EU離脱の条件でEUと合意も~困難な英議会での了承

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月18日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。EU離脱の条件について、イギリスのジョンソン首相とEUのユンケル委員長の間で合意に達したというニュースについて解説した。

EU離脱の条件、イギリスとEUが合意

イギリスがEU(ヨーロッパ連合)から離脱する期限が10月末に迫るなか、イギリスのジョンソン首相とEUのユンケル委員長は17日、それぞれのツイッターでEUからの離脱の条件について、双方の交渉団が合意に達したことを明らかにした。合意した内容はEUとイギリス議会の承認が必要となるが、イギリスでは野党の反発が強く、ジョンソン首相が議会の支持を得られるかは不透明とみられている。

飯田)その条件ですが、北アイルランドをめぐってというところが焦点のようです。メールやツイッターで質問をいただいたのですが、“まるまるぽんぽん“さん、川崎市高津区の方。「この合意案は、アイルランド国境問題をどう扱っているのでしょうか?」。

宮家)EUを離脱するときに、北アイルランドはアイルランドの島にあるわけだから、微妙な立場になりますよね。いままでは北アイルランドに特別な地位を与えるということだったのですが、それでは英国にとって完全な離脱ではないと、ジョンソンさん自身が言っていたわけです。バックストップ条項という複雑な仕組みをつくって、北アイルランドについては少しEU的なものを残そうとした。しかし、それはだめだと言って、ジョンソンさんは今回これを切ってしまったのですよ。バックストップがなくなったということで、ジョンソンさんはハッピーなのです。

英中部マンチェスターでの与党保守党大会で演説するジョンソン首相=2019年10月2日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

英とEUが離脱条件で合意しても、イギリス議会で可決されない~同じことの繰り返し

宮家)しかし、これは東京オリンピックのマラソンと同じで、戦略的に間違っていることは、戦術的にどうやっても直らないということの典型例です。ブレグジット自体が戦略的な間違いだと思うから、どんなに頑張っても必ずどこかで反対者が出る。これはゼロサムゲームなのです。ノンゼロサムにはならない、みんながハッピーにはならないのです。つまり誰かが傷つかなくてはいけない。だから、イギリス政府とEUが離脱条件で再度合意しても、結局誰かロンドンの議会で反対する者がいるから、それでアウトなのですよね。今回もそうでしょう。これをノンゼロサムゲームにするのが難しいとなると、おそらく今回の案もイギリス議会を通過しない。イギリス議会でもし可決でもされたら、ジョンソンさんは大宰相ですよ。おそらく難しいと思う。それでどうなるかと言うと、自動的にまた離脱の期限を延長するわけです。

飯田)先にイギリス議会でそれを決めていますものね。

宮家)ダメだったら延期するでしょう。延期したら、またふりだしに戻る。そこでまた新しく離脱条件の合意をやっても、今度は別の人が反対するに決まっているのです。

飯田)事実上は合意したと言っても、離脱ではないとなったら、保守派が。

宮家)もともといろいろな意見があまりにも多くて、1つの意見に収斂しないイギリス議会にも問題があるわけですが、そうなるとどうなります? これを永遠に繰り返すことになるのです。そんなことをしたら、イギリスはおかしくなってしまいますよ。以前私はこれを大英帝国の黄昏だと言いましたが、本当に困りましたね。こんなことで大丈夫なのかと心配になりますよね。

飯田)経済的にも何も決まらない、どうなるかわからないということが影を落としているようですね。

宮家)国際社会の中でイギリスの比重、イギリスの重要性がどんどん低下してしまうだけだから、これは自殺行為なのですよ。よく考えて、そもそもEUを出るのがおかしいではないですか。どうしてもそれをやるのだったら、もっとうまい方法を考えなくてはいけないけれども、なかなかみんな意見を変えないですね。

ジェレミー・コービン-Wikipediaより

「合意なき離脱」の方向へみんなで向かっている

飯田)19日にイギリス議会で投票が行われるだろうということです。労働党のコービン党首などは、ここは否決をして、もう1度国民投票をやるべきだということも言っておりますけれども。

宮家)それも私は反対です。では前の1回目の国民投票の結果はどうなったのかということになる。同じ結論が出るのだったらやっても意味がないでしょう。逆に違う結論が出てしまったら、攻守を変えて、今度は反対派が強くなるだろうから、どちらにしても解決はできない。コービンさんも少し無責任な言い方ではないかと思います。イギリスの将来を考えたら、あなたたちが世界の民主主義のお手本だと言うのであれば、妥協しなくてはいけないだろうと。良い意味で妥協をしなかったら民主主義ではないのだから。もちろん原理原則はあるのかもしれないけれども、いまのままこれをやっていたって、よいことではないですよね。しかし、コービンさんも困ったものなのですが、その前にジョンソンさんの保守党は連立与党を組んでいるわけでしょう。連立与党を組んでいるアイルランドのDUPが反対しているのですよね。それはそうですよ、北アイルランドの自主性という特性がなくなってしまったのですから、賛成できないですよね。そうすると与党が割れてしまう。保守党は少数派ですからね。どうするのでしょう。

飯田)入り乱れていて複雑で、労働党のなかでも一部に離脱賛成の人がいるから票読みができない、という話もあります。

宮家)結局は合意なき離脱の方向へ、みんなで突進しているということですよね。これは決して健全な方向ではないと思いますけれど。

飯田浩司のOK! Cozy up!
FM93AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

radikoのタイムフリーを聴く

トルコがシリアで停戦合意~日本へも悪影響を及ぼす理由

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月18日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。トルコがシリアで停戦合意したニュースについて解説した。

特殊部隊YATのメンバー(クルド人民防衛隊-Wikipediaより)

トルコがシリアで米と停戦合意~5日間でクルド人民兵退避

アメリカのペンス副大統領は17日、トルコのエルドアン大統領と会談し、シリア北部の停戦で合意したと明らかにした。シリア北部でトルコが5日間停戦する間に、クルド人の民兵組織「人民防衛部隊」を退避させることで合意したということだ。

飯田)これを停戦と呼ぶのですか?

宮家)トルコはこれを停戦とは言っていないのですよ。5日間の猶予期間を与えるから、その間に撤退しなさいと言っているのです。「5日間はあげるから、その間にどいてくれ。トルコ軍がそこを取るから。そうしたら人が死なないで済むだろう」ということです。要するにトルコとしては、何ら譲歩していないということです。

シリア北部カミシリで営まれた、トルコ進撃に伴う戦闘で死亡したクルド人民兵の葬儀(シリア・カミシリ)=2019年10月14日 写真提供:時事通信

ISに1万人もの犠牲を出した大同盟国であるクルド人を見捨てたアメリカの罪

宮家)私はこれに対して、本当に腹が立っているのですよ。アメリカは一体どんな国になってしまったのかということです。シリアのクルド人は、トルコはテロリストだと言っているけれど、アメリカにとっては大同盟者ですよね。シリアでIS、いわゆるイスラム国が蔓延ったときには当初誰も手が出せなくていた。そのなかでシリアのクルド人が1万人もの犠牲者を出して戦ったからこそ、アメリカは2018年末にIS掃討作戦は成功したと宣言した。しかも、アメリカ兵は3人しか死んでいないのですよ。クルド人は1万人も死んでいる。あれだけの犠牲を出した同盟者を、アメリカはいとも簡単に見捨てたのです。これをやられたら、アメリカの同盟国は「自分たちはどうなるのか」となる、世界中の人々がひっくり返っているわけです。アメリカ国内の共和党の心ある人たちも、みんなおかしいと思っている。

飯田)超党派で、決議を出そうかという話も出ていますよね。

宮家)出ていますね。あとは上院の共和党がどうなのかということですが。いずれにせよトランプさんの直感というか、勢いと偶然と判断ミスは極まったという感じです。しかもその直後に、トランプさんはエルドアン大統領に手紙を出しています。その書簡が外に出ているのだけれど、これを読むと酷いですね。文法的におかしいし、中身もすごい。トルコの大統領に対して「バカなことはやめろ」「タフガイをやっている場合ではないだろう」と言っているのだから。そして最後に「あとで電話する」と結んでいるのですが、誰もそんな電話を受けてくれるわけがないでしょう。

飯田)直接ペンスさんが行きましたね。

宮家)変わった時代になってしまったと思いました。

飯田)メールでもいただいております、荒川区の方から。「17日の産経の宮家さんのコラム、『ワールドウォッチ』を読みました。アメリカがシリアからの撤退を決め、トルコが進行中と、中東が危険な状態になっていますよね。トランプさんは、ブレーンをどんどん辞めさせて行ってどうなのでしょうか。どんどん方向がおかしくなっているような印象もありますが、見立てはいかがでしょうか?」と。

宮家)シリアからの撤退という話、実は今回が初めてではなくて、2018年の末にも同じような話があり、実際にトランプさんによって発表されています。私に言わせればトランプ政権の最後の賢人、マティス国防長官がそれで辞めてしまった。その後はボルトンさんという、どちらかと言うと強硬なあの人ですら、政権を辞めてしまった。もうトランプさんの周りには、ほとんど外交安保のプロはいないと思います。残ったのはトランプさんの言うことだけは全部聞くイエスマンばかり。これで正しいアドバイスができるのか、心配になりますけれどね。

米特殊部隊の機密暴露か イラクのアサド空軍基地を訪問し、帽子にサインしようとするトランプ米大統領=2018年12月26日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

シリアだけではなく、アメリカの同盟国全体に悪影響を及ぼす大きな事件

飯田)この「ワールドウォッチ」でも書かれていますが、これはただ中東で起こっていることというよりは、同じアメリカとの同盟国である日本、東アジアが…。

宮家)日本はまだしっかりしていますよ。しかし、例えば韓国は大丈夫なのか。ヨーロッパだって東欧の国々は、アメリカの支援がなかったら立ち行かない国もかなりあるのですよ。彼らは大丈夫なのか。

飯田)あっという間にロシアが。

宮家)バルト三国やポーランドもそうです。今や米国の同盟国は、一体誰を信じたらいいのかという大きな問題を抱えています。この点を英語のコラムにも書いたのですが、早速アメリカの友人から「よくぞ言った」というメールが来ました。要するに、米国人の彼も「酷いことになった」と思っているわけです。これはただ単にシリアでの問題なのではなくて、世界的な規模で、アメリカの同盟国全体に悪影響を及ぼす非常に深刻な事件だと、私は思います。

飯田浩司のOK! Cozy up!
FM93AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

radikoのタイムフリーを聴く

Facebook

ページトップへ