米朝実務協議を韓国が期待する理由

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月2日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。1日に発表された米朝実務協議について解説した。

南北軍事境界線がある板門店で握手するトランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2019年6月30日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

10月中に米朝実務協議

北朝鮮の朝鮮中央通信は1日、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)第1次官の談話を発表し、10月中に北朝鮮とアメリカが実務協議を開催することで合意した。協議を行う場所については明らかになっていない。

飯田)2月のハノイでの米朝首脳会談は物別れに終わって、6月末も板門店で会談がありましたが、そこでは2~3週間以内の実務協議再開で合意したとされていました。しかし、しばらく交渉はしませんでしたが、動き出すのでしょうか?

「ロイター」「プラス」 米朝首脳会談 ドナルド・トランプ米大統領、金正恩朝鮮労働党委員長、米朝首脳会談、拡大会合、第2回米朝首脳会談、アメリカ、北朝鮮=2019(平成31)年2月28日、ベトナム・ハノイ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

米朝交渉で必要なのは「トップダウンでない」交渉

佐々木)ニュースで実務協議と聞くと地味でつまらなそうだと思いますが、これはとても大事なことです。これまで米朝協議は、トップダウン協議しか行っていませんでした。最初の金正恩・トランプ会談では握手して仲よくなり、次のハノイでは物別れして口もきかないというような状態でした。常にリーダーの気分に左右されて、一向にものごとが進まない。トランプ大統領の外交はそこがいちばんの問題なのです。彼は自分の交渉が上手く行くと信じ込んでいるから、何でもトップダウンでやりたがるけれど、実際にやってみると失敗が多い。いまこそトランプ政権を、実務家が回す方向に戻さないといけない状況になって来ています。だから北朝鮮の問題も同じで、実務協議できちんと非核化の話を議論していただいて、トランプさんと金正恩さんにはあまり出て来てほしくないというところではないでしょうか。

飯田)前回のハノイのとき、直前で実務家のポンペオさんなどが詰めようとしたけれども、最終的には詰めきれなかったということですかね。

ボルトン米大統領補佐官(左)と握手を交わす河野外相=2019年7月22日午後、外務省 写真提供:産経新聞社

米中が仲よくなることをいちばん望むのは韓国

佐々木)そうですね。ちなみに、この協議をいちばん期待しているのは韓国です。韓国は中国とアメリカの間にいて、非常に困った状況にあります。ここで米中間の対立が広がると、どちらかにつかなければいけなくなります。基本的に日本やアメリカはシーパワーの国です。一方ロシア、中国はランドパワーの国で、これらはなかなか相容れない。韓国のような半島という立地は、地政学的に中途半端な立地です。大陸側でもあり、海側でもある。かと言って両方に足をかけて外交ができるかと言うと、だいたい上手く行かないので、どちらかにつかなければいけなくなります。そこで対立が深まるよりも、北朝鮮・中国側とアメリカ側が仲よくしてくれると、どっちつかずでも何とかなるという読みです。今後は距離が近づいてくれると、朝鮮半島統一に向けて北朝鮮と韓国の対話も進みやすくなる、という話だと思います。

飯田)トランプ大統領のまわりにいた、ボルトンさんという強硬派が解任されました。北朝鮮はこれを歓迎しているという話もありますが。

佐々木)強硬過ぎて、トランプ大統領と合わなかったという。後任はまっとうな人なので、より穏健な方向に戻るのではないかと言われています。ただ、トランプ政権は常に強硬なナショナリスト派と、どちらかと言えばグローバルに協調して行こうとする派の両派がいて、グローバル派はだいぶ追い出されてしまった。強硬派ばかりが残っている状況なので、ボルトンさんがいなくなったからと言って、安心はできません。

飯田)基本スタンスは変わらないと。

飯田浩司のOK! Cozy up!
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香港デモで警官が実弾発砲~撃たれた高校生は回復か

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月2日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。香港でデモ隊の高校生が警官に発砲され、重体となったニュースについて解説した。

実弾発砲で高校生重体 警官隊とにらみ合うデモ隊の若者ら=2019年10月1日、香港(共同) 写真提供:共同通信社

中国建国70年~香港のデモで警官が実弾を発砲し1人が重体

中国建国70年となる国慶節を迎えた1日、北京の天安門広場では祝賀行事や軍事パレードが行われた。一方、香港では各地で大規模なデモが行われ、九龍半島のセン湾では警察官が実弾を発砲。18歳の男子高校生が胸を撃たれ重体となっている。

飯田)香港では国慶節ではなく、国を悼む日というようなデモが行われました。実弾で発砲されたというのはね。

佐々木)この先どうなるのか、非常に気になるところですよね。

飯田)ここで、現地香港で取材をされている香港ポストで、元NHKキャスターの楢橋里彩さんと電話をつなぎたいと思います。まず香港の様子ですけれども、どういう感じだったのでしょうか?

楢橋)10月1日の国慶節に起こった大規模デモは、日本でも取り上げられていると思いますが、1日の深夜遅くまで行われていました。今回のデモで逮捕されたのが180人以上で、6月から行われているデモでの最大の逮捕者となっております。負傷者は合計74人。4ヵ所で合計6つの実弾が使われました。

飯田)一部の発表では、この5日間ほど実弾の発砲許可が出ているという話もありましたが、いかがでしょうか?

中国・北京で建国70周年記念軍事パレードに参加する(前列左から)習近平国家主席、江沢民元国家主席、李克強首相(中国・北京)=2019年10月1日 写真提供:時事通信

撃たれた高校生は徐々に回復か

楢橋)これまでも、やむを得ない状況では発砲していました。ただ今回クローズアップされたのは、重体になったということです。香港の高校2年生にあたる男性です。今回の経緯をおさらいすると、2人の警官が5人のデモ隊に鉄パイプで襲撃されて、1人が倒れました。もう1人がシャッターの前に追い込まれた際、その警官の銃に向けて男性が鉄パイプを振り下ろそうとして、そこで発砲したということです。この男性は近距離で胸に実弾を受けて重体と報道されていましたが、その後、病院で実弾の摘出が行われました。搬送される際に自身の名前を名乗るほど意識があったということです。徐々に回復しているとの報道もあります。

佐々木)デモ隊側が過激化して来たことが、実弾で撃つ原動力になっているということですか?

15日夕、香港・金鐘の政府庁舎前で、放水車の放水を受けるデモ隊=2019年9月15日 写真提供:産経新聞社

10月1日のデモはこれまでになく大規模なものだった~興覚めする市民も

楢橋)そうだと思います。今回は負傷者が出てしまったので、さらに暴徒化するのではないでしょうか。1日は本当にひどくて、地下鉄の半分くらいが閉鎖されており、朝から街中あらゆるところで放火や破壊が続いている状況でした。最終的には40近い駅、ほぼすべての駅が使えなくなりました。私は香港に10年近く住んでいますが、初めて見ました。取材をしながら非常にショッキングな光景を目の当たりにしました。普段は若者でにぎわっている銅鑼灣(コーズウェイベイ)や中環(セントラル)という場所があるのですが、ゴーストタウン化しています。市民に外出しないよう、警察がSNSで各自に通知を流したのですが、それを読んで慌ててショッピングモールに行き、買い物をする光景も前日からありました。「ああ、10月1日はそれだけ大きなデモになるのだな」とひしひしと感じる、物々しい状況でした。

飯田)メールやツイッターでリスナーから意見をいただくのですが、「暴徒化すると市民が離れてしまうのではないか?」という指摘もあります。香港の社会の空気はどうなのでしょうか?

楢橋)おっしゃる通りです。若者を中心に学生運動のような形になっており、想像以上に過激化していて興覚めしている人たちも増えています。いつまで続くのか、小売業界や観光業界、ホテル業界など、ありとあらゆるところが打撃を受けて、撤退もやむを得ないという企業もあります。香港の経済がどんどん遅れをとってしまうのではないかという懸念もあります。

集会に参加し、音楽に合わせてスマートフォンを揺らす生徒ら=2019年9月2日、香港(共同) 写真提供:共同通信社

公安が香港へ来て逮捕できるということではない

楢橋)1つ重要なことをお伝えします。そもそもの原因は、政府が立法会に逃亡犯条例の改正案を提出した、4月3日に遡ります。これが話題となり、これまでもデモがありましたが、5年前の雨傘革命やいまの5大要求の1つ、普通選挙です。これは基本法の規定や全人代の決定に違反するということで、一国二制度を壊すことになり得ます。つまり「独立を要求しているのと同じ」ことになります。この普通選挙に関しては、中央は香港の民主化として普通選挙を認めたにも関わらず、2015年に民主派が議会で否決したという経緯もあります。今回の逃亡犯条例の改正は、「誰でも中国本土に引き渡される」と勘違いしている人が多いのですが、これはあくまでも「本土で罪を犯して香港に逃亡して来た人だけ」というものです。香港、台湾、マカオ、中国本土の間は現在、犯罪引き渡し協定が存在しません。このため台湾やマカオ、中国本土で犯罪を犯した容疑者が香港に逃亡して、香港で逮捕されたとしても、犯罪を犯した地域に引き渡して法の裁きを受けさせることができません。ですので、公安が香港に来て逮捕できると勘違いしている人が多いのですが、そうではありません。

飯田)ただ銅鑼湾書店事件のこともあり、そこは香港のなかでもいろいろな議論があるところだと思います。

香港国際空港の出発ロビーを占拠した逃亡犯条例の改正反対派(中国・香港)=2019年8月13日 写真提供:時事通信

デモ隊が暴徒化するとその情報を中国政府に利用されてしまう

佐々木)デモが過激化して来ると、それを口実に弾圧できます。いまの時代、SNSなどで情報が伝播するので、どちらに正当性があるかという、ある種の戦いが起きます。現状はみんな香港の応援をしているのですが、暴徒となって警官隊を襲っているというような情報が拡がると、逆に中国政府がそれを利用して、仕方なく軍事力や経済力を使って制圧したという話に説得力を与えてしまう可能性がある。ここは何とか留まってほしいところですが、難しいですよね。

飯田)世論の後押し、国際社会がどう報道をし続けるかも、いろいろと問題になっているところですよね。

佐々木)ちょうどそのタイミングで建国70年ということですが、中国国内ではみんな香港を応援して政府を批判しているかというと、そんなことはなくて、在中国日本人や日本にいる中国人のツイッターを見ると、建国を祝う中国人が増えている。ある中国人が言っていたのですが、日本は建国してから2000年ぐらいあって長いけれど、中国は70年なので、国に対する思いが強いのです。その辺も考慮すべきだと思います。

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