に定番的に見えて、実は非常に見事にフレッシュに設計された、その崖っぷちの攻防。あれもですね、要は物質としてのたしかな重量感があるから、あんなにハラハラする、っていう。ストップモーションアニメだからこそ、あんなに(ハラハラ感が)強い、っていうところがあるわけですよ。

■全画面、全瞬間に、映像ならではの驚きと喜びが満ちている
あるいは、中盤。船の中での一連のアクションシークエンスがあります。要するに、波で揺れているわけです。で、まずその手前のところ。そのライオネル卿と、ゾーイ・サルダナが声を当てているアデリーナという、ライオネルの元カノにしてライオネルの亡くなった親友の妻である、この2人のやりとり。船が揺れるたびに、テーブルとその上のワインボトル……このワインボトルも、シェイプがライオネル卿に似せて極度にスリム化された、デフォルメされたワインボトルとグラス。それが、船が揺れるたびに……あと、吊られた照明と、それに合わせた影もですね、スーッ、スーッ、スーッと、動き続ける。つまり、これはもちろん2人の気持ちの、距離感の揺れ動きというのを表わしてもいる、手の込んだ演出なわけですけど。

その、要するに「ここは揺れてるし、重みがある」っていう……重みがあるから揺れるわけじゃないですか。スーッ、スーッて。その前振りがあってからの、荒波によって、それこそ『インセプション』の中盤ばりに、重力の縦横が回転していく、という格闘追跡劇もやはり、その作り込まれた実際のものを映しているからこそ、説得力・面白みが増しているアクションシーンと言えますよね。あと、アクションじゃないけど、あの「重たい金庫を引きずる」っていう、ああいう面白みみたいなのもやっぱり、質量感があればこそ、の面白みだったりするわけですよ。

ということで、そういう「ストップモーションならではの良さ」というのを生かしている。もちろんストップモーションアニメですから、その他の部分も、極端な話、全画面、全瞬間に、さっき言った映像ならではの驚き、喜びが満ちている、と言っても本当に過言ではない。先ほどの「眼福」っていう言葉、僕は本当にその通りだと思います。キャラクターたちの豊かな表情や動き。そこに宿るニュアンス。あるいは画面の隅々の美術に至るまで、本当に……もう本当に目に幸せ!という。

たとえば、細かいシーンですけど、ライオネルがミスターリンクにですね、そのアデリーナとの過去について話すシーン。これ、歩きながら言うんですけど、その歩く背景。巨大な木の年輪が並んでいる。要するに過去……歴史の話、過去の話をしてる時に、(背景として)年輪を出す。この演出の細やかさ。あるいはですね、これは先ほどメールであったように、クライマックスのシーンでですね、「セリフでだけ処理されている」という批判がありましたけど、あそこは、周りが鏡状になっていて、「自分をいろんな角度から見つめ返す」という舞台設定になってるわけです。というところがひとつ、効いているというあたりで。

非常に実はその、背景の美術とかも、雄弁に演出に生かされてたりしますし。そして、そうした全てが、結構なスケールで、実際のブツとして作られ、その中でやはり手作業で、1コマ1コマ、職人たちの手によって作り上げてられてゆく世界。これ、YouTubeなどでそのメイキング動画が見られますので、作品を見た後でも前でもいいですから、ぜひちょっと本当に……「感謝!」って感じになりますんでね。ぜひ見ていただきたい。

■成人男性が自らをアップデート……けど、改心はそこそこ。そのバランスもいい。
あと、細やかと言えば今回、さっき言ったようにギャグも手数が多くて、非常に味わい甲斐がある。特に、前半の酒場での格闘シーンとかは ……あれ、そもそもストップモーション・アニメで、あれほどカットが細かく多いのも、異例のことみたいですし。あと、たとえばね、細かいところですよ。酒場に入る手前で、ライオネルが、そのビッグフットと一緒に入る時に、「いやいや、中にいるやつらだってどうせ、不潔で毛むくじゃらなやつらなんだから、関係ねえよ」みたいな、すごい失礼なことを言うんですけど(笑)。

その失礼なことを言った直後に、その酒場の店内からのショットで、わざわざ、おじさんの半ケツが……ズボンからはみ出てる、その「半ケツなめ」で見せたりするわけですよ(笑)。「くだらねー!」みたいな。そういう意地悪かつくだらないギャグとかも、よく効いている。

その上で、さらにさらに本作『ミッシング・リンク』を素晴らしいものにしているのは、さっき言ったようですね、『シャーロック・ホームズ』とか『インディ・ジョーンズ』を下敷きとしながらも、そういう古典的男性ヒーロー像に、現代的な批評を加えてみせている、という ……そのストーリーそのものがやっぱり素晴らしい、という風に僕は思います。

これまでのライカ作品、社会の規範からちょっと外れた存在……つまり子供とか。孤独な子供とかが、大人側の過ちを正す、そして赦す、みたいな。そして成長する、みたいなストーリーが多かったんですけど、今回はそれが、「正される側の大人」の視点に回ったというか。たとえば主人公ライオネルは、最初からとにかくエゴイスト、自己中心的な男なわけです。ただ、昔から男性ヒーローって、こういう人、多いですよね? 傍若無人で自己中心的で……っていう方が多かったりする。まあその中でも、ライオネルはかなりひどい方だと思うけど(笑)。

で、彼をかろうじて好意的に見られるのは、彼と敵対する存在……ここではその貴族クラブのリーダーが、ゴリゴリの守旧派というか、進化論も、婦人参政権も、要は自分たち金持ち白人男性に都合がよかった世界とか時代に対する変化を、恐れているからこそ、攻撃する人物。まあ2020年現在も、残念ながらいっぱいいますけども。彼が、あまりにもひどく、哀れな人だから、相対的にその主人公は好意的に見れる、っていう作りにはなってるんだけど。

ただ、その主人公自身も、そこに対抗する……権威と対抗してるつもりのライオネル自身もまた、その既存の権威に入り込み、何ならなりかわりたいだけじゃねえか、みたいな人だったりするわけです。で、そのことを、まさにアデリーナ、元カノから指摘される。あるいは、こんなことを言う。「自分のことしか頭にないから孤独になってるだけなのに、それが不当だと思ってるでしょう?」っていう。これ、めちゃくちゃ痛くない? このセリフ(笑)。僕はちょっと、自分には胸が痛い言葉でしたけど。

なので、つまりその、権威主義に染まってきた成人男性が、自らをアップデートできるかどうか、っていう話でもあるわけですよね。これ、女性目線からの現代的、今日的なメッセージを織り込んだ作品っていうのは、今年は本当にね、さらに多くなってきていて。非常に「アップデートされた視点」なんてことは言いますけど、アップデートっていうのは、こういう角度からも可能なんだ、っていうかね。ともすればすごく悪役っていうか、ダメって片付けられがちなこっち(既存の権威に与する男性)側にも、そのアップデートの可能性を見せる、というところに、本当に語り口としての新しさもあるし。

で、その意味で言うと、あのヴィランの結末がですね、さっき言った○○に見えるのも、僕はテーマ的な着地としてはありじゃないか、っていう風に思うわけですね。あと、主人公のその改心が、とはいえほどほど、っていうかね(笑)。そんなにいい人になりきったわけじゃない、みたいなバランスも、僕は全然好ましく思ったりしてます。すいませんね。もうこの作品、贔屓になっちゃってるんで(笑)。はい。贔屓目にはなっちゃってると思いますけど。あと、その改心の部分で、やっぱりさっき言った舞台立て……実は鏡で、しかもいろんな角度から自分を見つめ直す、という舞台立てになっているというようなところもぜひ、見逃さないでいただきたい。

■映像、ギャグ、アクション、ストーリー、メッセージ、どれも最高! これで1900円は安い!
ということでですね、映像最高。ギャグ最高。アクション最高。ストーリーとメッセージ、最新にして最高、というね。もう最高の何乗なんだ?っていうね。そして、これ。ライカ恒例、エンドクレジットで、毎回ちょっとタネ明かし的に、メイキングを見せるわけです。「これ、実は人形で撮っているんですよ」みたいなのを、最後にわざわざタネ明かしすることで、より感動が増す、というのが、ライカ作品のお約束なんですが。

今回は、象にまたがって歩いていくシーンが出てくるわけです。劇中の途中で出てくる。これね、カメラがグーッとパンしていくショットなんで、要は映り込んでいる画角が、めちゃめちゃ広いわけですよ。じゃあ、あの空間を全部作り込んでるのか?っていうと、そうじゃなくて。行く先々のシーンを、行く先々で作り込んで、この広い空間を作り込んでいることが、このメイキングでわかって。僕はこのメイキング映像のところに来たところで、涙が溢れ出てきて。もう、なんと素晴らしい……その、映画でしかできないこと、映像でしかできないことを、これだけの人たちの手で……もう大泣きしちゃって。しかもここで、スタッフロールが出てくるんですよ! もう泣くっしょ!っていう。はい。

ということで、皆さん。非常にお金もかかっている。労力もかかっている。何度も言います。これで95分間を割ってもですね、1900円は安すぎます。あと2ケタ多くてもいいぐらいじゃないかと思うぐらいです(笑)。本当にありがたい、素晴らしい作品。一瞬一瞬を味わってください。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャパートに入って)

最後のエンドロールで流れる、主題歌のウォルター・マーティンの「Do-Dilly-Do (A Friend Like You)」っていう、これも最高にいい曲で! もう、すいませんね。好き! 好きが溢れちゃって。はい(笑)。

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『Mank/マンク』です)


以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

 

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肉・肉・肉!お腹いっぱいになる美味しい情報が満載の特別番組!『プリマの香薫 presents フォーリンデブはっしーのMeat the World』

ニッポン放送にて、グルメエンターテイナー・フォーリンデブはっしーがパーソナリティを担当する特別番組『フォーリンデブはっしーのMeat the World』が5月3日(金・祝)に放送されることが決定した。

フォーリンデブはっしー、山下健二郎(三代目 J SOUL BROTHERS )

「プリマの香薫® presentsフォーリンデブはっしーのMeat the World」5月3日(金・祝)13時~

全国を食べ歩き、食欲をかきたてるグルメエンターテイナーのフォーリンデブはっしーが、ゴールデンウィークにお届けする「肉・肉・肉」な、聴いてるだけでお腹いっぱいになる美味しい情報満載の1時間のスペシャルプログラム。番組では、お肉にまつわるエピソード、お肉にまつわる耳寄りな情報をたくさんお届け!

ゲストは、三代目 J SOUL BROTHERS の山下健二郎。以前、はっしーが山下健二郎の番組『三代目 J SOUL BROTHERS 山下健二郎のZERO BASE』にゲスト出演、おすすめの“ご飯のお供”を紹介した縁で今回、山下のゲスト出演が実現した。

また今回、番組中にフォーリンデブはっしーと山下健二郎がプリマハムの「香薫」「スマイルUP!ロースハム・ベーコン」を使用した「米より肉が多いチャーハン」のレシピを完成させるという企画も実施予定。リスナーからのお肉エピソードやアレンジレシピ、2人への質問なども募集!受付の宛先は「meat@1242.com」まで。

フォーリンデブはっしーは以下のコメントを寄せた。

このたびプリマハムさんと一緒に、自分としては初となる冠ラジオ番組をやらせていただくことになりまして脂身に余る光栄です!お肉好きの山下健二郎さんと、楽しく美味しい番組になりますよう、全肉投球します!

特別番組『フォーリンデブはっしーのMeat the World』は5月3日(金・祝)13時から放送。

 

プリマの香薫 presents フォーリンデブはっしーのMeat the World

■番組タイトル:『プリマの香薫® presents フォーリンデブはっしーのMeat the World』
■放送日時:2024年5月3日(金・祝) 13時~14時
■パーソナリティ:フォーリンデブはっしー
■ゲスト:山下健二郎(三代目 J SOUL BROTHERS )
■番組メールアドレス:meat@1242.com

 

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