「フィルムは撮る文化、デジタルは消す文化」91歳現役 鉄道写真界の第一人者・広田尚敬が語る撮影哲学

(左から)パーソナリティの小山薫堂、広田尚敬さん、宇賀なつみ
◆小山薫堂も驚いた91歳の現役感
広田尚敬さんは、1935年、東京都生まれの鉄道写真家です。幼い頃から鉄道に興味を持ち、中学3年生から鉄道写真を撮影開始。中央大学経済学部を卒業後、会社員を経て1960年にフリーランスの写真家となりました。車両を記録するだけではなく、風景や人々の営みを取り込んだ独自の表現で、現代の鉄道写真の世界を切り拓いた第一人者です。1968年の初個展「蒸気機関車たち」をはじめ、長年にわたって作品を発表。著書は250冊を超え、90歳を超えた現在も現役で撮影を続けています。
宇賀から「薫堂さんのリクエストですものね」と紹介されると、小山は偶然見かけたTV番組がきっかけだったと明かします。小山は「先日、『日曜美術館』を見ていたら、広田さんの回で。昭和30年代に撮られた写真が最初に出ていて、『いい写真だなあ』って思って。『どういう方だったんだろう』と思っていたら、自身が番組に出ていてびっくりしまして」とそのときの驚きを振り返りました。
それに対し、広田さんは「ええ、まだね(笑)」とお茶目に返し、現在91歳でありながら、今も1人でカメラを抱えて撮影旅行に出かけていることを明かしました。カメラを手にしたきっかけについて尋ねられると、当時没頭していた鉄道模型が関係していたと明かします。
「中学3年生で、当時模型に凝っていまして、鉄道模型ですね。まずは模型を作るにあたって設計図が必要だと。で、設計図はなかなか手に入りませんので、駅に行って実際に測るんです、長さとか高さとか。正面の方はホームから降りられないので測れない。で、幅は2,800mmっていうことは分かっていますので、写真を撮ってそこから数値を割り出すわけです。最初は模型のために写真を撮り始めたんです」と、知られざる原点を明かしました。
その後、プロを意識したきっかけは、アメリカの鉄道雑誌「TRAINS」への投稿だったと言います。年末に送った春らしい写真が急遽差し替えで5ページも掲載されることになり、1ドル360円の時代の原稿料を得て、新しいカメラを購入したエピソードも披露されました。

集大成となる写真集「鉄道写真 広田尚敬」(小学館)
◆自然に導かれる撮影美学「自分で撮っていない」
スタジオで最新の写真集を手に取りながら、小山が「どういう思いでシャッターを押すんですか?」と尋ねると、広田さんからは驚きの撮影美学が飛び出しました。「あのね、案外自分で撮っていながら、自分で撮っていないんですよ」と謎解きのような答えが飛び出します。小山が「どういうことですか?」と聞き返すと、広田さんは次のように語ります。
「例えば近くにいらっしゃるお百姓さんとか、目の前にある木々だとか、なんか大自然が『あんた、ここで撮りなさいよ』と語りかけてくれているような気がするんです。駅から歩いてくるうちに、なんとなくそんな気持ちになってきて『あぁ、このあたりで撮るのがいいのかな』とか言ってね、シャッターを切るんですよ」と広田さん。そう語る広田さんの言葉に、宇賀は「『自分で撮ってない』ってかっこいいー!」と深く感銘を受けていました。
70年以上のキャリアを誇る広田さんは、フィルムからデジタルへ時代が移り変わったなかで、写真に対する向き合い方も変化してきたと語ります。
「フィルムカメラの時代は、ここぞっていうところをパシャッと綺麗に止めて撮っていたんです。でも、デジタルになったらそれが出来ないんですよ。シャッターを押しても電気回路なので、どうしてもすぐには写らないんです。最初は本当に困りました。そこで目をつけたのが、デジタルの連写機能(モータードライブ)です。秒間20コマや30コマとか、そういう性能を利用して決定的な瞬間が来るのを予測して、少し前から撮り始めちゃうんです。
それで、列車が通り過ぎてからシャッターボタンから指を離すわけです。そうすると、一気に100枚も200枚も撮れてしまいますけど、そのなかから自分の気に入ったものをセレクトして、あとは思い切って全部消してしまうんです。そうすれば、心残りが残らないからいいんですよ。フィルムの時代は『撮る文化』だったけれど、デジタルになってから『消す文化』になった。そこが一番大きな違いですね」と、広田さんならではの奥深い見解を語ってくれました。
番組終盤、小山から「人生最後の1枚には、どんなものを撮りたいですか?」と問われた広田さんは「やっぱりそうですね、小さな幸せかな。それは経済的なものじゃなくて、心理的なものでね。小さな幸せ」と微笑みます。独自の視点と情熱を貫き、今も変わらず現場に立ち続ける広田尚敬さん。そのしなやかで温かい撮影美学に、スタジオ一同が深く魅了された時間となりました。
<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY'S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/post/
番組公式X:@sundayspost1
