「選挙が成立しなくて当たり前」地方政治は「無投票の政治」?

ニュースキャスターの長野智子がパーソナリティを務める「長野智子アップデート」(文化放送・月曜日~金曜日15時30分~17時)、8月7日の放送にノンフィクション作家の常井 健一(とこい けんいち)が登場。地方選挙・地方政治について解説した。

鈴木敏夫(文化放送解説委員)「中村喜四郎を描いた『無敗の男 中村喜四郎 全告白』、河井案里に肉薄した『おもちゃ 河井案里との対話』など政治・選挙をテーマにしたノンフィクションを得意とする常井さん。きょうはKADOKAWAから2020年に発表した『地方選 無風王国の「変人」を追う』を紹介しながら、地方選挙・地方政治について伺います」

長野智子「まずこの『地方選』という本について教えてください」

常井健一「タイトルのとおりの本です。世の中の村長選・町長選と呼ばれるものの半分ぐらいが無投票なんです。なんで無投票が続いているのか。中には60年以上も村長選が行われていないところとか……」

長野「60年!?」

常井「61年ぶりに行われた、というのも取材しています。無風が続いているのになぜ村民たちは暴動も起こさずおとなしくしているのかな、と。一方で何年かぶりの村長選、というように、急に行われるようにもなってきた。この変化の兆しはなんなのか、と思って6、7年前から地方に、村長選・町長選があると見に行った。それをまとめたのが『地方選』という本です」

長野「おもしろそう!」

常井「最近、どの地方選に投票されました?」

長野「地方選。東京都知事選?」

常井「おっしゃるとおり。日本最大の地方選は東京都知事選です。たいへん盛り上がりました。投票率、前回のおよそ55%から、およそ60%に上がったと。ざっくり50万人が新たに足を運んだんですね。当たり前ですけど選挙が成立するというのは、選挙に挑む人が出てくると。東京の場合は小池さんがどんなに強くても、仕事を辞めてでも、私生活を犠牲にしてでも挑もう、という人が要るから成立するわけです」

長野「はい」

常井「一方で、これがね。東京の常識が日本の常識だと思ったら大間違いで。東京との県境を出ると、選挙が成立しないのが当たり前の世界が広がっているんです。全国に市町村はおよそ1700あって、町や村と呼ばれる小さな自治体が1000ぐらいある。半分ぐらいが無投票。選挙が成立したとして、現職の勝率ってどれぐらいだと思います?」

長野「現職……もう、90%とかですか?」

常井「そのとおり、ほぼ負けない状況なんです。なので地方を読み解くキーワードというのは『無投票』なんですね。地方政治というのは無投票の政治なんだ、というのがきょうのお話です。どうして無投票が多いのか。東京のマスメディアに言わせると『なり手不足』『出たい人がいない』、それゆえに地方自治の危機ということですけど、実際に歩くと少し違うのでは、というのが私の感想です」

このあとは常井が実際に現地を見てきての感想、分析などを伝えた。詳しくはradikoのタイムフリー機能で確認してほしい。

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みかんに魅せられた大学生、異郷の地で大挑戦「多くの人においしいみかんを食べてほしい!」

暦の上では春になっても、まだまだ「こたつ」が恋しい時期です。こたつに入ると食べたくなるのが、やっぱり「みかん」。

ただ、どんな方がみかんを作っているのか、あまり知らない方も多いと思います。今回は、果物好きが高じてみかん農家になった、北国出身の若い男性のお話です。

赤山大吾さん

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

昔、東京と沼津の間を結ぶ電車を「湘南電車」と呼んでいた時代がありました。車両のオレンジと緑のカラーは「湘南色」、俗にみかん色とも云われてきました。今はだいぶ本数も減りましたが、東京駅のホームに、「沼津」と行先が表示されると、何となく、潮の香りと柑橘系の爽やかな香りが漂ってくるような気分になります。

その静岡県沼津市・西浦地区は、駿河湾の最も奥まった所にあって、海越しの富士山を望むことが出来る、風光明媚なみかんの産地として知られています。看板品種は、寿という字に太郎と書いて、「寿太郎」。この「寿太郎」を、今シーズン初めて作り上げて、出荷した男性がいます。

赤山大吾さんは、2000年生まれの24歳。赤山さんは、北海道・札幌のご出身で、小さい頃から果物が大好きでした。土地柄、みかんはあまり出回らないため、りんごを2個、まるかじりするのが日課。残すのは、わずかに芯の部分だけでした。

赤山さんは新潟の大学に進学しましたが、コロナ禍のために授業はリモートが中心。学ぶ内容も想像していたものと違って、あまり納得がいきませんでした。悶々とした日々を送る中で、赤山さんはたまたま近所のスーパーで「沼津・西浦みかん 寿太郎」と、ラベルが貼られた袋を手に取ります。

『寿太郎? 沼津ってドコ?』

赤山さんは、そう不思議に思いながら、家に帰って、さっそく皮をむいて、みかんの小さな袋を一つ、口のなかに入れると、いままでにない食感に感激しました。

『甘い! でも、甘いだけじゃない、甘みと酸味のバランスが絶妙だ!』

赤山さんは、「寿太郎」を食べて、食べて、食べまくりました。そのおいしさに満たされるうちに、自分でもみかんを作りたい気持ちが芽生えます。

沼津市西浦地区のみかん山(画像提供:JAふじ伊豆)

赤山さんは、居ても立ってもいられずに、寿太郎を出荷している沼津のJAに、直接電話をかけました。

「あの……、みかん作りに興味があるんです。教えてもらうことは出来ますか?」

2022年2月、赤山さんは大学を休学して、沼津にみかん作りの研修にやって来ました。地元の農家の皆さんも、北海道出身の赤山さんの挑戦に驚いたといいます。

その初顔合わせ、農家の皆さんは赤山さんの手を見るなり、思わず目を見張りました。

『おお、彼は本物だ! これだけみかんが好きなら、きっとやってくれる!』

そう、赤山さんの手は、みかんをいっぱい食べた、あの黄色い手になっていたんです。赤山さんは、西浦地区でもとくにおいしいみかんを作ると定評のある、御年80歳の大ベテランの農家の方に付いて、みかん作りを学び始めました。

「いいか、農家というものは、人に言われてじゃなくて、自分から動かないとやれないぞ」

「みかんは手間をかければかけるほど、ちゃんと応えてくれる。手間を惜しむな」

赤山さんは、師匠がかけてくれる言葉を一つ一つ噛みしめながら、その背中を追いかけていきます。厳しい言葉の後には、夕飯のおかずをおすそ分けしてくれたり、地元の皆さんの人柄の温かさも、故郷を離れた赤山さんには大きな励みになりました。

赤山大吾さん

籍を置いていた大学にも退学届を出して、退路を断った赤山さんは、2年間の修業を経て、2024年1月、晴れて独立を果たします。高齢でみかん作りが難しくなった方のみかん山・およそ1.5ヘクタールを借り受けて、自分の力が試される時がやって来ました。

いざ作り始めてみると、農家はみかんを作っていればいいわけではなく、事務手続きや生産計画作り、害虫や猛暑対策、アルバイトの雇用などを、全部1人でこなします。

それでも去年は概ね天候に恵まれ、周りの皆さんのサポートにも支えられながら、およそ1万キロの「寿太郎」が無事に実って、収穫することが出来ました。その出来栄えに、赤山さんも手ごたえは十分! 早速、地元の方に食べてもらうと、「おいしい!」と、味に太鼓判を押してくれました。

自分で収穫したみかんが出荷されていく様子を見て、赤山さんは胸が高鳴りました。

『自分で作ったみかんが誰かの手に渡っていく。ようやく自分で稼ぐことが出来たんだ!』

でも、赤山さんに収穫の喜びに浸っている暇はありません。まだ、みかんの管理に甘い点があったこと。そして、この冬は、越冬しているカメムシが多いため、今年は天敵への抜かりない対策が求められそうなことなど、しっかり気を引き締めています。

「もっとおいしいと言ってもらいたい! 多くの人においしいみかんを食べてほしい!」

その思いを胸に、赤山さんは2年目のみかん山に登ります。

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