歌の「息継ぎ・ブレス」はJ-POPでどう使われてきたのか【椎名林檎・平井堅・YOASOBI】

毎週、金曜の朝8時30分からTBSラジオでお送りしている「金曜ボイスログ」。

パーソナリティ、臼井ミトンによる音楽コラム「ミュージックログ」12月4日分の書き起こしです。

2000年代初頭のJ-POPは『息継ぎ・ブレス』がデカい!?

ちょっと前に、サブスクの時代になってからイントロがどんどん無くなってきて、歌始まりの曲が増えたよね?っていう話をしたじゃないですか?

歌始まりの曲が増えるということは、歌手のブレス・息継ぎから曲が始まるっていうパターンがすごく増えたということ、チラっとお話ししたんですよ、その時に。米津玄師さんの曲もそうだし、YOASOBIとかヨルシカとか、割ともう、息継ぎから始まって、そのままサビ歌のサビ始まりっていうのがすごく増えたんですよね。

当然、最初の一発目の曲始まりの息継ぎっていうのはハッキリと聴こえるワケなんですけれども、曲中(きょくなか)での歌手の息継ぎに関しては、そういえば一時期に比べてあんまり大きくなくなったな〜って、僕、その時ふと実は思ってたんですよ。っていうのも、2000年代初頭くらいのJ-POPって、歌手の息継ぎの音量がやたらと大きかったんですよ。聴いてみてもらったほうが早いと思うので、まず1曲、聴いていただきましょう。

今聴いていただいているのは1998年の楽曲、椎名林檎で「ギブス」なんですけど、先程2000年代初頭と言いましたが、なぜこの98年のこの曲をかけたかと言うと、ブレスを大きく聴かせるのって実はこの人が始めた事だと僕は思っているんですよ。聴いていただいた方、たぶん感じたと思うんですけど、いわゆるエコー、リバーブって言いますけど、エコーみたいなものが歌にほとんどかかっていない!すごいドライなんですよね。その上で、ブレスも息継ぎもすごく大きいから、林檎さんがものすごい耳の近くで歌っているようなイメージ。歌がすごく近くに感じるんです。

これちょっと今、車…例えば運転中の方なんかは、カーステレオだと息継ぎとかまであんまり聞こえてこないかもしれないですけれども、是非そういう方は後でradikoでじっくり聴き直していただければと思うんですが、80年代って、リバーブとかエコーとか、残響音がバシャーー!って、なんでもかんでもたくさんかかってる時代っていうのがあったんですよ、80年代に。日本の音楽に限らず世界的にそうです。歌にももう、びしょびしょにリバーブ。で、ドラムのスネアとかにもスネアって叩く度にパァッ〜〜!みたいに広がるリバーブがかかる時代というのは、結構長く続いたんですよ。80年代から90年代半ばくらいまで。

それでね、90年代終わりに差し掛かると、そういったメジャーなリバーブたっぷりの音楽に対するカウンターみたいな感じで、すごくドライな音像の音楽っていうのが流行り始めるんですよね。それってたぶん、もしかしたらヒップホップ、ラップが流行ったっていうのも1つ関係しているんだろうなと思うんですけど。つまり、ラップにエコーをかけてもしょうがないじゃないですか?クリアに聞こえなくなっちゃうから、早口だし。それで、90年代終わり頃にはロックの世界でもR&Bの世界でも、歌にエコーをかけないっていう音像が流行り流行り始めて、その筆頭と言うと、例えばロックだと…Red Hot Chili Peppers。レッチリとかはその典型的な例なんですよ。そのドライな音像が今、一番カッコイイんだよ!世界的に!っていうのを椎名林檎が初めてJ-POPの世界に大々的に持ってきたなっていう感じがあるんですよね。

なので当時としてはこのドライな彼女の歌っていうのは結構ヒットチャートの中でも異質に響いた感じなんですよね。ちなみに、ブレスが派手に大きく聴こえるっていうのは、実はコンプレッサーっていう機材があって、音楽の機材なんですけど、どういう機材かというと、音量を均一に鳴らす機材なんですよ。サビで大きくなっちゃうじゃないですか?声って。それをちょっと抑えたり、優しく歌ってる部分をちょっと音量を持ち上げたりする、つまり曲の中で歌の聴こえ方が一定になるように音量を調整する機材なんですけど、これを激しく使うことによって、要は、すごくちっちゃいはずのブレスもものすごく大きな音量に持ち上がっちゃうっていう…。こういう過激なコンプレッサーの使い方っていうのも90年代終わりくらいに結構アメリカで流行りまくったんですね。

そういったコンプの使い方、派手にかけてブレスまでめちゃくちゃ持ち上がっちゃう!っていうのと、歌にリバーブ・エコーを使わない!っていうこの流行りの音像を、椎名林檎さんは90年代終わりにもパチっと持ってきて、大ヒットさせたという。椎名林檎さんの初期のキャリアの曲全体に言えることですけれども、ブレスの大きさっていうのが、最新のオルタナロックのサウンドイメージを作り上げるための演出のひとつの小道具みたいな感じに使われていたわけですが、その一方で、同じようにブレスの音がすごく大きいんだけど、その使われ方というか、意味合いがちょっと違うっていう、この曲を聴いていただきます。

お送りしているのは2004年の楽曲です。平井堅で「瞳を閉じて」これ椎名林檎さんの初期の諸作品に、サウンド面で深く関わっている亀田誠治さんというベーシストでプロデューサー・編曲家の方が、この曲をプロデュースしていらっしゃるんですけれども、この曲におけるブレス、特にAメロとかの静かなところで結構「ハァッ(息を吸う音)」というのが聞こえたと思うんですが、これはサウンド面での演出というよりは、平井堅さんの感情表現の1つの手段という感じ。

この歌詞の一口一口に大げさにブレスが入ることによって、このすごく感情があふれ出ているよっていう、切ないよ…っていうのを表現するためのツールとして使っているという感じで。実は「Sound & Recording Magazine」という音楽制作に関する業界誌があるんですけれども、その雑誌の中のインタビュー、10年くらい前になると思うのですが、亀田さん、なんと歌録りの時に、“ブレスだけは一番最初に録るファーストテイクのブレスを使ったりします”っておっしゃっているんですよ。

つまり、一番最初のテイクって、一番緊張感があって、勢いがあって、ちょっと力んじゃったりもするんですよ。だけどブレスに関してはむしろその力みが良い!と。歌自体はセカンドテイク、サードテイクとか、他のテイクなんだけど、ブレスだけは一番生々しいファーストテイクを貼るっていう。そのくらい意識してこだわってブレスを聴かせるっていうのが、この亀田誠治さんのやり方なんですよね。


でも今こうして聴くと、僕はちょっとやりすぎじゃないかな?っていう感じが正直しちゃうというか…そんな吸う?みたいな。もう過呼吸じゃないですか?大丈夫!?みたいな(笑)

じゃあね今、10代の若者の間で聴かれているヒットソングっていうのは息継ぎどんな感じかな?さっき、イントロがなくなっちゃったから息継ぎ始まりの曲が多いですよ、って話をしましたけれども、最初の息継ぎは聞こえますハッキリと。でもその後、曲中(きょくなか)どうでしょう?ちょっと聴いてみてください。

お送りしているのはYOASOBIの「群青」です。ブレス、もちろんイントロのど頭では鳴ってますけど、他は明らかに、わざと下げられていますね、この曲は。椎名林檎さんと同じように、かなり歌にコンプレッサーという機材が入っている音するんですけどでも、ブレスは意識的に下げられています。で、僕気付いたんですけど、このYOASOBIもそうだし、ヨルシカだったり、米津玄師さんもそうなんですけど、今売れてる人たちってボカロP出身の人が多いんですよ。要はボーカロイド=合成音声ですよね。これを使って音楽を作り始めたっていう人が多いんですよ。それで自分でも歌い始めたり、もしくは歌ってくれる相方を見つけてユニットを組んで、こういう風に曲をリリースするようになった、っていう人がすごく多くて。ボーカロイドって合成音声だから息吸う必要がないって言うか、息継ぎがそもそも基本的にないじゃないですか?たぶん今の若い人にとってはブレスって別になくてよくない?っていう。少なくともブレスで感情表現をするなんていう発想はおそらく全くないんだろうな…っていう感じがしますね。

僕もでも、あんまりブレスがヒーヒー入るのは好きじゃないので、僕個人的な感想では結構こっちのほうが聴きやすくていいなとか思っちゃうんですね。そんなワケで、このブレス息継ぎにも意識して聴いてみると、意外とこんなところにも流行り廃りというか、歴史によって、その時代時代によって色々あるんだな〜という…そんなお話でございました。

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