宮沢賢治の生前に発表された作品から、猛吹雪の中で妖怪たちが飛び回るファンタジー「水仙月の四日」、猫の事務所で起きたイジメ問題の顛末を描いた「猫の事務所」を朗読。

ラジオ日本『わたしの図書室』では1月9日(木)と16日(木)の2週にわたり、宮沢賢治の作品を朗読する。

今日では国民的作家と言ってもいい宮沢賢治。だが、生きている間には詩集「春と修羅」と童話集「注文の多い料理店」の2冊を、ほとんど自費出版の形で世に送り出しただけで、その評価も高くはなかった。有名な「雨ニモ負ケズ」「銀河鉄道の夜」を含め、作品のほとんどが没後にようやく日の目を見る。今回は、その稀有な“生前に発表”された作品の中から「水仙月の四日」と「猫の事務所」を紹介する。朗読は日本テレビアナウンサーの井田由美。

「水仙月の四日」

「おや、おかしな子がいるね、こっちへとっておしまい」という
雪婆んごの恐ろしい命令に、心やさしい妖怪・雪童子は……?


 宮沢賢治が生前に出版した唯一の童話集「注文の多い料理店」に収められた作品。
岩手県花巻市で生まれ、農学校の教師を務めながら作品を書き続けた宮沢賢治。その作品には自然や動物のほか「ざしき童子(わらし)」など、主に東北地方に伝わる妖怪の姿も多く描かれている。「水仙月の四日」にも、そんなちょっと恐ろしくも可愛い妖怪が登場する。この作品の妖怪たちは宮沢賢治が生み出したオリジナルばかり。

 猫耳で髪を振り乱した冬の妖怪・雪婆んご(ゆきばんご)は、雪の子である雪童子(ゆきわらす)を使って猛吹雪を巻き起こす。雪童子は自由に宙を飛び回る雪狼(ゆきおいの)たちをしもべとして連れ、雪婆んごの命に従う。あっ、人間の子供が雪婆んごに狙われる!
 ちなみに、タイトルにある「水仙月」という月の呼び名も、宮沢賢治の創作である。

「猫の事務所」

「どんなにつらくてもぼくはやめないぞ。きっとこらえるぞ」
猫の事務所で起きたイジメ問題。
嫉妬と排他性がうずまくイジメの泥沼から抜け出す手立てはあるのか?


 宮沢賢治の作品には擬人化された動物が多く登場するが、中でも猫は、「セロ弾きのゴーシュ」や「どんぐりと山猫」など、多くの作品に描かれている。宮沢賢治の作品に出てくる猫たちは、かわいくて情けなくて意地悪で、ときには恐ろしく、どこかユーモラス。さて、この「猫の事務所」に登場する猫たちはどんな猫たちか?

 停車場近くにある「猫の第六事務所」の所長は、大きな黒猫。書記は白猫、虎猫、三毛猫と皆、毛並みがそろっているが、竈の煤で汚れたかま猫だけはなかなかみんなの輪の中に入れてもらえず、事あるごとにイジメられている。こんな小さな社会にさえはびこる序列や嫉妬。少しでも皆と違うと疎外しようとするちっぽけな心…宮沢賢治は猫になぞらえて、人間社会の何を描こうとしたのか? 本作は1926年(大正15年)、随筆雑誌「月曜」に掲載された。

 

【放送内容】
★1月9日(木)23:30~24:00 宮沢賢治「水仙月の四日」
★1月16日(木)23:30~24:00  宮沢賢治「猫の事務所」
★朗読:日本テレビアナウンサー・井田由美

わたしの図書室
放送局:ラジオ日本
放送日時:毎週木曜 23時30分~24時00分
出演者:井田由美(日本テレビアナウンサー)
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亡き夫からバトン受け継ぎ叶えた夢「EVのハーレー」

桜から新緑の季節、ツーリングにはたまらないシーズンがやってきました。なかでも、バイク好きの方にとっての憧れといえば、「ハーレーダビッドソン」! 人生で一度は乗ってみたいと思う方もいることでしょう。

今回は、この「ハーレー」のEV(電動)化に成功した、あるご夫婦のお話です。

上野悠子さん

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

栃木県宇都宮市の郊外に、「ハイフィールド」というバイクのカスタムショップがあります。代表の上野悠子さんは、1978年生まれの46歳。2018年に結ばれたご主人の誠さんが開いたお店を受け継ぎました。

アメリカンカルチャーが好きだった誠さんは、「ハーレー」を取り扱うお店に勤めた後、20年ほど前に独立して、27歳のときに「ハイフィールド」を開きました。“カッコいいバイク”にこだわって、一時は海外での事業展開も進め、東南アジアと日本を行ったり来たりしながら、こんな夢を語っていました。

「アジアの国々を見ていると、日本のバイクも、今に電気の時代が来る。タバコだって、煙をもくもく上げて吸っていたのが、すっかり電子タバコになっただろう。きっと、同じことがガソリンエンジンでも起こるから、ハーレーをEV化したいんだ!」

しかし、まちの小さなバイク屋さんには、技術もお金もありません。誠さんは、サポートしてくれるパートナーを探して、全国を走り回りました。

そして、横浜の自動車技術会社と繋がり、経済産業省の補助金の存在を知ります。ちょうどお店も移転して、『さあ、これから』という時に誠さんは体の不調を訴えました。

バイクのカスタムショップ「ハイフィールド」

「じつはずっと胃がムカムカするんだ。東南アジアで辛いものばかり食べていたからかな」

大きな病院で告げられた病名は「胃がん」、それもステージ4でした。

「ステージ4だって、3年生きた人もいるというじゃないか。俺の体、あと3年持ってくれ。そうすれば絶対、ハーレーをEVにできる!」

誠さんはそう言って、つらい抗がん剤治療を受けながら、仕事を続けました。2022年8月には、経済産業省に補助金の申請を行って、資金調達に望みをかけます。

でも、その年の11月、誠さんは病状が急変、力尽きました。まだ43歳の若さでした。

誠さんの葬儀が終わると、奥様の悠子さんは、ご縁のあった方々を一人ひとり訪ねました。行く先々で誠さんが愛され、ハーレーのEV化に強い意欲を持っていたことを知ります。

そんな悠子さんのもとへ、経済産業省から「補助金採択」の知らせが届きました。事情を知った事務局の方からは辞退を勧められましたが、悠子さんは迷いませんでした。

上野悠子さん

「彼がずっとやりたかったハーレーのEV化、やれるところまでやってみます!」

思い切って一歩を踏み出した悠子さんですが、実はバイクの免許も持っていなければ、車体の仕組みも知りませんでした。まず『バイクに乗る人の気持ちを知ろう』と教習所へ通って、普通二輪の免許を取ります。バイクの仕組みについても、お店のスタッフの方に1から教えてもらいました。

ただ、肝心のEV化した「ハーレー」の設計図は、誠さんの頭の中にしかありませんでした。悠子さんは、改めて取引のあった人を訪ねて、誠さんとどんなことを話したのか、手掛かりを求めて、少しずつ聞き取り調査を進めて、概要を把握していきます。すると、エンジンをモーターに置き換えることで話が進んでいたことが分かってきました。

とはいえ、単純にエンジンをモーターに置き換えてしまうと、排気管やギア操作など、バイクが好きな皆さんのこだわりの多くが失われてしまいます。デザイン、配置、安全性、操作性、重量など、試作を繰り返すたび、空にいる誠さんに「これでいいの?」と問いかけますが……、もちろん、返事はありません。

『そうか、彼はこの決断、決定を、毎日毎日1人で繰り返していたんだ』

いつしかそう思えるようになった悠子さんは、苦しい気持ちが、次第に誠さんへのより強い尊敬の気持ちに変わっていきました。

EV化したハーレー(画像提供:株式会社チームハイフィールド)

そして数々の苦労を乗り越えて、2024年2月、ついにEV化した「ハーレー」が完成。長年、誠さんと仕事をしてきたスタッフも「これは面白い」と太鼓判を押してくれました。

面白い理由、それはズバリ「音」です。EV化であのエンジンの爆音は無くなり、ほぼベルトとタイヤの音だけが響き渡ります。実際に走らせると、鳥の鳴き声や街の音が耳に入ってきて、とても楽しいという。そんなスタッフの方の言葉に自信を持った悠子さんは、こう話してくれました。

「静かなハーレーなんて……、とおっしゃる方は少なくありません。でも、いつか爆音を鳴らして、排気を撒きながら走ることがカッコ悪くなるかもしれない。その時の選択肢の一つとして、必要とされる日が来ると信じています」

大きな音と共に、自分だけの世界を楽しむツーリングから、風や音を感じて、周りの世界と繋がる楽しさも秘めたツーリングへ。上野誠さん・悠子さんが夫婦でつないで生まれた「EVのハーレー」は、もしかしたら、次の時代の“カッコいいバイク”になるかもしれません。

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